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第06話 運

 レベルが上がった俺たちは、周囲の安全を確認後直ぐにSPをパラメーターへと振る。俺は『運』へ、ティアは『素早さ』、ミミは『スタミナ』シェーラは『素早さ』をそれぞれ上げた。その結果は、こんな感じ。


  ロウ  15歳

  盗賊  Lv.2

  MP   42

  力    ─

  スタミナ ─

  素早さ  6

  器用さ  6

  精神   ─

  運    1

  SP   ─

   スキル

    スティール Lv.1

    気配察知  Lv.1

    隠密    Lv.1


  ティア  15歳

  歌姫   Lv.2

  MP   60

  力    ─

  スタミナ 3

  素早さ  1

  器用さ  ─

  精神   9

  運    ─

  SP   ─

   スキル

    歌唱   Lv.1


  ミミ   15歳

  炎魔術師 Lv.2

  MP   70

  力    ─

  スタミナ 1

  素早さ  3

  器用さ  ─

  精神   9

  運    ─

  SP   ─

   スキル

    ファイヤーボール  Lv.1

    ファイヤーアロー  Lv.1

    ファイヤーストーム Lv.1


  シェーラ 15歳

  大剣士  Lv.2

  MP   36

  力    6 +2

  スタミナ 6

  素早さ  1

  器用さ  ─

  精神   ─

  運    ─

  SP   ─

   スキル

    強力(ごうりき)   Lv.1

    加重   Lv.1

    地裂斬  Lv.1

 

 レベルアップという現象は、前世の知識で考えれば、実に意味不明なものだ。経験を積んで少しずつ強くなる、これは分かる。だがこれは、少しずつ強くなる訳だ。決して、急に強くなる訳ではない。

 ゲーム及びこの世界のレベルアップは、急に強くなる。レベルアップして途端にパラメーターが上がり、MPの量まで増える。急にどころか、一瞬でだ。意味が分からない。

 だが、これがこの世界では常識であり(ことわり)なのだ。この世界に、アインシュタインが転生してきたら、この(ことわり)を数式化してくれるのだろうか?

 ところで、ミミが『スタミナ値』を上げたのは、移動が思ったよりきつかったからだそうだ。まあ、あのミニマムボディーで、皮装備とはいえフル装備で鉄の短剣まで持って移動しているのだから、仕方が無いか。しかも、歩幅の問題もあるしな……。ただ、あいつの場合、体は小さいけど、態度はデカいけどな。

 SPを振り終えた俺たちが次に行ったことは、自身の能力の変化確認と、それに慣れることだった。前も言ったが、急に能力が上がるため、その感覚をつかんでいないと、すっ転んだり、加減が出来なかったりと言う事が発生する。

 特に、『素早さ』が上がった場合は、体のコントロールが出来ずに悲惨なことになったりする。

 俺の場合は『器用さ』のパラメーターも一緒に上がっている関係で、『器用さ』内の『体をコントロールする部分』が効果を発揮するらしく、2、3分で慣れた。

 他の三人は、『器用さ』の補正は無いのだが、増えた『素早さ』の値が1だったため、5、6分でなんとかなったようだ。

 また、今回のレベルアップで、ミミの『精神』が3上がったため、『ファイヤーボール』一発でスライムは多分一撃死する。『スティール』前提では使えなくなった。

 ただ、かといって瀕死状態で無い時に触れるのは……。スライムは、魔法的な酸を持ち、体表に触れた有機物を分解して吸収する。だから『スティール』のために触れれば、火傷を負う。……無理だな。

 魔法じゃ無くって、シェーラの大剣やティアの槍で攻撃した上で、というのはスライムに関しては駄目だ。スライムにダメージを与えるには、魔法か核を物理攻撃するしか無い。そして、核を攻撃されるとほぼ間違いなく即死する。

 普通ならば、それで万々歳なのだが……『スティール』前提となると、な。どうやら、スライムからの『スティール』は諦めるよりほかに無いようだ。

「よし! ティア! 次にスライムが出たら、スライムに『歌』唄ったんさい!」

「えっ? スライムに?」

「そ! (くろがね)の城! 硬いんよ! 超合金なんよ! 私のファイヤーボールでギリ保つ位に防御力を上げるんよ!!」

 ……そう来るか。まさか、モンスター相手にデバフならぬバフを掛けるとは……。発想の転換ってやつか。亀の甲より年の功だな。さすがは元24歳OL。

 7割方意味が分からないであろうシェーラは、賢明にもすでにスルーするスキルを身につけていた。ってか、一人で周囲の警戒をしてくれてる。ありがとう……。ごめん、それ、俺の仕事だった。

