約束
いつもゴメンね。
妻の、最後の一言がそれだった。
入院して5ヶ月。
妻は、僕が何度も顔を出す事に、罪悪感を感じていたようだ。
その言葉を残した30分後に、あっけなくこの世を去った。
妻と僕にはみっつの約束があった。
僕らには子供がいない。
だからひとつめの約束は、長生きする事だった。
お互いがお互いを支えて、年をとっていこう。
そう決めてた。
妻はまだ40手前だった。
とても長生きだとは言えない。
ふたつめの約束は、無理をしない、という事だった。
僕らは出会った頃から、お互いとても忙しかった。
だから二人共、自分を見てるみたいで、なんだか辛くみえた。
仕事の為に自分がいるんじゃない。
自分の為に仕事があるはずだ、とお互いそう思えたから、決して無理はしないでおこうと決めた。
でも、医者は言ってた。
とても我慢されたんですねって。
みっつめの約束は、決して謝らない、と決めていた。
元々、僕が謝ってばっかりだったから、この約束は彼女が決めた。
ゴメンのかわりに、ありがとうって言おうって。
妻はみっつとも約束を破った。
僕はひとつも破っていない。
長生きする為に、運動も始めてたし、食事の管理だってしっかりやってる。
仕事だって、君と一緒にいる時間を増やすために、一生懸命、頭を使った。
もちろん、ゴメンねなんて、結婚してから一度も使ってない。
なのに、なんで僕は罰を与えられなければならないんだ。
なんで最後にひとつくらい、僕にも約束を破らせてくれなかったんだよ。
それとも、僕が一生死ぬまで、約束を守り続ける事が出来たら。
そしたら僕の一番望むもの、あなたは僕にくれますか?