第38話 検証
三日間、カニ三昧となった。あのカニは、『鑑定』して貰うと、『ブルークラブ』の変異種で、普通に全て食べられる事が分かった。ネムが狂喜乱舞して、ティアと共にカニグラタンの歌を唄ったっけ。ギルド内で……。
このカニの1/3は『熊々亭』のおばちゃんへ渡し、家政婦三人娘の授業料とした。
そして、ネムの鼻は正しかったようで、このカニは本当に美味かった。料理の腕前がまだまだなアーシャとランが料理しても、十分に美味い位、素材自体が美味い。
おばちゃんから、「また居たら、頼むよ」と言われたが、変異種なので多分無理だろう。
ちなみに、巨大鍋は購入しいない。殻を割って、普通の鍋で煮て食べた。……ミソも、美味かった。無茶苦茶美味かった。
この三日間も、ネムの食欲センサー(鼻)は全開だ。
「蜂蜜の匂いがするです!」
「タタンの実の匂いがするです!」
などと言って、俺達を引きずり回し、食材確保に励んだ。
「ロウさん、サーチで探すです!」
そう言って蜂蜜を差し出してきたりもした。『サーチ』へ登録はしなかったぞ。なんせ、現時点の『サーチ』範囲とネムの『鼻センサー』が大差なかったからな。
そんなドタバタな、狩り(実質探索)から帰ってくると、ロミナスさんから、例の言葉が発せられた。
「不浄の泉だよ。すまないが、行ってくれるかい」
「喜んで!!」
ミミが、某居酒屋のような事を言うが、今回はネタでは無く本音だろう。
「よっしゃ~! これで、やっとネムやんのスキルの検証がでける!!」
今回のアンデッドは『ゾンビ』で、場所は王都から北東にあるキヌア領、サラサの町の近くだ。距離は通常の馬車で三日。ギルド馬車にティアの『競馬ソング』が有れば、一日半掛からない。翌朝というか、午前三時頃に出発してその日の夕方にはサラサの町へと着いている。
このサラサの町は鉱山の街で、街を囲む三方の山全てが鉱山に成っている。山は岩だらけで、木はほとんど生えていない。そんな岩だらけの、露天掘り鉱山にアンデッドが出現したらしい。
「むっひょ~! 炎魔法使い放題!! 楽勝!!」
ティアが、ミミの叫びに合わせて、楽勝が付くOVAタイトルアニメの主題歌を唄い出す。最近、ティアはその場のワードで歌を唄い出す事が多い。まあ、TPOはある程度守っているから、良いんだけどな。
俺達は、『早馬』で先乗りしていたカルトさんから、一通り現場の状況を説明される。その上で、その日は就寝だ。
カルトさんは、完全に『不浄の泉対策担当』にされてしまったようだな。俺達としては有り難いんだが、西ギルトとしては、『不浄の泉』が発生するたびに副ギルドマスターがいなくなるのでは、業務に差し障りがでると思うんだが。……あ、そのためのカチアさんか。永遠の26歳ね。
その件をカルトさんに確認すると、どうやら、俺達の事も有って、西ギルドのカルトさんが担当にさせられたと言う経緯があるそうだ。ご愁傷様です。せめての罪滅ぼし(?)に、冷えたサイダーを差し入れしておいた。無論、おばちゃん特製の品だ。
翌日、体調が完全に回復した俺達は、サラサの町から3キロ程離れた所にある、露天掘り区画へと向かった。
道中、アンデッド戦が初めてのネムに、改めて『ゾンビ』に関する注意を言い聞かせながらだ。まあ、今回は『ゾンビ』なので、『スケルトン』のように投剣も無いので、そこまで危険は無いのだが、安全第一って事だな。取りあえず、ネムの初陣には最適だと思う。
今回俺は、『スティール』は控えめにして、念のためにネムのサポートに付くつもりだ。
場所が鉱山だけに、道は整備されている。馬車二台が楽にすれ違える程の山道を移動する事20分。例の臭いが風に乗って流れてくる。
「う~、臭いです。鼻が曲がるです!」
初めて『ゾンビ』の腐臭を嗅ぐネムは、この時点で既に、鼻を押さえて涙目に成っていた。
「犬鼻のネムやんには、これを進ぜよう。活せ~炭入り防毒マスク~!」