 と言う訳で、実際スライムがいたので試してみた。……結果、成功したよ。って言うか、効き過ぎ。『ファイヤーボール』一撃では瀕死にすらならず、二撃目でやっと目的の状態になった。

「ティア、次は手加減して唄ってくれよ」

 俺がそう言うと、ティアは思いっきり困った顔になり「手加減なんて無理だよ~」と言われた。

 ……そうだった。ティアは、こと『歌』に関しては手加減だの手抜きが一切出来ないタイプだったんだ。コンサートホールだろうが、音楽の授業だろうと常に全力。それが立花綾乃だった。

「うみゅ? 歌が加減できひんのなら、スライムに向ける意識を加減すれば良いんよ」

 …………。

 取りあえず俺は、技術的(?)なことについては考えないようにした方が良さそうだ。無駄の考えなんとやら、ってやつだな。ミミに任そう……。

 俺の内心はともかく、狩り自体は順調にいった。シェーラの出番が若干少ないが、それは問題ない。いざと言う時の最大戦力として、警戒しつつ待機しているだけだ。そのことを彼女は理解している。そして、彼女はその時間も無駄にはしていない。MPの残量を見ながら、『強力(ごうりき)』スキルなどを発動させ、スキル経験値を稼いでいる。

 そして、それからしばらくした時、奇跡的にも、俺の『スティール』が初めて魔石以外の物を引き当てた。その時の光は、魔石が出現する時より強い光で、その光の中に現れたのは赤い液体が入った小瓶。

「なんか出たー!!」

 声を上げたのは、当然ミミ。そして、俺の手からその小瓶をひったくると、自身のベルトホルダーに差してあった、支援用としてもらった『低級回復薬』と比較し始める。両方を並べ、太陽に透かしたりしている。

「どお? ミミちゃん」

 ティアの声にも期待がこもっていた。

「う~ん、多分、同じだと思う…… ま、ポーションは、その色で種類が分かれとって、その色の濃さでグレードが分かるっちゅーのが常識だかんね~。それは、モンスタードロップ品にも通用すると思うんよ。この世界のゲームっぽい常識的にも」

 ゲーム的常識云々に関しては、俺も同意だ。この世界の(ことわり)を作った神的存在が、わざわざドロップ品と『薬師』や『錬金術師』がスキルを使用して作り出す品の色を分けるとは思えない。ビン自体は、個々の生産者が自由に作る物なので同一で有ることは、逆にあり得ない。故に違っていてもおかしくはない。

「確認は、ギルドに帰ってからロミナス殿に聞けば良いのではないか?」

 結局は、シェーラの言うとおりにする以外ないんだよな。なんせ、俺たちの中には『鑑定』系のスキルを持っている者はいないのだから。

「だやね~。 つーことで、ロウ! 次から低級回復薬(仮)でよろ!!」

「引こうと思って引ければ、苦労はしないっつーの!!」

 思わず、ミミの感嘆符がうつったじゃないかよ。

「うみゅ~、レベル上げて、運に全振りする以外ないんかな~。なんか、運が上がる歌ってなかったっけっか?」

 『運』が上がる歌って、お前、どんな歌だよ。風水とかを唄うのか? 風水系のアニメって有ったっけ? 陰陽師系なら映画やアニメであるけどさ、アレは『運』は違う気がする。……結界師のアニメもあったけど、アレも違うな。

「うんみゅ~、反対に不運を唄った歌ならあるんやけんど……ある意味、アレは幸運でもあるんやけど……うんにゃ、やっぱ駄目。歌詞が完全に不運を唄っちょる」

「ミミちゃん、それ何の歌?」

「あにょね、GXPのエンディング……知っちょる?」

「あ~、事故とか天災だもんね」

 ティアは知っていたようだが……どんな歌だよ、それ。

「アニソン無双危うし!!」

 アニメソングはともかくとして、ティアの『歌唱』スキルには、無限の可能性が、とまでは言い過ぎにせよ、そう言いたくなる程には可能性が詰まっていると思う。まあ、その可能性を引き出し続けているのがミミのヤツなんだよな……。

 俺も前世でオタクだったら、こういう時役立つ知識があったのだろうか? だけど、俺こと田中一(たなかはじめ)は、良くも悪くも飛び抜けたところが無かった。田中一(たなかはじめ)の唯一特別なことは、同級生に『アヤノ』こと立花綾乃(たちばなあやの)がいると言うことだった。田中一(たなかはじめ)自体は、完全にモブだったからな。

