第18話 騎士
村へ帰った俺達だったが、宿は騎士達に占拠されており、泊まれなくなっていた。この騎士団だが、夕方に村へと到着したため、本日は全く戦っていない。
「紅と蒼か……、また、何でだ?」
側にいた冒険者が呟いた。
俺は、騎士団については全く知識がないので、シェーラに聞いたのだが、この国の騎士団は、『紅竜』『蒼竜』『白竜』『黒竜』の四つの騎士団に分かれるらしい。
その内『白竜』は、親衛隊であり基本王都を離れる事はないとの事。今回この村に派遣された『紅竜』『蒼竜』の両騎士団は貴族子弟だけで結成された騎士団だという。
ちなみに、唯一一般人が所属可能な騎士団が『黒竜』であり、シェーラの父親が所属していたのは、この黒竜騎士団だったそうだ。
先ほどの冒険者の呟きは、こんな汚れ仕事になぜ黒竜騎士団ではなく紅・蒼の騎士団が来るんだよ、と言う事らしい。
取りあえず、俺達は騎士団とは係わるつもりはない。ろくな事にならないのは目に見えているからな。
と言う事で、問題は、今晩の寝床だ。
四人で村をウロウロしていると、村の中心部分の広場や道に大量のテントが設営さてられていた。どうやら、これが俺達冒険者用の寝床らしい。
夕食の仕出しも始まっていた。取りあえず、食えるモノは食う。味は二の次だ。いや、不味くはなかったよ。美味くなかっただけの事。
その後、男女別々のテントに分かれ、それぞれそこで眠った。眠れるだけ幸せだと思う。イビキが…………。
翌朝の戦闘も早朝から始まった。今日は、一応騎士団も参加している。最右翼だ。
俺達は、村の冒険者達と一緒に最左翼に陣取っているため、貴族とは係わる事はない。
騎士団側では冒険者が使った『火炎旋風』を見て、一騒動あったようだが、俺達には関係ない。関係ないったら関係ない。
俺達の最左翼は、『ゾンビ』達に回り込まれないように、包み込むような形で戦って行く。一匹も通さないように、一匹も逃がさないように、だ。
ただ、このポジションは、それが可能なだけに、『ゾンビ』の密度はかなり薄い。『ゾンビ』の群れの端っこだから、そんなもんだ。
その関係上、ミミの『火炎旋風』の効率がかなり悪い。範囲内に十分な数がいない以上、こればかりはどうしようもない。
俺は、最左翼でも一番左に位置し、ミミの魔法やシェーラの『地裂斬』の範囲外にいる、はぐれ『ゾンビ』を『スティール』しつつ殺して行く。
俺の『スティール』よるMPの消費量は5ポイント。『ゾンビ』を『闇の双剣』で普通に斬り殺した時に吸収できるMPが5~8ポイント。普通に、『スティール』&『MP吸収』を行っていれば、実質MPを消費せずにいられる事になる。永久機関だな。……スタミナが持たないけどね。
一応、『闇の双剣』には僅かながらでも『スタミナ』も吸収する機能もあるが、対象が『スタミナ』の無い『ゾンビ』なので、吸収できない。
『ゾンビ』は、肉体的には『スタミナ』値を持たないくせに、ある意味無限のスタミナを持つような存在だ。理不尽。
この日の戦いは、毒にやられる者が複数出はしたものの、死者は無く、無事に終える事が出来た。
戦線も、1キロ以上押し上げており、場合によっては明日ぐらいには『不浄の泉』が見えるのでは、などと言う者がいるくらいだ。
ただ、まだ『浄化師』が来ていない。肝心な『浄化師』が来ないのでは、『不浄の泉』を発見しても、どうしようも無いんだよ。『浄化』以外のスキルで、『不浄の泉』を消滅させる方法は見つかっていないらしいから。
その日の夕方、俺達は四人で炊き出しの飯を食っていた。その時、ヤツらが来た。
先頭にいたのは、この村唯一の鍛冶師。その鍛冶師がへこへこしながら案内してきたのは騎士と思われる者三名。
……なんとなく、状況は見えたよ。
「チッ! クソ鍛冶師!!」
ミミが舌打ちしつつ、罵っている。
こう言う時の悪い予想ってやつは、得てして外れないものだ。
「こいつらか?」
「はい、そうです」
騎士の一人が俺達を指さして、それに鍛冶師が応えている。……やっぱりな。
「個人情報保護法なんて無いもんね……」
ティアもため息交じりだ。個人情報保護法か、前世でも昔からあるイメージだけど、出来たのは平成になってから、それ以前は警察や市役所の職員が、ヤミ金達に情報を普通にばらまいていた。前世の日本ですらそれらな、この世界のこの国に何を期待するのか、って話。
「クソ鍛冶師め! 死なす!! 絶対あとで死なす!!」
ミミの決意に俺も賛同しよう。手伝うよ。
