わ、わたしと一緒に因習村へ行きませんかぁ?(涙目)
二ノ坂小鞠は非常に困っていた。
小鞠は田舎の生まれで、その田舎から特大ミッションを受け都会に出てひとり大学生活をしている。当初は慣れないひとり暮らしにあっぷあっぷしていたが、いつまでもミッションを放っていはいけないと、現在絶賛活動中だ。
ミッションはずばり、街の若者たちを生まれ故郷へ誘うこと。
男女は問わない。人数はできるだけ多いほうがいい。小鞠と同世代が望ましく、故郷や親元から離れ一人暮らししているような子ならなお良し。どうしてそうなのかはよく知らないが、故郷からの期待は大きく、絶対に失敗できないと小鞠は思っている。
しかしこれがなかなか難しかった。
『いや、さすがにそれは厳しい』
『ごめんね、ちょっと外せない予定があって』
『俺をミッドサマーする気?』
仲良くなれたかなと思って誘いをかけても、まあ断られる。断られまくる。なかにはあからさまに警戒されて、二度と話しかけるなオーラを出される。どうやら焦るあまりにアプローチを間違えたようだ。
せまい自室のベッドに寝転び天井を仰ぐ。
(はあ……ぜんぜんうまくいかない……)
小鞠にだってわかっているのだ。
この内向的な性格じゃ人を呼び込むのは難しいって。
でも数少ない同世代の男の子はアホ過ぎて高校卒業も危うかった。もうひとりの子は田んぼが好き過ぎて片時も離れたくないと言って断固拒否。新しい耕耘機が云々、ドローンを使った薬剤の散布が云々と熱量高めに語っていたのが記憶に新しい。
つまり小鞠しかいなかった。
限界集落の少子高齢化が恨めしい。
(どうしよう、このままじゃオハナ様にもがっかりされちゃう……)
小鞠はベッドに寝転んだままベランダの方へ目を動かした。そこには村の御神体から株分けしてもらった特別なノイバラがプランターでひっそりと育っている。つるにはびっしりとした棘。花びらは珍しい黒赤色で、美しくも神秘的な花をつけている。
オハナ様。
小鞠の村で祀る特別な神さま。
他所の町にはこういう神さまはいないらしく、だから花籠村は特別なのだと村の大人は常々言っていた。小鞠もそう思う。だってオハナ様は優しくて、頼りになって……みんなを守ってくれて………………だから、オハナ様が望むのなら、街の若者を連れて来なければならない。
小鞠は両手をきゅっと握った。
(よし、アプローチを変えてみよう!)
もっと明るく、テーマパークへ誘うように朗らかと。
推しポイントを明確にして押し付けがましくしない。
まずは興味を持ってもらうことから。
ベランダで咲いていたノイバラの花が、心配そうに小さく揺れた。
◇
『秘祭あります!』
『因習村に興味ありませんか!』
『さああなたも花籠村へ!』
チャットGGPへ相談した結果、花籠村はいわゆる因習村に該当し、そこをアピールしていこうとのことだった。全員には刺さらずとも興味のある人に届けばいい、ということで簡単なパネルを用意したけれど。
(恥ずかしいよぉ……)
顔を真っ赤にし涙目でうつむく小鞠。
講義終わりの学生がちらちらと小鞠を見ては足早に去っていく。小鞠は今、入学時に新歓ブースが並んでいた中央広場にパネルを持って立つという珍業を成し遂げていた。
立ち始めて早々に心が折れかけたその時、小鞠の頭上に人影がかかる。
「ねえキミ、一年生?」
ぱっと顔上げるも逆光のせいで誰なのかよく見えない。背の高い男の人ということだけ分かる。反射的に一歩あとずさってしまったが、相手は特に気にしてはいないようだ。
「俺、教養学部三年の岩谷っていうんだけど、民俗学の研究とかそういうサークルやってるんだ。よかったらその花籠村のこと聞かせてほしいと思って」
そう言って岩谷と名乗った男はビラを手渡してきた。
やせ型で温厚そうなメガネ男子だ。その様子に少しだけ安心する。
ビラには確かに民俗学研究会と書いてあった。現在男女合わせて十名ほどが活動中らしい。
「……うちの村のこと、聞いてもらえるんですか?」
「もちろん。ここじゃなんだから、お茶でも飲みながら話さない?」
「は、はい、よろこんで!」
話しを聞いてもらえる。興味を持ってくれたら、村に来たいって言ってくれるかもしれない。そんな期待で有頂天になった小鞠は誘われるがまま大学近くの喫茶店へ入った。雰囲気のいいお店で、まばらにいるお客さんが余計に安心させてくれる。よく知らない男の人にほいほいついて行って、もしかしたら騙されてるんじゃないかと一瞬頭を過ぎりはしたものの、こんなに親切な人がそんなことするはずがないと期待を優先させた。
「それでですね、オハナ様っていうのは――」
「なるほどねえ。おもしろいなあ」
岩谷の絶妙な相槌に小鞠もどんどん気分がよくなり。
「だからわたし、村に人を連れて行きたくって」
「うんうん」
岩谷は聞き上手で物腰が柔らかかった。都会の男の人は優しくて紳士的というイメージはあったが、岩谷はまさにそれだ。ひょろりとしていて体力面ではちょっと頼りないかもしれないけれど、ここじゃあ三十キロの玄米を担いで精米しに行く必要もないし、重たい農機具やイノシシ罠とも無縁なのだろう。
「小鞠ちゃんってかわいいいね」
「か、からかわないでください!」
「あはは、そういうとこ」
村でこんな軽口を叩いてくるのは爺婆だけ。まさかの同世代と恋愛ドラマのワンシーンのようなやりとりまでしてしまって、小鞠は完全に浮かれていた。
