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二人目の賢者の末裔

受付の無愛想な女に通された訓練場で、しばし待つように言われたテイとレピスは、なんとなく中を見て歩いていた。

 中は天井の高いドーム上の建物で床は茶褐色の粘土を踏み固めたようなつくりだった。

 周りには訓練用の器具や、サンドバック等があったが、この時間は誰も使用者がいなく静まりかえっていた。

その中でテイとレピスが物珍しげに練習器具を見ていた時だった。

「おい、おまえ!」

急に背後から声をかけられて、テイは慌てて振り返った。

すると一人の謎の男がスピアを持って飛び込んできた。

「あ、あぶない!」

テイはとっさに横に避けるとスピアは空を突き、謎の男がバランスを崩した。

次にテイは、自分でも驚くくらいに素早く鈍ら刀を抜いて、男に突きつけた。

「何をするんだ!」

 剣先を突きつけられた男は動きを止めていたが、ゆっくりとテイの方を見た。

 男はテイと同じ歳くらいで、ストレートの銀髪を掻き上げて、鋭い目でテイを見つめながら問いかけてきた。

「おまえがセントガルドの賢者の末裔か?」

「君は一体」

 銀髪男はスピアの先を上に向けて地に立てると、そこに半身をもたれかけるようにして小さく笑いながら自己紹介を始めた。

「俺はエストガルドの賢者の末裔……あ、あれ? テイじゃないか?」

 急に自分の名前を言われたテイは、自己紹介も途中の銀髪男の顔を改めて見直した。

「え、そういう君はルイ、じゃないか?」

「久しぶり! 元気してたか?」

 急に肩を抱き合いながら仲良く二人で盛り上がる様を見て、レピスは困惑していた。

「ちょっと、ちょっと。二人は、知り合いなの?」

 レピスの問いかけにテイが答えた。

「同じノス・イスト村の出身なんだよ」

「そうそう。小さい頃からあそこでともに遊んだ幼馴染だよな」

「しかし、自分が賢者の末裔だったのも驚いたけど、同じ村出身のルイもそうだったなんて意外だよ」

テイにそう言われて、ルイも少し思案するように呟いた。

「ということは、やっぱり三賢者の末裔って、3人ともあの村出身者ってことなのか」

「どういうことだよ」

「イストガルドにいる賢者の末裔ってボウスだって話だぜ」

「ボ、ボウスが?」

 テイとルイの会話が盛り上がっていたが、レピスが間に入って質問をしてきた。

「待って。幼馴染の3人が賢者の子孫だってことだけど、そもそもノス・イスト村出身だって言ったけど、そんな名前の村あったかしら?」

 レピスの質問にテイが笑顔を向けて答え始めた。

「ああ、レピスさんは知らないの無理ないよ」

「ど、どうして?」

 レピスの疑問にルイが口を挟んだ。

「ノス・イスト村は隠れ村だから」

「隠れ村?」

 ルイがレピスの方を見た。

「ああ。三賢者が万一の時のために作った隠れ里なのさ」

 ルイの言葉に続いてテイが再び説明を始めた。

「そう、賢者の血を絶やされないように、魔族たちに秘密で作った結界に囲まれた村なんだよ」

「あの村の中の誰が賢者の末裔か知らされていなかったけど、まさか俺らとはなぁ」

「ほんとだよ」

 再び盛り上がってきたルイとテイとは反対に、何事か思うところがあるようにレピスは下を向いて呟き始めた。

「そ、そんな村があったんだ」

(どうして毎回根絶やしにしても、ゴキブリのようにどこからともなく賢者の子孫が現れるかと思っていたら、そんな場所があったなんて……)

 そうレピスは思ってみたものの、今となってはもはやどうでもいい事実だった。

「そうだ、今度レスピさんも連れて行ってあげるよ」

 なにも知らない罪なき笑顔をたたえながら、テイがレピスに話しかけた。

「あ、あたしが? ダメでしょ、それ」

「別にだめじゃないさ。セントガルドとイストガルドからは結構近いんだよ。地図でいうとここかな」

 テイがバックから地図を出して指をさした。

「あー! あ、あたしの前で地図指差しちゃうとか、ダメなんじゃ……」

 突然焦ったようにレピスが手を振って遠慮し始めたのでテイとルイは不思議そうにレピスの顔を見た。

「え?」

「え?」

「い、いいの?」

「別に魔族に教えちゃうわけじゃないからいいに決まっているでしょ?」

 意外そうな顔をしながらルイがレピスに答えた。

「そ、そうなんだ……」

(やっぱ魔族に教えちゃダメでしょう……)

