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封印された結界

 次の日、朝早くからレピスはセントガリアン城の周りを走っていた。

「もう、こんなところにも」

 レピスが手をかざすと黒い網のようなものが飛び出して城壁にあった石像の顔にくっついた。

「これであらかた結界は解けたかなぁ」

 何しろレピスは魔王の身でありながら、今日はこのセントガリアン城に連れて行かれる予定なので、あらかじめ封印を解いておかなければ面倒な事になりそうだったと思っていた。

 城の結界が弱体化したのを感じたレピスは、ホッと一息して道端に放置してあった木箱に座り込んだ。

「あ、レピスさーん」

 遠くからテイが手を振りながら駆けてきた。

「あ、テイ君、おはよう」

「なんか、姉さんに聞いたら散歩に行ったきり帰ってこないって言うから」

「あ、ごめんなさい。ちょっとお城見ていたら夢中になっちゃって」

「レピスさんって、ホントお城好きなんですね」

「う、うん。特に朝一番の清々しい時間に見るお城が好きなのよ」

「そうなんですか。でも、さっき遠めに見たら走っていたみたいですけど」

「あ、朝は走ることにしているの。気持ちいいよ」

「へー、俺もやろうかな」

 そう言いながらテイもレピスの隣に座った。

 それほど大きくない木箱の上にテイと並んで腰掛けていることを、少し意識してしまったレピスは体が熱くなる事をごまかすように手で扇ぎ始めた。

「はぁ、結構走っちゃった」

「お城の周り走ったんですか」

「うん、(結界は解除するのに)夢中になっちゃって」

「何週したんですか?」

「200周位かな」

「えぇ!」

 テイの驚きからレピスは自分の発言が人間にとって常軌を逸していることに気付いた。

「あ、ち、違うの! 2周よ、2周」

「ですよね、なんか、聞き違えちゃった」

「やだ、あたしが言い間違えたのよ」

 更に焦ってきたレピスは心を落ち着けるようにまた手で体を扇いでクールダウンに勤しんだ。

「そうですか。セントガリアン城見ながら走ったんですか」

「うん」

「このお城は街の人たちにとって自慢のお城なんですよ」

「いいお城ね」

 二人は改めてセントガリアン城を見上げた。

 城壁や城壁塔は漆黒で重厚な石造りであり、見るからに強固で重厚ながら、少しだけ見える居館は白い石壁と赤い屋根で作られているところが少しかわいげがあった。

「レピスさんはいろいろ旅して、たくさんのお城を見てきたんじゃないですか?」

「そうね。数え切れないくらい」

「どうでした? ここのお城は」

「うーん、強固なだけでなくデザインも凝っているわね」

「ふんふん」

「でも一つ一つの装飾にも魔除けや結界を発生させる要因を含ませつつ、適所に配置してある。その上地中にも竜脈をコントロールするような要石を埋め込んでいるわね。更に古の……」

「れ、レピスさん?」

 テイは急に流暢に話し始めるレピスに、城好きとはわかっていたもののやや引き気味に驚いていた。

「呪いが含まれる、あ、あ、ごめんなさい、つい、」

 レピスはまた余計な事を言ってしまっている自分に気がついた。

「詳しいんですね。お城」

「あ、はぁ、その、まぁ」

 城好きという言葉で全てが許されていることにレピスは感謝した。

(これも歴史好き女子が認知されてるこの時代のおかげだわ。よかった、この時代に復活して)

「レピスさんが今まで見た中で一番の城ってどこですか?」

 レピスの頭の中に浮かんだのは魔王城だった。つまり自分の居城だ。

 何しろ自分で設計し改良に改良を重ねてきたのだから当然ナンバーワンに決まっていた。

「一番といえば、魔王じょ……じゃなくて、えっと……」

「えっと?」

 どう答えようかと迷ったが、レピスは変に嘘をつくよりも意外な方向で煙に巻くことにした。

「それは、それは秘密です!」

 レピス自身は今までにない、なかなかの返しかと思っていたが、テイはレピスの『秘密です』という返しの真意が読めずやや困惑した顔をしていた。

「それは、クイズ形式ですか?」

「えっと、って、言うか、多分、そこにはいつか一緒に行けると思うから( テイ君たちが魔王城を目指しているんだから行くことになるわよね)」

「え? い、一緒に?(一緒にって、二人だけでってこと?)」

「うん。このまま(旅が)進めば、ね?」

 そう返事をしたレピスの見つめ返す瞳に、テイは胸の鼓動が早くなる事を感じていた。

「こ、このまま(二人の関係が)進めば? そ、そんな、まだ早いって言うか」

「どうしたの? このままわたしと(魔王城まで)行きたいんでしょ?」

 問いかけるレピスの顔が、体が、近いとテイは意識していた。

「イ、イきたい?(レピスさんで?)い、いいんですか?」

「そのために(旅を)がんばってやっているんでしょ?」

「(レピスさんでイきたいから頑張っている?)俺、そんなにあからさまだったかな?」

「見ていればわかるよ……」

「えぇ!」

「頑張っているテイ君、素敵だと思うよ」

「う、(うそぉ! なにこの急展開)でも、俺で、いいのかなって」

「いいに決まってるじゃない。あなたは賢者の子孫だよ?」

 賢者の子孫だから? テイの中で少しレピスの心が急に見えなくなってきた。

「それ関係あるの? ま、まさか賢者の子孫ならルイでもいいの?」

「なに言ってるの? ルイ君だけじゃなくて賢者の子孫なら誰だって(魔王の城を目指して)いいに決まってるじゃない」

「う、レピスさん、そんな人だったなんて(誰でもいいなんて……)」

「魔王討伐は賢者の子孫に課せられた使命でしょう? 誰であろうと魔王の城を目指していいはずよ?」

「え?」

 テイはここに来てやっと何か会話に食い違いがあることに気がつき始めた。

「どうしたの?」

「あ、えっと、魔王の城に行く話しですか?」

「そうでしょ? どこに行く話しだったの?」

「どこに、っていうか、レピスさんでって言う話しかと」

「あたしで? どこへ行くの?」

「どこっていうか、あえて言えば……天国?」

「て、天国? ヘブン状態?」

「なんですかそれ?」

「あたしの方こそ聞きたいわよ」

「ま、どうやら最初から魔王城へ行く話しだったと」

「最初からその話でしょ?」

「よかった」

「何が?」

「レピスさんがそんな人じゃなくて」

「どんな人の話してるの?」

 清々しい朝っぱから、不謹慎な妄想を抱いてしまったテイであった。

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