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守るためには力が必要  作者: 単色蓬
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5話 就職

 俺が足先から徐々に消えていく。

 女神が使っていた俺のガワの、だ。

 特に何かしているようには見えないのだが、

発している気配はとても真剣なものだ。


「実はその死体の消すのって難しかったりするんですか?」


「消すだけなら君にも出来るよ、錬鬼くん! 今やってるのはもーちょっと高度なこと!」


 神様はそう言うが、俺は人を消す力なんか持っていない。

 もし仮に何らかのキッカケで得ていたとしても、使い方を知らなければ比較のしようがない。

 

「普通の人間は人を消したりできないですよ?」


「えっ·····普通の人間のつもりなの?」


「不安になること言わないでくださいよ。確かに変な空間で精神年齢一世紀以上重ねましたが、俺は放って置かれただけですよ?」


「放って置かれたんじゃなくて、君は捨てられていたんだけどね! ゴミ捨て場に!」


 

 神の世界を神界と呼ぶのなら、神のゴミも神界のゴミ捨て場にある。

 あの女神が、転移させた生きた人間を放っておいてもそうそう見つからない場所は、いつかは朽ち果てるゴミたちが集うごみ捨て場だったのだ。

 生きたまま捨てられた俺はさしずめ生ゴミだったのだ。

 今更俺をゴミと同等に扱っていたことを知り、多少のイラつきを覚えたものの、続く神様の言葉に驚きを隠せなかった。


「そして君はゴミ漁りをして力を得たんだ!」


 かつて読んだ本の中に、チート満載!とか、一人だけ無能!とか多少奇抜な主人公はいたと思う。

 どの場合も特殊な事情はあった。

 けれど俺が読んだライトノベルの中にはゴミから能力を漁る主人公の作品はいなかった。


「俺はいつの間にゴミ漁りにジョブチェンジしたんだ。ごみ捨て場に行った覚えはないぞ」


「君はあの女神に箱詰めされて捨てられたんだよ! ご丁寧に入れ物の外側に隠蔽だけかけてそのままポイッ、って!」


「つまりあの黒しかない空間は女神が用意したゴミ袋のようなもの?」


「その通り! 面白い例え方をするね! 正しく君は中身の見えない黒いポリ袋につめこまれていたんだ!」


 俺はゴミとして修行を続け、本人すら気づかない間に能力を得ていたということだった。

 黒い空間をゴミ袋の中とするなら、白い空間はごみ捨て場だったのかもしれないが、細かいことは聞かないことには分からないだろう。

 しかし今は聞くべき時ではない。

 重要なのは、能力の詳細であって、得た場面では無いのだから。

 

「それで神様。生ゴミだった俺はどんな力を得たのでしょう」


「生ゴミなんて言うな!って言いたいけど、適切な表現だから否定出来ない·····!」


「楽しそうで何より·····」


 神様は俺の言うことがよくツボに入るらしい。

 余計な例えはしない方が話が進むことに今更ながら気付いた

 

