三対三 賢者たちの苦悩
テイ、ルイ、ボウスは待ち合わせた一軒のバールに来ていた。
テーブルの対面には、ボウスが連絡をとってくれたボウスの幼馴染とその友達が座っていた。
まずはお互い簡単な自己紹介をした。
相手の女性陣はボウスの幼馴染ミイ、その友人マイとアイだと名乗った。
三人とも若者の街イストガルドにふさわしい垢抜けた感じのファッションで、スタイルもいいかわいいお嬢さんたちだった。
「初めまして」
最初に元気に声をかけてきたのは女性陣だった。
「ど、どうも」
「あ、はい」
ルイもテイも緊張のあまり特別面白い返事も出来ずにいた。
「ボウスのお知り合いなんですよね? 仕事仲間ですか?」
「何の仕事してるんですか?」
砕けた感じの彼女たちの攻撃は波状的にやってきた。
「あ、その」
堪りかねてボウスが口を開いた。
「だから、賢者のさぁ……」
しかし最後まで言い終わらないうちに、ボウスの前に座っていたミイという女が笑い出した。
「賢者って言えばさぁ、三賢者ってあるじゃん」
「あ、毎年魔王討伐祭で子供たちが台の上で変な踊りやらされるやつでしょ?」
ミイとマイの会話にボウスが口を挟んだ。
「あ、いや、あれは伝承物語の演劇であって」
しかしまたも話半分でミイが笑いながらボウスの言葉を切った。
「マイちゃん、それがさぁ、聞いてよ。ボウスってさ、昔その劇に出て魔王役やったのよ」
「ホント? うける! それっぽいかも」
盛り上がってきた彼女たちの会話を聞きながら、テイとルイは会話に入るきっかけがなく、必死に笑顔を作りながら話を聞いていた。
(ボウス……リアル三賢者の末裔が魔王役やっちゃダメだろう)
(しかも、それっぽいって)
「その時あたし賢者の一人やったんだよね」
「うそ、あれやったの? はずい!」
「昔の話よ! あたしだって嫌だったんだから」
「ハハハ、ウケるよ、超ウケる」
「アイ、笑いすぎだって、アハハハ」
テイとルイはゆがんだ笑顔とともに嫌な汗も出てきていることを自覚してきた。
(は、はずいとか、いやだったとか)
(俺たちがそのリアル賢者なんですけど……)
テイとルイの気持ちは置いていかれたまま、彼女たちの会話は続いて行った。
「そういえばさ、今年でしょ?」
「なに?」
「ほら、予言の300年目」
「あ、魔王が復活するって年でしょ?」
「えー、信じてるの?」
彼女たちの会話は止まらず、その間にグラスに注がれた酒はどんどん消費しつつ、テーブルの上にある料理も遠慮なく消費して行った。
「だって、みんな話題だよ。多分魔王討伐祭もすっごい盛り上げていくらしいよ」
「魔王とかって、実際ないでしょ」
アイという子が突っ込みを入れつつ、グラスをあおった。
「でも、三賢者の子孫が本当に旅立っちゃったらしいよ。魔王討伐で!」
「まじで? ウケるー!」
「ホントに行っちゃうのかよ! ありえないでしょう!」
彼女たちはテイたちの気持ちも知らずにギャハギャハと大笑いをしていた。
この時点でテイとルイは絶望感以外の何物も感じていなかった。
(ここまでハードル上げて今更ホントの事言えるか?)
(どうすんだよ、この状況)
頭を悩ましていたテイたちに止めを刺すように、会話が一段落ついたミイがボウスの顔を見て改めて質問して来た。
「で、ボウスたちって、結局本当のところ、なに繋がり?」
尋ねられたボウスは、うつむき加減で額にほんのり汗しながら重い口を開いた。
「だ、だから、俺たちは……」
(ボウス、言っちゃうのかよ?)
(知らねえぞ)
テイとルイが見つめる中、ボウスが一回唾を飲み込んでから顔を上げて口を開いた。
「その、実際に旅立ったっていう、さ、三賢者の子孫なんだ」
(イッタァーーー!)
(お前、漢だよ……)
「え……」
彼女たちの表情が固まり、一瞬沈黙に包まれた。
(やばい、なんか空気が凍りついたぞ)
(終わった。何もかも)
絶望感が本当の絶望に変ったとテイたちが思った時だった。突然、彼女たちはいっせいに笑い出した。
「ぷ、ふ、ふはははは!」
「おかしい!最高!」
「この流れでそのオチ来ちゃうなんて」
(え?)
「確かに今日は3人だから、三賢者落ちは、ぴったりだもんね」
「なんだ、面白い人じゃん」
ルイとテイは予想外の展開にほっと息をついた。
(なんか、結果オーライな感じになっちゃったんだけど)
(ああ、よかった。よかった。けど)
(もう、いい……疲れた)
(ああ、帰りたい)
「さあ、今夜は盛り上がろうね」
ミイたちがテイたちのグラスに酒を注ぎ足した。グラスからは勢い余った液体があふれ、当分帰れない事を悟ったテイたちの不安感を反映するようにテーブルにしみを広げて行った。




