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イストガルドの賢者の末裔

 川越えを無事に果たした三人は少し小高い丘の上にたつ大きな街にやってきた。

「おお、やっとイストガルドについたね」

 テイとルイは、にぎやかなメインストリートを歩きながら、物珍しそうに周囲を見回していた。

「レピスさん、この街はどんなところなの?」

「イストガルドは『岩鮫の牙』山岳地帯の北に位置する港町で、漁業が盛んよ。各種専門技術習得所があるから、若い人たちが多い活気のある町ね」

 ルイがレピスを尊敬の眼差しで見つめた。

「へぇー、レピスさん詳しいんですね」

「レピスさんは国中を旅してきたから、知識が豊富なんだよ」

 テイが自分のことのように自慢した。

「そんな、たいした事ないですよ」

 レピスは少し恥ずかしそうに手を振った。

「イストガルドには何回か来た事あるの」

「ええ、やっぱ、若い人が多いじゃないですか」

「うんうん」

「若い芽を摘むって意味でも、最初につぶしておこうかなってことで、何度も攻め込んだかな」

 レピスの言葉に、テイとルイの表情が少し固まった。

「え?」

「え?」

「はい?」

「攻め込んだ?」

 自分の失言に気付いたレピスは、顔を赤くして全力否定し始めた。

「あ、ち、違うの、若い男の子と知り合いになりたくて、友達とよく、その、お食事会をして、えっと」

「がんばって若い男の子に『攻め込んだ』と?」

「そう、そういうことです」

 レピスはルイの言葉に素早く乗っかってなんとか誤魔かした。

 ルイは意外そうな顔をして、レピスに訊ねた。

「へぇ、レピスさんでも、そんなことしていたんですか?」

 このまま乗り切ろうと思ったレピスは、内容はどうであれ、ルイの言葉に頷いた。

「ハ、ハイ。わたしだって、その、彼氏とか、欲しいですから」

 テイが少し動揺したような表情でレピスを見た。

「レピスさん、そ、そうなんだ。それで、その、うまくいったんですか?」

 テイの表情を見て取ったレピスは、急いで否定するように手を振った。

「へ? あ、あ、ダメ、ダメ。あたし、その、ぜんぜんもてなくて。ハハ」

「そ、そうなんだ」

 少し表情が和んだテイを、ルイが肘で突いた。

「おい、なにホッとしているんだよ」

「な、なに言ってるんだよ!」

 テイの反論を軽く聞き流しながら、ルイは次にレピスをからかいだした。

「しかし意外だなぁ。レピスさんなら結構もてると思いますけどね」

「そんな、ぜんぜんよ」

「でもよかったですね」

「え?」

「今はちょっと頼りないけど、テイ君がいますからね」

「お、おい! ルイは何を言っているんだよ」

 慌てるテイを見てニヤニヤしていたルイであったが、流れを切るようにレピスが口を挟んだ。

「あ、あの!」

「はい?」

「テイ君は、頼りなくなんて、ないですよ……」

 なぜかうつむき加減で、それでいてしっかりとレピスが主張してきたので、ルイはやや苦笑い気味に場を取り繕い始めた。

「あ、ああ、そうですね。なんせ、オーク三匹追っ払ったんだっけ? 悪い、テイ。頼りなくなかったな」

「う、うるさいよ」

 ルイに強く言いながらもテイはレピスの顔を見つめた。レピスもテイの顔をはにかみながら見つめていた。

 そんな2人を見てルイは肩をすくめて首を左右に振った。

「はぁ、アホらし。いいよな、テイは」

「だから、なに言って……」

 テイがルイのからかいに反論しようとした時だった。

「おい、おまえら」

 三人の前に大きな斧を持った男が立っていた。

 目つきが鋭く、不精髭を生やした一見ワイルドな顔つきの男だったが、年齢的にはテイたちと同じくらいのようであった。

「な、なに? この人?」

 レピスがびっくりしているとテイとルイがその男に歩み寄った。

