LONGINUS-戦場を貫く聖槍-
あまりにも酷い内容につき閲覧の際にはご注意下さいませ
聖者の力を宿す一つの槍を携えた騎士が覚醒めの時を迎えようとしていた…
「ここが例の彼が住む家か…。」
此処は人里からかなり離れ、入り組んだ森に覆われた神王山の山奥にある一軒の山小屋…その上空から一台のヘリコプターが現れ、着陸するなり、グレーのスーツ姿の四十代後半と思わしき年齢のダンディーな口髭を生やした男性・水無月朧がヘリから降りて山小屋のドアに近寄り、ノックをする。
「失礼、ミスター・ドウマ、いるかね?」
しかし小屋の中の住人からの返事は無かったため、朧はドアノブに手をかけた瞬間…。
「なんだ?いないのか…って、あばばばばばばばばばばばば!!?ボババババババババ!?バァッ!!」
ドアノブから突然電気が流れ込み、朧はまるでギャグ漫画の描写の様に自分の全身のリアルな骨格剥き出しな状態でビリビリ感電してしまう。
「む?何者だ?早くドアノブ離さんと死ぬぞ?」
「ばばばばばばば!!ばばあのばばあッ!!?」
リアルギャグ漫画感電をやらかして命の危機に瀕している朧にそんな呑気な一言がかかった瞬間、何者かによって朧はドアから引き離された。
「そのドアは常に浸入者防止用の高圧電流が流れている。他にもこの辺りには沢山トラップを仕掛けていてな…まあ、仕掛けた本人であるオレ以外はまず見抜けずに死ぬな。」
「殺す気かぁあああああッ!!?」
朧を救った男はなんと、自分がその罠を仕掛けた張本人だと平然と抜かしたのだ。しかもよくよく見れば周囲にはあからさまに怪しい落ち葉を被せた地面やあちこちに張り巡らされたワイヤーなどがあった…浸入者に対する殺意しか感じられないトラップゾーンの数々に朧はキレた。
「ハッ…!?もしや君が…ミスター・ドウマかね!?」
「如何にも、オレが銅磨軼真だが?」
意図的ではない(?)とはいえ朧を罠に嵌めたと同時に彼の命を一応は救出したその男…茶髪の獅子の鬣の様な髪型に鋭い目つきはワイルドな野生の獣にも似た印象を与え、体格は細身でありながらそれでいてしっかりしており、着崩してるため解りにくいが軍服を纏った一般人に見えない雰囲気…名を銅磨軼真、朧がこんな辺鄙な山奥まで来てまで探し求めていた人物であった。
「失礼、名乗るのが遅れた…私の名は水無月朧…と、言えば解るかね?」
「知らん!」
「そうかそうか知らんのか…って、はいぃいいッ!?そんな馬鹿な!?世界にまで進出するほど自動車製造で数々の成功を手中にした『ミナヅキカンパニー』の会長で…!!」
「生憎、家にはテレビもパソコンもない!あったとしてもそんなくだらん情報など仕入れる気は微塵も無い!」
「威張るなっ…!!この私を知らんだとっ…!?この非国民っ…!反社会的な非国民めっ…!!」
朧は自信に満ちた自己紹介をするも軼真のさらに自信たっぷりかつ無礼極まりない態度と一言、無駄にキリッとした決め顔にブチ切れた。
電波など一切届かない神王山の山奥にテレビやパソコンを繋げようがないため軼真が朧の経営する自動車製造メーカー『ミナヅキカンパニー』の功績や知名度などをはじめとした世俗的な情報を知るのは不可能…とはいえ、堂々と威張る様に『知らん!』などと人様の自尊心を挫く言い方をした軼真も軼真だが、自分自身を否定されたみたいにムキになって大人気ない過剰な怒りをあらわにする朧も朧、どっちもどっちである…。
「コホンッ!まあそれはいい、ミスター・ドウマ…私は君に『仕事』を依頼するためにやって来た。」
「なんだ『仕事』か?いいだろう!話せ!」
「無礼者っ…!!まずそのデカイ態度をどうにかしろっ…!無礼者っ…無礼者めがっ…!!」
無礼に無礼を重ねた軼真の態度に神経を逆撫でられつつも朧は怒りを抑え、軼真に事情を話す…。
「これを見たまえ。」
「なんだ?これは…まさかラブレター…!?寄るなっ…!オレにアッチ系の趣味はないっ…!ノンケだっ…!」
「やらないか?…って…ふざけろっ…!違うっ…!誰がホモだっ…!!そういうボケはいいっ…!いいから早く読めっ…!!ブチ殺すぞっ…ゴミめがっ…!!」
朧は説明のために一枚の手紙を軼真に見せたがしかし…シリアスな雰囲気を見事にブチ壊すボケをかましたふざけた馬鹿野郎にキレる朧は怒りのあまりに軼真の額にどこから取り出したか?拳銃を突きつけ、半ば脅しに近い形で強引に読ませた。
…三分後。
「大体解った。」
「…本当か?」
手紙に書かれていた内容に加え、読んでる最中に話してた朧の説明も合わせると仕事の依頼内容は次の通りになる…。
送り主の宛名が一切書かれてないこの不審な手紙が送られてきたのは今から一週間前…内容は『これ以上ミナヅキをハッテンさせるな、さもないとお前の娘の命はないと思え』、と書かれた明らかな脅迫状だった。
朧には心当たりがあった…それは世界的に有名な自動車メーカー『ミナヅキカンパニー』の成功ぶりをよく思っていないライバル会社の関係者、もしくは奴らが金で雇った何者かの仕業だろうと。
今のところ朧の一人娘・水無月麗には何も起きてないが、何時…ライバル会社の放った刺客が彼女に牙を剥くか、不安で不安で堪らない状況が続く毎日なのである。
「…で?オレにアンタの娘の護衛をしろと?」
「頼む!金でも女でも食い物でも好きな物をくれてやろう!だから…私の娘を助けてくれぇっ…!」
全てを理解した軼真に対して朧はプライドも何もかもかなぐり捨てて土下座を…自分の額を地面に擦りつけてまで頼み込んだ。人格的には問題はあるものの朧も人の親…自分の娘を守れるためならばこれぐらいの屈辱などたやすい事なのだ。
「…よし、いいだろう!!」
「おおっ…!引き受けてくれるかっ…!?ありがとうっ…ありがとうっ!!ミスター・ドウマッ…!!」
「だが断る」
「そうかそうか…って、なっ…?なっ…!何ぃいいいいいいいいいい〜っ…!?」
なんと、軼真は朧の必死の懇願を無にするかの様に何故か自信たっぷりに『NO』と言い放った。ショックのあまりに朧は全身がグニャ〜と絶望に歪まされた様な感覚に陥った。
「きっ…貴様っ…!!何故っ…!?何故っ…今の流れで断れるっ…!!何故なんだっ…!?」
「だってアンタはもちろん、アンタの娘とはなんの縁もゆかりも無いしな。」
「なら金は…!?金…金をやるっ…カネカネカネカネカネカネカネカネェッ…!!」
「いや、普通に貯金あるし…これ以上は別にいいかな、と。」
「なら食い物は!?和・洋・中!!お抱えシェフ達に好きなモン作らせて、たらふく食わせてやる!!」
「この山で食える物は大体揃う。まあ食べられないのは米か海の物、インスタント食品くらいだが一時間ほど我慢して下山すれば近くに町あるから問題無い。」
「女ァッ!!ウッハウハのっ…ハーレムパラダイス!!酒池肉林のドエロサーカス!!エロトピア共和国!!」
「そんな破廉恥な単語並べて恥ずかしくないのか?アンタ?」
朧はまさか断られるなどとは思ってなかったため、どうにか軼真の気を引こうと依頼達成後の魅力的な報酬を見苦しく提案した…が、駄目っ…!!肝心の軼真はというと何かにつけて全て却下、却下、却下…!却下の雨嵐…!!
