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ちょっと早すぎたような宿命の出会い

「旅に出てみたはいいけど、どうするんだこれ」

 街を出て歩きだしたテイは一人呟いた。

こうして魔王復活に対して三賢者の末裔であるテイは魔王の封印のために、セントガルドからエストガルドとイストガルドにいると言われる残り二人の三賢者の子孫を探す旅に出たのであった。

補足しておくと、テイはそれほど武術剣術に長けているわけではなく、基本的に真面目でちょっと弱気の普通の少年であった。

とりあえず腰には剣、肩から掛けたバックには少しの食料と城から送られて姉に半分使われた給金。そして地図と『フィールドの歩き方シリーズ② ハウ トゥ バトル』が入っていた。

空は青く、はるかかなたに雲が少し見えるだけであった。温かい日差しが少し冷たい風を心地よい程度に和らげてくれていた。鳥は囀りながら羽ばたき、木々の葉がこすれる音も平和そのものであった。

テイは、まずはエストガルドに向かうために草原を歩いていた。

しばらく歩いていると何かの声が聞こえた。獣の声のようで複数聞こえてきた。テイは警戒しながら声の聞こえる右前方の茂みの先へ入って行った。

「やだなぁ。もし怪物とかだったらとりあえず走って逃げよう」

茂みの先に大きな木が生えており、その向こうから獣の声と人の声が聞こえてきた。

「ん? 誰かいるのか?」

好奇心を押さえられず、テイは木の陰からそっと覗いた。見ると、3匹のオークがいて、その前に一人の少女が立っていた。

少女はテイよりも2~3歳は年上に見えたが、7つ上のテイの姉よりは幼く感じた。

身なりはやや年季の入った短めのポンチョのような布を被っており、足元はキルトから延びた白い足に、足首超えるくらいのサンダルを履いていた。

身長はテイと同じくらいありそうで、背中に届く位の少しウェイブの入った長い赤毛、そして大きな瞳が目の前にいた3匹のオークを睨みつけていた。

「や、やばい。女の子がモンスターに襲われている」

テイは剣に手をかけたが、一瞬躊躇して木の影に隠れてしゃがみこんだ。

「で、でも、オーク3匹って、俺一人で倒せるか? 一匹だってやばいのに」

テイは迷っていたが再び立ち上がった。

「でも、ここで見捨てるわけにもいかないし、とにかく、オークたちの意識をこっちに引いて、走って逃げるようにしよう」

それくらいなら自分でもできそうな気がした。大きく息を吸って、気持ちを落ち着けてみた。

「よし、いこう!」

テイは剣を抜いて、勢いよく木の陰から飛び出した。

「君、大丈夫かい?」

少女とオークが一斉にテイの方を向いた。かなり緊張したが、テイは剣を振ってオークを威嚇した。

「え、あ、は、はい」

少女は少し震えたような様子でテイにか細く答えた。テイは剣を構えてオークを威嚇しつつ、少しずつ少女に近づいてから囁いた。

「あ、あの、俺がこいつら抑えますから、その、隙見て逃げてください」

「に、逃げる?」

「俺、あんま強くないんで、隙見て逃げてください!」

テイは少し体が震えたが、半分どうにでもなれといった感じで思い切ってオークに飛び掛ってみた。

「いやぁ!」

あっさり一撃目はかわされたが、何度か振っているうちに剣はオークの体にヒットした。

「ぐわ!」

「ぐふ!」

剣は鈍らだったのか、オークの装備がよかったのか切る事はできなかったが、打撃としての効果はあったようだった。オークたちは走って逃げて行った。テイはホッと一息つき、まだ興奮さめやらぬ、震える手を彼女に差しのべた。

