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三賢者、デスフィールドに立つ

 岩陰に寝そべっていた金色の飛竜は、長い首を上げながら三賢者たちの方に振り返った。

「長き歳月を、お待ちしておりました賢者様」

「おお、喋った!」

「さすが聖なる竜!」

 聖なる竜の堂々として威厳がある姿形だけでなく、人語を操る英知な側面をも垣間見た三賢者たちは改めて感服していた。

 テイが一歩前に出て呼びかけた。

「聖なる竜よ、俺たちを乗せて魔王の城まで飛んでくれ」

「お安い御用です賢者様。さあ、私めの背にお乗りください」

 飛竜は翼を畳み、首を下げて体を沈めた。

「よし、乗りこもう!」

 テイがまず竜の背に乗ると、ルイとボウスも続いて竜に乗った。

「じゃあ、お願いするわね……」

 リモンが続いてだるそうに乗り込んできた。

「どうぞ、偉大なる魔法使いリモン様」

 最後にレピスが聖なる竜に乗る前に挨拶をした。

「お願いします」

 飛竜が驚いた表情でレピスを見た。

「あ、あなたは!」

「はい?」

 レピスは笑顔のまま、飛竜の頭の中に話しかけた。

(ちょっと、あたしも乗せてよ)

(無理です! 仮にも私は聖なる竜なんで、あなたを乗せたら聖なる竜の力がなくなってしまいます。て言うか、なぜ、あなたが賢者様たちと一緒にここにいるんですか?)

(いろいろ事情があって、そんなことよりお願い!)

(無理! 大体あなたがここにいたら、彼らを乗せていく意味がないような)

「レピスさん、早く乗って」

 テイが手招きしてレピスに乗るように促した。しかし、レピスはゆっくりと後ず去った。

「あ、あの、あたしは、大丈夫」

「は?」

「定員オーバーだって」

「でも、この竜一匹しかいないから」

「あ、あの、いるんだって、今日は特別」

「え?」

「そっちの竜に乗っていくから、大丈夫! そ、それじゃあ、現地でまた会いましょう」

 レピスは手を振って、きた道を引き返して行った。

「ちょっと、レピスさん!」

 テイが追いかけようとしたがルイがテイを抑えた。

「ま、大丈夫だろう。彼女俺たちよりも旅慣れているし」

「そ、そんな」

「大丈夫よ。彼女は必ず追いかけてくるわ」

「リモンさんまで……大丈夫かなぁ」

 心配するテイをよそに、ルイが手を挙げて叫んだ。

「さあ、頼んだぞ、聖なる飛竜よ!」

 黄金色の竜は首を上げると、大きく羽を広げた。


 聖なる飛竜に乗せられて、三賢者とリモンはデスフィールドに降り立った。

 低い雲が空を覆い、赤色の土が吹く風に土埃を上げていた。

「ここがデスフィールドか」

 周囲を見渡しているルイとボウスとは違って、テイは北の空を見つめていた。

「レピスさんまだかな?」

 ルイとボウスも北の空に目をやったその時、皆の視界に黒いものが飛び込んできた。

「な、なんだ、あの黒い影は?」

 空を覆うような黒い影が現れ、徐々に徐々にこちらに近づいてきていた。 そして近づくにつれて、その黒き影の塊はその姿を現し始めた。

「お、おい、あれ、黒き飛竜じゃないか?」

 ボウスが指摘したとおり、その黒い影の塊は黒き飛竜の群れだった。

 飛竜の群れがテイたちの上空を覆った時、そのうちの一匹が地上に舞い降りてきた。

 飛竜はゆっくりと大きな翼を動かしながらテイたちの目の前に降り立ち、燃えるような赤い瞳で賢者たちを睨むと、一声ボウゥと唸った。

「く、くるぞ!」

 三賢者が緊張で身構えていると、その飛竜からレピスが平然と降りてきた。

「はぁ。お待たせ」

 目を丸くしてレピスを見つめるテイたちを余所に、レピスは乗ってきた飛竜の頭の中に話しかけた。

(早く帰りなさい! し、しっ!)

 そう言われた飛竜は渋々羽ばたかせて空へ舞い上がった。すると上空を舞っていた他の飛竜たちが騒がしく泣き始めた。

(レスピ様、待ってくださいよ)

(今度はわたしの上に乗ってくださいよ)

(いや、ぼくがのってもらうんだ)

 上空を旋回している黒き飛竜の群れをレスピが睨みつけた。

(ちょっと! ついてこないでって言ったでしょ?早く帰りなさい!)

 手を振って追い払うような仕草をしていたレピスにテイが恐る恐る話しかけた。

「レピスさん、あ、あの」

 レピスはいつもの笑顔でテイの方を振り返った。

「あ、お、おまたせ、ごめんね」

「なに、手をばたつかせているんですか?」

「え、こ、これはちょっと緊張しちゃって、手が汗ばんじゃったから」

 しばらく上空を旋回していた飛竜の群れは、北の空の先へと帰っていった。

 改めてテイがレピスに訊ねた。

「そ、それより、乗ってきた竜。黒き飛竜ですよね?」

「あ、そ、そう?」

「見るからに黒き飛竜でしたけど」

「えっとね、そう! 魔法を使ってね」

「魔法?」

「そうなの。魔法を使って、その、手懐けたのよ」

「そんなこと出来るんですか?」

「うん、まぁね」

「やっぱレピスさんすごいなぁ」

 テイが暢気にレピスに感心していると、ボウスが湖のほとりにある岩山の上を指差した。

「みろよ、あれ」

 少し霞がかかった岩山の上には黒く禍々しい城が見えた。その妖気をまとった様な姿は初めて見る三賢者たちであっても、そこが魔王の居城であろう事はすぐに理解できた。

「あ、あれが魔王城」

 テイが緊張気味に黒き城を見つめた。

「かなりやばそうだな」

 ルイがいつになく緊張した面持ちで呟くように言った。

「懐かしいわね」

 レピスがなぜか場違いな一言を発したので皆の張り詰めた緊張感が緩んだ。

「レ、あの、懐かしいって雰囲気じゃないと思うんですけど」

「あ、そ、そうよね! わたし、間違った使いかたしちゃった、ごめんなさい」

 ルイが怪しそうな表情でレピスを見た。

「ま、まさか、もしかして、レピスさんって」

「な、なに?(まずい、わたしが魔族だってばれちゃった?)」

 レピスはルイが自分の何かに気がついてしまった事を悟った。

「レピスさん、あなた!」

「な、な、なんですか?」

「帰国子女ですか?」

「……はい?」

 予想外の言葉にレピスは一瞬固まってしまった。

「ほら、外国に長く行っていたから母国語の使い方間違えちゃうとかって」

「あ、そ、それよそれ! そうなのよ、わたし方々に旅していたから言葉が、ね?」

 ここぞとばかりにレピスが『帰国子女』という言葉に乗っかった。

「そうか、たまに言動がおかしかったのはそういうことだったのか」

「そうなのよ……って、そんなにおかしいこと、あったけ?」

「ありましたよ」

「そ、そう……気をつけるね」

 緊張感から急に『レピス帰国子女ネタ』で和やかな雰囲気になった一行であった。

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