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歌姫  作者: 橿倪・クレナイ
第二章 魔商売
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13・退治



その部屋の中央には、まるで人体実験を行うような鉄の机(ベッドだろうか?)があり、その上に香奈穂の首があった。

夏維はそれに何でもないように近づく。

これ、悪魔を倒す前に香奈穂が死んでないか?

・・・・・え?人を殺すのはありなの?

頭の中が混乱し、入り口で踏みとどまったままで部屋に踏み入ることができない。



「・・・・・あ。説明を忘れていました。」



夏維がそんな私の様子に気がついたのか、机に向かっていた足を私の方に向ける。

足が震える。

夏維に苦笑されるが、私はそんな彼女が怖い。



「これ、悪魔なんです。香奈穂さんは他の部屋で寝ています。」



・・・・・は!?

首はどっからどう見ても香奈穂じゃないか。

夏維の言うことが信じられなくて、夏維と机の上にある首を何度も交互に見る。

悪魔なのに何故香奈穂の顔をしているんだ?



「悪魔は自分が宿っている人から心を吸い取ります。これは聞きましたよね?」



私は小さくうなずく。



「それで、宿主が死ぬとそれからはその人として生きていく悪魔がいるのです。何故同じような姿をしているのか詳しく分からないのですが、おそらく、子供は親の遺伝子を持って産まれてくるのと一緒で、悪魔は自分を生み出した“親”の一部を受け継ぐのでしょう。」



一部を受け継ぐって言ったって、それにしても似すぎだろう。似るにも限度があるのだが、これはそれをこえている。一卵性の双子並に似ている。

もし、悪魔が成長して香奈穂そっくりになったら、香奈穂と間違えて話しかけそうだ。

自分の“親”に苦痛を味あわせ、ジワジワと体の中にある細胞を吸い取っていくということか?

悪趣味だ。

 香奈穂の顔そっくりな顔をした悪魔は眠っているように目を閉じている。

目を閉じていれば静かそうなのに、おそらく、目を開いたとたんうるさくなりそうだ。

首のままで何をしだすのかは分からないが、考えただけでホラーだ。

鳥肌が立ったので、自身の腕をさすっておく。

 


「今、悪魔用の麻酔を打っているので寝ていますが、起きたらそこの入り口から離れないでくださいね。私が失敗して、これが逃げ出しそうとしたら殺してかまいません。ただ、ここからは出さないようにしてください。後がめんどくさいので。」



夏維は私たちの前で止まっていた足を首がのっている机に向ける。

そして首の前に立った。大きく息を吸い込んで深呼吸をしている。

私は初めてのことなので緊張する。

これから何が起きるのか、起こすのか。

ドキドキする。

冰津千は、初めてかどうかは知らないが、どうせ初めてであっても何も反応がないのでつまらない。彼はよく働くが、つまらない奴だ。

悪魔なら誰だってそうなのだろうか。

 まあいい。今は首だけの悪魔が何をするのか、何をされるのかが気になるのだ。

夏維がポケットから、ナイフを取り出した。あれ、手術とかに使う物ではないだろうか。

一度見たことがある。誰だったか忘れたが、いきなりそれを投げてきてびっくりしたからよけた。殺意はなかったのは覚えているが、誰だったか?

 それを、ここからじゃよく見えないが、おそらく額に刺す。

そこから、血が流れてきて、うわあ、と思った。

悪魔でも血が流れるんだな。そういや、冰津千も血が出ていたな。

ていうか、夏維が怖い。慣れているのから出来るのかもしれないが、それにしても、悪魔に憑かれている人にそっくりな顔を戸惑いもなく刺すことができるな。

怖い。

私がそう思っている間にも夏維は、メスを進めていく。

どうやら、皮を剥がし、中を弄くっているようだ。

グチャグチャといろいろなところをあさっている音が、もろに聞こえてくる。

怖い。

ていうか、悪魔って中を弄くる必要はあるのだろうか。もうそのまま、跡形も残らないように潰してしまえばいいのではないだろうか。

丁度、夏維で隠れて弄くっている様子は見えないが、彼女がそこに立っていてくれてよかったと思う。その様子が見えたなら、きっと私は気持ち悪くなって、吐いていただろう。

この音だけでも、すでに気持ち悪いのだから。

 冰津千を盾にして立っていたら、音が止んだ。

グチャグチャいっていたのが、急に何もないように、しーん・・・と静寂に戻る。

見るのが怖いが、恐る恐る冰津千の背から顔を出す。そしたら、夏維がこっちを向いているのが見えて、なにやら私たちの方に向かって手招きをしていた。

怖い。

恐る恐る、やはり冰津千を盾にしながら、夏維に近づく。

前が止まったので、怖々と机(?)を見る。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うえ。


なんか、香奈穂の顔の額部分だけパックリ開いていて、なかを取り出したのだろう、何もなかった。人間ならば本来、脳があるところだ。

それで、少し視線をずらすと何やら蠢いているモノが見えた。


・・・・・・・・・・・・おえ。


どうやら、それが中に入っていたモノらしく、まあ、グロかった。

まるで心臓の鼓動のように、脈打っている。で、心なしか少しずつ移動しているように見える。



「これが、悪魔の核です。悪魔はこれさえあれば、いくらでも再生することができます。しかし、これがある場所は悪魔によって異なるのです。この悪魔は頭にありましたが、心臓、腕、指、足など、体のどこかにあります。体の一番最初に出来た部分が核となりますが、このように体の作りかけの最初の段階ならどこにあるのか分かりやすいのですが、体の作りかけが進んでいる状態、もしくは完成してしまっている状態なら、どこにあるのか見分けるのはとても難しいことです。」