と、まあ、それはともかく、問題の騎士達が俺達の前までやって来やがった。
「貴様らが持っているという短剣を寄こせ。俺が使ってやろう」
……あ~はいはい、やっぱりね~。で、次は…。
「貴様らのような者が持つよりも、騎士たる私が持つ方が相応しい。そうだろう!」
「ああ、そのとおりだ」
「まったくだ」
「仰るとおりで、ございます」
……ほ~ら、やっぱりだ。
「ボキャブラリー無いんかい! あと、鍛冶師! 絶対死なす!!」
ミミのヤツが、器用にも、小声で罵っている。
……さて、どうする。この場で、例の『王令』を楯に取れば、一応この場は収まるだろう。だが、それはあくまでこの場は、と言う事に過ぎない。後々面倒になるのが目に見えている。
どうする? そう考えていると、騎士は勝手に何やら語り出している。
「そもそも、優秀な剣というのは、護国の要たる我々騎士が持ってこそ……」
何やら、自分の正当性を周りにアピールし始めた。他の二人も相づちを打ち、力説だ。
だが、この周りにいるのは、彼ら以外は全員冒険者だ。誰一人として感じ入っている者などいるはずもない。そもそも、傾聴している者など誰一人いない。俺達も含めてな。
「空気嫁!!」
ミミの言いようはともかく、現状一番良いのは『闇の双剣』を渡してしまう事だ。
現在、俺達の戦闘の要に近い形になっている剣ではあるが、所詮剣に過ぎない。物のために、四人のうちの誰かの命が奪われたり、致命的な被害を受けるようでは意味が無い。
『闇の双剣』自体は惜しい気はするが、無い状態での戦闘は構築できるはず。仲間の身の安全には変えられないからな。
そんな事を考えていたのだが、ヤツが動き出していた。悪魔である。
「いや~、全く、そのとおりでゲス。騎士様の仰るとおり!」
……ゲス?
「そうであろう、そうであろう」
ミミのヤツが揉み手で言うと、騎士はニヤつきながら頷いている。そして、ミミのやつが畳み掛ける。
「仰るとおりでゲス。この剣は、騎士様に真にピッタリの超高性能な剣でゲス。この剣は、騎士様のために生まれたと言って良い品でゲス!」
「当然だな!」
「はい!そのとおりでゲス! 騎士様と表裏一体! この剣を持てば、騎士様の評判は弥増すばかりでゲショウ!」
「そうであろう! そうであろう!」
「そのような、騎士様と表裏一体なこの剣! 100万ダリでお譲りいたします!!」
ミミが、そう言った瞬間、周囲から音が消えた。そして、唖然と口を開けている騎士達に向かって、ミミは、また更なる駄目を押す。
「騎士様と表裏一体な剣の価格としては、あまりにも、あまりにも! 低い金額でゲスが、そこは、真の所有者たる騎士様に対する私どもの礼であって、決して、決して! 騎士様の価値をおとしめるものではないでゲス!!」
ミミのヤツが、そう言い切った時、周囲にいた冒険者の一人が声を上げる。
「確かに、騎士様の剣に、100万ダリは安すぎるな! 1000万ダリでも失礼というものだ!!」
その冒険者の言葉に、意を理解した他の冒険者達も声を上げ始める。
「やっぱり、1億ダリはつけね~と」
「いやいや、それでも騎士様には失礼だろう」
「そうだな、なんと言っても、騎士様と表裏一体、つまり、騎士様と同じ価値を持つ剣だという事だからな!」
「ああ、騎士様に100万ダリ程度の値を付けるのは、不敬ってヤツだろう」
そんな声が渦巻く中、当の騎士達はオロオロとし始めている。
周囲の空気が、完全に『買う前提』となっており、その価格が最低100万ダリとなっているからだ。騎士の価値を逆手に取られている以上、「なんだその値段は!!」などと言う事も出来ない。
その時点になって騎士達はやっと、自分たちの状況、つまりこの場にいるのが自分たち以外は全て冒険者であると言う事に気付いたようだ。やっと、空気に気付いたって事だな。完全アウェイ。
結局、騎士達は、今なお10億ダリだの100億ダリだのと言い続ける冒険者達をにらみつけながら、その場から去って行った。
そして、沸き上がる歓声。ミミを中心として、ハイタッチがかわされている。
「あ~はっはっはっはぁ~! 悪は滅びるのだよ! あの鍛冶師、死なす!!」
……いや、滅びてはいないけどな。まあ、鍛冶師に関しては同意だ。
と、まあ、そんなミミ劇場(?)によって、この場は収まった。ただ、これが、『王令』を出した上での結果と比べて、良かったのか悪かったのか、と考えればどうなんだろうか?
