魔女の迷宮
「あれが魔女の塔か」
セントガルドから北西に進んだ先に、高い塔が見えてきた。その塔の手前に、高い壁が立っており、中央にアーチ状の入り口があった。その先は迷路のようになっており、一向は警戒しながら中へと入っていった。
「これが『魔女の腸』と言われる迷路で、ここを突破しないと塔に近づけないんだよ」
「めんどくさいなぁ」
「ちなみに、なんか怪物とか出てくるんじゃないだろうなぁ?」
テイが前方を歩くルイに話しかけた時だった。
「あ」
ルイが小さく声を上げて立ち止まった。
「なに?」
「なんか踏んだ」
「なに?」
「尻尾?」
「なんの?」
ルイが踏んだ尻尾と思われるものの根元をたどると、そこには大きな男が背を向けて横たわっていた。
「え?」
その男はゆっくりと起き上がるとこちら側に振り返った。体は人間であったが、その顔は大きな角をつけた雄牛だった。
「迷路に牛人間?」
「なんかベタだけど、やばいことには変わりないぞ」
「よし」
テイが震えながらも剣を抜いた。
「テイ、何やっているんだ?」
ルイがテイに尋ねてきた。
「なにって、戦うんだろう? こっちは3人。レピスさんも入れて4人いるんだぞ」
「バ、ばかじゃねぇの? 勝てるわけないだろ?」
「やってみなきゃ、わからないだろう?」
言い争っているテイとルイの前にボウスが立った。
ボウスはゆっくりと斧を構えた。
「待て、まずは俺が様子を見る」
「ボウス」
「さすが、昔から頼りになる男だぜ」
すると牛男も手にしていた大きな斧を振り上げた。しっかり立ち上がった牛男の身の丈は2メートルは有に超しており、手に持つ斧はまるで神殿の柱かと思うくらいの圧迫感があった。
斧を構えていたボウスが素早く身を翻すとバックステップの要領で距離をとった。
「テイ!」
ボウスが叫んだ。
「な、なんだ?」
「逃げろ!」
「へ?」
あっけに取られている間にボウスは後方へ走り去っていった。
「ボウスがそう判断したってことだよ! とにかく逃げろ!」
ルイがテイとレピスを促して走り出した。
テイとレピスは慌てて走ったが、後ろから牛人間が追いかけてきていた。
「思ったより速いぞ」
「ちょ、そっちに行くのかよ?」
必死に走っていたら、ルイとテイは違う方向に曲がっていってしまった。レピスはテイと同じ方向に走りながら、後方から来る牛人間の頭の中に話しかけていた。
(ねえ、追いかけてこないでよ!)
(レピス様、久しぶりじゃないですか。待ってくださいよ)
牛人間は斧をもったままレピスの後方から追いかけてきた。
(なんで斧振り上げて追いかけてくるのよ!)
(さすがレピス様、気付きました? そうなんですよ。この斧、最近手に入れたんですけど、いくらだと思います?)
(いくらでもいいわよ!)
(特にこの柄の部分見てくださいよ。この曲線具合)
テイはレピスの方を気遣いながら必死に走った。
「レピスさん、早く! うわ、斧振り回してる! 絶対殺される!」
必死に逃げるテイに手を引かれつつ、レピスは後方を見ながら追い払うように手を振った。
(来るなって、言ってるでしょ!)
(いや、是非この新しい斧、見ていただきたくて。レピス様ご存知のように、自分、昔から斧好きじゃないですかぁ。だから斧に関しては、誰にも負けな、あ!)
牛男の振り回していた斧が手を離れて、テイたちの後方から回転しながら飛んできた。
「あ、あぶない」
斧は幸いに、テイたちのはるか頭の上を飛んでいき、前方にあった迷路の壁を突き破っていった。
「ひぃ! 斧投げてきた!」
テイが思わず突き破った壁を避けて右の通路の方へ曲がっていった。
レピスは我慢できずに、思わず立ち止まって牛男を睨みつけた。
「あ、あぶないじゃない!」
「す、すみません」
牛男はさすがにすまなさそうに腰をかがめた。
「前から斧はおもちゃじゃないって言ったでしょ?」
「は、はい」
「以前こういうことあって『斧禁止』されてたの忘れたの?」
「す、すみません、つい、久しぶりだったので」
大きな体を縮めながら言い訳する牛男を怒った顔見ていたレピスが、牛男の足元を指差した。
「正座」
「はい?」
「一時間ここで正座! それから十年斧禁止よ」
「マ、マジですか? はぁ……」
がっくりと肩を落としつつ石の床の上に正座させられる牛男であった。
一方テイは。
「あ、あれ?レピスさん、ついてきていない」
テイはレピスがいないことに気付き、来た道を戻りだしたが完全に道に迷っていた。
「レピスさん、どこですか?」
「テイ君の声、テイ君!」
「おーい、テイ、レピスさん! どこだ?」
迷路には屋根がなかったので、お互いの声は壁の上の空間から聞こえてくるが、なかなか出会うことが出来ない。
「テイ、こっちか? う、うわぁ!」
「どうした?」
「こちらルイ、ボウスとともにただ今子鬼と交戦中!」
「大丈夫か?」
「なんとかなっているが、数が多い!」
「今行くよ」
声のする方向にテイが走っていくと角で女性とぶつかった。
「ご、ごめん、レピスさん、ここにいたのか」
テイが顔を上げるとそこにはレピスではない、中世ヨーロッパ貴族の女性のようなドレスを見につけた、髪の黒い真っ白の肌をした女性が立っていた。
「待っていたわよ」
女性はそう言って怪しく微笑んだ。
「き、君は?」
「私の名前はエルージェ。さ、こっちにいらっしゃい」
「は、はぁ」
テイはなぜか言われるままに差し出されたエルージェの手をとって立ち上がった。
3ブロックほど遠方からレピスの声が聞こえていた。
「テイ君、どこ?」
「あ、レピスさん、こっちです、こ、あ! ちょっと、なにして、うわぁ!」
「テイ君!(何が起こっているの?)」




