魔王城の攻防~魔王、三賢者を抑える
魔王城は近づくにつれて予想以上の大きさと強固さを示してきた。
城門の手前に大きな堀があり、上げ橋が降りていた。
「橋が降りて、門が開いているぞ」
「わ、罠じゃないか?」
テイたちが慎重に様子を伺っていると、レピスが橋を普通に渡りだした。
「ちょ、レピスさん、危ないよ。慎重に行こう」
「え?」
「自分の家じゃないんだから、もっと注意して行動しないと」
「あ、そ、そうね」
レピスは慌ててテイたちの後ろについて歩きだした。
門をくぐると広い前庭が広がっていた。整えられた庭木が並び、枯葉やごみも見られないくらいに美しく整備されていた。
「意外と静かだな」
「それにもっと荒れ果てているかと思ったけど、意外に小奇麗な感じだな」
レピスは周囲の環境を確認して、頭をかしげた。
(確かにえらくきれいに掃除してあるし、庭木も手入れが行き届いている……まさか)
「油断するな、いよいよ建物の中に入るぞ」
テイが城の扉に手をかけた。
「ま、待って!」
レピスがテイの腕を押さえてテイの前に出た。
「どうしたの、レピスさん」
「い、嫌な予感がするの(いろんな意味で)」
「そ、そうなの?」
「扉の向こうに、なんかものすごくたくさんの気が感じられる……」
レピスの言葉を聞いて、テイたちが身構えた。
「待ち伏せ、とか?」
「ど、どうする?」
「あたしの魔法で扉ごと吹き飛ばしてもいいわよ」
リモンが魔法の棒を掲げて前に出た。
「リモンさん、お願いします」
テイがリモンに頭を下げて脇によった。それを見て、慌ててレピスがリモンの前に出て、扉の前に立った。
「あ、ま、待って、あたしが見てくるから」
「そんな、危険だよ!」
テイが止めたがレピスは笑顔で手を振った。
「大丈夫、わたし、魔族たちに見えない魔法をかけていくから」
「でも、」
「大丈夫、いいから、ここに居て」
そう言ってレピスは扉を少し引いて、隙間から中を覗いた。
が、素早く顔を引っ込めて扉を閉じた。
「ま、まずいよ、これ……」
レピスが難しい顔をしていたのでテイが心配そうに声をかけてきた。
「レピスさん、どう?」
レピスは振り返ると、テイたちを手で押して後ろに下げさせた。
「あ、あなたたちは下がって! わたしがいいって言うまで中に入らないでね、いい?」
「レピスさん、でも」
「大丈夫、あたしに任せて」
レピスは一度息を吐くと、扉を小さく開いて隙間から中に入り込んだ。
「レピスさん!」
レピスが中に入ったとほぼ同時に中から複数の爆発音がした。
「な、なんだ?」
「何かあったんじゃ……」
テイとルイが不安げに扉を見つめた。
「レピスさん!」
テイが思わず駆け出して、扉に手をかけた。しかしルイがテイを抑えた。
「待て、テイ。レピスさんが声かけるまで扉を開くなって言っていたじゃないか」
「でも」
「もし中で待ち伏せているとしたら、扉が開いた途端に化け物どもがあふれ出してくるかもしれないんだぞ?」
「でも、レピスさんになにかあったのかもしれないじゃないか、レピスさん!」
テイはルイの手を振り払って、扉に手をかけて引いた。しかし扉は動かなかった。
「あ、開かない! くそ! レピスさん、大丈夫ですか? レピスさん」
テイは必死に叫びながら扉を引っ張った。
「だめ! きちゃダメ!」
中からレピスの声が聞こえた。
「レピスさん? ここを開けてください」
「今はきちゃダメ、そこで、そこにいて! わたしは、大丈夫だから」
「そんな、レピスさん! レピスさん!」
「どうした?」
ボウスが近づいてきて、テイに訊ねた。
「なんかレピスさんが、中に閉じ込められて」
「なに!」
「よし、みんな力を合わせて扉を引くんだ」
ルイとボウスも、テイと一緒に扉をつかんで引っ張った。
「うお! うぁおおお!」
「だ、だめだ。なんか向こうから強い力で引っ張られている!」
「レピスさん!」
その時再びレピスの声が聞こえた。
「み、みんな、扉から離れて! すぐに、早く!」
「レピスさんの声だ」
「テイ、一旦指示通りに離れよう」
「わ、わかった」
皆がレピスの指示通りに離れると、しばらくしてゆっくりとドアが開いた。
「お、おまたせ」
中からレピスがふらふらしながらでてきた。
「レピスさん!」
「大丈夫か?」
「大丈夫、ちょっと疲れただけ」
【5分ほど前 魔王城入り口】
レピスは扉を少し引いて、隙間から中を覗いた。
「や、やばい……」
