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5-2 貸し出された銃

 この間、男は妙なものを拾った。

 拾ったというと若干の語弊があるが、実質的にはそんなものだろう。あれは近くの自動販売機にタバコを買いに行ったときだ。

 

 タバコを取り出そうとしたとき、まず手に触れたものがそれだ。

 

 一丁の拳銃−−−


 白昼、辺りを行き交う人の数は予想以上に少なく、それを取り出すのには注意を払う必要もなかった。実際に、タバコと銃を拾ってからマンションまでの帰り道にすれ違った人は一人ぐらいしかいなかった。

 しかし、一日たった今では男の手元の銃はない。数時間前、友人に貸したのだ。別に所持していても使い道がなく、友人に貸したところで何も起きないと思っていたからだ。


 最近このあたりで銃器殺人事件が、巷間を騒がせているというが、男にとって身近な事件でも、自分の拾った銃はその事件とは一切関係がないと思っているし、あの時拾ったものが本物であるかどうかすら疑わしい。


 友人との飲み会から帰ってきた男は、軽い酔いもあってか、銃を貸したことなどすっかり忘れていた。


 静まり返ったマンションの廊下に、男の足音が響く。周りの住人の生活音は聞こえてこない。


 ガチャ


 暗闇には赤々と電話のランプが灯っている。電気をつけると、一番に電話のボタンを押した。


 ピー


 無機質な発生音のあとのしばらくの静寂、しかし電話は切られない。

 上着を脱ぐ男の動作が一時的に止まり、電話から声が発せられるのを待つ。


「・・・・・・ ああ、もしもしオレだ。昨日の銃、返せないかもしれない」


 やけに陰鬱な雰囲気が受話器の向こうから聞こえてくる。銃を貸した男は、普段ならこんな暗い声を出さないほど気さくな人間なのに。


「オレ・・・・・・これから死ぬんだ。理由なんて特にないんだけどな」


 陰鬱が拭われ、いつもの聞き慣れたトーンに戻る受話器の向こうの友人。しかし、その声の明るさとはうらはらに、告げられた事実は唖然とするものだった。



 バタンバタン


 服を脱ぎ、コートにかけようとしたとき、隣にも聞こえるかと思うような音量で、かすった程度のコンポのスピーカーが本棚から落下する。

 隣はおろか、下の部屋にも貫通しそうなほど、その音は大きかった。


 ピー


 留守電はそこで切れた。友人が意思を持って切ったのだろう。なんとも後味の悪い留守番電話で、それ以上に物騒だ。自殺間際の人間の声が電話に録音されているなど、たとえ友人とは言え気味が悪い。


 男はどうするか迷っていた。少なくとも自殺を止めなければ。ただ、友人宅まではかなりの距離がある。バイクを飛ばしても十五分、となると手段は一つ。


 自殺を防ぐのは、自分では無理なのでこれから自殺しようとしている友人宅の近くに、いや同じマンションに住むもう一人の友人に頼めばいい。五分の範囲に死を止められる人間がいるのだ。連絡を済ませば、当然自分も友人宅へ向かう。


 男は極力落ち着き、友人宅へ留守番電話に入っていた内容を話した。

 

 自殺阻止は果たして・・・・・・間に合うのだろうか。

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