「なんだ、ボウスじゃないか」

「迎えに出てくれたのか? 探す手間が省けたよ」

 久々の再開にもかかわらず、ボウスという男は不機嫌そうだった。

「お前ら来るのが遅すぎるんだよ」

「そうか?」

「ここ来るまでに悠長にしていたから、危うく俺は出ないことになるところだったんだぞ」

「何の話をしているんだ?」

「いいから、先に進めるぞ」

「あ、ああ」

 ボウスと名乗った男はルイとテイの疑問は一切受け付けずに話を続けた。

「これで三人がそろったから、魔王の城に行くことになるんだが」

「ああ」

「そうだな」

 ボウスの言葉にテイとルイが頷いた。

「それで、どうするの?」

 レピスも一緒に頷いて同調した。

「それで、って、うわぁ!」

 急にボウスがレスピを見て驚いて後ずさり、斧を構えた。

 その大袈裟なリアクションに、テイは少し困惑してボウスに声をかけた。

「なに、どうしたんだよ?」

「いや、その女は誰なんだよ」

「ああ、一緒に旅をしているレピスさん」

「レピスさん?」

「彼女、いろいろ魔法が使えるんで助けてもらっているんだ」

「初めまして。レピス・レイズリイです。よろしくね、ボウスさん」

 レピスが笑顔を作りながら挨拶をしたのを見て、ボウスも警戒の構えを解いた。

「あ、ああ、よろしく。俺はボウス・スピカ。あなたは、まさか、『塔の上の魔女』?」

「東洋の魔女?」

「いや、『塔の上の魔女』だよ! 違うのか?」

「ち、違いますけど」

「なんだ」

 二人のやり取りを見ていたルイがボウスに訊ねた。

「どうしたんだよボウス。その『塔の上の魔女』ってなんだ?」

「魔王討伐に際して魔王の城に行くために知恵を授かれって伝えられている偉大な魔女だよ」

「その魔女に教わらないと魔王城にいけないってことか?」

「じゃあ、誰か行き方、知ってるのか?」

「確かに知らないけど」

 テイはレピスの方を向いた。

「あ、レピスさんはいろいろなところを旅しているけど、もしかして知ってます?」

「へ? あ、あたし? えっと(知ってるなんて言ったら怪しまれそう)し、知りません」

「そうなんだ」

 ボウスは自分の知っている情報を説明しだした。

「歩いていけなくはないけど、どれも大変な道のりらしいぜ」

「へぇ」

「例えばドワーフの迷い森なんて抜けるのも大変だし、最後に謎かけを出す石像がいて、間違ったら問答無用で食われるらしいぞ」

「ええ? 謎かけの答えって伝わっていないのか?」

「まったく手掛かりなしさ。かなりの難問だって言われているけど」

 テイがレピスのほうに向いて尋ねた。

「レピスさん、旅の途中で噂とか聞いたことありませんか?」

 レピスは腕を組んで頷いた。

「わたしが思うには難問というよりは、こじ付けとしか思えないけどなぁ。答えが『人間』だなんて、ちょっと無理があると思うんだけど」

「え?」

「え?」

「え?」

「はい?」

 皆がレピスの言葉を聞いて固まった。

「レピスさん、今のなに? 答えなの?」

「あ、えっと、いや、た、例えでね」

「例え?」

「そうよ、答えなんて、あたしが知っているわけ……ないじゃない」

 レピスが相当に焦りながら否定した。

「そりゃそうだよな。びっくりした」

 一瞬硬直していたルイとボウスもホッとして、少し笑った。

「ま、とにかく、塔の上の魔女にあって、教えを請うんだよ」

「わかったよ。理解した」

「じゃあ、早速出発しよう」

 ボウスが街の出口へと歩きだした。

「え、もういくのかよ?」

「話が長くなるんだよ」

「なんだよ、それ?」

 慌ててテイとルイとレピスは、ボウスの後ろについて歩きだした。

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