「ふざけろっ…!貴様っ…!それでも人間かっ…!」
「邪魔邪魔、今から徹夜でゲームしたいし…とっとと去ね。」
「ひとでなしっ…!ひとでなしの人非人っ…!!貴様にはっ…仁義というものは無いのかっ…!?」
「無いッ!!」
「やめろっ…!!そのっ…意味の解らないっ…無駄に自信に満ち溢れたドヤ顔っ…!やめろっ…!!」
軼真は縋り付きながらボロボロ泣く朧の非難をガン無視した挙げ句、薮蚊でも振り払うかのように冷たく突き放し、携帯ゲーム機片手に家のドアを閉めようとした時だった…。
「こうなれば最後の手段っ…!!破ァッ…!!」
「うっ…が、はっ…!?」
なんと朧は軼真の背後に迫り、首筋に怪しい薬品の入った注射器をブスリと突き刺す…それと同時に軼真は何故か全身の力が抜けて崩れ落ち、そのまま朧にズルズル引きずられながら無理矢理ヘリに乗せられてしまった…知らない人間が見たら誘拐事件か何かと間違われそうな絵面である。
「ふざけっ…降ろ…へ…降ろへ〜…!!」
「降ろへませんっ…!!」
そしてヘリは軼真を乗せたまま地面を離れ、神王山を後にした…
???
「…どこだ?此処は…?」
「私の屋敷だっ…!」
「…お外の景色が全く見えないのだが…。」
「貴様の逃亡防止のためだっ…!!」
気づけば軼真は朧の自宅である水無月邸の屋敷の一室で目を覚ました。しかしその扱いは凄まじく酷く、窓があると思わしき場所には頑丈そうな鉄板が打ち付けられており、扉も分厚い鋼鉄製…軼真の服装も軍服から何故か服役囚が着る様な黒と白の横縞囚人服に変えられており、左足には重りが付いた鎖が付けられ、ほとんど犯罪者扱いだった。
「さあっ…!諦めて、大人しくっ…キリキリ働けっ…外道っ!!」
「ふざけろっ…!貴様っ…!それでも人間かっ…!」
「その言葉をお前が言うか…!?外道っ…ド外道めがっ…!!」
「クソッ…仕方ねぇ…解った…解ったよ…!降参だっ…!!」
「最初からそう言えばこんな手荒なことしなかったんだよ…!このゲスが…!!」
全く以って朧の言う通りなため軼真に関して擁護がまるで出来ないのは言うまでもなかった。このまま依頼を断り続けたら懲役どころか終身刑になりかねない…どう考えてもそれは得策ではないため軼真はまず自由の身になろうと遅過ぎたもののようやく、渋々依頼を承った…。
「…で?アンタの娘はどういう奴なんだ?」
「フッ…何を言うかと思えば愚問…愚問だっ…!私の麗は…清純…可憐…!」
「イメージじゃなくて顔だよ、顔…顔を知らなくちゃ守りに行けないし、学生ならば学校の場所なども把握しなければならんだろうが、お脳がパーなのか?アンタ。」
「ぐぎっ…ギギギギギ…!」
それはそうである。護衛対象の顔を知らなくてはどうしようもないのは本当であった。朧は一々カンに障る口調で最もな事を抜かす軼真を今すぐ冷たい海の上に浮かばせてやりたいと思い、怒りと悔しさのあまり歯軋りしつつも、懐から一枚の写真を軼真に手渡す。
「成る程…彼女は、父親に似たんだな。」
「おお!解るかね…!?」
「ああ…だって、ほら…。」
軼真は写真に移る少女に指さし、次の瞬間…またやってしまう…!いらんボケをっ…!
「すっげーブスだな…ブサ…ブサ…。」
「それはたまたま間違って写ってしまっただけのどっかのブスだ…!間抜けっ…!」
実は朧が渡した写真には人物が二人写っており、右側には軼真が本気で護衛対象だと思ってしまった世にも奇妙な見るもおぞましい妖怪じみた顔の…もはや醜いを通り越して『激醜』という表現がピッタリなドブス女だった。何故かカメラ目線でダブルピースしてた上に鼻毛も出てるが気にしてはない…
「私の麗がそんな豚なわけがないだろう…!!このトンチキが〜っ…ここだっ…ここっ…左隣のっ…!!」
「ふむふむ…ほむほむ…。」
写真に写った激醜に失礼な発言して、額にビキビキと青筋立てながら怒る朧は軼真に解る様にしっかり、左側の方を強く指さした。
対照的にその激醜の左には朧が先程言った様な『清純』『可憐』という言葉が似合う程の美しい顔立ち、何処か儚げな印象を与える薄く開かれた瞼から覗く青い宝石の様な瞳、これを写した日は風が強かったのか?フワリと風に煽られる瑠璃色のボブカットにした髪、写真でも解るくらい、スラリと背が高く、出るところはしっかり出てる見事な肢体で制服を着こなす少女…彼女こそが水無月麗、水無月朧が目に入れても痛くないほど可愛がっている彼の一人娘であった。
次の日、私立雪神学園高等学校、二年A組。
「あー…生徒諸君、突然だが、私は本日限りでこの学校を辞めます。」
「「「え?えええええええっ!?」」」
「地方の…地方の小学校に飛ばさ…ゲフンゲフン…行きます。」
(((今…飛ばされるって言いかけた!?)))
それはあまりにも突然過ぎた…二年A組担任・飛羽比沙人がいきなり生徒達に向かって辞職宣言をしたのである。一体何をやらかしたのか?地方のド田舎学校に転勤させられるなどほぼ島流しも同然である。
「代わりに新しい先生がこのクラスの担任になりますので…さようなら〜!」
「「「先っ生ーーーーーーーッ!!?」」」
「「「飛羽先生ーーーーーッ!!いやー!!行かないでー!!」」」
飛羽は涙ながらに振り返りもせずに生徒の制止を振り切って教室から走り去った。そんな飛羽と入れ代わるようにして同時に何者かが教室に入り込む。
「ドーモ、ミナスァアン、オハイヨゴジャイ。」
(((レスラー!?)))
その人物は何故か赤い鳥の紋様が刻まれた白地の覆面で顔を隠したスーツ姿の2メートルはあろう屈強なロレスラーみたいな大男だった…しかも日本語が全然言えてないため怪しさ爆発ものである。
「ワラーシ、今日カラ、ニッポンポンデェ、ミナスァアンノ、タニンニンニナル。ロドリ…ゲフンゲフン…!銅磨軼真デェエス。ヨウスコウ。」
(((明らかに日本人じゃねー!!)))
