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決戦、魔王vs三賢者と稀代の魔法使いと神からの使者

 暗い洞窟をわずかな明かりを頼りに進んでいくと最深部と思われる開けた場所に着いた。そしてそこには、何本もの松明の明かりが洞窟の奥にいる黒く、大きな影を映し出していた。

「あ、あれが、魔王」

 皆が慎重に黒い影の前に立つと、魔王の影はゆっくりと動き出した。

「フハハハ。待っていたぞ三賢者と稀代なる魔法使い、そして神からの使いとやら。貴様らを倒してわたしがこの世界を今度こそ手に入れるのだ」

 まるで地獄の底から聞こえてくるような大きく低い声が、洞窟の中に響き渡った。

 恐怖を感じながらもテイは気合を入れて魔王を睨みつけた。

「そうは、させない。俺たちは、三賢者。お前を再び、倒すためにここまできたんだ!」

「そうだ!」

「やってやるぜ!」

 ルイとボウスもテイに呼応するように叫んだ。

「ふ、来るがいい、貴様らなぞ、相手にならんわ!」

 テイは剣を抜いて構えると、後ろにいるレピスを見た。

「確かに凄い気だ。作戦はどうします? レピスさん!」

 急に名前を呼ばれてレピスは戸惑った。

「あたしの、作戦でいいんですか?」

 ルイもレピスの方に振り返って声をかけた。

「当然でしょ。さっきもレピスさんの作戦通りやったから勝てたんだし」

 ボウスも斧を構えたままレピスに声をかけてきた。

「ああ、俺たちを守って導いてくれるのは、神からの使者であるレピスさんしかいないだろう?」

 三人の賢者の言葉を聞いてレピスは胸に手を当てて下を向いた。

「神からの使者……あたしが」

「さあ、指示をください、レピスさん!」

 テイの言葉にレピスが顔を上げた。

「わかりました」

 後ろにいたレピスが、テイたちと同じく前面に出た。

「レピスさん?」

「あなたたちと同じ場所で、戦わせてください」

「わかったよ」

 レピスは手を伸ばして魔王の影を睨んだ。

「かなり強い気がかかっていますね。どこまで効くかわかりませんが、まず、わたしが『オウズ・ブレアス』で相手にかかっている特殊能力もろとも、力を削ぎます。リモンは衝撃波で動きを封じて」

「わかったわ」

 リモンも一歩前に出て答えた。

「その後、三人で魔王を攻撃してください」

「わかった。よし、いくぞ!」

 レピスがテイたちよりも更に一歩前に出て、手を握ったまま右手を前に伸ばした。

 魔王がゆっくりとした口調でレピスに喋りかけてきた。

「貴様が神からの使者か。どれほどのものか、見せてもらおうか」

 レピスは恐れることなく魔王の影を見つめた。

「わたしは、わたしは神からの使者、レピス。神から授かりしこの力で、魔王! あなたの野望を打ち砕きます」

「ふん、神からの使者だと? 小娘ごときになにが出来るのか」

「わたしは、わたしを仲間として受け入れてきてくれた、彼らの親愛の気持ちに報いるためにも、あなたを、魔王の力を全力で消してみせる!」

 後ろからテイが心配そうにレピスに声をかけた。

「レピスさん、無茶しないでください」

「テイ君、ありがとう。あたし、あたし頑張るよ」

「レピスさん!」

「さぁ、受けてみなさい!」

 彼女が握っていた右の掌を開いて叫んだ。彼女の体が青く光り輝き、右の掌から金色に輝く波動が発せられた。

「な、なにぃ?」

 魔王の体は波動に包まれて白く輝いた。

「せっかくだから、わたしも全力で行こうかしら」

 リモンが杖を振りかざし呪文を唱えた。杖の先から発せられた白い球体が魔王の目の前で巨大なレースの布に変化した。しかしそれは布ではなく魔法で構築された身体を拘束する網と化して魔王の体を捕らえ、更に強力な衝撃波が発生した。