恨まれる対象が、俺達に限定されなかったようなので、その点は良いのか? ……『王令』を使った場合を最悪とすれば、それよりはマシではあるな。うん。と言うか、今更だ。
しかし、このミミ劇場は、いろいろと穴やら粗のある論法(?)なのだが、あの騎士達がそれ程利口では無かったので、何とか通ったんだろう。あと、周囲の応援もあって、な。
一応、念のためにカルトさんに伝えておくか。あとは、ギルドに丸投げだ。ギルドなら、貴族に対してもある程度の抑制力はあるはず。まあ、あくまでも『表』に対してだけではあるが……。
そして、翌日も前日同様に討伐戦が行われた。
ミミ無双である。
俺は、『解毒薬』を確保するために奔走しただけ。一応、ミミの『火炎旋風』の場が冷えたあとに『魔石』拾いはしたけどな。
そして、その日の夕方、戦線後方に建てられた高さ25㍍程の移動式物見櫓から、『不浄の泉』発見の報が発せられた。その距離1.5キロ程。
『不浄の泉』発見の報から、更に一時間ほど戦線を押し上げた状態で、その日の討伐戦は終了となった。
俺達が村へと帰ってくると、先に帰っていた冒険者達が騒いでいた。
何事かと確認すると、どうやら『浄化師』の爺さんが到着したようだ。
「お~、やっと来たんかい。遅いっちゅう~の。……本当に爺じゃんか。ポックリいかなきゃ良いけど」
だ~か~ら! じじい言うな、じじい!。
と、それはともかく、確かに、『浄化師』の爺さんは、聞いていたとおりの年寄りだった。
輿って言うのか?神輿の建物みたいなヤツが無いの、アレに乗っている。年齢的に、足腰が弱っているからなのかもしれない。この世界で70歳代は思いっきり高齢だからな。
「おじいちゃん、大丈夫かな?」
「多分、明日も、あの輿に乗った状態で戦場に入るのだろうが……」
ティアとシェーラも、ニュアンスは違うものの心配げだ。
俺としては、あの歳で『浄化』スキルのレベルを10以上に保っているという事に尊意を覚える。
この国での『不浄の泉』の発生率がどれ程かは解らないが、多分この人は、この年までずっと『浄化』を続けてきたのだろう。
70歳を過ぎれば勇退したいだろうに、それも出来なかった訳だ。そのレアJOB故に。
「うみゅ~、あの爺を守る役は、騎士団がやるんよね。微妙~に不安なんだけんど~」
昨日のヤツらを思い出すと、俺としても同意だな。ティアも同じ気持ちらしい。
「大丈夫かな? 大丈夫だよね……」
シェーラは、騎士団志望と言う事もあり、かなり複雑な心境のようだ。それでも、その口元は引き閉められ、眉間には数本のシワが入っているのを見る辺り、言葉にしなくても解る。
『浄化師』の爺さんが来た翌日、俺達はギルドからの指示で戦列の位置を移る事になった。『浄化師』の側へ、だ。
それは、今日で『不浄の泉』を消滅させるため、最大戦力たる『火炎旋風』使いを集め、『不浄の泉』までの道を一気に切り開こう、と言う作戦のためだった。
まあ、存在する限り延々と『ゾンビ』を生み出し続ける『不浄の泉』を一時間でも早く消滅させるに越した事が無いのは間違いない。一日一万匹位として、一時間に400匹以上が湧き出る事になる。
作戦自体の考えは間違っていないと思う。
と言う訳で、『火炎旋風』を使える魔法使いだけで無く、その魔法使いをサポートするためにパーティーメンバーも全てその作戦に参加させられる事になった。つまり、俺達もだ。
一応、非常に残念な事に、この作戦は騎士団との合同作戦となる。前世の場合であれば、騎士団が命令権を持ち、俺達も指揮されるのだろうが、この国には、例の『王令』がある。だから、それは出来ない。特に、こう言う公の場だと。
