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第46話 乱

 俺が新たに身につけた『壁走り』スキルだが、スキルレベル1の状態では、残念ながら文字通りに壁を走る事は出来なかった。それでも、垂直な壁で若干の踏ん張りが利く。その僅かな時間でも、今までと違った行動が可能となるので、全く使えないという訳では無い。

 スキルレベルがある程度上がれば、垂直の壁でも歩けるようになり、更に上がれば走る事も可能になるはず。多分、最終的には、天井すら走る事が出来ると思う。まあ、当分先の話だが。

 しかし、『(おり)』を取り込む、と言う特殊な状況を経て手に入れたスキルと考えれば、かなりしょぼいスキルだと思える。どうせなら、もっと、こう、劇的なスキルとか、いっその事、ミミが言うようにJOBが『忍者』にクラスアップする、とか、さ……。

 仮に『忍者』にクラスアップしたら、『スティール』が無くなる可能性も有るから、それはそれで困るんだが……。クラスアップはともかく、もう少しいいスキルだったら、と考えてしまう訳だ。

 ただ、まあ、俺らしいと言えば、俺らしい。俺は主人公キャラじゃ無いからな。現状の、各国から引っ張りだこなのが異常なんだよ。それ自体、俺自身を戦力では無く、『スキルの実』を入手出来る、と言う間接的な意味で求められてる状態だ。本当の意味で求められている訳では無い。

 そんな俺だからこそ、得られたスキルは『壁走り』だった、と考えれば、なるほど納得だな。俺が、凄いスキルを得るはずがないんだよ。絶対。うん、納得。

 俺が取り込んだ『(おり)』と思われるものだが、当然他の者にも有るはずだ。そして、その『(おり)』が転じたアンデッドと出会う事が出来れば、それを取り込む事も可能なはず。ただ、その個体に出会える確率は、非常に低く、場合によっては、既に消滅されている可能性すら有る。ミミ達も、この『(おり)』の取り込みに関しては、全く期待はしていないようだ。


 『ゴースト』討伐に付いては、その後順調に進み、ミミとティア念願の『デュラハン』ももう一匹現れ、『蹄鉄』も入手する事が出来た。その蹄鉄は、以前入手済みの二個と合わせて、その日のうちにギルド馬車を引く馬に装着された。

 当初、馬達は戸惑っていたが、その変化を認識すると直ぐに対応する。この辺りは、ティアの『競馬ソング』等でブースト効果に慣れているからだろう。

 いつもどおり、討伐最終日まで残った上で、ブーストされたそのギルド馬車で、王都まで帰った。帰りが、来た時よりかなり早かったのは言うまでもない。

 

 王都に着いたあとは、西ギルドで手続きを済ますと共に、『スキルの実』二個も渡す。

 『(おり)』の件についても、一応ロミナスさんには話しておいた。ロミナスさんは、事細かな所まで確認はしてきたが、一度として、俺達の言葉や感覚を疑う事は無かった。

 それでも、そのまま報告出来るものでは無いと判断したようだ。

「これは、さすがに、王家は勿論、ギルド上層部にも報告は出来そうに無いね」

 相変わらずの、溜息交じりである。まあ、俺達としても、そう言った意味で報告した訳では無い。単に、ロミナスさんに話したかったから、話したにすぎない。ロミナスさんに聞いてもらえて、信じてもらえればそれで良い。

「転生時の汚物、不要物を浄化する事を目的として作られた世界かい……。そのためのレベル、そのためのスキル……。小っこい嬢ちゃん達の前世が標準的な世界だとすれば、その考えもあり得るね。だけど、まあ、確認のしようが無い事だし、考えても無駄な事さね。私らは、この世界で生まれ、この世界で今、生きているのさね。このあとも、死ぬまで、ね」

