ACT2-1 狂った回線
あるマンションの一室でのこと。季節はゴールデンウィークが近づき、世間中が休みを待ちに待っているような、そんな時季だ。
今年で専門学校最後の年をむかえる男もそんな一般人と変わりなく、あと数日でやってくる休暇を楽しみにしていた。
深夜、男はバイトから帰宅してそうそう、携帯電話をかける。ゴールデンウィークには地元で 高校3年間をともにした親友と会える。
その親友に会うのが待ち遠しくて、、ホームシックにも似た心境に陥っての連絡である。
トゥルルルルル トゥルルルルルル
男はアルバイトのため、電話は帰宅してからの深夜十一時過ぎというのがほとんどである。アルバイトも何もしていない親友は、家で暇を持て余しているのだろう。必ずコールか3回以内で途切れ、声が耳に入ってくるのだ。
しかし・・・今日に限って親友の家の電話は3回、いや5回なってもその音は止まなかった。が、
カチャ
かなりの回数の呼び出し音を聞いて、ようやく受話器が取られた。親友はきっと近くのコンビニにでも夜食を買いに行っていたのだろう。いずれにせよ、これから聞けばわかることだ。
「もしもし」
・・・・・・
受話器からの応答はない。男は疑問に感じたのか、これ以上話さずに向こうの返事を待つことにした。電話に出るのは親友・・・
「隣に住んでた高校生、あのあとマンション出たらしいわよ」
「あ、ああ。あの子か・・・」
(・・・・?)
20代くらいの女性と、中年男性の話し声が聞こえてくる。こちらにはまったく気付いていないようだ。
男は思わず電源を切った。間違い電話には変わりないし、相手がこちらに気付いてないにしても、これ以上会話を聞くのはよくないと判断したのだろう。
「間違い・・・?」
男は自分の間違いを不審がりながらも、電話帳に登録してある親友の電話番号を呼び出して確認する。液晶画面に表示されている電話番号は間違いなく親友のものだ。
しかし・・・次の電話も親友に繋がることはなかった。また間違い電話。どうやら携帯電話の回線が混乱しているらしい。非現実的にしても、ネットワーク発達の前に現実的だとも男は思った。
「また明日にするか」
男はそのまま眠りにつく。別に急な電話ではない。
次の日も、また次の日も、親友宅へ連絡が届くことはなかった。どこかの家の誰かの会・・・
口喧嘩している夫婦に、愛を語らう恋人同士、テレビを見ながら笑っている女など、その繋がり方は様々だ。しかし、日常生活で身辺の友人に連絡をするときには、普通に繋がる。遠く離れた親友との不定期な連絡が取れないぐらいで、特に不自由することはない。
「おかしい・・・・」
いいかげん電話会社にでも問い合わせしようかと考えていたその夜、男は何度目になるかわからない連絡をとろうと試みてみた、のだが・・・
プツッ
今回の電話は、今までにないほど早く受話器がとられた。今では繋がらなくなった親友の、受話器をとる間合いとよく似ている。
「・・・・・」
男は相手からの言葉を待つ。しかし、受話器の向こうからは何も聞こえてこなかった。だが、
「おい、な・・・なに、するんだ・・・」
何かに怯えている男の声だ。どうせ彼女の尻にしかれているのだろう。ケンカの最中かなにかで、男の方がみょうに怯えている様子が手にとるようにわかる。
パン
唐突に無機質な音声が男の耳に飛び込んできた。テレビでは聞くことがあるものの、決して日常生活からは聞くことのない音だ。しかも受話器の向こうから聞こえてこない、聞こえてきていいはずのない音が・・・
男は受話器を耳にしたまま固まった。
ガチャ
キャアアアアアアアア
ドアが閉められるような音の数秒後には、女性の悲鳴が聞こえてくる。その音質を発したと思われる張本人・・・言い替えれば銃器殺人犯であるはずの若そうな感じのする1人の女性。
プツッ ツーツー ツーツー
男は受話器の向こうの矛盾した光景を頭で絵にできずに混乱し、茫然と部屋の壁を見ながら電話を切る。殺人現場を電話で聴くことなどありえない。殺人現場に居合わせたり、自分が被害者や加害者になったりする方がよっぽど現実味を帯びている。
トゥルルルルル トゥルルルルル
男の携帯電話の液晶画面には、普段ならあるはずの相手側の電話番号が通知されていない。もしかすると、さっきの女性殺人犯かもしれない・・・などと、ありえない妄想を浮かべつつ、恐る恐る、受話器をとった。
ガチャ