と言う事で、騎士団と冒険者の仲立ちをするのがギルドだ。騎士団が作戦をギルドに伝え、それをギルドが冒険者に伝えるという流れ。
通常、大規模な集団戦闘に置いて、こんな無駄は最悪の行為だ。だが、騎士団の性格からすると、俺達が使い潰されないようにする意味では、有り難い事でもある。
まあ、人間対人間の戦争のように、随時戦法を変える必要があるような、即時性のある戦いでは無いからこそ出来る事ではあるんだけどな。
俺達冒険者は、集められた者の中から、臨時のリーダーを決めた。この作戦中は、このリーダーに従うことになる。そのリーダーを中心にして、各パーティーのリーダーが集まって話し合いを行った。俺達のパーティーからはミミが参加した。……いや、いろいろ言いたい事はあるが、じゃあ誰が?と考えると浮かばないのも事実だったりする。残念。
リーダーによる話し合いが終わった所で、この作戦が実行に移された。
前面に『火炎旋風』使い8名が並び、ローテーションで前面の『ゾンビ』の群れを消し去る。そして、魔法によって発生した熱気が、侵入可能となった時点で進行し、その先の『ゾンビ』が射程範囲に入った段階で次の魔法使いによる『火炎旋風』だ。
この間、両サイドでは、別の『火炎旋風』使い達が四人ずつ、前方と同じようにローテーションで横面の『ゾンビ』を『火炎旋風』で消滅させていく。
そして、後方にも、二名の『火炎旋風』使いが配置されており、一定以上『ゾンビ』の群れ内に入って、後方に回り込まれる状況になった際に、『火炎旋風』で対処する事になっている。
『浄化師』の爺さんは、その集団の中央に、四人によって担がれた輿に乗って移動している。そして、騎士団がその周りだ。
つまり、この陣形を説明すると、中央に『浄化師』の爺さん、それを囲むようにして大量の騎士団(紅竜・蒼竜の二騎士団)、一番外側に18組の冒険者、となる。
俺達のパーティーは、前面に配置されている。前面は8人の『火炎旋風』使いがいるので、ミミの負担も軽い。同時に『火炎旋風』を使用できるのは、範囲の関係上二人までだから、実質四人のローテーションという事になる。
ミミ以外の俺達は、もしもの時のためのサポート要員だ。
ティアに関しては、『歌唱』によるサポートを常にやっている。初めてティアの『魔女っ子ソング』による付与を受けた、他パーティーの魔法使いは、かなり驚いていた。そのせいか、複数のパーティーで引き抜きに関する内緒話がされていたりする……。ガッデム!。
この作戦においては、完全な接近戦闘能力しかない者は、当座は全くする事が無い。当然、俺も『スティール』など出来ない訳だ。だが、だからと言って、『魔石』拾いなど出来る訳もない。状況を考えろ!ミミ!。
一見、盤石にも思える陣形ではあるが、実は、そこまで盤石では無かった事が発覚する。
一番の問題は『火炎旋風』使いのMP量だ。前面などは8名、実質4名ローテーションで行ってはいるものの、実際にやり始めてみると、思った以上に他の魔法使いのMP消耗が多いのだった。そう、ミミ以外の、だ。
別段、ミミのヤツが転生チートと言う事ではない。単に、SPを『MP』に振った量と、レベルの問題だ。つまり、この場にいる『火炎旋風』使いは、ギルドランク及び実戦経験的にはミミを上回る者も多いが、『MP』の値自体はミミより低い者が多かったのだ。
その理由は、単純にミミよりレベルが低い者が多い事、さらには、レベルアップ時のSPを『MP』以外に振り込んだ者が多かったため、だ。故に、MPの自然回復速度がミミより遅い者が多かったのだった。だから、MPが足らない。