 レピスが心の中で見なかったことにしてあげたことなど、賢者の末裔二人は知る由もなかった。

「テイ、ところでさぁ」

「なんだよ」

 ルイが改めてレピスの方に視線を向けながらテイに質問してきた。

「今更だけど、この女性は誰なんだ?」

「ああ、レピスさん。一緒に旅をしているんだ」

「レピス・レイズリィです。テイさんにお世話になってます」

 レピスが改めてルイに挨拶をした。

「ふーん。2人はどういう関係?」

「いや、ただの旅友だよ」

「あ、あたしがオーク3匹に襲われているところをテイさんが助けてくれて」

 レピスの言葉を聞いてルイが驚いたようにテイの方を見た。

「テイ、オーク3匹と戦ったのか?」

「あ、いや、なんか成り行きで」

「すごいなぁ」

 ルイが感心の眼差しでテイを見ていた。少し照れたテイのそんな姿を見てレピスは、まるで自分の事のように嬉しい気持ちになっていた。

「それで、わたし、魔法が使えるんで恩返しとして一緒に旅に連れて行ってもらっているんです」

「魔法?」

 ルイが意外そうにレピスを見つめた。ルイから見たレピスは、そこいら辺にいる普通の女の子(とはいえ自分たちより年上には見えていたが)と思っていたので、魔法使いなどと、にわかに信じがたかった。そんな雰囲気を感じたテイがルイに説明し始めた。

「本当なんだよ。アンデッドに囲まれた時、レピスさん厳つい天使を召喚して一掃してくれたんだよ」

「ええ、まあ……(正確には堕天使なんだけどね)」

「そんなすごい召喚魔法使えるんだ」

「そうなんだよ。心強いよ」

 テイがレピスの肩に手を置いた。レピスは一瞬テイの手の温もりに顔が赤くなったが、照れを隠すようにテイの背中を叩いた。

「そ、そんな。たいしたことじゃありませんよー!」

「レ、レピスさん、痛い、痛い」

「あ、いや、二人ともさ」

 じゃれる二人に、ルイが素朴な疑問を投げかけてきた。

「レスピさん、なんでアンデッド一掃できるのにオーク三匹倒せないんだ?」

「あ、そ、それは……」

 レピスが口ごもっているとテイが自信満々に話し始めた。

「うん、俺も最初その疑問にぶち当たったよ」

「テイ君……」

「彼女はさ、基本、癒し系なんだよ」

「え? じゃあ、俗に言う『白系魔法使い』ってやつか」

「そうなんだよ。だからアンデッドを浄化したり、傷を治したりは得意なんだよね?」

 テイのナイスなフォローで状況が好転したレピスは、慌ててテイの言葉に乗っかった。

「そ、そうですね。そうなんです!」

「じゃあ、もし俺たちが死んじゃっても蘇生とかできちゃうんですか?」

 ルイの質問にレピスが満面の笑顔でVサインを出して答えた。

「ばっちりですよ」

「頼もしい!」

「死体を動かすのは得意中の得意ですから」

 急に微妙な空気が流れた……

 『蘇生』といったら

 『死体を動かす』と返ってきた事による、

 何か噛み合わせが悪い歯車が発するうめき声が聞こえてきそうな、微妙な空気が。

「え?」

「え?」

「はい?」

 一瞬の沈黙の後ルイがゆっくりと口を開いた。。

「あ、なんか、今のニュアンスだと『死人使い』のような」

 ルイの言葉で、やっと自分の失言に緩やかに気がついたレピスが慌てて取り繕った。

「あ、あ、違うんです、えっと、完全な蘇生はまだ修行中で、その、半死状態に戻せるというか」

 レピスの言葉をフォローするようにテイも口を開いた。

「完全蘇生なんてやっぱ教会まで戻らなきゃ無理だろう」

「そう言えばそうだよな」

 ルイも納得して小さく頷いた。

「ごめんね、レピスさん。無茶なこと言っちゃって」

「あ、いいんです。ごめんなさい、半人前で」

「俺たちだって半人前だしな。お互い力あわせていこうよ」

「おう」

 意外と小さな事は気にかけずに流していく賢者たちであった。

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