国籍不明の謎の覆面レスラーは何故か堂々と軼真の名を勝手に名乗り、淡々と軽い自己紹介と挨拶をしてるが生徒達にますます不審がられたのは言うまでもなかった…。
「まあ…ふふ、面白そうな人。」
だがただ一人、怪しい臭いムンムンなレスラー教師・軼真(?)をまるで天使の微笑みを思わせるステキな笑顔で迎えた女子生徒が…そう、水無月麗であった。
時は流れて三日後、水無月邸にて…。
「おはようございます!」
「『おはようございます』じゃない…何時だと思っとる…!来る日も来る日も無為無策の遊び人っ…グズグズの半ひきこもりっ…!さっさと仕事しに行って来い…麗の護衛にっ…!」
無駄にキリッとカッコつけたクソ真面目な真顔で朝の挨拶をする軼真の顔を見るなり朧は身体中の血管が今にも破裂しかかり、怒りがフツフツと煮えたぎるマグマになって溢れ出そうなくらいにキレていた。
実を言うと軼真は…なんと、護衛対象である麗をほったらかし、あの覆面レスラー…本名・ロドリゲス・ビアンコ(メキシコ人)を自分の代わりに雪神学園に麗の担任として送り込み、その間自分は何をしてたかというと、どこで見つけてきたのか?朧の仕事用パソコンを無断で使ってネットの海をさまよっていたり、ゲーム機で遊んでいたり…たまに外に出ればマンガ喫茶にアニメショップ巡り、奇妙な冒険のポーズの研究など…護衛任務には一切手をつけず、半ばひきこもりにも似たダメ人間生活を送っていた。
「大丈夫だ。ロドリゲスの定時報告によれば今のところ異変は無い、わざわざオレが出るまでも無かったようだな。うん。」
「おのれが行かんかい!このナマケモノのアホンダラっ!!大体あのレスラーと貴様…全然似とらんわっ…!!」
「だから問題無いと言ってるだろ?ロドリゲスも案外うまくアンタの娘や他の生徒達と案外上手くいってるし…。」
(こ…こいつ…!)
「…というわけで金貸してくれ、金、『魔法少女フェアリック☆マキナ』のDVD借りたいから。」
(…クズだっ…!)
朧は今更ながら本気で後悔していた…
「あ、あと久々に大吉家の牛丼とか食べたいんだよな〜…新発売のビーフシチュー牛丼美味そうだ。」
(まっこと正真正銘っ…!人間のクズッ…!)
軼真を無理矢理連行してきた事も…
「そういや昨日ゲームで七万くらい課金してしまってな…後でアンタ払っといて。」
(このままでは…しゃぶられるっ…!)
麗の護衛を勤めさせる期間、軼真に最低限の生活の保障をした事も…
「聞いてる?おーい…おーい、コラ、オッサン」
(骨の髄までっ…!このクズにっ…!)
それら全てが元々依頼を受ける気が皆無だった軼真をさらに堕落な奈落に突き落としただけに終わっており、むしろかえってタチが悪くなっていた…例えるならば、メスに狩りを一任させておいて自分はただ食っちゃ寝、食っちゃ寝の生活をするオスのライオン、決して自分から狩りに出かけない怠惰の王様、今の軼真がまさにそれであった。
「出ていけ…出ていけ…!今すぐ屋敷から…!」
「む?何故だ?しかし依頼人様の任務を放棄するわけには…。」
「依頼人様じゃないっ…!」
朧はこれ以上、軼真を屋敷に置いておくことの危険性を本能的に悟り、彼を強引に部屋から追い出そうとしていた時、軼真のスマホからアニメソング(『魔法少女フェアリック☆マキナ』)による着メロが鳴り響く。
「もしもし、オレだ!」
『オー!ミスター・ドーマ!!大変デース!!』
「ロドリゲスか?何かあったか?」
『ソレガ…ミス・ミナヅキガ…タイヘンタイナコトニ!!』
「解った!今から直で行く!待ってろ!!おらぁああああああああ!!」
どうやら何か起きたのだろう…慌てた様子で何かを伝えに軼真のスマホにかけてきたようだ。スマホの通話を切るや否や軼真は鉄格子付きの窓をブチ破って外へ飛び降り、地面に着地したと同時にそのまま雪神学園に向かって全力疾走する…因みにこの鉄格子、トラックが激突しても曲がらず、ダイナマイト数十発分の爆発でも堪えられる特別製なのだが、どういう訳か蹴りの一発で簡単に破壊出来てしまった…その様子を一部始終見てた朧は当然ながらこう言った。
「そんなバナナァアアアアアアアアアアアア!!」
雪神学園・校門前
「ロドリゲス!」
「オー!オマッチマイマシタ!ミスター・ドーマ!!」
「何があった!あの成金親父の娘はどうした!」
「実ハデスネィ…。」
校門に来ると雪神学園では怪我人が救急車で運ばれ、警察官が野次馬共を下がらせたりと忙し三昧…それはさておき、軼真はロドリゲスと合流するなり早速状況を把握するために彼から話を聞き出す…。
それは今から30分程前、ロドリゲスが麗のクラスで授業をしている時だった。
「エー…此処ノ英文ノ和訳ハデスネィ、『こんな生活を…強いられているんだ!』ト、ハツウォンシマッス。」
(((ブフッ…うぷぷぷ…!)))
英語の授業を真面目にしているロドリゲス、だが彼のその怪しい発音や何故か現在上半身裸にネクタイ・プロレスパンツ・ブーツという明らかに自分の戦場を間違えているおかしないでたちをしているせいで、生徒達は自分の頬をつねったり、俯せになったりするなどで必死に笑いをこらえていた。(おい…うっ…くくっ…あんま笑うなよ…ぶひっ…!)
(がふっ…これを笑うなって、罰ゲーム以外のなんだってんだよ!)
(いっそ殺してー!これ以上堪えられないわよー!うひっ…ひーっ!)
とにかく笑うことを耐え忍ぶ生徒達は自分達が生徒の立場であることを呪った。何故、目の前に笑いの要素満載な爆笑王がいるのに笑えないのか?それは相手が教師で今は授業中だからだ…笑うに笑えない、だが笑いそうになるこの状況を強いられるなんて拷問でしかない、しかも困ったことにロドリゲス本人にふざけている様子は無く、至って大真面目に授業してるから尚更タチが悪い。
「デハ、次ノ和訳ヲ…ミス・ミナヅキニオ願イシマム。」
「は、はひ…ふふ…へ…ほ…」
(み…水無月さん、大丈夫なの!?)
(ヤバイよ!ヤバイよ!これもう無理だって!)
(ダメだ!もう爆発寸前だ!!笑ってしまう!!)
いきなりロドリゲスから英文の和訳に指名された麗もまた限界だった。なるべく視線を合わせない様に顔を背けるも、頬がリスの様に膨らみ顔も真っ赤、全身はプルプルと小刻みに震えており、耐えに耐え過ぎたか半泣きになってるため、周囲の生徒達は目茶苦茶心配そうに見守っていた。
…と、そんな平和な学生達の日常の一コマを非日常に変える出来事が彼らを襲う。
「イイィイイャッホォオオオオオオオー!!」
「「「!?」」」
突如、何者かが叫んだと同時に外から窓ガラスをブチ破りながら教室に乱入してきたのだ。
「よぉ!生徒諸君、真面目に勉強してるかい!?オレは高校の時は勉強大っ嫌いだからよくすっぽかしてたぜ!さて…はいはい、どなたさんも失礼しやーすっ、と。」
「…え?」
聞かれてもしないのに自分の学生時代の思い出をベラベラしゃべりながら、ダークブルーの髪にイルカの装飾をしたピアスを右耳に付け、だらし無く着崩した黒いスーツのホストでもしてそうなチャラい印象の若い男は自分の登場のせいで呆気に取られる生徒達を掻き分けながら、麗の目の前に立つ。
「アンタ…水無月麗さんッスよねぇ?ミナヅキカンパニーの水無月朧さんの娘さんの…。」
「…だ、誰…あなた…?」
「アッハッ♪さー?誰でしょうねー?当てたら御褒美に飴でもあげよっかねえ?しっかし可愛いな、オレはロリコンじゃねーけどこれっくらいなら狙っても全然OKだよな?ハハッ!」
男に近寄られ、自身の素性を明かされた麗はロドリゲスへの笑いは完全に引っ込み、ふざけた口調でおどけている様子ながらも得体の知れないナニカを感じさせる男に対し、本能的に恐怖を感じた…『この人は危険だ』と。
「流沢、何を遊んでいる?」
「ゲッ…巖鬼、お前来るの早過ぎっしょ!」
そして更にもう一人、頭部に獣が引っ掛いた様な傷跡がいくつも走るスキンヘッド、黒いスーツの上からでも解る鋼の如き筋肉質な身体にロドリゲスよりも一回り上な高身長の大男・巖鬼轟馬がユラリと気配を感じさせずに現れ、現在進行形で麗を相手におふざけしてる若いホスト風の男…流沢聖也に近寄る…どうやらコイツらはお互いに仲間同士らしい。
「…。」
「ひっ…!?ああ…う…。」
「「「ひいいいいい…!!」」」
しかもよくよく見れば巖鬼の右手にはひどく腫れ上がったせいで原型を無くした血まみれの顔をした中年の男性教師が鷲掴みされており、まるで死んでるみたいに動かない…麗はそれを見たショックのあまり、意識を失い、床に倒れ、他の生徒達も顔を青褪めながら身動き一つ取れずに化石の様に固まった。
「ミス・ミナヅキ!?ウォオオオオ!!キサマーラ!今スグ彼女カラ離レンサイ!!」
ロドリゲスは軼真から自分に与えられた使命…麗の護衛をするために果敢にも突っ込み、渾身のラリアットを巖鬼の喉目掛けて叩き込む…が、駄目っ…!
