それからの夏の日
「レピス様」
その日、外は暑く、青い空と白い大きな入道雲が大きく浮かび上がり、蝉の声が近くの林から合唱のように聞こえてきていた。
「なによ」
ダイナの呼びかけにうちわで扇ぎながらレピスが答えた。
「暇ですよ」
「そりゃ、やることないんだもん」
「やることって?」
「魔王討伐に決まっているでしょ」
しばし沈黙の時間が流れた。
一瞬、林から流れてきた涼しげな風が窓から流れ込み、部屋の温度を下げながら通り抜けて行った。しばらくして部屋の温度が再び1度ほど上がり始めた頃に、ダイナが口を開いた。
「じゃあ、なにしていたらいいんですか?」
「だから、一緒に来てもしょうがないって言ったでしょ?」
ダイナが椅子に座ったまま、少しレピスににじり寄った。
「そろそろやりませんか?」
「なにを?」
「世界を恐怖のどん底に落としてやりましょうよ」
「やらないって」
「そんな……」
「あなたがやればいいんじゃない?」
「え?」
「あなたが魔王って名乗って決起すればいいじゃない」
「それって、レピス様と戦うことになっちゃうんじゃないですか?」
「そりゃ、あたしたち魔王討伐隊だからね」
「無理です、死んじゃいます」
ダイナが少し震え気味に返事をした時、テイが部屋のドアを開けて入ってきた。
「レピスさん、お待たせ」
「テイ君」
先ほどまでダイナに向けていた無愛想な表情から一転して、レピスの顔に微笑が浮かんだ。
「じゃあ行きましょうか」
「どこか、行くんですか?」
妙にテンションが高いテイに、ダイナが訊ねた。
「ダイナさん、今日はラクダビーチで海戦訓練ですよ」
「海戦訓練?」
レピスが立ち上がって脇においていたバックを手に取った。
「ぶっちゃけ、海水浴でしょ?」
「やだなぁ、レピスさん。そんなストレートに言っちゃ」
「海水浴?」
「さ、ダイナさんも早く早く!」
「わ、わたしもか?」
ダイナも腕を引かれてテイに連れ出された。
レピスはそんな二人をにこやかに見守りながら後ろから歩いていった。
外にでると、巨大な入道雲が夏のひまわりに負けじと大きく伸びながら、白く輝いていた。
まただらだらした1日が始まろうとしていた。
【エピローグ】
ルイとボウスがそれぞれベッドに寝転んで本を読んでいた。テイは木製の椅子に座って同じく本を読みながらお茶を飲んでいた。
「あのさ」
ルイが不意に起き上がると本を閉じてテイに話しかけた。
「なんだよ」
「レスピさんって、ただの白系魔法使いじゃなくない?」
テイはレピスの話がでたので本から目を離してルイの方を見た。
「どういうことだよ」
「お前はフィルターかかっているかもしれんが、俺ら、彼女がただの魔法使いじゃないって思っていたんだよね」
「ああ、司祭様が言っていた『神からの使い』ってやつ?」
「いや、その、言いにくいんだが、それとは対極にいるような気がするんだ」
「対極って?」
「や、つまりさ、まぁ」
「なんだよ」
「俺たち結構前から思ってたんだけど」
なんだか少し煮え切らないようなルイの喋りに、テイは少し苛立った。
「だからなんだよ」
「彼女が、魔王じゃないのか?」
あまりに意外な一言に、テイはルイの言葉の意味を正確に認識できなかった。
「……は?」
「そうは思わないか?」
「ないだろう。魔王が一緒に旅しているなんて非現実的な展開は」
テイのこの一言に対して、寝転んで聞いていたボウスが起き上がって、貴重な情報をもたらした。
「最近じゃあまり珍しくない展開らしいぞ」
「え、そうなの?」
「らしいぞ」
皆、一瞬沈黙したが、テイが再び口を開いた。
「でも、レピスさんって『魔王』ってキャラじゃないじゃないか」
このテイの一言に対しては、ルイもボウスも困惑の表情になった。
「う、うん、まあな」
「それは確かに俺たちも引っかかっていたんだが」
テイは自分のペースになった事を感じて更に話し続けた。
「でしょ? 大体、世界を救う賢者がこの広い世界に旅へ出て、最初に出会ったのが最終目標の魔王である確率って、どのくらいよ?」
「お前確率とか言い出しちゃうのかよ」
ボウスが軽く突っ込むが、ルイも腕を組んで目を細めながら口をへの字に曲げた。。
「確かに話の展開として非現実的で無理があるような」
「だろう?」
「いや、お前らそれ言っちゃうのかよ」
ルイとテイの不用意な会話にボウスが再び突っ込んだ。
「なんで?」
「なんでって、俺たちのこれまでの旅を根底からひっくり返すような」
「意味がわからん」
「俺だってわからんよ!」