 そう言って、この話をしめたロミナスさんは正しいと思う。前世は前世。別の世界の(ことわり)がどうあれ、今の俺達には関係ない。今の世界の(ことわり)の中で生きていくしか無いのだから。そして、その(ことわり)が破綻しているならともかく、十分に機能しているのであれば、文句など有ろうはずが無い。神的なヤツの目的や思惑なども関係ない。今を、この世界を生きるだけだ。

 

 今回の『ゴースト』戦は、『ゴースト』自体のレベルが高かった事も有り、俺達のレベルやスキルレベルも若干上がっている。

 JOBレベルが上がったのはネムで、2上がってレベル22と成った。その際のSPは、『精神』へと振って77とした事で、各スキルの威力も上がっている。

 スキルに関しては、俺の『スティール』がやっと上がって14と成った。やっとだ。本当に、やっとだよ……。

 ティアの『歌唱』は上がらなかったが、『スピーカー』が12となり、増幅率及び射程距離が増している。

 ミミは、『エレメント』で『ファイヤーアロー』を使い続ける事で両スキルを上げ、『エレメント』を9とし、『ファイヤーアロー』はついにカンストさせた。今回は、攻撃よりも火消しがメインと成った事から、風魔法を使う回数は少なく、『デュアル』は上がっていない。

 シェーラは、既にカンストした『地裂斬』を中心に使用していたため、ギリギリ『マジックブレード』が8に上がっただけだった。

 ネムは、アンデッド戦で上がりやすい『浄化』が2上がり、9とし、多用した『聖域』も1上がって9と成っている。更に、元々低かった『聖光』も、掃討戦で多用した事で、2上げて5と成り、射程距離は50㍍になった。『聖鎧』については、今回はあまり使用しなかったので、上がってはいない。

 ネムのJOBレベルが、少しずつ俺達に近づいている。いい事だ。レベル差が少ない方が、パーティーとしてのバランスが取れる。

 それに、今後、ネムが王家に取られるような事に成った場合の事を考えれば、レベルは高いに越した事は無い。自分の身は、自分で守れるようにだ。騎士団なんぞ、いくら再編成しようが、信用できるわけが無い。

 先の、『もし』を考えるなら、ネムの強化は必須だ。当然、レベルだけで無く、リアルスキルも鍛える。パワーレベリングだけなら、クズ騎士団と同じだからな。

 ネムは、食欲魔人という問題はあるが、基本素直で頑張り屋である。自分の危うい現状も十分に理解しているので、俺達の指示に従って、限界ギリギリまで頑張る。

 それが分かっているから、『○○の匂いがするです! 取りに行くです!』という程度の我が儘は許す。一日一回ぐらいならな……。

 

    ロウ  17歳

  盗賊  Lv.27

  MP   209

  力    11

  スタミナ 12

  素早さ  56

  器用さ  56

  精神   8

  運    16

  SP   ─

   スキル

    スティール Lv.14

    気配察知  Lv.20(Max)

    隠密    Lv.20(Max)

    サーチ   Lv.6

    マップ   Lv.6

    壁歩き   Lv.2


  ティア  17歳

  歌姫   Lv.27

  MP   600

  力    10

  スタミナ 28

  素早さ  19

  器用さ  9

  精神   94

  運    ─

  SP   ─

   スキル

    歌唱    Lv.9

    スピーカー Lv.12

    エフェクト Lv.5

    ストレージ Lv.5


  ミミ   17歳

  炎魔術師 Lv.27

  MP   830

  力    11

  スタミナ 11

  素早さ  30

  器用さ  9

  精神   86

  運    ─

  SP   ─

   スキル

    ファイヤーボール  Lv.15

    ファイヤーアロー  Lv.20(Max)

    ファイヤーストーム Lv.20(Max)

    エレメント     Lv.9

    デュアル(風)   Lv.6


  シェーラ 17歳

  大剣士  Lv.27

  MP   223

  力    58 +12

  スタミナ 56

  素早さ  18

  器用さ  17

  精神   9

  運    ─

  SP   ─

   スキル

    強力(ごうりき)       Lv.20(Max)