「なんだ?今のは…それでラリアットのつもりか?」
「ソンナ、バ・ナーナ!?」
「なんと手緩い一撃だ…ぬううううんっ!」
「ゴッ…ハァッ…!?」
全く効いて無かった。確かにロドリゲスのラリアットは巖鬼の喉にクリーンヒットしたが身体が少し揺れた程度でビクともしなかった。巖鬼は心底呆れた様子でさっきのラリアットとは比べものにならない威力と重みのあるパンチをブチかまし、ロドリゲスをたった一撃で沈めた
「殺さなくっていーの?巖鬼?なんかこの先公、生かしておくと厄介そーだぜ?」
「殺すまでもないな…それに我々の目的はあくまでこの娘だけだ。撤退するぞ、流沢。」
「ハハッ♪それもそーだなっ♪了解ーッス!」
「わっ!?な…なんだ!?」
「霧っ…!?」
ロドリゲスにトドメまで刺す必要が無いと判断したか、巖鬼は彼を一瞥した後、気絶した麗を片手で軽々と担ぐと、流沢は全身から白いモヤの様なもの…否、霧を発生させて周囲を撹乱した…。
「…で、お前が目覚めた後には既にその二人組は消えてしまっていたと。」
「オー…ミスター・ドーマ、ゴメンスァイン…。」
「気にするな!!」
事情を明かし、落ち込むロドリゲスの肩に手を置き、軼真は『後は任せろ』と言わんばかりに励ます…。
「アッホかァアアアアアアアアアアアア!!」
「おっと。」
「ごふぁあああああ!?」
いきなり、いつの間にやって来たのか?朧が軼真目掛けて飛び蹴りをかましてきたが、軼真はさっきとは打って変わってロドリゲスを盾にしてそれを防ぐという外道な事をやらかした。
「きっ…きっ…きさっ…貴様らっ…!!この役立たず共めら…!!よくも麗をっ…!!」
どうやらロドリゲスの話を一部始終全て聞いていたらしく、怒りに打ち震えながら軼真の胸倉を掴んで睨みつけた。
「大丈夫だ。問題無い。」
「大丈夫じゃない!問題だ!!」
「フッ…案ずるな!既に手は打ってある!!」
「は!?」
根拠の無い自信に満ちた冷静な表情の軼真とは対照的に鬼の様な形相で食ってかかる朧、今にも殴り合いにハッテンしてしまいそうな雰囲気だが、ここで軼真はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、とてもではないが彼の今までの度が過ぎたいい加減過ぎる性格上、信じ難いことを抜かした…。
???
「お待たせ致しました。」
「お約束のモノをおっ届けでーす!!」
「おお!?ホッホッホッホッホ…よくやったでおじゃる!お主達!!ホーッホッホッホッホ!!」
何処かの工場内にて、自動車(盗難車)から降りた巖鬼と流沢は自分達に麗の誘拐を命じた依頼人…どこぞの馬鹿殿様みたいな白塗りメイクに麿な眉毛をしている紫色のスーツに金箔張りのネクタイという悪趣味かつ胡散臭そうないでたちをしている中年男…ミナヅキカンパニーのライバル会社『アクタガワ工業』社長・灰汁田川三太夫に誘拐成功の報告をし、その証拠としてトランクを開け、中のモノ…縄で縛られ、口には猿轡を噛まされた状態の麗を見せると灰汁田川は満足そうに高貴な笑い声を上げた。
「で、お代官様、約束のブツをですねぇ…へっへっへっ」
「ホッホッホッホッホ、解っとるでおじゃるよ、越後屋。こっちじゃ、近こう寄れ。」
「どれどれ…おおっ!?ウッヒョーーー!!すっげ!すっげー!!何これっ!?貰っていいんスかっ!?全部!?」
「無論じゃ、余はお主らの見事な仕事ぶりに満足しておるからのぉ…ホッホッホッホッホ!」
流沢は揉み手をしながら報酬をねだってきたため、気分のいい灰汁田川はそれに応え、背後にあったブルーシートを被せた何かを指す…察した流沢がブルーシートを外すとそこから現れたのはなんと、札束の山、山、山…!!
「これは素晴らしい…久々に温泉巡りもいいかも知れないな。」
「お!?いいねー!!明日からでも早速…って、あれ…?」
「おっ…おじゃっあああああああああああ!?」
依頼の報酬の使い道を考える巖鬼と流沢…だが、彼らがほんの少し…目を離した次の瞬間、確かにあったハズの札束の山がまるで神隠しにでもあったかの様に全て消えてしまっていた。
「ちょっ…ちょっと!ちょっと!こりゃどーゆーこった!?金がっ…!オレらの金がっ…!!」
「ひどい!あんまりだ!!これじゃ温泉に行けないじゃないか!!」
「よ…余は知らんでおじゃる!イリュージョンの使い手でもいない限りは誰も…って、ん?」
金が無くなったと知るや否や醜く喚き散らしながらその場に泣き崩れる守銭奴二人…灰汁田川もいきなりの事で何がなんだか解らないが、ふと隅の方に目をやるとそこには…
「ミスター・ドーマ!ナニヤットルンドスカ!?」
「イチ・ジュウ・ヒャク…ふむ、軽く億はあるな…。」
「おどれは何考えとるんじゃい!?この非常時に!」
「」
…犯人発見、危険も省みずに私欲丸出しで札束を抱えつつ数える軼真、怪しい日本語で彼を制止するロドリゲス、さらにはツッコミを入れる朧…カオスな状況に灰汁田川も思わず言葉を失った
「「何やってんだゴルァアアアアアアアアアア!!」」
「見て解らないのか?泥棒だっ!!」
「「認めやがったよ!コイツ!?」」
当たり前だが人様の金を堂々と盗む愚か者…否、軼真の姿に流沢と巖鬼は怒りの咆哮を上げたが、軼真はというとごまかすつもりも無いらしく、自分自身をハッキリ堂々と『泥棒』と自認した。最早この男には良識もクソもありゃしなかった。
「麗をさらったのはおどれやったんかい…灰汁田川…!!」
「ハッ!?お…お主は水無月!?」
「貴様…!よくも麗を…!