「ぐぬぉぉ、き、貴様ら一体」

 魔王の動きが止まった。

「今よ、行って! みんな!」

 レピスの掛声とともにテイを先頭に三賢者が魔王に飛び掛った。

「う、うぉお!」

「魔王! 覚悟ぉおお!!……あ……あれ?」

 魔王の姿が消えていた。

「ど、どこだ!」

「待て、なんだ、これは?」

 床を見ると魔王の体が倒れていた。

「こ、これは」

「人形? いや、変わり身か?」

「ど、どうなっているんだ?」

 すると岩陰から何者かがゆっくりと現れた。その見覚えのある姿を見てテイは思わず叫んだ。

「司祭様!」

 現れたのはセントガルドの老司祭アルグレインであった。

「な、なぜあなたが」

 テイとともに驚いていたルイであったが、すぐさま我に返ってテイに呼びかけた。。

「テイ、油断するな! この状況からすると」

「司祭様……が、魔王だったのか?」

「ああ。そういうことになるな」 

 テイの言葉にボウスが頷いた。

「最初から俺たちをだましていたんですね」

 信じ難い真実にテイは一瞬肩を落としてうつむいた。

「でも、俺たちはあなたに負けるわけにはいかない」

 テイは強い決意とともに再び顔を上げて司祭を見つめた。

「三賢者と魔法使いリモン、そして神からの使いレピス」

「ああ、今の俺たちは負ける気がしない。最強のパーティーだ」

 ルイもテイの横に立つとスピアを構えなおした。

 ボウスも斧を肩に担ぐように構えるとテイとルイの横に並び立った。

「魔王! 俺たちの本気、見せてやるぜ」

「よし、いこう!」

 三賢者がアルグレイン司祭に対してゆっくりと距離を詰めて行ったその時だった。

 無表情に見えた司祭は、歪んだような笑みを見せると、ゆっくりと両腕を頭の上にあげていった。

「な、なんだあの動きは?」

 三賢者の動きが止まった瞬間、司祭は上げていた腕を素早く下ろして、体を前方に曲げると、膝とともに両手を床に密着させた。

「気をつけろ、な、なにかくる!」

 司祭はその低い体勢から顔を上げると、目を見開いて大きく口を開いて叫んだ。

「待てぇ! わしは魔王ではないぃ!」

「は?」

 戦場の空気が一変して止まった、というか凍りついた。

「いや、違うのじゃ、わたしは貴様たちの本気を試したかったのじゃ」

 改めて見なおしてみると、司祭はただ単に土下座をしていただけであった。

「は、はぁ?」

 司祭は土下座の姿勢のまま釈明を始めた。

「聞け。世の中は平和になると、迫り来る危機に対して鈍感になってしまうのじゃ。実はな、国民の中にはおまえら魔王討伐隊を悪く言うものも、おるのじゃ」

「悪く言う? 俺たちのことをですか?」

「ああ、日がな一日何もせずに、資金を浪費しているとか、魔王がでないことをいいことに遊び歩いているとか」

 司祭の説明を聞いて三賢者たちは、やや嫌な汗が出ることを感じ始めていた。

(やばいよ、やっぱ街の連中俺たちのことごくつぶしだと思っていたんだ)

 三賢者たちの胸の内を知らない司祭は続けた。

「だが、違った。やはりわしの目に狂いはなかった。お前たちは、魔王が復活した時に迅速に、そして命をかけて戦える準備が出来ていたのじゃな」

(俺たち、疑われていたんだな……)

(っていうか、本当は司祭が一番疑っていたんじゃないか?)