ミミが往年の青だぬき口調で、四次元なポケットから取りだしたポーズをして、それを掲げた。その動作と同時に、あのBGMが流れてくる。背後に効果線や照明付きでだ。……ティアの『エフェクト』だな。多分、ミミが前もって仕込んでいたのだろう。ドヤ顔をするミミだったが、残念ながら、そのネタが分かるのは手伝っているティアだけだ。俺は非転生者設定なので、反応出来ない。まあ、する気も無いが。
ネムは「ほへ?」といつもどおりポカン。シェーラはスルーだ。当然俺もな。
と言う事で、漫画だったら、背景にデフォルメされたトンボが横切る程に、滑っている。
ちなみに、『活性炭式防毒マスク』はミミのやつがだいぶ前に、『錬金術師』に頼んで作ったのもだ。カートリッジ型の活性炭フィルターを交換出来るようにした、本格的な品で、その後、様々な所で役に立っている。
ただ、ミミの本来の目的であった『ゾンビ』の腐臭対策はとしては、効果は問題無いのだが、息苦しさの関係で、接近戦闘が主な俺やシェーラが使えないのはもとより、声がこもって通らない事から戦闘中の指示が出来ないためミミも使用しなくなった。言うまでも無いと思うが、『歌唱』を使うティアも当然使えない。
今回、ネムの場合は、接近戦をする訳でもなく、指示を出す訳でもないので、問題無いという事だ。多少息苦しいが、問題になる程では無い。いざとなれば外せば良いだけの事。
「ちょっと息苦しいです。でも、臭いが消えたです!」
ネムは、笑顔だ。
現在、ゴムベルトで装着するようになっているのだが、今後も使う事を考えれば、兜に装着出来るようにするべきかもしれない。ズレたり外れたりが無いようにだ。
「この街の鍛冶屋に頼むべ! ウマン村の鍛冶屋みたいなことには成らんし!」
ミミ言う所の『ウマン村の鍛冶屋』とは、シェーラ用の『闇の双剣』の鞘を作って貰った、あの鍛冶師のことだ。『闇の双剣』の事を騎士にチクり、面倒を引き起こしたあいつ。今回依頼するのは、『昇華』は施してはあるが、普通の兜なので問題は無いはず。
『活性炭式防毒マスク』も、既に市販されているので、こちらも問題無い。
シェーラは、トマスさん制作の兜を、他の鍛冶師にいじらせることに抵抗があるようだが、戦闘時の安全のため、と言う事を考え、その感情は押し殺したようだ。
「ネムやん、臭いがするようになったら、このカートリッジを交換するのだ」
「はいです。ミミちゃんはマスクが要らなくって羨ましいのです。鼻づまりも得なのです」
「詰まっとらんわ!!」
200人以上居る冒険者達の前で、こんなアホな会話をしているのは俺達だけだろう。
『ゾンビ』が居たのは、露天掘りのため、平らに切り取られた一角だった。
その先にある、すり鉢型に掘られた露天掘り鉱窟にも、大量の『ゾンビ』が落ちて溜まっている。ある意味。この露天掘り鉱窟が落とし穴の役割を果たしている訳だ。
「こりは、楽勝でね?」
「ここは、一般の冒険者方に任せるのが良いだろう」
すり鉢状の縁に陣取って、魔法なりスキルなりを連発すれば、その中の『ゾンビ』は安全に殲滅出来る。すり鉢内の『ゾンビ』が消滅しても、次々に奥か来た『ゾンビ』が落ちて行くので、戦線がその露天掘りを越えない限りその『落とし穴』は使えることになる。人間を見ると、真っ直ぐに突っ込んでくるバカAI搭載な『ゾンビ』だから出来る戦法だ。
「つー事で、私らは予定どおり行くかんね」
ミミの宣言で、俺達は行動を開始する。
先ずは移動だ。ティアが『般若心経』を唄い、露天掘り鉱窟に落ちない『ゾンビ』を消滅させながら進んで行く。ネムは、まだ『浄化』は使用していない。射程距離の問題で、もうしばらくは待機だ。
俺達が移動したのは、すり鉢方の露天掘り鉱窟から300㍍程移動した先の山際で、右手は斜度40度程の傾斜になっている。そちらは、斜度の関係で『ゾンビ』は居ない。
この右手側の山は、元々有った山ではなく、露天掘りの鉱窟を掘った際の土砂を積み上げて出来た物だ。前もって見せて貰った地図によると、直径500㍍程で高さが30㍍もある。鉱山のぼた山のような物だろう。
ここは、元々は谷間だったらしいので、実際に捨てられた土砂は、見た目の倍以上有ったことになる。