「神様のツボはよくわからない·····」


 と思わず呟いてしまう。


「強いていえば錬鬼くんが人間らしいことを言うのが面白いんだよ!」


 神様には人間だと思われていなかったらしい。


「俺は人外じゃないですから」


 それを聞いた神様は、俺の正面に回り込んだ。


「教えましょう! 君は女神と転移した時点で、既に人間を辞めさせられていたんだよ!」


 神様はポーズをとって言い放つと同時に、背後に爆発を起こした。

 特撮ヒーローが登場するシーンを思い浮かべて欲しい。

 色のついた爆炎がもくもくと立ち上っている。

 それを追い風やっているため、カラフルな爆炎が正面の俺に向かって流れてくる。

 錬鎧によって攻撃はほぼ全身防ぐようにしているが、口元に関しては呼吸の必要があり、無害な煙を遮るようにはしていない。

 煙を吸い込みむせないように注意しつつ、女神の所行を問うた。


「またあのクソ女神ですか」


「そもそも君のニセモノをどうやって用意したと思う? 彼女は創造系の能力を持ってなかったよ!」


「·····もしかして俺は特殊な自殺をしたことになりませんか?」


「また面白いこと言うね! そう! 君は別の魂が入った自分の体を刺し貫いたんだよ! もちろん中身はちゃんと女神だったからね!」


「流石に違ったら泣いてました」


 俺は自分で体を殺して、神様に消してもらっていた。

 言葉にしてみれば酷いものがある。

 自殺して後処理を知り合いに任せる、俺の世界の自殺と性質は全く同じである。

 申し訳なさがじわじわと湧いて出てくるが、神様は全く気にしていないようで話を続ける。


「今の君は精神体だよ! 神界に長くいたことで性質も人間から離れてしまっている! 生物としても性質としても人間じゃないよ!」


「·····え? 俺今実体無いの? 人じゃないの?」


 あまりの事実に動揺しまくっていた。

 俺は今も兵藤錬鬼として存在しているつもりだった。

 体に違和感はないし、声も聞き慣れた自分のものだ。

 とてもじゃないが人間でないとは思えない。


「君は自分をいつから認識できるようになった? あのゴミ捨て場は存在を奪う空間だったんだよ?」


 問われてすぐに経過を語る。


「最初は手で触らないと自分がわからなかった。修行していた時は体を意識していたけど認識していた訳では無い。認識できるようになったのは黒い空間を出てから·····?」


「そうだね! 君が白い空間と呼んでいたゴミ捨て場に出た時のはずだ!」


 存在を奪う空間と言っていたゴミ捨て場に出てから認識力が上がるのはおかしくないか?