    加重       Lv.17

    地裂斬      Lv.20(Max)

    マジックブレード Lv.8

    爆砕断      Lv.6

 

  ネム   15歳

  浄化師  Lv.22

  MP   560

  力    11

  スタミナ 9

  素早さ  9

  器用さ  22

  精神   77

  運    ─

  SP   ─

   スキル

    浄化       Lv.9

    聖域       Lv.9

    聖光       Lv.5

    聖鎧       Lv.8

 

 『ゴースト』戦から帰ってきて8日目、ロミナスさんからその報を受けた。

「ロムン第三王子の、浄化の実が、ギムネル侯爵家三男に与えられたと、ギルド側に通知が有ったさね」

 あの日から、かなりの日数が経っている。

「やっとかい!!」

 ミミのその言葉が、俺達全ての気持ちを代弁していた。

「……一応、あの者に返さなかっただけでも、評価出来るとは言えるな」

「シェーラ甘! クソロムンに返さんのは300%当然なんよ! あれだけやらかしといて、民衆はおろか、貴族内でもボロカス言われてて、それでも尚返すなんざ、あり得んちゅうの!!」

 俺もミミに同意する。ティアもだ。だが、シェーラだけで無く、ロミナスさんも、その可能性は有ると思っていたらしい。多分、この辺りは、転生者と非転生者の違いなのかも知れない。俺達転生者は、どうしても前世の常識に捕らわれてしまうからな。

「その侯爵家三男と言うのは、どんなヤツなんですか」

 貴族という事だけで、期待出来ないのだが、一応聞いてみる。そんな心情がだだ漏れのため、貴族相手に『ヤツ』と言う言葉が無意識に出てしまう。だが、ギルド内でそれを咎める者は、既にいない。

 俺の質問を聞いたロミナスさんは、溜息を吐いた。……それだけで、答えに成っているな。

「……そうさね、ロムン第三王子程は酷くは無いさね」

 …………。

「えっと、それって……」

 ロミナスさんの言いように、ティアの表情が歪む。

「クソロムン基準でゆ~たら駄目じゃん!!」

 だよな、ヤツを基準にすれば、大抵の者は『まし』だろう。

「一応ね、光魔法使いだから、MPもそれなりに有って、浄化スキルの成長も早いはずさね。あと、侯爵家とはいえ、武張った家だからね、戦場を恐れる事は無いはずさね」

 ロミナスさんがフォローらしき事を言うが、即ミミがぶった切る。

「武張ったっちゅうても、ど~せ騎士っしょ! あの騎士の一族に何を期待しろっつ~のっ!!」

 至極もっともな意見だ。

「確かに、ギルネム家は騎士を多く輩出している家だな。先代紅竜騎士団団長もギルネム家だったはず」

 ミミの意見に駄目押すシェーラの顔には、以前のような苦悩は見えない。完全に、騎士団に対する幻想からは解き放たれたようだ。

「じじい死なした、クソ騎士の一人じゃん!!」

 そう言った時のミミには、一瞬だけではあるが、本気の怒りが見て取れた。爺さんの事に付いては、未だに怒りが収まっていないようだ。

 この感情も、次の転生時に『(おり)』として取り除かれるのかも知れない。そして、アンデッドの素材として使用される訳だ。

 俺自身は前世において、強度の女性不信を煩った。立花の存在によって、その女性不信はある程度は改善したが、それはあくまでも『こんな子もいるんだ…』というレベルであり、根本的な病根はそのままだった。そして、そのまま死亡した。

 今世の『託宣の儀』で前世の記憶を取り戻した訳だが、その時の病根たる感情自体は残っていない。その時の記憶が有るだけだ。その記憶という経験によって、ハニートラップを回避しているにすぎない。それは、感情的な拒否では無く、理性的な分析に元ずく回避だ。