そんな山を右手にしながら、ネムにスキルを使わせ、検証を行っていく。ティアの『般若心経』との兼ね合いもあって、ネムは『般若心経バリアー』ギリギリに位置取る。
「うし! 浄化範囲は直径3㍍で、射程は中心まで5㍍! 空打ちの時と変わらず! 消滅速度は瞬時! 浄化は問題ないやね~」
ネムは、『浄化』を実戦で使用するのは初めてだったが、経験値の入らない状態での空打ちは可能だった。そのため、爺さんのように『浄化サークル』を維持したまま移動する訓練や、『浄化サークル』を小さくする事で威力を高める訓練を行っていた。だから、実戦で使うのは初めてとは言え、『浄化サークル』を左右に振ることも出来ている。
ここら辺りの教育はミミが担当しており、伊達に『炎旋』の二つ名を持つ訳では無い事を証明している。いろいろ問題が多いやつだが、凄いヤツなのは間違い無い。本当に、いろいろ問題があるが……。
この、『浄化サークル』を維持したままでの移動だが、実は、本来の機能では無かった。ミミの旧『火炎旋風』同様に、実行後の魔法現象を操作していた訳だ。つまり、ミミ以前から、爺さんはその方法を確立して、既に使っていたことになる。訓練時、その事に気づき、俺達全員が爺さんの偉業を再認識した。
「お、聖域は般若心経と違って、領域に触れても消滅はせんのんか~。んで、一般モンスターとかみたいに侵入もでけへんと。……レベルの問題っちゅう可能性もあっか? 後は、スケルトンの投剣がどうなっか、かな~。それと、大スケとデカゾンビ」
ネムが展開した『聖域』の輝く壁、バリヤーのような膜を突破出来ない『ゾンビ』達は、その膜に沿って移動してきて、『般若心経』バリアー内に侵入して消滅して行く。
「よっしゃ~! 聖域消滅までの時間も、空打ちの時と同じ! つー事は、全くダメージを受けちょらんつー事!!」
一般モンスター相手だと、その攻撃や侵入しようとする行為によって、どんどんと『聖域』のエネルギーが消耗し、そのダメージによって維持時間も少なくなった。だが、『ゾンビ』だと、全くダメージが入っていないようで、維持される時間も全くダメージがない時と同じになっていた。一般モンスターとアンデッドではだいぶ違うようだ。
「つー事で、次『聖鎧』。シェーラお願い!」
「了解した」
五重の『聖鎧』を掛けられたシェーラが『般若心経バリーアー』外に進み出る。俺はその直ぐ後ろに『解毒薬』と『低級回復薬』を持ってついて行く。
「ほぉ~ほぉ~。聖鎧も、ぜ~んぜんダメージ受けとらんやん! さすがは、対アンデッド専用JOB!!」
俺の直ぐ側に来て、シェーラに掛けられた『聖鎧』の様子を見ていたミミが喜びの雄叫びを上げている。20秒おきで掛けられていた『聖鎧』は、現在の最大維持時間である5分が経過するまで維持された。
「なあ、あれ、歌姫のスキルじゃないよな」
検証を続ける俺達の横にいた冒険者達から、徐々に疑問の声が上がり始めている。
『スキルの実』は元より、ネムと言う新たな『浄化師』の存在も、現在はまだ一般の冒険者には知らされていない。ネムに関しては、別段秘密にしている訳ではないが、面倒なので大っぴらに公開していないだけだ。多分、今回の討伐で知れ渡ることになるはず。
「うっしゃ~! 一通り検証終了!! 後はスキルレベル上げすっからね~。ネムやん! ガンガン行くで~!!」
そんなミミの掛け声と共に、戦線を離れ、ゾンビのただ中へと突入していく。目的は、他の冒険者に迷惑を掛けないように、そしてより効率的に『浄化』スキル等を使用出来るようにだ。
俺達が陣取ったのは、ぼた山な盛り土が切れる500㍍程進んだ地点。地図を見ると、その地点も元々は谷間だったようで、そこが埋められて平らになったようだ。あのすり鉢の上にあった山と、すり鉢の体積分を使って埋め立てた結果と考えれば、相当な労力が掛かっていることになる。スキルがあるからこそ出来るのだろう。
ネムの『浄化』スキルのレベル上げは順調に進んでいく。ティアの『般若心経バリアー』外周近くで『低級MP回復薬』を頭から被りつつ延々と続けるだけだ。