 黒い空間の方が入れ物の中だった分ゴミ捨て場の影響は減っていたはずだ。


「泣き疲れて寝てた間に何かがあった·····?」


 それを聞いた神様は気配に楽しさを表して言った。


「君が勝手に捨てられていた能力を得ただけだよ!」


「能力って意志を持って動くのか·····」


 能力とは様々な作品で描かれているスキルのようなもののはず。

 それ自体に意思があるとも思えないが·····。


「流石に勝手に動くようには作られてないよ! 君の他にあの空間にはもう一人いただろう? その人が能力をいくつか見繕って君の中に押し込んだのさ!」


「もう一人·····?」


 俺は神様の言うもう一人に、すぐに気づくことが出来なかった。

 俺が黒い空間で泣き疲れて寝て、起きた時には白い空間へ移動していた。

 寝ている間に現れたのならば、全く知らない人物のはずである。

 しかし神様は、俺が知っているかのような物言いだった。

 つまり俺が認識している人物がいたはずなのだ。

 黒い空間に存在したのは、俺と物質化した気だけ。

 そのうち人の姿を模したものは、俺が修行に用いた相棒だけ。

 並列思考で動かしていた気の人形しかいないと思い至った。

 動かしていたのは俺であり、体を作ったのも俺の気。

 もう一人に数えていいのかわからないが、他に心当たりはない。


「もう一人って、並列思考の俺ですか?」


「正解! 君が気で作った修行の相方だよ!」


「寝たあとも消えずに動いてたのか·····」


「ちなみに今は多重思考に能力が成長してるから、ますます便利になっていると思うよ!」


 努力で手にした能力がこんなにも有能だったとは。

 まさゴミ捨て場から能力を拾ってくるなんて思ってもみなかった。

 しかもいつの間にか多重思考に進化しているらしいし。

 それにしてもこの能力を活かす機会が訪れるのだろうか。

 女神を殺して一区切りついたが、これからどうなるか何も決まっていない。

 まさかまたゴミ捨て場に戻されて、多対一の修行をしろとでも言うのだろうか。


「便利って言われても、精神体の俺に何か出来るんですか?」


「錬鬼くん、君の元々の目的は何だったかな?」


「女神に連れ去られて異世界へ·····って、今更異世界へ行くんですか?」


「もちろんそのつもりだよ! 君にはこれから異世界へ行ってもらいます!」


 そう神様に言われても、俺はすぐに喜ぶことが出来なかった。

 むしろ考え込んでしまった。

 そもそも俺はもう生きてはいけないと思っていた。

 仮にも女神を殺し、人を辞めた存在だ。

 今更普通に戻してもらえるとは思っていなかったし、肉体同様そのうち消されるんだと想像していた。

 異世界に行けと言われても、『そうなんだ』と思うばかりで、まるで他人事のように感じてしまっていた。


 長らく一人で生きていると、他人との接し方を見失う。

 言葉を発することが億劫となり、そのうち何を話せば相手に響くのかわからなくなってくる。

 今の俺には神様であっても付き合うのが難しい。

 特に今の俺を作ったのは女神であり、殺した今でもしこりが残っている。

 もし愚かな神が俺に絡んだなら敵意を向け、手を出そうものなら間違いなく殺すだろう。

 目の前にいる神様すらもある程度しか信じられない精神状態の俺が、異世界に行った所で果たして普通の人付き合いはできるのだろうか。

 どうにか人付き合いをしてみても、いつか裏切られ、衝動的に殺してしまうのではないか。

 それで周りから白い目で見られ、忌み嫌われることになるのではないか。

 それならいっそ悪人として、力で配下を集める魔王のような存在になる方がよっぽど楽だ。 


「錬鬼くん! 君には仕事を二つ頼みます!」


 神様は異世界に行くと聞いたきり考え込んでしまった様子を見てか、仕事を頼むと言った。

 少しでも気が楽になるように気遣ってくれたのだろう。

 しかし、仕事と言われれば責任が生まれる。

 神様の気遣いは、失敗はできないというプレッシャーにしかなっていなかった。


「一つは平和を維持する仕事です! これから行ってもらうのは、勇者や魔王達が闊歩する世界なので、当然世界全体の治安が悪いです!」


「平和を維持する前に、平和を作る必要がありそうですね·····」


 過酷な世界に放り込んで楽させるつもりは無いらしい。

 しかも含意が広過ぎる。


「二つ目は緊急時にする依頼です! 主に異世界からの良からぬ異邦人に対応する仕事になります! 調子乗ったどっかの神様とか来たらボコってもらいます!」


「あんまり縛られなさそうでいいなーって思っただけで、相手が神になることに疑問が持てなかった·····」


 こっちはほとんど形式的なものだろう。

 まさか神様がそんなホイホイ送られてくることは無いはずだ。

 それにしてもいつの間に俺はパワーキャラになったのか。

 いざとなったら神を叩きのめさなければいけなくなってしまった。


「ちなみにどっちもできる範囲でおっけーだから! 誰か一人の平和を守っても仕事をしているとカウントします! やんちゃな神様閉じ込めるだけでも可!」


「·····がんばります」


 こうして俺は平和を維持しつつ、時には神を懲らしめる異世界人になることが決まった。

 精神体でどうやって肉体を得ればいいのかとか、俺が拾ってきた能力はなんなのかとか、説明すべき問題はまだまだある。


 しかし神様は待ってくれない。


「じゃあ、そんな訳で今から異世界飛ばすよ!」


「いやいや! 明らかな説明不足ですよ!」


「大丈夫! 説明は君を飛ばしてからにするから!」


「先に知らないとまずいことだと思うんですが!」


「神すら傷つけられなかった君の守りは普通破られないから、何の問題もないよ!」


 身の安全が保証されてるから、荒れてる世界で説明しても問題ないということらしい。

 そもそも神様は忙しい所手伝ってくれていたに過ぎない。

 神様にも仕事があるのだろう。

 そう考えると強気に出れず、大人しく眠りにつくことにした。

 眠りに?


 いやいや! なんで眠気が·····!

 

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