「う…うるさい!うるさい!うるさい!うるさいでおじゃる!お主が悪いのじゃ!!お主さえ…ミナヅキさえこの世に無ければ余の会社は…!!」
朧はトランクの中の拘束された麗と馬鹿殿…ではなく、灰汁田川の顔を見るなり、奴こそが今回の事件の黒幕だと悟った。この二人は以前から同じ自動車産業の経営者として熾烈を極まる程対立して争い続けてきた関係であった。
だがミナヅキカンパニーが世界的に成功している反面、アクタガワ工業はというと製品がほとんど売れず、年々経営状況がよろしくない状態…下手すれば来年には倒産してしまうくらい追い込まれている。これ程の差の開きと手腕の違いは灰汁田川にとって屈辱でしかなかった。要は彼の朧に対する自分勝手な嫉妬心がこんな卑劣な誘拐事件のキッカケになったというわけである。
「しかし…何故じゃ…!何故此処がバレたのでおじゃる!?」
「貴様の悪事は全て調べ上げた!悪代官!!前々から貴様のところの社員が水無月邸や学校をウロウロしていたし、この工場に至ってはアクタガワ工業の所有物、オマケに此処で何度かそこの二人と会ってたようだな!それが決め手だ!!」
「いや、待たんかい!遊んでばかりのお前がいつそんなこと調べた!?」
「遊びのついでだ!」
「そんな大事なこと『ついで』にすなァアアアアアアアアアアアア!!」
なんと、依頼をガン無視で遊び呆けていた軼真には全てお見通しだった。実はパソコンでネットをさまよっていたのはミナヅキカンパニーに恨みを持ってそうな企業を一つ一つ調べた中でアクタガワ工業に狙いを絞り、アニメショップ巡りはアクタガワ工業関係者の不穏な動きを徹底的にマークする際に暇だったので…そしてアクタガワの工場で灰汁田川が流沢と巖鬼の二人と密会していたという決定的瞬間もスマホのカメラ機能で納めてある…そのおかげで軼真は誘拐された麗の居場所を予測・特定出来たのだが、如何せんやり方があまりにも酷過ぎたため朧の血圧が上がった。
「うぐぐっ…って…よ、よく見たら、あの時のマスクの先公!?フザケンナ!このクソがぁああああっ!!テメーもそこの泥棒野郎とグルだったのかよ!?ああっ!?」
「ノー!!ゴカイカイカイデース!!」
「やはりあの時、殺すべきだったか…!!」
一方、まさか自分達の顔まで割れてたとは思わなかった流沢はロドリゲスが軼真と一緒にいるのを見て彼らが仲間同士だと気づき、ますます怒り…否…それすら通り越して殺意にまでハッテンしており、巖鬼に至っては学校でロドリゲスをキッチリ殺しておかなかった自分に激しく後悔した。
「さあ貴様ら!大人しく金をオレに渡せ!そうすれば命だけは助けてやる!まあ、半殺しの全治一生…って、ところだがな!」
「お、おじゃまァアアアアアアアアアアアア!?何ナチュラルに金を盗ろうとしておるでおじゃるか、お主は!?この場合は人質一択であろう!?」
「そもそも、半殺しの全治一生って何だァアアアアアアアアアアアア!?ただ単に殺すよりもヒデェよッ!!」
「コイツ…クズだっ…!まっこと正真正銘っ…!人間のクズッ…!!」
(今更気づいても遅いわい!)
あからさまに金が欲しいだけ…訂正しよう、金『だけ』が欲しいという気持ち全開な軼真の某ガキ大将よりも理不尽な要求に灰汁田川達が盛大にツッコみ、流石の朧も軼真の外道ぶりに関してだけは全くと言っていい程擁護出来なかった
「ええい、曲者めら…!!余の悪事を知ったからには生かしておけぬでおじゃる!!殺せ!流沢に巖鬼よ!そやつらを殺すでおじゃアアアアアアアアアアアア!!」
「へっへっへっ!依頼人様の許可が下りたしな、テメーら…あの世でオレらに詫び入れろや!!ギギ…がぁああああああ…!!」
「貴様らは我々を追い詰めたつもりだろうが、逆だ…!間抜けっ…!追い詰められているのはむしろ貴様らの方だ…!!ハッ…ハッ…おおおおお…!!」
もう後が無いと判断した灰汁田川は軼真達を殺す様に流沢と巖鬼に命じる。二人はその場で息を荒げ、獣じみた唸り声を漏らしながら激しくもがくと…
『ギギギ…ハァアアアアア…シャギャアアアアアアア!!』
流沢は全身をダークブルーの鎧やマント、色とりどりな貝や珊瑚で出来た装飾品で覆われ、背中にはマントを羽織っており、まるで海の王子を思わせる高貴な外見に武器として三ツ又槍を携えたイルカ型の異形の怪人に
『フー…フー…ヌゥオアアアアアアアア!!』
巖鬼は全身をブラウンの剛毛や黒いプロテクターなどに包まれ、頭には赤いモヒカン状の鬣、肩には無数のトゲを生やし、両手には巨大な鈎爪を装着、口元は鋼鉄製のマスクで覆ってる世紀末かつ非常に暴力的な外見をした大柄のヒグマ型怪人と化した
「な…なんじゃこりゃあああああああああ!!?」
「オー!?モンスター!?」
『違うな…!オレ達は「獣戦騎」ッ!』
『単なる人間如きとは訳が違う…。』
朧とロドリゲスの反応は無理も無いだろう…いきなり目の前でついさっきまで人間だった者が今では怪物じみた姿になったのだから…。
『獣戦騎』…通常、普通の人間は人間の遺伝子のみでしか生まれてこない、だが中には極めて、限りなく低い確率で『獣人遺伝子』という様々な動植物の遺伝子を持って生まれる者がいる。それこそが野生の本能を剥き出しにするがままに人間の姿から獣の姿へと変われる存在・獣戦騎なのである。
『さーて…っと、んじゃあキッチリとブッチブチに殺しちゃいますかァ!!バーン!!』
「どわぁあああああ!?ひっ…ひぃいいいいい!!」
「ウォウッ!?アワワワワワ…!!」
流沢…獣戦騎・ドルフィネスは軽口を叩きながら指鉄砲のポーズを取ると指先から水の弾丸を発射、朧とロドリゲスは情けない悲鳴を上げながら辛うじて回避した…だがその威力は恐ろしく、二人が立っていた場所の後ろにあった壁に見事なまでの綺麗な弾痕が一つ残っており、二人は戦慄した。もしこんなものが人体にまともに命中などしたらひとたまりも無いだろう…。
「お前ら!大丈夫か!?」
『人の心配してる場合じゃ…!!』
「!!」
『…無いだろうがァッ!』
「ぐあっ…!」
一応他人を心配する心は残っていたらしく軼真は二人の方に振り向くが、巖鬼…獣戦騎・グリズクローはその隙を逃さなかった。すかさず丸太の様な太い腕を薙ぎ払う様に振るって軼真を殴り飛ばしたのだ。
「ミスター・ドーマ!?」
「あんなアホ放っとけ!それよか麗を連れて逃げ…!?」
「できると思っておるでおじゃるか?んん?」
「しまっ…!!」
「ミスター・ミナヅキ!!」
非情にも朧は軼真を早々と見捨てて、愛する麗を救っておさらばするつもりだったが…駄目っ…!明らかにどっかの国で密輸しただろうマグナムタイプのハンドガンを構えている灰汁田川がそれを許すハズもなかった
「死ぬでおじゃる!!水無月ィイイイイイイ!!おじゃるマグナァアアアアアアアアアアアアム!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアス!?」
灰汁田川の奇声と共にマグナムの引き金は引かれる…水無月朧、五十四歳…残念無念!ゲームオーバー!第一部・完!