俺達は、その一帯を回るように移動しながら、ネムの『浄化』を優先させつつ、ティアの『スピーカー』による『般若心経』、ミミの『火炎旋風』によって『ゾンビ』を殲滅して行く。シェーラは『爆砕断』のスキルレベル上げだ。殲滅効果は、取りあえず気にしない。
俺は『気配察知』で索敵しながら、ネムに『低級MP回復薬』を掛ける係。
今日一日は、ネムのスキルレベル上げのため、『不浄の泉』は探しに行かない。この辺りはカルトさんからの指示だ。大丈夫だとは思ってはいても、念のために、と言う事らしい。一日でも早く泉を消滅させた方が良いのだが、それでも尚、と言う事だ。まあ、俺達のパーティーが全滅すれば、二人の『浄化能力者』が消える訳で、それは絶対に避けたいのだろう。未熟なネムのせいで、ティアまで失うことが無いようにって事だな。
戦力の維持を考えるなら、ネムと俺達は分けるべきだろう。だが、ネムの成長を考えれば、俺達と一緒の方が良い。なんとも、悩ましい話だ。
出来れば、今日中に『巨大ゾンビ』まで経験させておきたい。『不浄の泉』を消滅させる際、高確率で『巨大アンデッド』が湧き出してくるので、少しでも慣れておくためにだ。
取りあえず、俺達はカルトさん程は心配してはいない。ネムに関しては、この二ヶ月間に徹底的に鍛えてきたからだ。まあ、問題があるとすれば、ネムの食欲が暴走した時だろう。だが、『活性炭式防毒マスク』を付けているので、蜂蜜などの臭いを嗅ぎつけることは無いはず。……無いよな?。
その日、俺達は問題無く討伐というか、スキルレベル上げを終えることが出来た。残念なことに『巨大ゾンビ』とは遭遇していない。
その代わり、ネムのスキルは、だいぶ上がった。低レベル時は上がりやすい事と、『低級MP回復薬』を湯水のように使った結果ではあるのだが、『浄化』はスキルレベル3まで上がった。この時点の『浄化範囲』は直径9㍍。スキルレベル2の時点で6㍍だった事からすると、3㍍ずつ増えるのかもしれない。射程は+4㍍ずつ伸びており、現在は中心までの距離が13メートルとなっている。
直径9㍍は、ティアの掃討範囲と比べれば圧倒的に狭いが、スキルレベルの差も考えれば、今のところは仕方がないだろう。
「うんみゅ~、な~んか、浄化スキルの上がり方、早くね?」
帰り道にミミがそう言って来た。
「早いよね。私の歌唱なんてまだ9だよ~」
「うんにゃ~、ティアの歌唱は、超~例外やから。私が言うんは、一般のスキルと比べて、つ~事。ポーションガンガン使ったっちゅ~ても、聖域や聖鎧より早くね?」
……確かに、『聖域』と『聖鎧』も同様に『低級MP回復薬』を使いまくっている条件は同じだ。無論、単位時間当たりの使用回数は今日の方が多いのは間違い無い。だが、それでも、総使用回数で考えれば……間違い無く早い。
「浄化師はアンデッドが居なければスキルレベルが上げられん。それ故に、スキルレベルが上がりやすくなっているのでは無いか?」
「だ~ね~」
シェーラの考えが合っていそうだ。
「後は、その成長ボーナスが、いつまで続くか、やね~。ロウのスティールも段々遅く成ってきちょるし」
『成長ボーナス』ってMMORPGかよ。でも、ま、この世界のゲーム的要素を考えれば、その言い方が正しいのかもしれない。非転生者設定の俺は、その事に付いては何も言えないが。
俺達がネムのスキルについて、検証している間、当の本人はのんきなものだった。
「夕食の炊き出しが楽しみなのです。豚汁だと嬉しいのです」
そんな事を言いながら、元気いっぱい歩いている。周囲の疲れ果てた冒険者達からすれば、確実に浮いていた。ただ、周囲の冒険者達は、俺達のパーティーの者だから、と言う事で納得しているようだ。それはそれで、ど~なんだ、と思わなくは無いが、日頃のミミの事が有るので何も言えない。
俺達がサラサの町に着いたのは、日が暮れてから20分程経った頃だった。
そして、炊き出しは、ネムの予想は外れ、豚汁ではなく、野菜たっぷりのポトフだった。
「うまうまなのです!」
