魔王、復活の時
それはテイとレピスが出会う数ヶ月前のことだった。
魔王は暗い闇の中にいた。気がつくとこの場所、漆黒の闇の中に居た。
その身を封印され、長い年月の内に肉体は崩れ灰となったが、魂は眠りに付いたままそこに存在していた。いつしか目覚め、そして肉体を再生していくにつれて意識が目覚めて行った。徐々に目覚めるにつれ、かつての記憶も蘇ってきていた。
魔王は思っていた。
なぜわたしは、また目覚めてしまったのか。自らの業のためなのか、望まずとも魂が消えぬ限り、肉体は蘇る。
我の事を皆は魔王と呼ぶ。わたしは永い眠りから蘇った。なんのために? それは世界をこの手におさめるため。再び人間どもを蹴散らして魔の者の世界にするため。
「はぁ。だるいわ。いい加減」
何度そんな事を繰り返しただろう? 自らの肉体が不滅なように、人間たちも何度となく自分と戦い、そしてある時は勝ち、ある時は負ける。いい加減自分の生き方に辟易していた。
「やめよう。もう」
魔王はそう思い立ち、大きく伸びをすると暗い部屋を出た。まだ城内には多くの魔物たちが眠っているようだった。きっと自分が目覚めたことによって、彼らも肉体を取り戻し、目覚め始めるだろう。
「面倒なことになる前に、どこかに行こう」
暗い城の外を出ると青空が広がっていた。魔王は大きく空を仰ぐと深呼吸をした。
「わたしは生まれ変わったんだ。これからは違う生き方をする! うん、そうしよう」
すがすがしい気持で、吸い込んだ息を大きく吐き出した途端、空に暗い雲がかかり始め、大地を冷たい風が吹き始めた。
「ちょ、ちょっと、なんでそうなるのよ!」
魔王は自らの体から放出している負のエネルギーを慌てて制御し、抑制した。
魔王の名前はレピス・レイズリィ。かつて魔王ラアピスと呼ばれていたが、生まれ変わったその姿は、長く赤い髪と大きな瞳を持った十八~九歳くらいの女性だった。
以前は厳しい鎧甲冑に黒いマント、チェーンの付いた大きな鎌を振り回していたが、 そんなものは一切城に捨てて、着の身着のままで旅に出ることにした。だから一見してもその辺の人間の少女と見た目は変わらなかった。
「ここからが、わたしの新たなる人生の始まりよ! そう、『人生』。わたしは一人間として、ひっそり楽しく暮らすのよ。もしかして、恋に落ちちゃったりして……」
彼女は意気揚々と広大な台地を歩き始めていた。