 現在の俺には、前世の女性不信と言う感情自体は存在していない。それが『(おり)』として捨てた物の一部だったという事なのだろう。ミミも、次回の転生で、その負の感情は失うはずだ。それで良い。必要な事だから。

 何はともあれ、王家が決めて、既に実行した事に俺達が文句を言っても仕方がない。クソロムンに戻さなかっただけでも良かった、と思うべきだろう。この国の常識的には、その可能性も十分にあったのだから。あとは、その侯爵家三男が、まともに活動してくれる事を祈るだけだ。期待薄だけどな……。

 

 そして、それから更に10日後、早くもまた『不浄の泉』が発生した。今回は、王都周辺にある村の直ぐ外側だ。その村は、ミミの生まれ育った村でもある。

 今回のアンデッドは『スケルトン』。王都に近かったと言う事も有り、発見も早く、対処も早かった。そのため、一匹の『カーリースケルトン』が出ただけで、早々に消滅、討伐までを終えた。

 そして、意外にも、例の新しい『浄化師』である、ギルネム家三男のジョゼフは、その討伐に当日から参加し、四日間のみの短期間だったとはいえ、最終日まで参戦し『浄化』を続けた。

 落ちるだけ落ちた、国家と言う名の組織の立場を改善するためとは言え、一応評価は出来る。

 実は、俺達個人としては、今回はアンデッドそのものよりも、その場所故の問題の方が大変だった。ミミとミミの母親とのバトルである……。いや、本当に、大変だった。今回ばかりは、ご苦労さんと心から言おう。

 

 ミミの村に現れたアンデッド討伐完了後、僅か4日で次の『不浄の泉』が発生した。王都の東外門から5キロ程の地点で、湧き出したアンデッドは『ゴースト』。

 今回は、王都に近く、更に東街道と言う交通量の多い所に発生しただけに、『不浄の泉』発生直後には発見され、その二時間後には狩りに出ていなかった冒険者達によって討伐が開始された。

 そのためもあって、夕方、俺達が駆けつけた時には、既に『不浄の泉』の位置が完全に特定されていた。

 その日は、光魔法の『ライティング』を空に複数打ち上げる事で、深夜まで掛けて『不浄の泉』消滅と『ゴースト』討伐が実行された。

 王都にあまりにも近すぎたため、一晩たりとも開けられなかったからだ。また、湧き出しているアンデッドが『ゴースト』だったのも問題だった。『ゴースト』は実体が無いため、他のアンデッドと違い、塀を通り抜ける。だから、一晩のうちに王都の中にまで侵入される可能性が有ったのだ。