「予定外!! 楽勝かと思っちょったのに~!!」
俺達は、『黒死鳥』と言うイレギュラーを殺す機会に恵まれ、予定外のレベルアップが出来たが、他の4級冒険者たちで、レベル16を越える者はそれ程多くないようだ。どうやら、これは、護衛依頼と言う、ある程度良い収入がある割に経験値を得る機会に恵まれない依頼の存在のためらしい。
本当に予定外だ。何事も、自分たちを基準に考えちゃいけないって事だな。
こうなってくると、この作戦自体が問題ありって事になる。現状では、一応、問題なく回ってはいる。だが、先ほど言ったように、MP的にはそれ程余裕が無い事が発覚した。つまり、何かを切っ掛けに、一度破綻すれば後は総崩れとなる可能性が有るって事だ。
……昨日の時点で『不浄の泉』までの距離は1.1キロ程だったんだが、今朝の時点では、湧き出しの関係で900㍍近く伸びていた。つまり2キロ程だという事だ。
当然、距離が伸びれば伸びる程、問題の発生する可能性は高くなる。更に、問題が発生した時、その場から逃げ延びられる確率は逆に低くなる訳だ。不安が募る……。
「だ~いじょぶ、じょぶ、ちょろ~っと行って、プチ~ッと泉潰せば終わりじゃん! 楽勝! 楽勝!!」
ミミのヤツは、周囲の者の気持ちを知ってか、そんな事を言ってくる。一応、鼓舞しているつもりらしい。軽すぎるけどな。
まあ、既に全周囲を『ゾンビ』に囲まれている状態だ、何とかする以外無い。あと、1.4キロ程だ。
俺達冒険者は、配備された『MP回復薬』及び『低級MP回復薬』をどの段階で使うべきか、など必死で検討しているのだが、その焦りなど全く気にしていない連中がいた。騎士団どもである。
騎士団達からは、「さっさと進め!」「のろのろ歩くな! 日が暮れる!」などの声が掛けられている。状況を全く理解していない。いや、理解しようとすらしていない。
「行きたきゃ、勝手に行けばいいんちゃう。熱気が残るまっただ中に」
貴族からの声を、他の冒険者達は完全に無視しているが、ミミが無視できる訳も無く、ブツブツと文句を言っていた。
しかし、何もせず、ただ歩いているだけの騎士に文句を言われるのは、やり腹が立つ。シェーラには悪いが、やはり、俺は騎士は嫌いだ。シェーラも、騎士にはなって欲しくないな。
シェーラは、一応騎士達のフォローらしき事は言っていた。
「騎士達は、もし何かがあった時には、浄化師殿を守って、このゾンビの中を突破するために、力を、MPを温存している……と言う事になっている」
『と言う事になっている』と言う辺りに、シェーラの心情がくみ取れる。
シェーラの言う騎士の役割自体は、正しい事だと思う。他に換えの無い『浄化師』を守る事は国レベルでの義務だろう。そして、その『浄化師』を守る役割に騎士が付いている事に異論は無い。そして、現在我々冒険者がやっている事にも、だ。
だが、彼らの言動はまた別の話。彼らの言動は、俺達冒険者に指示を出しているとも取れる。実際は、指示どころか、妨害なので、二重の意味で悪質なのだが。
「クソ騎士どもがー! ティア、あの騎士ども目掛けて、山田君の不運ソング歌ったれ、歌ったれ」
ティアは現在、他のパーティーの魔法使いのために『魔女っ子ソング』を唄っているので返事が出来ない。だから、代わりに俺が言ってやろう。
「アホか! そんな事をして、周りに影響が出たらどうするんだよ! ただでさえ余裕が無いってのに! あとでだ! ヤルのはあとでだ!!」
「うみゅ~、しょうがないか~、んじゃ、あとでのお楽しみ、って事で♥」
よし、それでいい。……? なぜか、ティアが困った顔をしているんだが、なぜだ?