中には中央の赤いカーペットを挟むようにたくさんの魔族が並んでいた。
(あ、あたしが帰ってきた事がばれている)
「レピスさん、どう?」
レピスが難しい顔をしていたのでテイが心配そうに声をかけてきた。
「あ、あなたたちは下がって! わたしがいいって言うまで中にはいらないでね、いい?」
レピスは振り返ると、テイたちを手で押して後ろに下げさせた。
「レピスさん、でも」
「大丈夫、あたしに任せて」
レピスは一度息を吐くと、扉を小さく開いて隙間から中に入り込んだ。
レピスが中に入ったとほぼ同時に魔族たちが叫んだ。
「魔王様、ご帰還、おめでとうございます」
複数の爆発音がしてクラッカーがカラフルな紙テープを飛ばし、魔族たちはレピスを囲むように近づいてきた。赤いカーペットが敷かれ、『魔王様お帰りなさい』と書かれた垂れ幕が掲げられていた。
城内の状況を見てレピスの顔は、かなり焦った表情に変わっていった。
(こ、これはまずい)
「魔王様、お帰りなさい。お疲れ様でした」
「視察の旅はどうでしたか?」
レピスはねぎらいの言葉を口にしながら寄ってくる魔族たちを手で押し返した。
「ちょ、ちょっと、みんな、待って」
「どうしたんですか?」
「あ、あのね、ちょっと困るんだ、こういうの」
「困る?」
「あ、あの、うれしいよ、あたしのために」
一瞬レピスの言動に困惑していた魔族たちの表情が明るくなった。
「いやぁ、よかった!」
「今夜は盛大に、ぱぁーっと」
再び盛り上がる魔族たちに、慌ててレピスが手を振って拒否した。
「だめ、だめ」
「どうしたんですか?」
「あの、困るの、すぐに片付けて、お願い!」
すると扉を外から叩く音がした。
「レピスさん!」
扉の向こうからテイの声がした。
「テ、テイ君?」
扉が外から引っ張られたので、急いでレピスは扉を引き返した。
「あ、開かない! レピスさん、大丈夫ですか? レピスさん!」
テイの呼びかけが聞こえたが、答えている場合ではなかった。レピスは必死に扉を引っ張りつつ、魔族たちにすぐに片付けるよう指示を出した。
「だめ! きちゃダメ! そこで、そこにいて! わたしは、大丈夫だから」
「そんな、レピスさん!」
「どうした?」
扉の向こうでテイ以外の二人の声もし始めた。
「レピスさんが、中に閉じ込められて」
「よし、みんな力を合わせて扉を引くんだ」
ものすごい力で扉が引かれ始めた。
「え? やめて、う、うそぉ!」
レピスは負けじと必死に引き返した。
魔族たちが不思議そうな顔をしてレピスに話しかけてきた。
「魔王様、何してるんですか?」
「い、いいから! 早く片付けてみんなどこかに隠れなさい!」
「魔王様、まさか扉の外に、何か」
横から一匹の魔族が顔を出して声を上げた。
「おい、どうやら三賢者の末裔がこの城に入り込んだらしいぞ」
「なにぃ?」
魔族が次々と扉の近くに集まってきた
「魔王様が今扉を押さえて侵入を防いでくれているぞ」
「ちくしょう、やってやるぜ! 魔王様、我々にお任せを!」
レピスは扉を押さえつつ事態がますます悪化していく事を感じていた。
(な、なんで、こうなるのよ!)
「だから、いいからあんたたちは隠れていなさい!」
レピスは集まってきた魔族に向かって叫んだ。
魔族一致団結して三賢者を倒そうという雰囲気になっているところで、レピスの『隠れろ』という再三の指示に、皆戸惑い始めた。
「魔王様、なぜ」
すると一匹の魔族が顔を上げて叫んだ。
「バカ、魔王様は、俺たちを気遣ってくれているんだ」
「そ、そうだったのか……魔、魔王様」
「我々のために……」
魔族たちの勘違いしたくだりにいい加減レピスは業を煮やして叫びだした。
「いいからどっか行って! 全員消すわよ!」
「は、はい!」
魔王レピスの久々に見た激昂する姿に、魔族全員は急いで指示に従って部屋をかたずけると方々に散っていった。
部屋が片付いた状況を見てレピスは、引っ張っている扉の向こうに声をかけた。
「み、みんな、扉から離れて! すぐに、早く!」
「わ、わかった」
ドアの向こうにテイたちの気配が薄らいだのを確認し、城内を見渡してからレピスは
ゆっくりとドアを開いた。
「お、おまたせ」
気疲れと、ドアを引っ張っていたことからレピスは力が抜けたように座り込んだ。
「レピスさん!」
「大丈夫か?」
「大丈夫、ちょっと疲れただけだから」
そう言ってレピスは疲れた笑顔を見せつつ、その場に座り込んだ。