 ……今世ぐらいは、主人公は当然無理としても、脇役ぐらいにはならないとな。脱モブ!。

 と、そんなことを一人決意していると、ティアが「あれっ!?」と言ってミミの所へ行って、なにやら耳打ちしだした。

「お~!! 亜紀! ってか、なんで思い出さんかった!私!! もろラッキーじゃん! アニメの題名自体にラッキー付いてるじゃん!! ティア! グッジョブ!!」

「茶柱立ってるもんね。名前も幸運な男だし」

 シェーラが俺の方を見る。俺は、首を横に振って返した。……今回のこれは、非転生者のポーズでは無く、本当に分からなかったからだ。アキ? 茶柱? 何じゃそりゃ?。

「よっしゃ~! ラッキーソングでアイテムゲットウハウハ伝説の始まりじゃ~!!」

 何じゃそりゃ。

 ……何じゃそりゃ、って思ったんだが、実際効果が出た。その歌は、アニソンらしいのだが演歌のようだった。そして、この歌を唄ったのが、演歌?昭和歌謡?の重鎮であり、絵画でも海外の賞を何度も取っているあの『亜紀』だったとは。……何故、こんな歌を唄ったんだろう? しかも、歌詞内に自分の名前が入ってるし。

 歌手のことはともかく、その効果だが、『スティール』の成功率が格段に上がった。それまでは5回に1回程だったのが、2回に1回程にだ。しかも、魔石だけで無く『低級回復薬(仮)』も出ている。

 +4の付与が、ここまで効果を発揮するとは……。

 と、言うことは、あとレベルが4上がり、その間のSPを全て『運』につぎ込めば、歌無しでこの状態になると言う事だ。更にレベルを上げ、『運』につぎ込めば失敗自体がなくなるかもしれない。

 その目安はレベル8当たりか? まだ遠いが、遠すぎるという訳ではない。希望が見えてきた気がする。

「よっしゃ~! 低級回復薬の買い取り価格を7ダリとして、今四つ目で28ダリ!! それまでの魔石代も入れれば二人分の宿代はクリアー!! あと二人分!!」

 そんなことを、いつも通りにミミが大声で言った時、ティアの通る声が響く。

「右! 狼5匹!!」

 ティアの声に、直ぐにシェーラが反応し、ティア達の前に出る。

「左もらうかんね!」

 ミミがそう言って、前後しながら横に広がってこちらに向かってくる『痩せ狼』の左半分をターゲットとしたことを宣言。

 俺はシェーラとミミの間に立ち、ミミの方へ抜けて来る『痩せ狼』がいた場合対処する役につく。

「ファイヤーストーム!」

「地裂斬!」

 ミミとシェーラの範囲攻撃スキルがほぼ同時に放たれた。

 ミミの『ファイヤーストーム』は、左側先頭にいた『痩せ狼』を中心にして発動し、半径4メートルほどの範囲で炎の嵐を顕現させ、三匹をその炎の中に巻き込んだ。

 シェーラの『地裂斬』は、一匹を完全に両断した上で、もう一匹も岩杭によって大きく貫いている。

「よっしゃ~! 一撃!!」

 そうミミが言ったのがフラグだったのか、消滅し掛かっている炎の嵐の中から、炎に包まれたままの『痩せ狼』が一匹飛び出してきた。

「ゲッ!!」

 女の子とはとてもではないが思えない声を出すミミをよそに、俺はすでに、その『痩せ狼』の前へと出ている。

 俺のパラメーター特性は素早さと器用さ特化。『素早さ』が高いと動体視力が上がり、体の各部を動かす速度自体も上がる。そして『器用さ』が上がると体の動きを思うようにコントロール出来るようになる。

 つまり、レベル2~3程度で手負いの『痩せ狼』一匹なら、油断さえしなければ十分に対処できる、と言う事だ。ここでの注意点は、『殺せる』では無く『対処できる』と言うこと。

 俺の『力』は、肉体自体が持つ力のみ、補正値は無い。だが、今回は問題なかった。『痩せ狼』の防御力が特段のものではないため、走ってくる動きに合わせてロングナイフの刃を合わせて当てるだけで済む。『痩せ狼』は自らナイフの刃で切られるように進み、俺の横を通り過ぎた時には腹部を大きく切り開かれ、内臓をはみ出させて倒れていた。