「とにかく、レピスさんに聞いてみたらどうだ?」
「あたしが?」
「うん」
「魔王?」
「……かなって」
三人はレピスを部屋の前の廊下に呼び出し、テイが代表して単刀直入に質問した。
「違いますよ」
レピスは笑顔で答えた。
「え、(普通に全否定されちゃったよ)」
ルイとボウスが驚きの表情になった。
「ほらみろ。やっぱりレピスさんが魔王なわけないよ」
一人テイだけが鬼の首を取ったように喜んでいた。
「あ、ああ」
ルイとボウスもテイの意見を受け入れるように頷いた。
レピスが余裕の笑みを浮かべながら喋り始めた。
「大体、討伐される魔王が、討伐する賢者と一緒にいるって、おかしいじゃない」
「あ、レピスさん。でも、最近はそういった展開も結構あるんだって」
テイが機嫌よく、先ほどボウスから仕入れた知識をレピスに教えた。
「展開って……それって、御伽噺の中でのことでしょ? 現実的に考えてみたら……ね?」
「そうだよね」
テイが満面の笑みで答えた。
「た、確かにちょっとありえない」
ルイもレピスとテイの意見を肯定した。
「実際にあったら、不自然な行動から、全員もっと早く気付いちゃうよな。普通は」
ボウスも頷いて賛同していた。
「レピスさん、すみません。あまりにレピスさんがすごい魔法使いだから、俺たち勘ぐっちゃって」
ルイとボウスがレピスに頭を下げた。
「ああ、いいのよ。気にしないで」
「よかった。これでわだかまりなく旅が続けられるね」
テイの言葉にレピスも笑顔で返すと部屋のドアに手をかけた。
「じゃあ、あたし、部屋に戻ってもいいかな?」
「ああ、手間取らせてごめんね」
「ううん。じゃあ」
「じゃあ」
レピスはリモンとの相部屋に戻ると、扉を閉めて足早にベッドまで行くと倒れこんだ。
「あら、どうしたの?」
レピスはリモンに話しかけられたにもかかわらず、枕に顔をうずめたままだった。
「お願い、今は話しかけないで」
「お茶なくなっちゃったな。なんか飲み物もらってくるよ」
テイが立ち上がって部屋のドアを開けた。
すかさずルイとボウスが手を挙げた。
「あ、俺にも」
「ついでに俺も」
「はい、はい。なんか適当に持ってきてやるよ」
テイが飲み物をとりに部屋から出て行った。
ルイは机に座り、ボウスはベッドに寝転んでそれぞれ本を読んでいた。
開かれた窓から爽やかな風がカーテンを揺らしながら吹き込み、本を読んでいたルイは顔を上げて窓の外を見た。
はるか遠くまで続く平原の先に高い山々がそびえ、鳥のさえずりが聞こえてきた。
「なあ」
ぼんやりと外の平和な景色を眺めながらルイがボウスに話しかけてきた。
「なんだよ」
「どうする? この先」
「どうって、当分今のままでいいんじゃねえ?」
「だな」
「働かなくていいしな」
「ああ」
「どうせ魔王討伐って、今年一杯で終わりだろう?」
「そうだな」
そう答えるとルイは再び本に目を移して、続きを読み出した。
いつものように、穏やかで怠惰な午後の時間が流れていた。
完
そして、
魔王討伐の三賢者~その後
魔王復活の年が過ぎようとしていた。
このままでは魔王討伐隊は解散、給金生活が終わりを迎えてしまうと悟った三賢者たち。
「どうするんだよ? このままじゃ、俺たち無職だぞ」
「今の時代おいそれと就職も出来んしなぁ」
「貴重な一年を無為に過ごした事は大きいぞ。面接でここ一年何をしていたのか聞かれたらどうするんだよ?」
「魔王討伐、だろう?」
「で、実際倒したのかよ、何か?」
「う、うーん」
「なにもしなかった空白の一年間と思われてもしょうがねぇぞ」
三賢者考えた。
「魔王に変わるもの、なにかどでかい奴を倒すしかねぇよ」
そしてルイが探してきた。
「え、あの邪教集団か?」
「そこに入信するんだ」
「なんのために?」
「邪神を復活させるんだよ!」
「はぁ?」
邪神復活に手を貸した時、大地を裂いて現れたのは。
「ま、久々起きたし、ぱぁーっと派手に暴れちゃってもいいかな?」
「だめ、だめ!」
「なんでよ? それにしてもさ、あんたなんか面白そうなのとツルンデルじゃん」
「え?」
ボウスが叫んだ。
「新キャラで繋ぐのはやめろよ! 動かすの大変になって後で自分の首絞めることになるぞ」
「動かすって、なにをだよ?」
司祭が駆け込んできた。
「我が王、大変です。強い、強い気が、魔王と合い並ぶほどの強い気が発生しております」
「三賢者を、彼らを呼ぶのだ!」
はたして三賢者の末裔はおきらくな生活が続けられるのか?
おわり




