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守るためには力が必要  作者: 単色蓬
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3話 解放

 俺は気を薄く手足に纏った。

 軽くて足を動かし、気が動きの妨げになっていないことを確かめると、新たに気を全身に纏った。

 この技は兵藤式護身術には存在しない。

 無手で強者に挑むことを想定した気の防具である。

 手足だけ二重なのは武器として活用するためであり、剣や銃はもちろんのこと、まだ見ぬ魔法とも打ち合うことを想定している。

 この空間には攻撃力を知るための指標となる物体が無く、訓練の相手は自分で生み出した気の分身である。

 


 俺は気の使い方を学ぶ際、兵藤式護身術には放出系の使い方が存在しないことを不思議に思っていた。

 開祖は中学生から絶えず修行を続けたために、娯楽に分類される読書はしていなかった。

 学術的な読書はしていたものの、空想に役立つような物語は触れていなかった。

 それにより、気の存在を示した論文を理論的に理解できた時点で思考をやめてしまったのだ。

 気は体内で練り上げられ循環させて使用するするものだという固定概念に捕らわれてしまったのだ。

 加えて気の物質化についても、開祖は修行の途中で気を使用した動きに違和感を感じたために、可能性があるとしか記していなかった。

 つまりその可能性についてまともに取り合わず、確かめる努力を怠った。

 彼の努力は彼の常識の範囲を出ることは無かったのだ。

 

 俺は気を大概へ放出し、それを維持する方法についてかなりの時間を費やした。

 時計も携帯もない空間では正確な時間は分からないが、数年は経過しただろう。

 気は練り上げることで純度を上げることが出来、極限まで練り上げて不純物を無くすことで物理的な硬度を生むことが修行の結果分かっている。

 つまり最高純度の気を体外で維持する必要がある。

 加えて体外に出た気は細かな操作が難しかったため、初めは放出してからどうにかしようと四苦八苦していた。

 おかげで体外での気の操作能力はかなりのものになったが、硬度を持たせるにはそれからも長い時間を必要とした。

 

 ここで俺のスランプを救ったのは魔法に関する知識だった。

 魔法はどんな作品においても属性を持つ場合が多い。

 俺の読んだ中では火、水、風、土、光、闇の六つはよく用いられていた。

 これらは魔力を各属性に変換する場所が体外であると考えられる。

 例えば火を手から出す場合、体内で変換していたならば手は皮膚が焼け爛れるだろう。

 同様にどの属性でも体内からへ出す際に必ず身体に影響を及ぼすことだろう。

 つまり魔法は体外で操作するものと仮定出来る。

 そして俺は今まで気を魔法と同じような操作で行えば上手くいくと考えていた。

 気を放出し、生じさせたい現象を象り、その場で気を練るような動作をさせれば物質化できると。

 実際の所、それはとても惜しいところまで成功した。

 硬質化の兆候は確かに現れており、物質化まであと1歩のところまでは純度が高まったのだ。

 しかしそこから不純物を完全に取り除くことはどうしても出来なかった。

 体内では無意識下に行われていた、物質化の工程を理解していなかったのだ。

 気は遠心力のようなもので不純物を排除している訳では無い。

 物質化させたい気から、物質化しない気で不純物を取り除いていたのである。

つまり体外で物質化させるには、不純物に包まれた空間で放出された気の一部を犠牲にして体内と同じ工程を行う必要がある。

 それはとても効率が悪い。

 試しにかなりの集中力を持って時間をかけて気を練った所、物質化出来たのはビー玉サイズが精々だった。

 