その後、何度かローテーションのタイミングに問題があって、危ないシーンもあったが、何とか対処できていた。
そして、作戦開始から、長いようで無茶長い一時間半が経過し、目標の『不浄の泉』へと到着した。
「ブラックホールかい!!」
ミミの言うとおり、その『不浄の泉』と呼ばれる物は真っ黒な地面のシミだった。直径50㍍程の真円で、地面に広がっている。
その黒い色は、全く光を反射せず、逆に周囲の光を吸収しているかのごとく、つやの無い黒で、そんな黒い面から、今も『ゾンビ』が湧き出してきたいた。
『ゾンビ』は、頭部から浮かび上がってくるようにして、黒い泉から湧き出してくる。次から次へと。
多分、この場で『不浄の泉』を見た事があるのは、『浄化師』の爺さんだけだったのだろう。冒険者だけで無く、騎士団すらしばし見入ってしまっていた。
そんな中、第一声を上げたのは、やはりミミ。
「先生! お願いします!!」
どこまでも、どんなときでもネタに走るミミだった。
そして、『浄化師』の爺さんも、「ど~れぇ~」などと言って出張ってくる訳も無い。
「はい、そうですね。さっさと潰しましょう」
そう言って、若干固まったままの輿の運搬人達に指示して、『不浄の泉』前面に位置取った。
ミミは、残念そうな顔でそんな様子を見送っている。……そんな哀れなミミなど、ど~でもいい。
『浄化師』の爺さんの行動で、やっと状況を思いだした面々は、各自が予定した配置につく。
ここに来るまで前面を担っていた者達の半数が他の面へと分散し、残った前面組は『不浄の泉』から湧き出す『ゾンビ』の対応に当たる。
移動中と違い、一度『火炎旋風』で焼き払ってしまえば、しばらくの間は余裕が出来る。そのため、常に湧き出してくる前面以外は問題は無い。
前面に関しては、焼き払ったあと、個々に湧き出してくる『ゾンビ』を他の冒険者が中距離から遠距離単体攻撃スキルで始末していった。
だが、前面の攻撃に関しては、直ぐにその必要も無い事が解る。それは、『浄化師』の爺さんが『浄化』スキルと思われるスキルを実行した途端、『不浄の泉』からの湧き出しが止まったからだ。
「やれやれ、これは、大分衰えましたね」
『浄化師』の爺さんが溜息交じりに呟く。多分、スキルレベル及び、JOBレベルの事を言っているのだと思う。
それでも、『浄化』開始から5分程で『不浄の泉』が激しく明滅し始め、それから1分後、青い光の粒子を空中に散らして消滅した。
それまで『不浄の泉』が存在した所には、元々有ったと思われる草原が出現しており、その草が若干しなびている以外は、その痕跡など皆無だった。
その周囲が『火炎旋風』等で焼き尽くされている関係上、その直径50㍍程の草原だけがその場にぽつりと残っていると言う、不思議な状態になっていた。
『不浄の泉』消滅と同時に、周囲の者達から一斉に歓声が上がる。この時ばかりは、騎士団も冒険者も無かった。
「野郎ども! これで終わりじゃねーぞ! 掃討戦が残ってる! それに、先ずは爺さんを安全な所に連れて行くぞ! 気合い入れ直せ!オラー!!」
歓声を割って、ここの冒険者リーダーを務めているカサイヤさんが叫んだ。
実際、俺達は未だに万単位の『ゾンビ』に囲まれた状態だ。ただ、新たな『ゾンビ』が湧き出さなくなっただけにすぎない。気を抜ける状況ではない。
カサイヤさんの号令と共に、俺達はまた隊列を組み、今度は来た方向に向かって移動を開始する。
気を緩めてはいけないが、精神的に楽になったのは間違いない。その精神面は、そのまま戦闘にも現れ、復路は往路のような失敗をする事も無く進んで行く。
『浄化師』の爺さんも、
「私も、もう少しレベルを維持しなくてはいけませんから、獲物をいただきますよ」
そう言って、前面の戦闘に参加していた。
爺さんの『浄化』は、スキルレベル低下のため、有効範囲は20㍍程なのだが、その効果は瞬時だ。青い光に包まれた瞬間、範囲内の『ゾンビ』は消滅して、『魔石』だけが地面へと落下する。
そして、爺さんは、その『浄化』スキルによって顕現した青い光のサークルを、左右に振って更なる範囲の『ゾンビ』を消滅させていった。
