とあるゲームの顛末
とあるゲームの顛末
私は泣いていた。
本当ならセーブポイントで待っていれば愚痴を言いながら帰ってくるはずの大事な相棒。
最後の言葉は呪詛でも後悔でもなく感謝の言葉。
私達や先に死んでいった仲間達、自分を棄てていった家族への・・・
バーチャルゲームとして鳴り物入りで始まった、オンラインゲーム。
それがただのちんけなデスゲームに成り下がったのは開始一月あまり経った頃であった。
ただのひねたハッカーが作った自己改良型ウイルス。
明らかにこのゲームのプレーヤーを殺すために作られたプログラム。
あまりに完璧なため制作者本人でも止められなかった。
さらに捜査を混乱させ被害者を増やしたとしてあっさり死刑判決が下された。
それだけの人が死に唯一の解除手段、誰かのゲームクリア後にも大きな混乱を招くことになるが、当事者達囚われたプレーヤーにはあずかり知らぬ事である。
初心者や冷やかしプレーヤーは早期に死に落ちしたり町中で隠れて震えているだけだし、廃ゲーマーにしても無理責めにより無駄に命を散らす者が多かった。
特に動かないプレーヤーを狙った襲撃イベントでは多くの犠牲者を生み出した。
私は廃ゲーマーとは呼ばれていたがそれほど無理をしなかった。
いや無理ができなかったと言うべきか。
精神ストレスだけでもいつ心臓が異常を起こすか分からない。
重い心臓病により通常の生活にも支障が出るほどの状態だった。
実力実績共に廃プレーヤーだが最前線にでることはない。
この世界の自分、電子妖精の姿で町中を駆け巡り、襲撃イベントで現れるボスモンスターを始末して回る、相棒の黒騎士と共に。
だが相棒はもう居ない・・・リアルでは家庭環境に問題を持ちゲームに居場所を求めた引きこもりの少年。
他にもこの世界にしか居場所のなかった友人達、そしてこの世界でしか生きていけなかった私。
本当なら小型AEDの移植手術に成功してこれからリアルの世界に踏み出すはずだった。
あの日、そのための別れの日になるはずだった。
それからの数日はほとんど憶えていない。やけを起こし自分の限界の狩り場を回りレベルを上げ最後のクエストに挑む。
もはや上位の仲間も残って居らずパーティーメンバーもいない。
限界を超えた時私の心臓は簡単に音を上げてしまった。薄れる意識の中何か体から抜けていこうとする。
胸に鋭い痛みが走り意識が蘇る。こちらの世界で死んだはずなのにAEDは発動したようです。
なんだかとても気持ちが良いです。魂の一部がどこかに繋がってここには居ないみんなの力がなだれ込んでくるようです。
目の前にはラスボス”世界の混沌”。窒息の息吹により死んだはずの私が含み笑いをしながら立ち上がる。
外装部分が黒く染まっている。きっと全身闇色に染まっているのだろう。
死んだ仲間達、プレーヤーの魂が集まるところに魂が繋がってしまったのだろう、力と幸福感仲間との一体感そして目の前の存在との融合を求める心。
よく悪霊や幽霊が仲間を求めるというのはこの感覚なんだろう。
こうして私はこのゲームをクリアした。無限コンティニュ-とチートな死に神の力によって。
最初の蘇生により、リアルの囚われたプレーヤー達がAEDによる刺激によって蘇生が可能とわかり以後肉体の死を迎える者はいなくなった。
そしてこちらの世界ーーー
現在生き残っているキャラクター達に神を名のる存在が一つだけ望みを叶えるとのアナウンスが流れる。
私の周りで喜んでいた人たちが口々に叫ぶ。
現実界への実体化、プレイヤーとの入れ替わりをと。
呆然とする私の口は勝手に言葉を紡ぐ。
何も知らない人達によりゲームは完全に消去された。
そこに存在した元プレイヤーごと。
そして様々な能力を持った偽物達はこの現実世界に放たれた。
私の横には新たな相棒、白い電子妖精の姿がある。
彼女は望んだ、自らの人工心臓を私にあげると。
私は彼女と一つになった。
無限の魔力を作り出す魔力炉と壊れた心臓と冥界の門となるAEDを持つ、無敵のハイブリッドとなった。
そして今日も探している。
やつら、ゲームからはみ出してきた偽物を彼の冥界に送り本物の魂を元の輪廻の輪に戻すために。
本来前話と後話は別の話(ただし同じ主人公)のつもりで投稿するつもりでしたが文字数が規定以内に収まってしまい、分ける意味もなさそうなので一作品にまとめました。
二月の中頃某所でデスゲーム考の場がありましてその時のネタを元に書き上げたのがこの話です。
書き上げた三月頭から一月ありましたがこの娘を作品として書いた時点で満足してしまったのか次の話が降りてこなかったので、今回は一作品のみのエントリーとさせてもらいます。
うちの娘達をよろしくお願いします。