「大丈夫?」

「あ、は、はぁ。あたしは大丈夫です」

「こんなところに一人で?」

「あ、えっと、一緒に居た人たちとはぐれてしまって」

「どこかへ行く途中だったの?」

「あ、いえ、はっきり言っちゃえば当てもなく」

「そうなんだ」

「はい」

その時、少女のお腹が鳴った。テイは少女と顔を見合わせたが、少女は別に恥ずかしがるような感じでもなかった。

「あのさぁ」

「は、はい」

「お腹、空いてない?」

「す、空いてます!」

「なんか食べに行こうか。あ、俺の名前はテイ、テイ・ワイトポット」

「わ、わたしは、レピス・レイズリィ」


二人は近くの村に立ち寄り、村に唯一ある宿屋の1階で営業している酒場で、食事をすることにした。テイの予想以上にレピスと名乗った彼女は食べまくっていた。

「本当にお腹が空いていたんだね」

皿から顔を上げたレピスは、我にかえってテイに頭を下げた。

「あ、その、すみません」

「いいよ。食べて」

「あ、あの、こんな見ず知らずのあたしに、なんでご飯ご馳走してくれるんですか?」

「いや、困った時は、お互い様じゃないか?」

「お互い様?」

「つまり助け合いってやつでしょ」

「助け合い……」

「ま、正直に言うとお金は結構余裕があるんだ。いろいろとね」

「はぁ」

「ほら、お互い助け合っていかなきゃ、生きていくのって大変じゃん? ね?」

「あ、あの!」

「な、なに?」

「あたしに、あなたの事を助けさせてください!」

「え? あ、ありがとう。困った時があったらお願いするよ」

「どこかへ旅している途中なんですよね?」

「う、うん。実はさ、大きな声で言えないんだけどさ」

「なんですか?」

テイが声を潜めたので、レピスは立ち上がって耳を近づけた。

「俺、魔王討伐のために旅しているんだ」

レピスは驚いた顔をして体を引いたが、引きすぎて後ろに倒れた。

「だいじょうぶ?」

急いでテイが駆け寄ると手を差しのべた。

「魔王、討伐?」

「ほら、知っていると思うけど、今年魔王復活する年じゃん。俺賢者の末裔の一人として、残り2人にあって、その後魔王と戦わないといけないんだよね」

「魔王と戦う……」

「そんなわけで、実は困っているんだ、本当は」

「困って、いる?」

「旅したことないし、そんなに強くないし、残りの賢者の末裔ってやつらとうまくやっていけるのかなぁとかさ」

「き、危険です!」

「え?」

「平原や森には、わたしのせいで魔物たちがいて危険です」

「え?」

「あ、いえ、あたしに、あなたを守らせてください」

「俺の事を?」

「あたし、少し魔法が使えるんですよ」

「本当かい?」

「だから、助けになると思うんです」

「でも、さっき魔物に襲われていた時は魔法を使っているような感じはなかったけど」

「あ、そ、それは」

「わかった、癒し系なんだね?」

「癒し系?」

「だから、傷を治したり、補助魔法かけたり」

「あ、そうです、そうです! 傷治せますよ」

「やっぱり? 助かるなぁ、それ。補助系も少し出来るの?」

「補助系?」

「ほら、防御力上げたり、攻撃力上げたり」

「あ、あれですか? 皮膚をゴーレム化したり、遺伝子レベルから体をドラゴンに変えてしまうとか?」

「え?」

「はい?」

「そ、それはなんか違うというか、なんか黒い印象が」

「えーと」

「あ、冗談? なのか?」

「そ、そうですよ! ちょっとおかしな事言ってみました!」

「面白いね、レピスさんって」


【1時間ほど遡る。場所は村の近くの平原にある茂みの中でのこと。】

3匹のオークがレピスを囲んでいた。オークはレピスに懸命に話しかけていた。

「いや、ほんとにお願いしますよ」

「俺たちはっきり言って肩身狭いんですよ」

レピスはため息をつきながら、オークたちの訴えを聞いていた。

「人間と住み分けって形でいいんじゃない?」

 オークたちは一瞬顔を見合わせてから、レピスの機嫌を伺うように答えた。

「あ、それ、わかります。わかりますけど」

「でも、なんだかんだで300年待ったわけですし」

 オークたちの要求は変わっていないようだった。

「じゃあ、聞くけど、あなたが私の立場だったら、魔族の長として人間たちと戦う先頭に立つ?」

 レピスの反論にオークたちは少し表情を曇らせた。

「あ、いや、それは、ちょっと」

「結構めんどくさいかも」

「でしょ?」

「いや、でも、なんかアクション起こしてくれないと。その魔族の存在軽く示さないと」

 レピスが少しイラついた表情で、反論してきたオークを睨んだ。

「だから、あたしはいやだって言ってるでしょ?」

言い争っていると近くの茂みから一人の剣士、テイが飛び出してきた。

「君、大丈夫かい?」

レピスとオークは何事かと呆然としていた。

「え、あ、は、はい」

レピスが反射的に返事をしたが、オークたちは状況に困惑してた。

(いや、レピス様。『はい』じゃないでしょ)

(ていうか、なんなの、こいつ)

(まさか俺らがか弱い女の子襲っているように見えちゃっているんじゃないか?)

(まさか、勇者、とか?)

(でも、明らかに、俺らより弱そうだぞ、こいつ)

(どうする、やっちゃう?)

(でも、この近くの村のやつらだったら面倒なことにならない?)

(だな)

この状況をどうしようか思案していたオークたちに向かって、剣士が空気を読まずに飛び掛ってきた。しかしその剣さばきはどう見ても素人に毛が生えた程度だった。

(ちょっと、やばいよ、こいつ。予想以上に弱いぞ)

(レピス様、正体隠しているっぽいし、ここは俺ら、やられておくってもんじゃない?)

(了解)

オークは目配せしつつ、次々と剣士の振るう安物の剣に体をぶつけていった。

「ぐわ!」

「ぐふ!」

「に、逃げろ!」

オークはやられた振りをして走って逃げた。とにかく見えなくなるくらいまでは逃げよう、頼むから追い討ちはかけないで欲しいと願いながら走った。

剣士とレピスの会話が遠くに聞こえていた。

「大丈夫ですか?」

「あ、は、はぁ」

どのくらい走っただろうか。一番後ろを走っていたオークが息を切らしながら立ち止まった。

「なあ、もういいんじゃないか?」

 残りの二匹もその声を聞いて立ち止まった。

「はぁ、はぁ。俺ら、なにやってるんだ」

「言うな、それ以上言うんじゃねぇ」

オークたちは息を整えながら、草原に座り込んで仰向けになった。

「なぁ」

「なんだ?」

「空、青いな……」

「ああ……今日はいい天気だ」


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