…とはいかなかった。何故ならば…
「ファイヤー…って、痛っ!ギャアアアアー!?」
「なんだ…!?」
灰汁田川の手に突如、電撃に撃たれた様な原因不明…謎の激痛が走り、マグナムを落としてしまう、これが幸いして朧は助かった。
「な…何が…!?ヒッ…ひぎゃあああああああ!?虫…虫でおじゃああああああああ!!」
一体何が起きたかサッパリな灰汁田川だったが自分の手をよく見ると、なんと手にはいつの間にか蜂が…それもオオスズメバチが数十匹もたかっており、それら全てが手を集中的に狙って毒針でブスッブスッと刺しまくっていた。灰汁田川が思わず悲鳴を上げる程の激痛の正体はこれだったのだ。
『あ…灰汁田川さん!?』
『スズメバチだと…!?イカン!早く助けねば…!!』
灰汁田川の悲鳴に気づいたドルフィネスとグリズクローはひとまず朧達を殺すのを止めて、依頼人様を助けに向かった…人間が蜂に複数回、それも短期間刺されると『アナフィラキーショック』という吐き気・目眩・呼吸困難に陥り、最悪、死に至ってしまうアレルギーショックを引き起こしてしまう。日本国内の蜂の中でも最も毒性の強い毒針を持つオオスズメバチなら尚更危険である。
「どこへ行こうというのかね?」
『ウゲッ!?お…おまっ…お前…!!』
『なんだ!?その身体は…!!』
「なんだ?銅磨、おどれ生きとったんかい…って、おげぇええええ!?」
「オーノー!!」
此処でグリズクローに殴り飛ばされた軼真の声がしたため、敵味方双方が振り返ると彼の今の姿を見て思わず目を背けた。なんと軼真の頭や顔、服の間など、全身のあらゆる場所が夥しい数のスズメバチに覆われており、その異様過ぎる…不気味極まりない姿に全員吐き気を催した。
「一応間に合ったみたいだな、感謝しろよ、オッサン。」
「やめろっ…!解った…助けてくれたのはありがたい…だが寄るなっ…今はっ!!」
「大丈夫だ。コイツらはオレの意のままに操れるからな。」
朧は養蜂業者さながらのいでたちで自分に近寄る軼真を追い払う。軼真曰く、このスズメバチ達は全てどういうわけか自由自在に操れる…いわば、忠実な下僕なので彼が『敵』と認識したもの以外には滅多に刺したりしないため、一応は安全らしいが最も…スズメバチまみれの人間なんぞに誰が近寄りたいか、朧からは思いっ切り非難・拒絶されてしまった。
『なんなんだ…お前は…!?』
「なんなんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け。」
それはそうだ。ただの人間が危険なスズメバチを自分の手足の様に操るなどという芸当が出来る訳が無い、軼真はグリズクローの当然の疑問に答えるかのように、スズメバチ達を頭部・胴体・両腕・両脚…纏う様に集めると、次の瞬間…。
「オレもお前らと『同じ』って事だッ!!」
『『はっ…!?』』
「こ…これは…。」
「ミスター・ドーマ!?マサーカ、アンタマーモ!?」
全身を覆うスズメバチ達がクリアブルーに輝く水晶をアチコチに埋め込んだ黄色と黒の蜂の腹の配色を思わせる色の装甲と化し、手には水晶で出来た刃の付いた槍、顔は蜂を模した仮面に、両眼がスズメバチを彷彿とさせる釣り上がった黒い複眼に変化し、最後には蜂の針をイメージした鉄鋲が付いた両肩に宝石の様な輝きを放つ美しい玉虫色の蜂の翅の様な装飾が生えた後…そこに居るのは最早、銅磨軼真という人間ではなかった。
『戦闘だ!とっとと始めるぞ!!』
中世の槍兵の様な姿をしたスズメバチ型の獣戦騎・ロンギヌス…それが今の軼真の名前である。
尚、獣戦騎は本来、己の身一つで変身するものだが、彼の場合はスズメバチ達を寄せ集めて一匹一匹全てを自分自身を強化する鎧として変化・一体化させることではじめて内に秘められた獣人遺伝子が覚醒め、変身出来るという特異なものであり、スズメバチは変身するための補助具の様な扱いだ。
『フンッ…なるほど、お前も獣戦騎だったのか、だが今更変化したところでお前の様なムシケラ、が…!?』
よもや軼真…ロンギヌスが獣戦騎だとは思わなかったグリズクローが油断した途端、彼の目の前にはいつの間にかロンギヌスが立っており、そして…。
『そぉいっ!!』
『ぶっ…!?』
『「「」」』
なんと、ロンギヌスはグリズクローの頭にどこから取り出したか?『バ・ナーナスカッシュ』なる缶ジュースを叩きつけ、中身をブチ撒け、さらには缶で頭を思い切りグリグリとなすりつけ、ただでさえ一般人でも本気で切れかねないふざけた事をやらかしたにも関わらずロンギヌスは更に余計な一言を抜かした。
『これから貴方様方に喧嘩をお売り致したいのですが、およろしゅうございますか?』
…もう充分売っている。
『ガウァア゛アアアアイ゛ギャアア゛オアェアガア゛ブァアアアアアアアアアー!!ギャオェギィエエエエエエエ!!』
『あわわわ…!!やべ…巖鬼の奴、マジギレしやがった!もう手ェつけらんねーってばよっ…!!』
『…と、いう訳でお前ら、アレの相手は任せる!!』
「「ハァッ!?」」
怒り狂うあまり訳の解らない怒号を上げながらこちらに向かってくるグリズクローを事もあろうにロンギヌスは朧とロドリゲスに押しつけ、自分はというとドルフィネス目掛けて弾かれた様に駆け出した。
『セイヤァッ!!』
『…って、オレェッ!?巖鬼をあんだけキレさせておいて!!』
槍の切っ先を突き出した状態で接近するロンギヌスに気づいたドルフィネスはすかさず三ツ又槍で槍の突進をガードした。グリズクローを怒りで暴走させておきながら何故ドルフィネスと先に戦うのか?その理由を問いただしたところ…。
『あのクマ公、デカくて強そうだから戦うの嫌だ。以上。』
『面倒臭いだけかよ!?どのみちアイツと戦う事になるのに!!しかもテメーのところの依頼人様とあのマスクメン放ったらかしで!!巖鬼に殺されちまうぞ!?』
『大丈夫、それはない!』
『その自信はどこから沸いてんだよ!?頭は確かか!?』
どうやら単にグリズクロー…というよりも、あの手のパワータイプのデカブツと戦うのが面倒なだけだったらしい。しかも自分の依頼人の朧と仲間(?)であるハズのロドリゲスを半ば囮扱い…普通ならばまずやらないだろうロンギヌスの戦い方にドルフィネスが正気を疑うのも無理は無かった…。
『解った!解った!よーく解った!テメーがまともじゃねーってのが!!だったらオレもまともな戦い方する必要は無ェーな!!』
『む…?』
ドルフィネスはそう言うと自分の身体から霧を発生させて身を隠し、その場から離れた…一体何処に消えたのだろうか?
『バーンッ!!』
『!!』
やがて霧も晴れ、ロンギヌスが探して回っていると頭上から声がしたのて見上げると、いつの間にか出来ていた水柱の上からドルフィネスが両手を突き出して構えており、全ての指先から先程朧とロンギヌスにも放った水の弾丸を発射、それもマシンガンの様な連射を繰り出して攻撃した。
『ヒャッハァアアアアアアアアー!!ほらほら!どうした!どうした!?ギャッハハハハハハ♪』
「ぎゃあああああああああああああ!!」
ドルフィネスは集中豪雨の如き水の弾丸の勢いを止める事なく発射・発射・発射…!一発一発全てが見事に命中した…!