 かなり大わらわな討伐戦ではあったが、出現から時間が経っていなかった事と、場所が王都近くという事も有り多くの戦力がいた事もあって、深夜までには全てを終えている。


 深夜まで及んだ戦闘で疲れた俺達は、その日は休みとして朝から眠っていたのだが、昼過ぎに家政婦娘のメムから叩き起こされた。

「ロウ兄! ロウ兄! 起きて!! 大変なの!!」

 常に無い必死の形相のメムを見て、眠気が一瞬で吹き飛ぶ。

「どうした!? 何があった!?」

「お城が大変なの! 戦争なの! 大騒ぎなの!!」

 慌てすぎで要領を得ないメム落ち着かせ、何とか話を聞き出すと、それは、本当に大変な事だった。特に、俺達にとっては。

 その頃に成ると、他の部屋の面目も起き出してくる。

「なした? 何かあったん?」

「またアンデッドか!?」

「そうなの!? 今度はどこ!?」

 ネム以外は、全員起きてきたようだ。俺は、勘違いしている彼女達に説明する。

「城で反乱が起きたらしい」

「「「反乱!?」」」

「ああ、クソロムンだ。ヤツが騎士だか元騎士だかと起こしたらしい」

「マジか! んで、状況は!?」

「俺も、今メムから聞いたばかりだから、現状は分からない。城やその周辺で戦闘が起こっているのは間違い無いらしい」

「ギルドだ! ギルドに行くぞ! ギルドなら、ある程度の情報は集めているはずだ!」

「だやね、汚物ロムンがクーデター成功させれば、私ら、メッサヤバいかんね」

「ネムちゃん起こしてくる!」

「メム、念のために孤児院に帰ってろ。クソロムンが、この家に攻めてくる可能性が有るからな」

「あり得るな。今後、どのように成るかは分からん。孤児院でも、当分は外出を控えた方が良いだろう」

 俺達は、指示と準備を取り急ぎ行い、家の戸締まりを行った上で、「ほえ?」っとしているネムを引っ張って西ギルドへと走った。

 西ギルドへ向かう道中には、どうすれば良いのか分からず右往左往している住民達で溢れている。中には、日中であるにもかかわらず、雨戸まで閉め切った商店もちらほら見受けられた。不安そうに、走る俺達を見る者も多い。

 俺達は、そんな住民達を余所に、全速力で西ギルドへと駆け込んだ。

 ギルドへ入って、即、ロミナスさんへ話を聞こうと思ったんだが、いつも居る一般受付窓口は空だ。

「ロミナスさんは、ギルマスたちと中央ギルドで会議中よ」

 唯一開いていた冒険者用窓口から、声が掛けられた。

「ターニャさん! どうなっちょるん!? 状況教えて!!」

 ミミが、ターニャさんの居る窓口へと飛び付き、ぶら下がったまま喰らい付くように質問する。

「まだ、状況はギルドにもハッキリは分かっていないのよ」

 彼女は、そう前置きした上で、分かっている事を説明してくれた。

 どうやらメムが言った事は全て事実だったようだ。

 本日午前9時頃、クソロムンを筆頭とする現役騎士及び元騎士による反乱、つまりクーデターが起こった。全騎士がクーデターに参加した訳ではないが、6割近くが参加しているのではないか、と言う。

 クーデターの理由は、『民衆に迎合する王家は、王家の誇りを失った。国家を治める資格は無い』と言う事らしい。

「あに言ってんの! そうせんといかん状況に王家を追い込んだ張本人が言うな!!」

 そう叫んだ、ミミの叫びは、正論中の正論だろう。

「おまゆうにも程があるっちゅうんよ!!」

 そう(いきどお)るミミはともかく、ターニャさんの話の続きだが、どうやら国王及び皇太子は殺されたらしい。その他の王族に関しては、現在その行方及び生死は不明との事。

 城及び貴族街でも戦闘が続いているが、このままでいけば、クソロムン達が勝利する可能性が高いのではないか、と言う話だ。やはり、中身がどうあれ、戦闘のプロたる騎士が大勢居る事が大きいと考えられている。

「つー事は、私ら、マズイ状況やね。あの汚物野郎は、絶対私ら殺そうとするっしょ」

 間違い無いな。確実に殺しに来る。

「……あなた達だけの問題じゃ無いのよ。あの時、私達ギルドも完全に敵対したでしょ。状況は同じよ。まあ、その件が無くても、この状況で浄化能力者がゼロに成れば、この国自体が滅ぶんだから同じなんだけど……」

「うんみゅ? ゼロ? ギムネル侯爵家三男は?」

「……殺されたのよ。王家の次に、すぐ」

「マジか……」

「どこまでも……」

「昇君……」

 ジョゼフと言う侯爵家三男は、『貴族』だった。無駄にプライドが高く、敬われるのは当然と思っている、典型的な『貴族』。それでも、彼は義務は果たしていた。そして、その義務を果たす事を(いと)う様子は全く見られなかった。それ故に、俺達は、最低限とは言え彼を評価していたのだ。クソロムンとは比べものにならない。

