出会う。
夜中の道を一人歩く、青年。
名前は空打奏多。
実を言うと、なぜ夜中の道を歩いているのかは不明。
気づいたら歩いてた。という感じだ。
手に握られた百円玉はあつーくなっている。
三日前からずっとずっと握ってたもんだから、真夏の日差しと体温で物凄く熱い。
この百円でどうやって生きてくか?
そのことで奏多の頭の中はいっぱいだ。
三日前から着てる服で三日前から風呂に入ってない額の汗を拭う。
決して不細工ではない、いや、整った、いや、凄く整った顔立ちの奏多が、(世間的に言うとイケメン)いわゆる『ホームレス』にあたることは誰も想像しないだろう。
そんな時、奏多の後ろに左右不信に曲がる暴走車が現れた。
考え事に夢中で視界が狭い奏多には見えるはずもない。
そんな時
「危ないっ」
奏多の前に、黒い影がとびでて奏多をキツく抱いた。
奏多はドキッと胸を弾ませた反面、何が起きたのか理解できなかった。
ドサッと音を立ててその場に落ちた二人。
「大丈夫ですか?」
そう聞いて来たのは、美人でもなく、ただのおじさんである。
奏多はなんでドキッとしたのか後悔しながら
「大丈夫です」
と不機嫌そうに答えた。
暴走車は耳障りの悪い音を鳴らして目の前で停車した。
暴走車はリムジンであった。
黒く磨かれたボディに外国車のマークが眩しかった。
リムジンの運転席の窓が開いた。
「じい。私は貴方を捨てたの。使い物にならないこのクソジジイがっ!」
…
奏多は愕然とした。窓から覗く人はとびきりの美人だった。とんでもない暴言を吐き捨ててフンと鼻を天に突き上げる。
「お父様がお怒りになられますよ?」
じいと呼ばれたその人と、美人の関係がやっとわかった。
“お嬢様と執事。″
金持ち…
金のことしか頭にない奏多は何かついているような気がした。
「お父様?!しらないわ!あんな人。」
ついにお嬢様は車から足を下ろした。
真っ赤なドレスに身をつつみ、茶色い髪の毛をゆさゆさ揺らす姿はお姫様に近いほど。
奏多の目の前ということを忘れ、二人は喧嘩を始める。
「シャンパン一本も注文できないこのクソジジイがっ!お父様と手を組んでんじゃないでしょうね?!」
そんなことで怒っているのか?この人は。
奏多は愕然とした。ホームレスの俺のことも考えろよ?
もうやってらんない。
奏多はため息をついて立ち上がった。
「待ちなさいよ!」
何故か止められ、振り返る。
「なんですか?」
待ってくださいとも言えないのか、このお姫様は。と、奏多は呆れた。
「じい、お父様に伝えて、私はこの人のところにいるってね!」
…
理解不能だ。
「何を言ってるんですか?」
「だから、……一緒に暮らすって言ってんのよ!」
「いわゆる…ぷ、ぷぷろぽー…」
「違うっ、」
お姫様は顔を赤らめて足を鳴らした。
「お父様から逃げるためにかくまえっつってんの!それまでの間だけなんだから!」
「お、お嬢様…何を言ってらっしゃるのですか?」
「うるさいっ」
奏多の手をお姫様が握った。
「もう決めたの。縛られた生活はやめるってね…」
何が奏多は自分に似たところがあると思い、何も言えず、お姫様に手を引かれたままリムジンに乗せられた。
「お嬢様?!」
執事の声を聞くことなく、お姫様はリムジンを走らせた。
そのお姫様の目からは、大量の涙が流れてた。