「お…おじゃ…あ…がががが…が…ガクッ…。」
『ふぅー…いやぁ、さっきの攻撃は危ないところでしたねぇ。近くにいい盾があってよかったよ。』
『』
…無数のスズメバチに刺されてのたうち回っていた灰汁田川に…尚、本来の標的であるロンギヌスはというと灰汁田川を『近くに立っていたお前が悪い』と言わんばかりに盾に使ったため一発たりとも当たってなどおらず、ドルフィネスは自分のした事は元より、ロンギヌスの非人道的極まりない行為に血の気が引いたかの様に顔を青褪めさせ、絶句した…。
一方、朧とロドリゲスはというと…
『ギャボロ゛ロ゛ロ゛アガゲバァグァア゛アアアォエ゛エエエエ!!』
「うっぎゃあああああああああああ!!?」
「ヘルプミー!!」
怪獣映画の世界で怪獣の猛威に襲われている最中の哀れな脇役Aと脇役B…それが今の朧とロドリゲスの心境だった。耐え難い屈辱を受けた結果…言語機能を失い、怒れる野獣と化した化け物から逃れるため、二人はダッシュで工場内を某青い針鼠になった気分で縦横無尽に駆け巡った。
「いやぁああああああああああああ!!こっち来んなァアアアアアアアアア!!」
「ワラーシ、故郷ノメキシコニ帰リタイデスタイー!!」
実は獣戦騎であった軼真と違い、ミナヅキカンパニーの会長という以外、単なるオッサンでしかない朧と小市民的な謎のプロレスラーなオッサンでしかないロドリゲス…そんな一介の二人のオッサンがマジモンの怪物相手に何が出来ようか?そう、逃げの体勢しかなかった…。
「…って、ひぃいいい〜!行き止まりっ…!行き止まりやっ!」
「ママーン!!」
幸い動きは自分達の方が早かったため、走る速度がやや遅いグリズクローを上手く引き離す事には成功したものの、行き止まりに…完璧に詰んだ。
「五里霧中…四面楚歌…孤城落日…油断大敵…我、今、生涯における絶対的窮地…!!」
「ミスター・ミナヅキ!モウオシマイレース!ココーハ、ニッポンポンノ伝統ニ従イ、ハラキリシマショー!!」
「ア…アホ抜かせェ!誰がするか!ダボが!死ぬんなら自分だけ死なんかい!クズ!クズめ!!どいつもこいつもクズばかり!!嗚呼…もうここまでか…!こんなクズ共に頼ったワシが馬鹿だった!」
朧は涙目で切腹を奨めてくるロドリゲスを突き放す様に蹴り飛ばした挙げ句、見苦しく罵っては、頭を抱えながら軼真を雇った己の人生最大のミスを呪い、悔しさのあまり全ての空間がグニャ〜と捩曲がった錯覚に陥る…
(畜生、畜生、畜生っ…!奴めっ…!なんの恨みがあってワシにあんな化け物をっ…!どないせぇ言うんじゃ…!!)
なんでも聞いたところによれば銅磨軼真なる男はありとあらゆる様々な戦地を生き抜いた凄腕の傭兵部隊の一員らしく、その腕を見込んだのがそもそもの軼真を頼ったキッカケだったが、思い返せば軼真を訪ねに行った時、『サッサと引き返せ』とあの時の自分を殴りつけてでも止めたい気分だが気づいた時には後の祭り…依頼人である自分の言うこと聞かないばかりか人様の財産を貪り喰らうかの様な寄生虫生活するわ…そして今、現在に至る。
(何故っ…何故なんだっ…!何故ワシを貶るっ…ハッ…!?)
そして朧は辿り着いたっ…!ある結論にっ…!
「麗ィイイイイイイイイイイイイ!!」
「ホワッツ!?」
「そうか…そういうことだったんかい…あの男…最初っから…手を出す気だろ…!娘に…!」
「…エーット…ミスター・ミナヅキ?ミスター・ドーマノ性格カラソレハ無イカト…?」
何をどう解釈したのだろうか?朧は最愛なる娘・麗が目当てで軼真が自分をここまで陥れたのだと…今の彼はそう信じて疑わなかった。だがロドリゲスは逆にそれは無いと信じて疑わなかった。
「とぼけてもダメだ…!男はみんな狙っている…!美人だから…!ウチの麗は…!」
「自分デ言ッタ!?ダカラアノ人本当ニ興味無インデスッテバ!!」
そもそもそんな理由は最初から最後まで全て間違ってる。父親の朧に興味が無い軼真がどうして娘の麗に興味が持てようか?加えて軼真本人との接点は殆ど皆無…本来教師として潜り込む予定ではあったが全てロドリゲスに丸投げ、ついでに言えば軼真はというと年下趣味も未成年少女に対する愛好趣味…即ちロリコン的な性癖も無いのだ。根拠もクソも無いあまりにも突飛過ぎるトチ狂った結論を下した朧にロドリゲスはツッコまずにいられなかった。
「未成年淫行っ…!逮捕っ…!ロリロリロリロリロリロリロリロリッ…!」
「壊レタッ!?」
愛故に一人の父親が一匹の修羅と化した瞬間だった。
『ガウァアアアアアイギャアガオバァアアアアア!!』
「ワァアアアア!?キター!!」
「おどりゃああああ!!クマがなんぼのもんじゃあああああい!!」
『ガボボォッ!?』
「オー!?ナイスプレイ!ミスター・ミナヅキ!!」
「軼真を殺るまでは死ねんわ!!」
とうとうグリズクローが二人に追いつき、爪を目茶苦茶に振り回しながら迫るが、朧はさっきの逃げてばかりの腰抜け全開ぶりが嘘の様に勇猛果敢に自分から挑み、近くにあった自動車用塗料の缶を頭に叩きつけ、ブチ撒けられた塗料によってグリズクローの視界を遮り、再び逃げ出した。
その頃、ロンギヌスとドルフィネスはというと…。
『おい!もういい!やめろ!やめねーか!!頼む!やめてくれ!いい加減人質を解放してくれ!!』
『やだ。』
「あがばば…お…じゃば…ま…」
『ちぇ…ちぇめー!!ふざぎんなッッッ!!』
ドルフィネスは未だに灰汁田川を人質にして自分の水弾攻撃を凌いでいるロンギヌスの卑劣極まりない戦い方に激怒するあまりに声が裏返って変な声になってしまった。
『ハッ!?そうか!ならこっちも…やりたかなかったが仕方ない!!』
『なんだ?』
人質を持った話の通じぬ馬鹿相手にドルフィネスに名案が浮かび、発生させた何本もの水柱を伝い、自分が使っていた盗難車に向かう。
『ハハッ!どーだ!見たか!?オレも人質取ったぞ!コラ!』
『だから?』
『今すぐ灰汁田川さん解放しろ!!さもなきゃ、この女の子になんか…こう、アレだ!アレ!エロいことするぞ!!』
『なんだと…?貴様っ…!ふざけろっ…!それでも獣戦騎かっ…!!』
『全く同じ事してるオメーにだけは言われたかねーよ!!』
ドルフィネスは盗難車のトランクから麗を引っ張り出し、いつでも弾丸を放てる様に指先を彼女の頭に突きつけながらロンギヌスに灰汁田川の解放をするように一応麗を使って脅迫するが、ロンギヌスは自分の事を棚に上げてドルフィネスを非難しただけで一向に解放する素振りを見せない
『解った!だがそっちの人質はどうでもいい…金だけオレに全額寄越せ!』
『ま・だ・言・う・か・!?依頼人様の娘そっちのけで「金くれ」って人としてどーよ!?それからせめて半額くらいに遠慮しろ!全部なんて暴利だろが!?』
『ふざぎんな!!一円たりともまけられるわけないだろうが!!』
『馬鹿野郎…馬鹿野郎ぉおお…!そんなの…こっちの台詞だろうがぁああ…!通るかっ…!通るかっ…!そんなもんっ…!!』
狂気…!最早ロンギヌスの金への執着と貪欲さは狂気の領域っ…!まともじゃないっ…!人として最低限の良識もクソも持ち合わせていないような奴にどうして自分が理屈で敵うなどと思ったか?ドルフィネスは怒りを通り越して悔しさのあまりに、ボロ…ボロ…と涙が出て来た。
…と、この謎の膠着状態が続く最中…。
『ギャガウアバガラバァアアアアアアア!!』
「「ウォアアアアアアアアアアアアアア!!」」
『…え?』
眼に入った塗料のせいで前が完全に見えないグリズクローに追いかけられながら、朧とロドリゲスが再び元気過ぎる姿で舞い戻ってきたのだ。
「麗ィイイイイイイイイイイイイ!!おらぁあああああああ!!」
『しまっ…!?』
「ハイーッ!!」
『げぶるべはっ!?』
朧は人質の麗を引ったくる様にドルフィネスから奪い取って見事に救出し、さらにはオマケとしてロドリゲスがラリアットをブチかました。
『ガウ゛ァアア゛アアアギャアアオアェアガゴァアアアアア!!』
『あいたたた…あの覆面レスラー…って、ちょっ…!巖鬼…!?よ…寄るなっ…!』
更に追い討ちの様に暴走したグリズクローがドルフィネス目掛けてトラックの如く突っ込んできた。無論、避ける暇も無く…
『あじゃぱー!!』
『ガギャアアアア!!』
二人仲良く激突…!