「今回の事は、わしが責任を持って詳細に国民に伝えよう。三賢者は、本物であったと」

 司祭は立ち上がって拳を握りながらテイたちに約束した。

「司祭様……」

「あ、じゃあ、魔族が街を攻撃していたのは、司祭様の指示じゃなかったんですか?」

 ルイが思い出したように司祭に質問すると、意気揚々と立ち上がっていた司祭が再び申し訳なさそうに背を丸めた。

「あ、いや、『魔王復活!』って宣伝したら、一部の魔族がその気になって決起しちゃったっていうか」

「おい、それダメでしょう!」

「魔王は偽者だったって早く宣伝してきてください!」

 司祭は一斉に突っ込まれて更にオドオドし始めた。

「わ、わかった。ところで……」

「なんですか?」

「今回のことで街にも被害がでている」

 司祭が沈痛な面持ちで喋り始めた。

「そ、それで?」

「わしが偽者の魔王だったことは、内緒じゃぞ?」

「わかりましたよ……王様に知れたらまずいですもんね」

「あ、いや、実はわしと王で相談してやったって言うか……」

「は?」

「た、頼む! ぎ、議会には、国民には言わんでくれ」

 テイたちは、もうあきれたのを通り越してどうでもよくなり始めていた。

「あー、わかりました。もういいですから」

「頼むぞ。お前らの活躍はちゃんと皆に伝えるでな」

「じゃあ、ついでに給金アップお願いします」

 ルイがさりげなくナイスな要求をだした。

「まかせい。では」

 司祭は給金アップを約束して、手を振ってそそくさと去っていった。


 テイは暗い洞窟を出ると、明るい日差しの中で大きく伸びをした。

「やれ、やれ。ま、これで一件落着だし、その上国民の信頼を勝ち得たってことになるな」

「これからものうのうと生活していいってことだな」

 ルイが喜々として、軽くやる気のないような発言をした。

「いや、それダメだろう?」

「いいじゃねぇか、硬いなぁ、テイは」

 ボウスが二人の肩に手を置いて話しに入ってきた。

「でも、魔王はまだどこかにいるってことであって、俺たちの使命は、まだ終わっていないんだぜ」

「そうだよルイ。ボウスの言うとおりだよ。まだ終わっていないんだよ」

 三賢者の会話を余所に、リモンとレピスの女子二人は、三賢者と少し距離をおいて言葉を交わしていた。

「ま、なんにせよ、よかったわね」

 リモンが少し浮かない顔をしているレピスに話しかけた。

「うん、そうだね」

「今回のことで、改めてはっきりしたわね」

「な、なにが?」

 レピスが少し焦ったような表情で聞き返した。

「やっぱりあなたが魔王ってこと」

「えっ……(やっぱそうなるの)」

 リモンの言葉を聞いて、レピスは一気に表情が暗くなってしまった。

「あなたが使った魔法、『オウズ・ブレアス』って言っていたけど、間違いなくあれは高等魔族しか使うことが出来ない通称『漆黒の息吹』よね。わたしたち人間がどんなに努力しても使うことが出来ない魔法だわ」

 すっかり肩を落としたレピスに追い討ちをかけるようにリモンが淡々と説明した。

「やっぱ、わたし神からの使者……じゃないよね」

「図々しいにも程があるわ。あなたが神の名前を口にするのもおこがましいんじゃない?」

「すみません……って、もともとあたしが魔王じゃないかもしれないって言いだしたの、リモンじゃない!」

 レピスの突込みに対して、リモンはまったく表情を変えずに遠くを見つめだした。

「あら、そうだったかしら」

「そうよ!」

「それより、『神からの使者』って魔王が名乗っちゃったのは、神様に対してまずいと思うけど」

 逆に突っ込まれてレピスがまた口ごもってしまった。

「そ、そうだよね? どうしよう?」

「どうしようって」

「とりあえず、明日教会に行って謝る」

「やめた方がいいわね。あなた前に教会の天井ふっ飛ばしたらしいじゃない」

「それは言わないで!」

 レピスが思いだしたくない過去に対して頭を抱え、その光景を楽しそうに見つめるリモンであった。

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