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歌姫  作者: 橿倪・クレナイ
第二章 魔商売
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16・二人



「面倒くさい奴だな・・・・・。」



阿修羅は、クマの人形の肩に座っている女を睨み付ける。阿修羅には傷一つついていないが、対する女にも傷一つついていない。

傷ついているには人形だけだ。しかし、その傷をすぐに治る。



「このエルちゃんの前で、そんなにも元気なのは歌姫ちゃん、あなたが初めて。すごい興奮するけど、そうもやっていられる時間がないのよね。」



 何故、急いでいるのか。

それは、阿修羅には分からない。ただ、これ以上時間がかかると、あの二人とあとの三人がやってくるのは、二人とも分かっている。

 その時、女がピクッと反応する。

阿修羅は知らないが、それは丁度、冰津千が人形を取り込んだときだった。

悔しそうに唇をかみ締め、顔が苦痛に歪む。



「ガブちゃんがやられちゃった・・・・・・・・。大丈夫、エルちゃん。エルちゃんは死なせないから。」



 冰津千に人形が喰われたということが、よほど気に入らないのか、無表情で阿修羅を見下す。エルちゃん、と言われた人形は、今までのが比ではないくらい速いスピードで阿修羅に向かってくる。

 どうやら、あの女が怒ると人形のスピードが速くなるようだ。


気配が二つ、近づいてくる。


 それに気がついたのは、人形の攻撃を避けた後。

女はそれに気がついていないのだろうか。

ひたすらに阿修羅を見下ろし、表情が読めない。


あの二人、一般人ではない。何かが違う。


 目の前にいる人形と女には悪いが、人形の攻撃を避けてはいるが頭の中は近づいてくる気配に向いていた。

 気配は、阿修羅たちの近くで止まった。丁度角のところで止まったようなので、阿修羅たちからは見えないが、おそらく向こうはこちらの様子を伺っている。


あいつらは、敵か?

