迷える人よ
神様とやらに出会った時のことは、正直にいえばうろ覚えである。
それでも、覚えていることはある。
女性だった。
雰囲気的に40代とはいかないが、20代後半がギリギリであろうとか。
目が水晶のようで、不気味だった。
ただただ、随分と前のことだし、あやふやな部分もあり、間違っているのかもしれない。
それとも随分と会っていないのを、いい事に覚えなくてもいいかと、気持ちが緩んでいるかのどちらかだ。
まぁ、覚えていようがいまいが、とりあえず神様はいるものだという認識にはなった。
前世では絡むことのない存在だったが、今世では、わりと身近であるがゆえに、その分、めんどくさいなとか思う。
まぁ、お互い様だろうか。
数百年単位で、未だに小さな紙の姿のままこの世界にいるのだから。
色々あったのに、結果的に未だにこの姿なのだ。
初めてこの姿になった時に、言われたままの姿なのだ。
「その姿は紙のように薄く、軽い言葉を使い続けているお前に相応しい、まともに人の姿、言葉に重みの感じれるものになれば、人としての生を歩めるだろう、故に神の使いとして人を救う事を成し遂げてみよ」
「無口な奴だったら石の地蔵にされていたのか、はたまた物言わぬ貝だったのか、どっちなんでしょうか?」
何を言ってるんだと首を傾げられたが、軽い言葉とか、薄っぺらな言葉を言っていた自覚はあったので、スルーされてもめげないことにした。
「人を救うなんて、そんな簡単にはいかないですよ、救われたい人なんて、ホイホイ目の前に現れる訳でもないし、もしいたとしてもガラでもないし、できもしない、神様って言うなら知っているでしょ そんな人間じゃないって」
「そんな人間になるためのものだ、時間はあるしこちらも考えているから、きちんと努めよ」
そりゃあそうだよな。
そんな人間じゃないから、こんな事になっている。
そして、未だに人間じゃあない。
ホイホイと思い出がよみがえるわけではないが、神様と会った時を時たま思い出すのは、神様もまたそんなやつがいたかもと思い出して、救われたい人が、目の前に現れるからだ。
救えるかどうかは別として。
まぁ僕の目の前に現れるというよりは、僕が急に出てきたという方が正しいのだけど。
「やぁ 迷える人よ僕はミサカ 呼ばれたからやって来たのさ」
「?」
少女 乙女、どう呼べばいいのかわからない年頃の娘は、困惑している。
まぁそうだろうね。
賑やかな音が聞こえて、煌めく光がお城から届きそうな町の片隅で、うずくまりながら泣いている、娘に声をかけたのは、王子様でも騎士でも神父でもなく、ただ人の形をした紙なのだから。
「何これ?」
「君のように婚約破棄された女性を救う、すきま的な役割を与えられた妖精とでも思ったらいいさ、多分今夜の宿のあてなどもないんだろ、とりあえず仮契約すれば、衣食住の保証はするけど、どうする迷える人よ?」
「アサギです、宜しくお願いします」
少しの戸惑いを見せながらも律儀にお辞儀をしてくる。
僕にとっては、見慣れた光景ではあるが、アサギにとっては気の毒だ。
頼りがいのない紙に頭を下げるなんて。
この国が、長い長い歴史の中で、何度も婚約破棄だのを繰り返すのは神様がほんの少しだけ小細工したから。
マッチポンプのようなものだ。




