魔女が語る飛竜伝説
一行は真っ赤な円形のソファに座って、リモンが使役する人形が入れたお茶をご馳走になっていた。
「実は魔王の城へ行く方法を教えて欲しいんです」
テイがカップを置いてリモンに聞いた。
「そんなこと……レピスに聞けばいいんじゃない?」
「な、なんであたしが! 知るわけないじゃない、ね?」
レピスはにこやかに否定しながらも眼はリモンをにらんでいた。
(余計なこと言わないでって、言ってるでしょ!)
(あら、ごめんなさい)
二人の頭の中での会話内容も知らないテイは改めてリモンに問いかけた。
「そうですよ。冗談は置いといて、マジで教えてくださいよ」
リモンはカップを置いて指を鳴らすと、空中に一枚の地図を浮かび上がらせた。
「魔王城に繋がるデスフィールドに行くには東からなら『岩鮫の牙』と呼ばれる山岳地帯をいくか、西からなら『ドワーフの迷い森』を抜けるか。正面切っていくなら『黄泉の酒盃』と呼ばれる魔王城とセントガルドに挟まれた湖を越えるか」
リモンは指揮棒くらいの長さの魔法の棒を振るって、地図の上を示しながら解説した。
「どれが安全ですか?」
「どのコースも大変危険だわ」
途端に三賢者たちはぐったりとしながら天井を仰いだ。
「じゃあ無理じゃんこんなの」
「どうする?……」
まるでもう旅をあきらめかけているような表情をしたルイたちに、リモンが少し冷たい微笑みをたたえながら口を開いた。
「一気に行くには、飛竜を使うことね」
テイたちが再びリモンに注目した。
「飛竜?」
リモンは地図の中央上方に描かれた高い山を示した。
「ノゼスト山の頂にいる飛竜に乗れば魔王の城までひと飛びよ」
「話が長くなるのも嫌だし、飛竜に乗っていこうぜ」
ボウスが冷静に答えた。
「だから話ってなんだよ?」
ルイの突っ込みにボウスは答えず、リモンが話を続けた。
「ちょっと待って。乗れる飛竜と乗れない飛竜がいるわ」
「乗れない飛竜?」
皆がリモンの次の言葉を待った。
「聖なる竜は勇気ある冒険者をその背に乗せるけれど、黒き飛竜は愚かな冒険者を焼いて食べてしまうそうよ」
「え? それってどう見分けるんですか?」
「見た目でわかるわよ」
「見た目?」
「その瞳に琥珀の輝きを宿す竜は聖なる竜よ」
「なるほど」
「ただし」
リモンの目が一瞬、妖しく光ったように見えた。
「ただし?」
「聖なる竜は飛竜の中に一匹だけしかいないのよ」
「マジ?」
リモンの言葉に三賢者たちは一斉にため息をつき、激しくやる気のなくなったような表情に変わった。。
「後は全部俺たちを食っちゃうのかよ」
「どうやって探すんだよ?」
ぶうたれている三賢者に、リモンが再び光明を見出すような一言を発した。
「聖なる飛竜を探す方法があるわ」
「なんですか?」
三賢者はまたリモンに注目した。
「ある魔法を使えば聖なる飛竜の居場所を示すことが出来るの。ただしこの魔法を使いこなせるのは相当徳の高い魔法使いだけよ」
リモンの言葉を聞いて三賢者は同じことが頭に浮かんだようだった。
代表するようにテイが口を開いた。
「……なんとなく、その徳の高い魔法使いって人が、世界に独りしかいなくて、しかもすぐ目の前にいるような気がしてきたんですが」
「ふふふ。鋭いわね。そうよ、その徳の高い魔法使いとはわたしのことよ」
「じゃあ、一緒に来てくれるんですか?」
「行くわ。だから私を雇いなさい」
「雇う?」
「まさか只で行くと思ったんじゃないわよね?」
「いくらくらいなんですか?」
リモンはどこからともなく、一枚の皮に書かれたリストを示した。
「これが魔法使いの日当相場表よ。ちなみに私は一番上のランク、TJDXよ」
「うわ、高っ! まじっすか……」
「まじっすよ。ふふふ」
「TJDXって何の称号ですか?」
「だから一番徳の高い魔法使いの称号よ」
「へぇ」
「TJDX……『特上デラックス』の略よ」
「……聞かなきゃよかった」
三賢者たちの間を微妙な空気が部屋の中を流れて行った……