 そこでアプローチの仕方を間違えていたことに気付いた俺は、魔法についてもう一度見直すことにした。

 魔法に必要なことはまだいくつかある。

 気の物質化の工程で見落としがあったように、魔法の工程を想像してみる。

 魔法は魔力を練り上げるながら詠唱を行う。

 詠唱は発動させる魔法のイメージ作りに役立つ場合と、魔法を構成している魔法式を理解させる場合の二つがある。

 詠唱を終え、練り上げた魔法を魔法陣に通すことで魔法が発動する。

 これらを気に置き換えると、試していないのは魔法式と魔法陣にあたるものだろう。

 この二つは違いが無い。

 あるとすれば参考にした作者の違いだ。

 道具を用いた魔法は魔法陣が出ない場合がある。

 その場合は魔法式を用いた魔法発動が多い。

 また魔法陣を出現させる場合は、魔法陣そのものに魔法式が書き込まれている場合が多く、詠唱によって魔法陣を呼び出すイメージに近い。

 つまり、動作を誘導する過程を気の物質化の途中で挟むことで成功するのではないだろうか。

 俺はさっきまで練り上げた気をそのまま放出していた。

 正確には練って純度を上げた気を、練ることを止めてから放出していたのだ。

 魔力と気は違うものではあるが、魔力は練り上げたまま放出すると表現した作品が多い。

 ならば気も練り上げる動作のまま放出すればどうなるのか。

 試したら1発で成功した。

 体外へ出た瞬間から気は物質化していき、目的の形になるように操作しながら放出すれば、イメージ通りの物が出来上がった。

 体から離れた場所で作るのでは無く、作りたいものを手で作る、ただそれだけで良かったのだ。

 出来てみたら今更ながらに思う、何故初めに手元でやらず、遠くでやろうと思ってしまったのか。



 そんなストーリーが気の物質化には隠れているのだが、出来てしまえば修行の体のいい相手に落ち着いた。

 物質化しながらも動かせることが人形を作る段階で分かっていたため、不定形の相手として特殊な修行を行うことが出来た。

 わかりやすく人形で戦うこともあれば、髪を触手のように動かし敵の手数を増やしてみたり、よくある魔物をイメージしたりと考えうる敵と戦い続けた。


 そのうち俺は二つの思考能力を得ていた。

 人形を動かしながら戦うことは、一つの思考では型をなぞっているに過ぎない。

 予想内の行動しか取らない敵に苦戦することはありえない。

 気には意識を与えることが不可能であり、戦うためには自分で操ることは必須であった。

ひたすら自分の動きとは違う動きで攻めさせ続ける内に、人形の行動に不規則さが生まれたのだ。

 俺が操っているはずなのに、俺の知らない動きをし始めた人形に、久しぶりに他人を見たかのような気持ちになった。

 完全に自分の意識から外れた動きをする人形を倒した直後、俺はこの空間に来て初めて泣いた。

 


 泣き疲れていつの間にか眠っていた俺は、急に降り掛かった謎の威圧感に飛び起きた。

一面黒かったはずの空間は、白に染まっており、四方八方から威圧感が押し付けられている。

 俺は考えてもわからないことだとすぐに頭を切り替え、違和感の答えを知るために長らく閉ざしていた口を開いた。


「何故全方位から一人の気配がするんだ?」


「·····恐ろしいな。ただの人間があの空間で生き延びるとは」


「やっぱりろくでもない空間だったか。女神が何処にいるか知らないか?」


「もちろん知っている。あやつは神の職務を放棄し、お主の姿を借りて異世界で遊んでおるわ」


「あのクソアマ。ぶち殺す」


「まぁ落ち着け、雑魚が吠えるな。弱く見える」


「俺をクソアマのいる世界に送ってくれ。力は向こうの世界で努力する」


「不可能だ。努力程度で殺せる神なんぞどこにもおらんわ」


 謎の声はそう言うと、俺への威圧を強めた。

 もはや威圧は物理的圧力を伴い俺に降り注いだ。

 しかし俺はそんな圧力に屈する程素直ではない。

 表面上には全く変化が見られないように注意しつつ、圧力を受け止めた。

 その様子が気に食わないのか徐々に圧力は増していくが、膝を折るどころか、苦しそうな表情を見せることすらしない。

 それどころか呆れた表情をわざわざ作って挑発した。


「こんな圧力で何かしてるつもりか? この程度なら筋トレにもならないな」


「人間風情がぬかしよるわ。調子に乗るのも大概にせい」


「お前話の流れからして神なんだろ? 神様が人間相手にムキになって恥ずかしくないの?」


「いいだろう、お前に慈悲を与える必要は無い。次の一撃防いでみよ」


 そういった神に返事をしようと口を開いたと同時に、腹部に強烈な衝撃を受けた。

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