 だから、昨夜の討伐においても、『MP回復薬』をギルド経由で50本程融通した。そんな彼の死に、爺さんの時のような感情が沸き起こる事は無いが、気分が良いはずが無い。

「あなた達、一旦どこかに隠れなさい。王都を離れるのが一番だけど、それが無理なら、どこかの宿に泊まるの。絶対に家に居ちゃ駄目。良いわね」

 ターニャさんのアドバイスに従うべきだろう。ただ……。

「うんみゅ~、いまのまんま王都から逃げるんは、ちょっちな~。正確な情報が分からんと、その後の対応が~。どうすべ」

 手遅れになる前に、逃げるのが一番だとは思うが、確かに状況は知っておきたい。王都を離れれば離れる程、正確な情報は入ってこなくなるはず。情報が入ってくるのに時間も掛かる。ヤツらがどう動くかぐらいは知っておきたい。後に成って、ヤツらが孤児院に手を出したと分かって後悔するのは御免だ。

 ヤツらが、どこまでやるつもりなのかを見極めたいな。……関係ないミミ、シェーラ、ネムまでを危険にさらす訳にはいかないが。

「我々の関係者全てに、災厄が降りかかる可能性が有る。両孤児院は元より、トマス殿、ネムやミミの実家にだ。我々が逃げる事で、そう言った方々に火の粉が降りかかるようでは困る。そうであるなら、私は覚悟を決め、ヤツと対峙する事を選択する」

「実家が襲われるの駄目なのです」

 武人としての覚悟を決めるシェーラ。そして、わたわたと慌てるネム。

 ……そうか、孤児院だけで無く、実家や付き合いのある者に迷惑が掛かる可能性も有ったな。トマスさん、アリさん、『熊々亭』のおばちゃん達。更には、家の近所の人たちもだ。

 ……最悪でも、ティアとネムだけは逃がさないとな。でないと、アンデッドでこの国自体が滅ぶ。

 俺は……、シェーラ同様、覚悟を決めるか。最低、クソロムンは道連れにしてやる。絶対にだ。

 来世ぐらいは、老衰で死にたいな。三回連続で10代で死ぬのは勘弁。死自体は恐ろしいが、転生と言うものがある事が分かっているので、我慢出来なくは無い。勿論、嫌だけどさ。

 俺が、覚悟完了していると、ミミのやつも決めたようだ。

「やっぱ、このまま逃げるんは無しやね。今日は、どっかの宿屋に泊まって様子見っつー事で。んで、明日状況を見極めてから、殲滅すっか、関係者全員引き連れて隣国に逃げるか、つー事にすんべ。一応、孤児院自体には手出しは無いと思うんよね~。有るとしたらティアハウスの住人。あと、家政婦三人娘かな~。そこら辺、今日中に注意しとくっちゅう事で」

 ターニャさんが言うには、まだ城や、その周辺での戦闘は続いているとの事。であれば、今日中に、俺達や、その関係者に手を出せる余裕は無いはず。多分、明日の早朝までも、大丈夫だと思う。

 俺達は、話し合った上で、ミミの案を飲む事にした。そして、諸々の連絡を行った上で、『熊々亭』以外の宿屋へと泊まり、翌日を待つ。

 

 翌日早朝には、ギルドの職員が宿を訪れ、その時点での情報を伝えてくれた。

 どうやら、三男を殺されたギムネル家が中心となった貴族連合が、思った以上に善戦しているらしく、今朝の時点でも戦闘は続いているらしい。

 ギルドの予想では、連合の善戦も昼頃までで、その後は雪崩を打ってクソロムン達の勝利へと傾くと考えているようだ。

 更に、西ギルドが中心になって提案している事柄が、他のギルド幹部達の賛成をまだ得られていないと言う。

「んじゃ、夕方まで、様子見っか」

 ミミは、ギルド職員の話を聞いて、一人で、そう決めてしまう。まあ、俺も反対はしなかったけどな。

 この日の午前中、俺は『隠密』を使って城周辺の様子を探った。城に近づくにしたがって、人気が消えて行く。そして、貴族屋敷街に入ると、火事場のような臭いが漂い出す。元々美々しく装飾された貴族屋敷の大半は、塀や壁が崩れ、惨憺(さんたん)たる状態になっている。