もし、敵だったなら面倒くさいな。夏維でもいいから、さっさと来てくれないか。

私に追いつくのに、どれだけ時間がかかっているんだ。



人形の一撃が私を襲う。


気配も一つ、消えた。



「・・・・・・人の家の前で暴れるとはいい度胸をしているな、二人とも。」



 阿修羅と女、人形の間に人が一人増えた。

おそらく、角からこちらを伺っていた奴の一人だ、ということは阿修羅は分かったのだが、いまいちその人の性別を分かり損ねている。

まあ、第一に。


誰だ、こいつは。



「あーあ、面倒くさい奴らが帰ってきちゃったから私、もう帰るね。」



“人の家の前”“帰ってきた”。この人は月詠荘の人か。


女はそうつぶやくと、大きな人形が破裂した。破裂した、という表現はあってはいないが、とにかくエルちゃんと言われていた人形がバラバラになった。

そして、綿が女の胸のあたりに集まっていく。

人形が綿になり、座っていた女が落ちると思ったが、まるで背に羽があるかのように、フワリと降り立つ。

足が地に着いたときには、胸のあたりに集まっていた綿は、再び形を成し、小さな人形になっていた。



「それに皆、来ちゃったみたいだし。」



阿修羅の後ろには夏維、臨野、カルマ、出。そして、隣には冰津千。

前には性別不明の奴がいて、もう一つの気配は角からゆっくりと歩いてきている。



「でも、次はないと思ってね、歌姫ちゃん。次は絶対に連れて行くから。」



「バイバイ。」と言い残し、去ろうとする女。阿修羅が引き留める前に、彼女は消えていった。

結局女の名前は分からなかったが、女の目標は達成されなかった。



「本当、錦なにしてんの。急に移動した、と思えば敵取り逃がすし。錦って本当、使えないよね。」



 向こうの角からやって来た青年(いや、少年かもしれない)は、阿修羅たちに姿を見せたとたん、錦と呼ばれる、おそらく間に入ってきた性別不明の奴を責め始めた。

錦と呼ばれても、女なのか男なのか分からない顔立ち。女にしては高い身長、男にしては平均の身長。

やはりどれをとっても、性別が分からない。



「それで、そっちが歌姫?」



 青年は阿修羅の前で止まり、品定めでもするかのように頭の先からつま先まで、ジロジロと見だした。

それの行動に頭がきたのか、冰津千が青年に手を出そうとするが、阿修羅に止められる。

それで渋々手を出すことを止めた彼を見て、青年は鼻で笑った。



「守るにも値しないような子だね。それにその従者も弱そう。」



 ニコニコ笑いながら言う青年に、阿修羅と冰津千はイラッとした。

他の人たちはそんな二人の様子に気がついたのか、間に入ろうとするが、入れるような空気ではなかった。



「あんな雑魚一匹倒せないぐらいなら、あんたの兄さんに一生近づくことができないよ。」



 何を言い出すのか分かった冰津千は、男を止めようとしたが、それは遅かったらしく、男は全てを話してしまった。



「兄さん?私に兄はいない。」



 阿修羅は青年が何を言っているのか分からない。

家族は、母、父、阿修羅の三人。母と父は、阿修羅が物心つく前に死んだと聞かされている。

 何故この青年は、阿修羅に兄がいると言うのだろうか。


 阿修羅がそう言うと、青年は目を見開き、笑みを消した。

小さく「そうか・・・・・・。」とつぶやき、ギュッと己の手を握った。

何故そうするのか、修羅には分からない。彼女にとって、青年の行動は不可解だ。



「・・・・・・あの、もう夜ですし、月詠荘に戻りましょう。」



 なんとも言えない空気になり、その空気をかえるためか夏維がそう言った。










「錦だ。言っておくが男だ。」



 性別不明の奴は、男だったらしい。

今は、悪魔の説明を受けた会議室のような部屋で、自己紹介をしている。

なんか、自己紹介という響きが複雑だ。



「こいつは「僕は小豆。よろしくね。」・・・・・・・さっきまでの毒々しい勢いはどうした・・・。」



錦が不可解な行動をとっていた青年を紹介しようとしたが、自分で紹介した。

さっきと変わって、毒々しい感じはしない笑顔を浮かべている。

阿修羅にとって、小豆と言われる青年にどう接すればいいのか分からない。


ぎこちない笑顔を浮かべる。



「私は阿修羅、隣にいるのは冰津千。」



それ以外言うことがなく、四人の間に変な空気が流れる。



「二人とも、予定より帰ってくるのが遅かったな。」



 あからさまに目が泳いでいるが、私たちのこの空気をどうにかしようと必死なカルマ。

カルマにもそんな気を利かすようなことができたのか、と阿修羅は感心する。

失礼なことを考えているが、カルマのおかげで先ほどのような空気はなくなった。



「ああ、それな。迷ってた。」



 どこにいたのか知らないが、迷うようなところにいたのか、方向音痴なのか。

でも、迷っていたのによくここに戻ってこれたな。



「本当、錦のせいだよ。あの時右に曲がってたら、もっと早く帰って来れたのにさ。」



 小豆が、夏維が入れた茶を飲みながら言う。

「お前が俺を引っ張ってただろ。お前が勘で進んでたんじゃないか。」隣でブツブツ言っていた錦を殴った。

 錦という人は、小豆に振り回されている苦労人のようだ。


この二人は、ここにいた四人とは何かが違う。

この二人は、ここにいた四人よりはるかに強い。


 阿修羅は二人を観察して思った。

そして、私よりも強い、と。



「まあ、ただいま。それと、歌姫。俺は馴れ合いというもんはいらん。寄ってくるなよ。」



 急にそんなことを言った錦は、さっさとこの部屋を出て行った。


“寄ってくるなよ”って。必要以上に人に寄るわけがないだろう。

もるで人を動物のように言いやがって。

・・・・・・そういえば、最初のほうは臨野にもああいう態度をとられたな。

錦は臨野の進化系か。



「変なこと言ったけど、あんまり気にしなくていいよ。ああ言いながらも誰かとの繋がりを求めているんだから、錦は。」



 なんだか少しさびしそうな顔で、錦の出て行ったほうを見る小豆。

からかっていても、小豆にとって錦は大切な人なのだ。


読んでいただきありがとうございます。

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