やってきた エストガルドへ
テイとレピス。二人は死人が眠る湿地帯を抜けて単調な道を歩いていると、徐々に眼に入ってくる緑が増えてゆき、しばらくすると木々に囲まれた中規模の街が姿を現してきた。
「ここがエストガルドか」
テイは大きな木々が城壁のように囲むエストガルドの街の門をくぐりながら大きく伸びをした。そんなテイの姿を見ながらレピスも同じように少し体を伸ばした後で街の説明を始めた。
「エストガルドは黄泉の湿地、魔女の森、ドワーフの森に囲まれた中規模発展レベルの街。特産品は農作物と織物よ」
「さすがレスピさん、いろいろなところを旅しているんですね」
「もちろん。この国の全てを把握しているくらいよ」
なんだかやっと自分の持つ知識がテイの役に立っていることに、レピスは小さな喜びを感じ、少し得意げに笑みを浮かべた。
(ああ、これよこれ。人間として助け合って生きていく。これこそがわたしの望んでいたもの。わたしの知識をフルにいかしちゃわなきゃ)
「よし、早速三賢者の子孫を探そう。でもどうやって探せばいいのかなぁ」
テイの質問にレピスは素早く頭を回転させて自分の経験から生まれる答えを提示した。
「情報収集の基本は、まずは街の長に会って、締め上げるのが早いわよ」
「し、締め上げる?」
「あ、そ、そうじゃなくて、教えてもらうのが一番早いわよ!」
レピスは慌てて訂正した。
(ヤバイ、テイ君は魔族じゃないんだから、今までのような言動は注意しなきゃ)
「あ、なるほど、教えてもらうのか。レピスさんって、ホント物知りですね」
「そんなことないよ。テイ君が知っていて、あたしが知らないことなんてたくさんあると思うよ」
「例えばなんですかね?」
「えっと、セントガルドのこととか」
レピスは咄嗟のことでなにも考えていなかったので思いつくままに言ってみた。
「セントガルドには行ったことないんですか?」
「お城があって警護が厳しいからね」
「いや、警護厳しくても、魔族じゃなければ普通に通してくれますよ」
「え? あ、あたしは、魔族じゃないわよ!」
急にレピスの声のトーンが上がったので、テイはいささかびっくりしていた。
「わかっていますよ。今度一緒に連れて行ってあげますよ」
テイはレピスをなだめるよう言った。
「お、お城に? い、いや、まぁ、結界が面倒くさいから……」
「結界?」
「あ、いいの。うん、行く行く。招待して」
「はい!」
2人は街の中を物珍しげに見ながら中央庁舎の門をくぐった。
すると、入ってすぐのテーブルに無愛想な表情の女が座っていた。
「あの、すみません」
女は見た目二十歳そこそこで、黒く長い髪を無造作に後ろで束ねていた。銀縁の眼鏡の奥から髪と同じ黒い瞳が鋭く、そしてだるそうにテイたちを睨んだ。
「なに?」
話しかけられた女は、面倒くさそうに答えた。
「俺、セントガルドからきたテイといいます」
「で?」
「実は三賢者の末裔を探していまして」
眼鏡の女は神経質そうな眼差しでテイの顔を見た。
「あなた、三賢者とどういう関係?」
「俺はセントガルドの三賢者の末裔です」
「それ、先に言いなさいよ」
「すみません」
謝るテイを無視するように、続いて眼鏡の女はテイの後ろに立っていたレピスの顔を見た。
「で、そっちの彼女は誰?」
「あ、あたしは」
どう答えようかと思っていたレピスの前に、テイが答えた。
「彼女はレピス。旅のお供です」
「2人はどういう関係?」
「どういうって」
「恋人?」
「え、いや」
テイが『恋人』なんて思いもよらない二人の関係を聞かれ答えに詰まっていると、レピスが真っ赤な顔をして、焦ったように手を振って否定した。
「ち、違います! そんなんじゃありません」
「そんなムキにならなくてもいいじゃない」
「た、確かに」
なぜかテイが少し気落ちしたような表情になっていたが、眼鏡の女は構わず立ち上がった。
「いいわ。ついてきて」
無愛想な女に連れられて2人は『訓練場』と書かれた部屋に案内された。