「今度こそOK? ……おぉ!! レベル上がったぁ~!!」

 ミミの声を聞きつつ、全周囲を確認するが、どうやら後続はいないようだ。

 そんな中、ティアから「ロウ!あの狼まだ生きてるよ!」と、声が掛かる。彼女の示すのは、シェーラの『地裂斬』によって生じた岩杭によって腹部を刺し貫かれた『痩せ狼』だったが、確かにピクピクと足が動いている。

 俺は直ぐに、周囲の確認を行いつつ駆け寄って、腹部に大穴の開いている『痩せ狼』に対して『スティール』を実行した。当然、この時にはティアが例の『ラッキーソング』を謳っている。

 そして、今回の『スティール』は一回で成功だ。しかも、アイテム出現時の光は強め。すなわち、魔石以外のアイテムだという事。

「おおぉ!また、7ダリゲットだぜ…ホヘ? ナイフ?」

 光の強さから、また『低級回復薬』だと思ったらしいミミの声が、途中で止まる。なぜなら、光の中から現れたのは、アラビア風とでも言うのか、片刃で反りの大きなナイフだった。

「ナイフだな」「白いナイフ… 骨っぽいね」「ボーンナイフってヤツ?」

 確かに、彼女たちが言うように、そのナイフは装飾が全く無く、鞘まで白い材質で出来ている。鞘から抜いてみると、こちらもやはり真っ白だ。そんな刃の部分を爪先で弾いてみると、金属では無く陶器を叩いた時のような音を奏でる。

「ボーン? 陶器?」

「骨ってカルシュームが主成分だから、密度が上がれば陶器みたいなもんでしょ。ボーンナイフで良いんでないかい」

 ミミが言う事が事実かどうかは別にして、この場でこれ以上考えても無駄だ。

「これも、ロミナスさん案件だな」

 と、言って次の行動を促す。当然、全員、時間的(金銭的)余裕が無い事は嫌と言うほど認識しているので、従ってくれる。

「うみゅ~、ナイフか~、いくらで売れるんかな~」

 移動を開始すると共に、ミミのヤツがそんな事を言い出す。念のために、釘を刺しておこう。五寸グギ位のヤツを、ぶっすり、と。

「ミミ、いくらかも何も、売れるかどうか、って言う問題があるぞ」

「ゲッ!! そうだった! ゲームみたいに馬糞でも売れる世界じゃ無かったんだ!」

「ティア、お前達の前世では、馬糞が売れるのか?」

「えっ! あ、それはゲームでの話! ……あ、でも、肥料としてなら売れるのかな?」

「その、幾度も出てくるげーむと言うのは何だ?」

「えっと、ゲームって言うのは────────」

 いかん、カオスになってきた。ティアがシェーラにゲームとは何かを説明しているが、概念レベルから説明しなくてはならず、ひっちゃかめっちゃかに成っている。残念ながら、俺は非転生者設定上、彼女の説明の手助けは出来ない。がんばれティア。……って言うか、手伝ってやれ、ミミ!!

 その時ミミは、ティアの事はそっちのけで、「ロウ! 今後は、確実に売れる物を盗れ!!」なんて無茶を言って来る。当然、「出来れば苦労するか!」と言っておいたよ。

 そんなカオスな状況も、ティアの努力とシェーラの諦めによってなんとか終わりを告げた。無論、シェーラは一割も理解できてはいない。

 何はともあれ、SPの振り分けだ。今回も、前回同様、俺は『運』、ティアとシェーラは『素早さ』、ミミは『スタミナ』に振った。

 事、戦闘に関しては、やはり『素早さ』は必須だ。どれ程強大な力があっても、対象を捉えられなかったり、攻撃を避けられないでは話にならない。

 ミミの場合は、JOB初期補正で『素早さ』が2になっているため、SPを使わなくてもレベルアップごとに1ずつではあるが増える。そのため、ティア達よりは『素早さ』に関しては余裕がある。

 たしか、他の攻撃魔法系JOBも、大半が初期補正値で『素早さ』に値を持っていたはずだ。最大ダメージティーラーたる攻撃魔法使いは、戦闘直後に(出来れば範囲攻撃で)大ダメージを与える事が出来るのが理想だからな。ある意味、『素早さ』が一番高い、と言うのも有りかもしれない。

 