 そんな貴族屋敷街を、騎士の装備を纏った者や、貴族子飼いの兵士達が走り回っていた。

「居たか!」

「居ないぞ!」

「捜せ! 絶対に居るはずだ!」

 そんな大声を上げながら、探索を行っているようだ。そんな状況は城の近くまで続き、所々では戦闘系スキルの轟音が鳴り響いている。少なからず、戦闘はまだ続いているようだ。

 俺は、この調査にあたって、シェーラ達から釘を刺された事が有る。それは『城には入るな』だ。

 カンスト状態の『隠密』だが、城であれば何らかの対策が講じられている可能性が有る、だから城には入るな、と言う事だ。

 この混乱した状況で、その対策が、未だに生きているのか疑問ではあるが、

「こんな時だからこそ、起動させているはずだろう」

 と言われれば、反論は出来なかった。

 俺は、彼女達の指示に従い、城には入らず、城門が見える位置から、覗き見るだけにした。残念ながら、そんな見方だったため、ほとんど何も見えないのと同じだ。

「汚物野郎が居たら、()れる時に()っとくんよ! 今の状況なら、赤も付かんし!」

 そんな、ミミからはの指示は実行出来そうに無い。クソロムンの姿が見えないからだ。この世界の神的なヤツから、『チキン』などと言う称号を貰うようなヤツなので、城内の安全な場所に籠もっている可能性が有る。

 以前の俺ならともかく、今の俺は、ヤツに出会えば躊躇(ちゅうちょ)無く殺す。今回は、人を殺すと言う覚悟を決めている。ヤツを殺さないと、ティア達は勿論孤児院の子供達や、トマスさん達にまで危害が及ぶ。なら、躊躇(とまど)う必要なんて無い。()るに決まってる。

 今世は、前世以上の『(おり)』が溜まりそうだな……。まあ、仕方がない。

 俺は、30分程城門の前で様子をうかがったが、戦闘が終結し掛かっている事ぐらいしか分からなかった。だから、そのまま宿へと向かう。


 宿では、俺がいなかった間にギルドから連絡員が来たようで、その時の話を彼女達から聞いた。

 どうやら、昨日からロミナスさん達、西ギルドが中心になって提言していた事がやっと通ったようだ。

 その提言とは、クソロムンのクーデターが成功すれば、俺達は殺され、ギルドも相当な被害を受ける。そして、何よりも、ティアとネムを失えば、この国には『浄化能力者』が居なく成り、それはそのまま、この国の滅亡を意味する。つまり、クソロムンがこの国の王になれば、この国は滅ぶと言う事だ。であるなら、そう成らないためにギルドが立ち上がるべきだ、と言う事だ。ギルドを中心として、冒険者をまとめ上げてクーデター軍に対抗すべし、と。

 クソロムンによる襲撃後の、西ギルド前での状況を考えれば、多分、大多数の冒険者達は賛同してくれる気がする。……と言うか、そうする以外に選択肢は無いに等しい。出来る手段は、外国に逃げるぐらいか。

 そんな、選択肢が無い事を決めるために、この王都のギルド上層部は、丸々一日掛けた訳だ。『スキルの実』の件と言い、ギルド上層部もグダグダだな。ロミナスさん達も苦労する。

 俺がこの話を聞いた時には、俺達がこれから取るべき手段は既に決められていた。このまま待機して、ギルドの号令と共に『クソロムン殲滅作戦』に参加するという事だ。

 どれ程の冒険者が参加するかは、現時点では分からない。それでも、一万を下る事は無いだろう。時と共に、王都周辺の冒険者達も参加してくれるはず、一旦動き出してしまいさえすれば、時は俺達の味方となる。だから、俺達が慌てる必要は無い。

 ……そう、慌てる必要は無かったはず、だった。その、30分後までは。

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