『貴様ら!よくやった!』
「なにが『よくやった』やねん!このドアホッ!!それよりも貴様…よくもワシの娘に×××しようと…!!」
「ミスター・ミナヅキ!被害妄想ガ、更ニスッゴイコトナッチョンヨ!?」
二人を危険に晒しておきながら舐めた口利くロンギヌスの顔を見た途端、朧は十八禁に突入しかねない猥褻用語を抜かしながら胸倉を掴んできため、ロドリゲスに羽交い締めされて止められる。
『さて、トドメだ…!!食らえ!!はぁあああああッ!!』
ロンギヌスは手持ちの槍を右手に持つと、槍が手の平の中に吸い込まれていき、右手が蜂の針を模した巨大な槍と化し、背中から翅を生やして既に虫の息のドルフィネス・グリズクローに向かって飛翔…。
『ゼヤァアアアアアアアアアアアアア!!』
『『ぐぎゃああああああああああ!?』』
蜂の一刺し…!文字通りの一撃必殺…!目にも止まらぬ速さで繰り出された高速の突きにより二人の獣戦騎は度重なるダメージのためボロボロな人間の姿に戻った状態で工場の窓をブチ破って遥か彼方まで吹き飛ばされた…。
(…まさか私達がやられるとは、奴は一体…ハッ!?)
今の攻撃でようやく正気に戻った巖鬼は薄れゆく意識の中、あることを思い出したのだ。
(聞いたことがある…獣戦騎だけで構成された傭兵部隊のことを…確か、その部隊を率いていた隊長は蜂…スズメバチの獣戦騎…まさか…奴は…奴、はっ…!?)
そこで巖鬼の意識は途絶えた…。
その昔、様々な紛争地域を駆け巡り、それら全ての戦いを生き抜いた獣戦騎だけの特殊傭兵部隊『セリアンスロープ』、人数にして十人にも満たないが一人一人が一個小隊に匹敵する実力を持っている…だが、部隊は数年前に突如解散、その後、隊長はおろか部隊員達については誰も知らないという…。
この事件後、流沢と巖鬼は行方不明、灰汁田川は麗の誘拐事件の主犯として逮捕、これが原因で各メディアによってアクタガワ工業は思い切り叩かれまくり、遂に倒産…自分の会社のために走った狂行が自分の首を絞める事になろうとは皮肉な話である…。
翌日・水無月邸。
「お父様、銅磨先生はどちらにいらっしゃるかしら?」
「れ…麗っ…!?あんなニセ教師になんの用だね…!?んんっ…!?」
「何って…私を助けてくれた御礼がしたくて…」
「お…お…御礼だとぉっ…!!?まさか…まさか……!!」
麗は自分を救ってくれた軼真(本物)に御礼をと探していたが、それを聞いた朧はまたもや有りもしないあらぬ事を妄想し、激しく狼狽する。
「さっきから探しているのだけれど、全く見当たらなくて…。」
「…そういやあの男、昨日から全然見かけてないな…。」
しかし、肝心の軼真本人はあの後、彼の姿はおろかロドリゲスすら屋敷内にいなかった…仕方なく朧は軼真の(監禁)部屋へと向かうが…。
「おい!引きこもりの居候!!此処に居るのか!?」
部屋の鋼鉄製ドアをこじ開け、不法侵入するが愚か者二人の姿は影も形も無かった。
「アイツら何処に…んむうっ!?なっ…ななっ…なぁあああ〜!?」
この部屋にもいない事からどうやら二人は帰ってしまった様である…と、ベッドに置かれた何枚の置き手紙みたいなものに気づいた朧はそれを拾って読むと、彼は瞬時に火山と化した
「なんじゃあこりゃあーッ!!?通るかっ…!通るかっ…!こんなも〜んっ…!!」
それはピザやらラーメンやらの出前、ネットゲームの課金代金、アニメのDVDやCDなど通販で取り寄せた商品の請求書、その他諸々…これらの総額、しめて110万とんで7,760円也…。
一方…。
「これ嫌い、やる。」
「ノー!?ヤメテクダサーイ!!」
問題の軼真はというと、町のラーメン屋にて味噌ラーメンのキャベツの芯をロドリゲスに押し付けていた…。
獣戦騎・ロンギヌス…銅磨軼真、次の戦場は果たして…?
どうも皆様、槌鋸鮫です。今回の短編はまた酷過ぎるギャグ寄りな内容ならびにどっかで見たようなネタが多数、異様なまでに長い内容、ヒロイン目立たないなど…反省点ばかりで大変申し訳ありません(汗)
そして問題なのは以前、二次創作関係の小説のキャラだったのを一次創作用に設定を大幅変更した本作主人公・銅磨軼真…最早原型すら留めちゃいないタダの金の亡者…ダメ人間の典型…どうしてこうなった(泣)ついでにいうと主人公の変身体である獣戦騎・ロンギヌスを蜂に因むのは無理矢理過ぎた上に聖槍要素皆無…(コラ)
軼真は元よりキャラ崩壊と言えば朧は途中から中途半端に関西弁キャラだったりロドリゲスはそもそもノリで出してしまっただけ…(←!?)しかしオッサン二人は書いてて楽しかったですね
ネガティブになった上後書きになってないようなことばかりですみません、最後に簡単に用語説明&イメージCVという名の妄想を…
獣戦騎:人間の内に秘められた獣の遺伝子『獣人遺伝子』を呼び起こす事によって変化した姿、個人個人によって変化する獣の姿は違う、名前の由来は狂戦士などを意味するベルセルク+バーサーカー+バーバリアンなど意味合いや語源が似たようなものを掛け合わせたもの
セリアンスロープ:軼真がかつて率いていた獣戦騎のみで構成された傭兵部隊、構成員は七名、名前の由来は獣人の英語読み・セリアンスロープから
以下、イメージCV
銅磨軼真/ロンギヌス:中村悠一
水無月麗:桑島法子
水無月朧:二又一成
ロドリゲス・ビアンコ:乃村健次
流沢聖也/ドルフィネス:坂口大助
巖鬼轟馬/グリズクロー:安元洋貴
灰汁田川三太夫:塩屋浩三
それでは、またどこかでお会いしましょう、槌鋸鮫でした!