 SPによるパラメーターアップ後、増えたパラメーターに身体を慣らすための時間を取った上で狩りを再開した。

 そんな中、俺は周囲の警戒を行いつつ、MPの残量を確認しながら『スティール』以外のスキルも実行していた。『気配察知』と『隠密』である。

 この二つのスキルは、MP『1』を消費して10秒間その能力が有効と言うものだった。そのため、一分に一回ほどの割合で交互に実行していた。

 そして、その『気配察知』に反応が出た。

「シェーラ、角ウサギの反応が出た。どうする?」

「角ウサギか… 巣穴の中か?」

「ああ」

「今は止めておこう」

「了解」

 俺は頷いて、そのまま探索を続ける。

「こらー!! 二人で話し纏めるなぁー!! ハブにするなー! 無視するなー! イジメいけない! 絶対!!」

 ミミのヤツが、何やら騒ぎ出す。後半に、何やら聞き覚えのあるフレーズが入っているが、そこんところは無視。

「別に無視してないぞ。角ウサギだ、角ウサギ。あいつは巣穴にいたらどうしようもないだろ。この中で追い出しが出来るスキルを持っているのはシェーラだけだ。お前の炎魔法じゃ巣穴から追い出せないだろ」

 『角ウサギ』は、レベル1~2のモンスターだ。ただ、他のモンスターと違って、自ら人間を襲う事はまずない。通常のウサギ同様に草食で、日中及び夜間は地面の下に作った巣穴にこもっている。そのため、狩ろうと思えば、巣穴を見つけた上で巣穴から追い出す作業が必要となる。

「ウガー!! それでも言うの! ホウレンソウは大事!!」

 いや…… 日本語で『ホウレンソウ』って言っても、この世界じゃ通じないぞ。同じ意味の単語の頭文字は全く違う音だし、当然この世界の『ほうれん草』とは全く違う音だからな。

「ちゅーか、何でやらん!! 角ウサギだよ! 肉だよ! 良い値で売れるんよ!!」

 まあ、この事に関しては言いたい事は分かる。だから俺も、シェーラに相談したんだよ。ミミの言うとおり、『角ウサギ』は売れる。ギルドではなく、一般の肉屋や食堂でも買い取ってくれる。売値も大きさにはよるが、5~10ダリ程には成る。確かに、今の俺達には喉から手が出るほどに必要な金額だ。だが……。

「なあ、仮に成功して、角ウサギが手に入ったあとはどうする? 夕方まで、ずっと持ったまま移動するのか? 魔法の袋どころか背負い袋すら俺たちは持ってないんだぞ」

 俺がシェーラに相談した、もう一つの理由がこれだ。もし狩りが成功して『角ウサギ』が手に入ったとしたら、それを持つ役は一番力のある彼女になるからだ。まあ、一番、直接戦闘に関わらないティアが持つという手もないではないが、純粋に体力・力の面で今のパラメーターでは無理だろう。

「ムギュー!!!」

 理解はしたが、納得しきっていないミミのヤツが、何やら奇声を上げているが無視する。

「リュック欲しいね。魔法の袋なんて、まだまだ夢だけど」

 そんなティアの願いは、多分全員の願いだろう。

 ちなみに、『魔法の袋』とは、次元魔法が付与された入れ物の総称で、内部が別空間、つまり亜空間へ繋がっていて、見かけ以上の物が入り、入れた物の重量も全く影響しないという、前世であれば運送業界がひっくり返るような品物だ。

 これは、内部に固定されている異次元空間の広さによって販売価格が変わってくる。一番安い1立方メートルの内部容量を持つ物でも1万ダリ以上する。日本円にして、100万円~200万円位と言えば実感してもらえると思う。20ダリの宿泊費に窮する身としては、ティアが言うように、夢のまた夢な訳だ。

「帰り! 帰りに見つけたら狩るかんね!! 絶対!!」

 ミミに言われずとも、俺もシェーラもそのつもりだ。

 そんな、騒動が終わったあとは、思った以上に順調にいった。スライム以外にも、尾を含めて1㍍ほどの『緑大トカゲ』も出てきたが、シェーラのスキル無しの攻撃によって問題なく対処できた。ちなみに、この『緑大トカゲ』の肉は売れない。食べて食べられなくはないらしいのだが、買ってまで食べる者はいないそうだ。まあ、味は推して知るべし、ってヤツだな。

 結局、俺たちは夕方前にはなんとか、四人全員が普通の宿に泊まれて、今日の夕食と明日の朝食を買える程度には稼げた、と思う。まあ、実際、売却するまでは分からないけどな。

 一応、あの『ボーンナイフ(仮)』も保険であるし、多分、大丈夫だろう。

 帰り道で、『角ウサギ』も一匹位は狩れるかもしれない。

 と、言う事で、さあ、帰ろう。

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