ネムは、全くがっかりしておらず、嬉しそうに頬張っていた。
その日、ネムの兜を改造して貰うつもりだったのだが、他の冒険者が武具を大量に修理に出しているのを見て諦める事にした。
多分、俺達が申し出れば、譲ってくれるとは思うが、直接命に関わる物を優先すべきだろう。ネムの『活性炭式防毒マスク』は、そこまでの必要性は無いからな。
今日の様子を見ていても、多少ずれても問題は無かった。大丈夫だろう。余裕がある時に頼めば良い。
その晩俺達は、他の冒険者達と違って宿屋で眠らせて貰った。なんだか、特別扱いされているようで心苦しいが、その分、『不浄の泉』と『ゾンビ』を消滅させる事で返させて貰おう。そう、雑魚寝する冒険者達に誓うのだった。
翌日、俺達は他の冒険者達が動き出す前から街を出て、鉱山の方へと向かった。カルトさんは、早朝にも係わらず既に起きており、見送ってくれる。
出かけ際に、カルトさんより、今回も騎士団は来ない事が伝えられた。ま、誰も期待していなかったので、全く問題無い。
「騎士団つ~より、騎士団が担ぐ浄化師が居らんちゅ~か、嫌がっとるんやない?」
「あり得るな。現状では騎士見習い上がりが多いとは言え、全く出て来ないのはおかしい」
「クソロムン無しじゃ出て来れないのか? まだ、そんな事を言っていられる状況なのかよ」
「うんみゅ~、そう、言われっと、確かにそ~だ~ね」
「……以前の騎士団であれば、名誉を維持するために出張ると思うのだが……近衛騎士団は分からんからな」
「ちょっち、シェーラ。名誉を回復っしょ?」
「いや、騎士団には、名誉が地に落ちたと言う自覚は無いだろう」
「マジか!」
「残念ながらな」
「まじか……」
「えっと、でも、なんで結局騎士団は来ないの?」
「「「…………」」」
ミミ、シェーラ、そして俺もティアの質問には答える事はでき無かった。ネムは初めから会話に参加しておらず、干し芋をあむあむと食べている。マイペースだ。
まあ、ネムは、この国の騎士団について、全く知識が無いので、会話に参加のしようも無いのだが……。
騎士団の事を、あ~でもない、こ~でもないと話し合っているうちに、『ゾンビ』の居るエリアへと到着した。
昨日露天掘りの穴の先まで戦線を押し上げていたのだが、すり鉢型の露天掘り鉱窟には、満タンの『ゾンビ』が溜まっており、外周を回って、こちら側にもちらほらと『ゾンビ』がいる。
「ま、こんなもんしょ。とっとと、不浄の泉ブチ消して、ゾンビが増えんようにすべ」
俺達は『不浄の泉』が有ると思われる方向に向かって進んで行く。
「ネムやん、本番やから、油断したらいかんで」
「はいです!」
「ロウ! 誘導よろ!」
「了解、ティア、調子が悪くなったら言えよ。今はネムの聖域があるから、ゾンビの中でも休めるからな」
「ネムの存在が、ティアの負担を和らげるのだな」
「ネム、役立ってるですか?」
「めっさ、役だっちょる」
「良かったです!」
俺達の陣形や行動は、昨日と大差ない。違う点は一定範囲内に留まらず、移動を続けるという点だ。ネムの成長をある程度優先しつつも、目的は 「不浄の泉」発見だ。
昨日も思ったのだが、対アンデッド能力を持つ者が二人居るのはとても便利だ。ティアの休憩もだが、トイレ休憩なども今までのようにティアが唄いながら用を足す何てことをしなくても良い。
『聖域』のスキルレベルが上がれば、維持時間が分単位ではなく、時間単位になるかもしれない。そうなれば、野外での野宿なども可能になる。まあ、この『不浄の泉』異常発生が終了した後も、ネムが俺達のパーティーにいた場合のことなのだが。
カルトさんが設定した、予測ポイントに到着したのだが、俺達を出迎えたのは 『巨大ゾンビ』が三匹だった。
岩石だらけの谷間は、その三匹で一杯になっている。
「ネムやん、聖域五連! ロウ! 隠密でGO! シェーラ『スティール』終わったら、足切断よろ! ヤバくなったら逃げっからね!!」
ミミが叫んでいる間に、俺は『隠密』を実行してから、ネムが展開した『聖域』を出て三匹の『巨大ゾンビ』を目指す。