夏維さん、怖いです。にこやかにこっちを見て説明しながら、持っているメスで中から出てきた奴を刺すのはやめてください。恐怖を植えつけないで下さい。

なんかピクピクしてます。グロいです。



「成体になった悪魔の核のある所を見つけるコツは、はっきり言ってしまえば“勘”ですね。倒していったら分るようになりますよ。阿修羅ちゃんの場合、近くにいつも冰津千さんがいるので、悪魔の核はどこにあるのか聞いたら分ることです。悪魔同士はお互いに電波の交信のようなものをしているはずなので。」



・・・・・・・・えっ?

今、夏維は“悪魔同士”と言ったのか?

どうして、それを知っている?

冰津千が教えたのか?いや、そんな訳がない。

私が言ったか?・・・・・・・・・・自信はないが、おそらく言っていない。


そんな考えが顔に出てしまっていたのか、夏維が、クスクスと笑う。

腕を大きく振り上げ、先ほどまで刺していたものに思いっきり突き立てた。

ガスッ

と音がしたので、おそらく、貫通して机(?)に刺さったのだろう。



「分りますよ、冰津千さんが悪魔ってことぐらい。“匂い”が普通の人と違いますから、血の匂いが。」



血の匂い?

そういえば、皐という奴と戦ったとき、たくさん血が出ていたな。

あれか、それとも、初めて会ったときのか。

どちらもか?



「まあ、今はそれはおいておいて、この悪魔の処理をしましょう。」



夏維はメスを再び手に取る。それもやはり笑顔を絶やすことなく。

まだ、メスが刺さっていた奴は、ピクピクと動いていた。

しぶとい奴だな。



「核は、ただ攻撃するだけでは壊れません。核を壊したいときは、刺したり潰したりするのではなく、こうやって・・・・・・・・・・・・・・・・・斬るのです。」



スパンッ


ありきたりな効果音なのだが、まさにそうとしか言いようがない。

あの短いメスでは考えられないような威力だ。

それは、核だけではなく、下の机も綺麗に真っ二つにした。


何度でも言おう。

怖いです。夏維さん。


転がってきた、綺麗に真っ二つになった核の一つはもう動いてはいなかった。

もう一方の核は夏維の足元に転がっていた。

それを夏維はあろうことか、踏み潰したのだ。あろうことか!

踏み潰されたそれは、周りに血を撒き散らし、夏維の体に付着した。

それでも夏維は変わらず、ニコニコとしている。


怖っ!!!

絶対この人は敵にまわしたくはない。


「核を切った後、核は自然に消えていきます。でも、本当にまれに核を切っても生きている奴がいるので気をつけてください。そいつは、上位以上の悪魔です。そいつに会ったら絶対に目を合わせてはいけません。絶対に戦ってはいけません。死にたくないのであれば。」



そんな奴がいるのか。

それは是非とも会いたくないものだ。逃げるにかぎる。

悪魔に上位とかあるのなら、中位とか下位とかあるのではないだろうか。

じゃあ、冰津千はどのくらいだ?

おそらく強いほうだと思われるが、明確な強さが分らない。たいてい私を庇って怪我をするとかだから、ということは、私は冰津千の邪魔になっているということか?私がいなければ、本気で戦うことが出来るのではないだろうか。

それならば、最低でも中位にはいるはずだ。

全く、悪魔には核を壊してもまた再生する奴とか、上位と言われる位があることにびっくりした。

 悪魔とは、なかなか興味深い生き物なのだな。


足元に転がってきていた核が、まるで空気に散るように消えた。


 どういう仕組みで、そのような消え方が出来るのか、ぜひとも教えてほしい。



「悪魔の消し方は分りましたよね。さあ、香奈穂さんや祭さんがいる部屋に行きましょう。これで、頼まれた仕事は終わりました。」



夏維は、この部屋の奥にあった(暗くて見えにくいのと、壁の色と一緒な色なことがあって、今まで気づかなかった)扉を開ける。

扉の隙間から光が漏れ、薄暗いところにいるせいで、目を細めた。

向こうはとても明るいようだ。

私たちもその扉に近づいていく。



「失礼します、祭さん。香奈穂さんは目を覚ましましたか?」



小さな個室で、シンプルに家具が揃えられていた。この部屋は他のところと比べて、生活感がある。

だれがこの部屋を使っているのか、当然知るわけがないのだが、勝手に人の部屋を使ってもいいのだろうか、と不安になった。



「夏維さん。いえ、まだぐっすりと眠っています。」



 祭は安心したような表情で、寝ている香奈穂の髪を撫でる。対する香奈穂の顔は、血色が戻ってきていて、穏やかな顔になっている。

先ほどの不気味な顔とは大違いだ。

 これで香奈穂が起きたら仕事は終わる、と一息つく。

なかなかに、悪魔を祓うという仕事は、忙しいことが分った。ほとんど私は何もしていないが。


これからは、この仕事を自分たちがやるのか・・・・・。

大変そうだ。






読んでいただきありがとうございます。

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