「爺すげぇー」
ミミが思わず呟いていた。感嘆符は無い。じじい言うな。
結局、そんな爺さんの活躍も有って、帰りは一時間と掛からず戦線まで帰ってくる事が出来た。やはり、熱を発生しない『浄化』なので、その範囲には直ぐに移動できる点が大きかったと思う。
「うん、レベルが上がりましたね。スキルレベルも、もう少しで上がりそうです。もう少し頑張ってみましょうか」
帰還した爺さんは、そんな事を言って、戦線側と、騎士団側を伺っていた。
俺達の帰還と同時に、戦線の士気は一気に上がった。そして、殲滅速度も上がって行く。
俺達も、前日と同じ位置に戻ると、掃討作業に入る。
それは、当然油断すれば死を招く戦いなのだが、状況だけで言えば完全に作業と言えるものになっていた。
十分な戦力とバックアップ。そして、これ以上『ゾンビ』が増える事が無いと言う安心感、だから安心して戦え、余裕が生まれ、結果、作業という言葉で言い表せるような戦いへとなっていった。
「ロウ! あとは、徹底的に『解毒薬』を集めんのよー!!」
「ミミちゃん、『解毒薬』は『低級解毒薬』みたいに需要が無いから、あんまり有っても買ってもらえないと思うよ」
「大丈夫、大丈夫! 多少安くっても、ギルドに売り払っちゃる! 腐る訳じゃ無いんだから、今回みたいな時のためにストックとして500や1000は持っとくべき!って事で!!」
「ミミ、知らないようだから言っておくが、ポーションは腐りはしないが、一定期間経過すると効能が低下して最終的には効果がなくなると言われているぞ」
「マジかー!!」
「ああ、嘘では無い」
「マジかぁー!!」
……あれ、俺、言ってなかったっけ? ミミが絶叫している姿を見ながら、シェーラがミミに言った事について、5分程あえて訂正しなかった。
と言う訳で、その5分間、予定が狂った鬱憤を全て『ゾンビ』にぶつけまくったミミは、MPゼロで休憩中だ。
シェーラは、手近の『魔石』を拾いつつ『地裂斬』を放っている。ティアはミミと共に喉を休めていた。
さて、そろそろ良いかな。
「おい、ミミ。さっき、シェーラ達とポーションの話してただろ。シェーラが言っていたアレは本当の事なんだけど、実は、俺がスティールしたポーションに関しては当てはまらないらしいんだよ。
以前、ロミナスさんから教えてもらったんだけど、俺のポーションは一度でもフタを開ければ市販ポーションと同じだけど、開けない限り、年単位で問題ないだろう、ってさ」
俺が話している途中から、ミミの顔は引きつりだしており、話し終わった段階で、蹴られた。ゲシゲシゲシと三回も。まあ、金属プレート付きのブーツを履いてるからそんなに痛くないけどね。
「なぜ、さっき言わん! って言うか、ロミナスさんに聞いた時に言え────!! ホウレンソウは大事って言ったっしょ!!」
「ミミちゃん、ホウレンソウって日本語で言っても意味分かんないよ」
「ウゲッ、た、確かに! 報告!連絡!相談!は大事って事!!」
「あ、悪い」
「軽! 返事軽!!」
いや、それに関しては、お前にだけは言われたくないぞ。
「あ~、もう良い!! ロウ! 盗って盗って盗りまくれ~!!」
と言う訳で、俺はその後『スティール』三昧だった。
ただ、『解毒薬』はなかなか溜まらない。なぜなら、他の冒険者達が『ゾンビ』の毒にやられて貰いに来るからだ。勿論、ただで渡したりはしない。『魔石』20個と交換だ。
そんな関係も有って、この掃討戦においては、今までに無く『魔石』を拾う冒険者が見られたとか。
そんな訳で、俺達は、この『解毒薬』売りによって、多くの冒険者達と既知の間柄となった。これは、後々の事を考えれば良い財産となると思う。たかだか、20ダリ程度の物でそんな関係が築けるので有れば安いものさ。
だが当然、逆に俺達を上手く利用しようとする者も出てくるだろう。それは、こちらが気を付ければすむ事だ。
そんな状態ではあったが、何とか30本程はストックできた。
「明日からの掃討戦は、全部スティールDayとする!!」
そんなミミの宣言と共に、本日の戦闘は終了となった。