ティア達を目掛けて動き出した先頭の『巨大ゾンビ』の持ち上がった右足の前に『バリアーシールド』を出現させた俺は、そのままその『巨大ゾンビ』に向かって走って行く。
相対座標で出現した『バリアーシールド』は、俺の移動に伴ってそのまま移動する。結果、浮いた片方の足を高速で押された『巨大ゾンビ』は、軸足を中心に回転しながらバランスを崩し倒れた。
その倒れた『巨大ゾンビ』にタッチして『スティール』。
次は、同様にティア達に向かう 『巨大ゾンビ』の一体の頭頂部前方に『バリアーシールド』を展開。『バリアーシールド』に頭部が当たった『巨大ゾンビ』は、そのままの勢いで後ろ向きに倒れる。
今倒れた『巨大ゾンビ』を踏んで移動する最後の『巨体ゾンビ』の足にタッチして『スティール』。そして、そのまま『双魔掌』の『フリージング』を最大パワーで連続三回。急速に凍り付いた足は、踏みつけていたもう一体とくっ付き、バランスを崩して倒れた。
俺は、二番目に倒れた『巨大ゾンビ』に触れて『スティール』を実行し、『スキルの実』を回収すると、『低級MP回復薬』の空ビンをその場に残し、速攻でティア達の元へと帰った。
「今ので八重なのです。まだ続けるですか?」
俺と同じように『低級MP回復薬』でびしょ濡れになったネムが、ミミに指示を仰いでいる。
「あと二つ! んで、その後は浄化! チビゾンビ無視で、デカゾンビに!!」
ミミは、そう言いながら三匹まとめて、青白い炎の超高温『火炎旋風』を浴びせた。
シェーラは、カンストして射程距離が最大になっている『地裂斬』を叩き込んでいる。そんな中、先頭に立った 『巨大ゾンビ』が十重に展開された『聖域』へと接触した。
「……1枚五秒!! ネムやん! 聖域三回で浄化一回のペースで、よろ!!」
「はいです!」
『活性炭式防毒マスク』を付けているため、口からポーションを飲む事が出来ないネムは、既に全身がびしょ濡れだ。ポーション類は、身体に掛けると、薬効成分のみが身体に吸収され、溶剤である水はそのまま残る。だから、複数を被ると、あっと言う間にびしょ濡れになる訳だ。
「おーら、おらおらおらおらおらおらぁ──!! 無駄無駄無駄無駄無駄ぁ──!!」
ミミのやつが、変な事を言いながら、『デュアル』を使用して、周囲の空気を操作し、燃え上がっている『火炎旋風』の温度を更に上げて行く。
ミミのやつが、アホな事を口にするという事は、それだけ余裕がある表れでもある。
『低級MP回復薬』を大量消費するごり押し戦闘だが、これが俺達の戦法なので問題無い。安全に勝てる方法を取って何が悪いって事だ。
実際、三匹の『巨大ゾンビ』を消滅させるのに8分と掛かっていない。しかも、今回はある程度小さくなった段階での、『爆砕断』を使わないでこの時間だ。どうやら『浄化』がかなり効いていたようだ。
「うっしゃ~! ネムやんが育てば、アンデッド戦は楽勝じゃん!!」
楽勝は言い過ぎにしても、かなり楽になるのは間違い無い。
「隣国の浄化師達にも、スキルの実が渡れば、隣国もだいぶ楽になるだろう。問題は、浄化師の元に届くかという事だが……」
「だやね~。どこの国にもバカは居るかんね~。私らも注意せんと、拉致られる可能性もあっからね~」
のんびりとした口調で、怖い事を言うミミ。だが、確かにあり得ない事ではない。ティアとネムには気を付けておかないとな。……ひょっとして、一番狙われる可能性が高いのは、『スキルの実』を入手可能な俺か? それならそれで良い。ティア達が狙われるより、俺が狙われる方が対処しやすい。念のため、いろいろと仕込んでおくかな。
三匹の『巨大ゾンビ』を消滅させたあと、その地点を中心に渦巻き状に探索していくと、二時間程で『不浄の泉』を発見出来た。
その後は簡単だ。ネムの『浄化』が有るので、5分と掛からず消滅にまで持って行けた。短時間だったためか、途中で『巨大ゾンビ』が湧き出す事もなかった。爺さんを背負った時以来だな。
目的を達した俺達は、戦線方向へと向かって移動を開始する。




