賢者と魔王と求める信頼
疲れきった表情で腰を下ろしていたレピスの前にリモンがきて手を差しのべた。
「みんなに慕われるって、大変なことね」
「よ、(余計なこと言わないでよ)」
レピスは笑いながらリモンの手をとって立ち上がった。
扉を開けて三賢者たちは中を伺ったが、城内はしんと静まりかえっていた。
「何も、いないな」
警戒態勢を解いてボウスが斧を下ろした。
「なにかいたんですか? レピスさん」
「あ、えっと、何もなかった」
ルイの問いかけにレピスは手を振って答えた。
「扉が開かなかったけど」
「あ、ああ、安全が確認されるまでは開かないように、その、魔法をかけたの」
「なんだ」
「ははは……」
ごまかし笑いをしていたレピスの前に、急にテイが立って、レピスの頬を叩いた。
「えっ」
「なんでそんな無茶するんですか? 何かあったら助けられないじゃないですか」
「ご、ごめんなさい」
テイは普段、比較的穏やかな性格なため、突然の行動に皆驚いていたが、見かねてルイがテイの肩に手をかけた。
「おい、テイ。レピスさんは俺たちを守るためにだな」
「一人が犠牲になるとかって、意味ないよ。みんなで旅しているんだよ。もっと、俺たちを信頼してください」
テイは止めるルイの方を見ることなく、レピスを見つめたまま強く言った。
レピスも一瞬驚いていたが、半歩下がるとテイに頭を下げた。
「ごめん、ありがとう。でもね……」
「なんですか?」
レピスが顔を上げてテイを真っ直ぐに見つめ返した。
「わたしにしか出来ないことも、あるんだよ」
「レピスさん」
「それは、その、信じて欲しい。わたしを、信頼して、欲しいの」
テイはレピスの訴えを受け入れることに少し躊躇していたようだった。
ルイに変わってボウスがテイに話しかけてきた。
「テイ、レピスさんは俺たちよりもたくさん旅して経験もある。それに優秀な魔法使いだぜ?」
「うん、で、でも」
「心配する気持ちは、わかるけど。レピスさんだって、考えて行動しているんじゃないか?」
「う……」
テイは一瞬下を向いてしまったが、再び顔を上げてレピスを見た。
「レピスさん、ごめんなさい。俺、ちょっと言い過ぎました」
「な、そんなことないよ、テイ君だってあたしのこと心配してくれて言ったんだもん。その、ちょっとうれしかったよ」
「レピスさん……」
「テイ君……」
テイとレピスはお互いを気遣う心を理解しあって、見つめ合った。
「あーあ、お前らのいちゃいちゃはどうでもいいから、話長くなるから先進むぞ」
ボウスが手を振って、場の空気を戻した。
「話ってなんだよ」
ルイの質問は軽く流して再び一行は、城の奥へ向かって慎重に歩きだした。
すっと、リモンがレピスの隣に来てレピスに囁くように話しかけた。
「感動したわ。テイ君とあなたの愛情あふれる会話には」
「や、やめてよ」
レピスが少し顔を赤らめて、前を見つめたまま答えた。
「ふふ。『信じて欲しい』『信頼して欲しい』あなた、テイ君にそんなことを求めていいの?」
「……何が言いたいの?」
「あなたは自分の事をテイ君に話していない。それなのに信頼を求めるの?」
「そ、それは」
「テイ君は、あなたに好意を持っている」
「……」
「あなたも、まんざらじゃないんでしょ?」
「……う、うん」
リモンに問い詰められてレピスは小さく頷いた。
「いつまでもテイ君に本当の自分を隠し続けるの?」
「よくないことは、わかっている。でも……」
「真実を打ち明けて、テイ君に嫌われるのが、怖いのね」
「うう、あ、あたしは……」
レピスを見ながら話していたリモンは、少し前方を歩くテイの後姿を見つめた。
「テイ君……彼は」
「え?」
「きっとあなたを受け入れる。あなたが何者であっても」
先を歩くテイが、少し遅れて歩いていたレピスとリモンの方に振り返って声をかけてきた。
「みんな、離れないでいきましょう。リモンさん、レピスさん早く!」
リモンが再びレピスの顔を見て、手で肩を軽く叩いた。
「頼もしくなってきたわね。さ、いきましょう」
「う、うん」
レピスもテイの後姿を見つめながら歩くスピードを上げた。
「一体魔王はどこにいるんだ?」
長い通路を右へ左へと歩いていた一行であったが、どうやら迷ってしまったようだった。
レピスがボソッと呟いた。
「たぶん玉座の間じゃないかな?」
「玉座の間か、こっちかな?」
「こっちじゃないか?」
再び三賢者が右往左往とし始めたところ、レピスが一方向を指差した。
「右がいいと思う」
「レピスさん、なんで右だって……」
普通に答えてしまった自分に気付いたレピスは、咄嗟にいい訳を考えた。
「あ、えっと、魔法でね、玉座のある方向はこっちだって」
「おお、ナビゲーションの魔法ですか?」
テイが驚いた。
「そりゃ便利だ」
ボウスも感心して頷いた。
「……魔法使ってないような気が」
リモンがぼんやりと余計な事を口にしたため、リモンの言葉をかき消すようにレピスが目を閉じて叫んだ。
「リモン! 静かにして。集中できないから」
「あら、そう……」
テイが集中しているレピスに訊ねた。
「次は?」
「あ、右でも左でもなく正面の壁を押して」
言われるとおりに壁を押すと、どんでん返しのように壁が回って通路が現れた。
「おお、隠し通路」
「この魔法すごいなぁ」
テイとボウスが感心しているとルイが何か思い出したように口を開いた。
「でもレピスさん、魔女の迷路では迷いまくってなかった?」
「あ、あれは、あれよ」
レピスは焦りを悟られまいと、なるべく冷静に言葉を選んで答えようと心がけた。
「あれって、なんですか?」
少し咳払いをして、気を落ち着けてからレピスは説明を始めた。
「この魔法、魔王城にしか対応していないの」
普通に聞いたらどうかと思われる開き直った答えであったが、レピスが冷静に自信を持って言い切ったので、なぜか皆に納得のいった気持が生まれていた。
ルイは合点がいった様に手を叩いた。
「あ、もしかして今後他の迷路にも順次対応していくんですかね?」
「うん! 徐々にアップグレードしていく予定なの」
「魔法ってすごいなぁ」
テイも感心したように答えた。
黙って歩いていたリモンが口を開いた。
「そうよ。魔法は日々新しいものが開発されているの。だから一生勉強なのよ」
「へぇー、リモンさんもレピスさんもすごいなぁ」
テイがリモンとレピスを羨望の眼差しで見つめた。
レピスはリモンをそっと見つめて直接頭の中に答えた。
(リモン、フォローしてくれてサンキュウ)
(真実を言ったまでよ。ついでにあなたについての真実をあたしから話してもいいわよ)
「そ、それは必要ないわよ!」
急に大声を出したレピスにテイが驚いた。
「レピスさん、ど、どうしたんですか?」
「え? あ、違うの、そんな、尊敬されちゃうようなことじゃないからって意味で」
「そうね。魔法使いとして当然のことよ」
再びさりげなくリモンがフォローしたが、どうやらリモンはこの状況を楽しんで、レピスをからかっているようだった。
「2人とも謙遜しちゃって」
「そうだよ、すごいことだよ」
テイとルイが再びレピスとリモンに感心した。