気付けば、小鞠はなぜか関東でも屈指の心霊スポットへ来ていた。
「な、なんでぇ!?」
「あはははは」
目の前には大きな口を開けた古いトンネルがある。奥にはかすかに点滅する灯かりがあって、それがかえって怖さを増長させていた。使われていないのになぜ電気がついているのか。まるで提灯アンコウの疑似餌。周囲には鬱蒼とした緑があり、そのせいもあって辺りは不気味なほどに暗い。そして旧トンネルなので当然車の通りはなく、周囲には小鞠たち以外に誰もいない。ただ湿気をはらんだ冷たい風が小鞠の足を撫でるだけだった。
「言ったじゃあん俺。小鞠ちゃんのところに行ってもいいけど、それより先に来てほしいところがあるって」
口元だけで笑った岩谷の顔はどこか不気味で、その視線は小鞠を見ているようで違う。怖いというのが正直な感想だ。今さらながら下手を打ったことに気付いた。
「この前サークルのみんなを誘ったのに全然来てくれなくてさあ。いや助かったよ。小鞠ちゃんがきてくれてえ」
「な、なんでわたしを……」
「あれ、自分は因習村に連れてく気だったのに、連れて行かれる覚悟はなかったってことお?」
その言葉に何も言えなくなってしまった。
しかし一方で違うと主張する自分もいる。オハナ様のために人を村へ連れて行くことに後ろめたく思う気持ちは一切ない。村は田舎だけどいいところだし、別にだまし討ちで無理やり連れて行くわけでもないし、相手が納得していることが大前提だ。それにオハナ様はなにも悪いことはしない。
そこまで考えて小さく首を振った。
いや今それはいい。ここから生きて帰ることが先決だ。
ここまでは岩谷のバイクで来た。岩谷に帰す気がないならこの足で歩いて帰らなければならない。でもどうやって? 山道をこれでもかと登ってきたし、途中からは車では通行不可な道をバイクで駆けあがっていった。岩谷から逃げながら無事帰ることは可能なのか。
「ほら行けよ。ここの人たち生きた人間連れてこいってうるさくてさ。あ、小鞠ちゃん処女? うん処女だよねその感じあはははは」
いつのまにか右手に持っていたカッターをきちきちと鳴らす岩谷。小鞠は一歩、また一歩と後ずさる形でトンネルの内部へと足を踏み入れることとなった。
(オハナ様……)
出歩く時は常にバッグへ入れていたオハナ様のお守りを握りしめる。奥へ奥へと足を進めながら、小鞠は心の中でオハナ様の名前を繰り返した。助けてと安易には言えない。人はまず自分で頑張らないといけない。自助努力をしもしない者を助けようとする神はいないのだ。だから今はその名から勇気をもらうだけ。
「すみませんすみません連れてきましたすみません」
岩谷の大きな独り言がトンネル内に響く。
チカチカと不規則に点滅する古い電灯。トンネル内が明るくなって暗くなって、また次に明るくなった時にバケモノが目の前にいたらどうしよう、なんて事を想像してしまう。
この状況をどう打開していいかわからないまま、どんどんトンネルの奥へと進んだ。コツコツと鳴る二人分の足音。そこに加わる岩谷の声。反響するその声に交じって別の声が聞こえるような気もした。
気味が悪い。気持ちが悪い。
一歩進むごとに独特の息苦しさが小鞠を襲う。ひどく臭いというわけではない。ほこりやカビの匂いはすれど、空気自体はきちんと流れているのだ。そこまで人体に異常をきたすものではないはず。
だというのにこれはなんだろう。
今すぐ花籠村の澄んだ空気を吸いたい。
「はい。はい。そうなんですか。ありがとうございます。精進します」
「――わっ」
足元にあった何かのせいでよろけ、小鞠はチャンスとばかりにその場でうずくまった。短い時間の中でめいいっぱい頭を働かせる。この場から逃げ出すにはどうしたらいいか。岩谷を撒くにはどうしたらいいか。これ以上奥へ行ってはいけないと本能が告げている。引き返すならここだ。
「す、すみません、転んだ拍子に足を怪我しちゃったみたいで」
「大丈夫? 気をつけてね。ここの人、二ノ坂さんのこと気にいっちゃったって。絶対に逃さないって。絶対逃さないって。はは。絶対逃さないって」
その瞬間、頬にぬるりとしたものが触れた。もちろん周囲にはなにもない。あるのは空気だけだ。でもその空気がぬるく、そして湿っていて、なにかの形を成しているかのようだ。嫌悪感が全身を駆け巡り、小鞠は思わず立ちあがりその場から逃げ出した。
闇に目をこらし、入ってきた方角を目指して一生懸命足を動かす。幸いにもここまで歩いていた道に大きな障害物はなかった。このままトンネルを抜けて逃げよう。背後から足音が聞こえてくる。岩谷だ。反響してるせいかもっと多くの足音にも感じる。
「うわ!」
出口の手前で突然片足を何者かにつかまれた。太くねとりとしていて、明らかに人間の手ではない。驚いている間にそのまま両手両足をつかまれ、もっと太いなにかが小鞠の全身を舐めるように動いた。
指先も足も首も、それはあますことなく小鞠の肌をなぶっていく。肌も服もねっとりした粘液で濡れていくような不快さ。背後で岩谷のけたけたと笑う声がこだましていた。
「いや、やめて……っ」
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
まるでヘドロを塗りつけられているようだ。
全身が穢れていく感覚が小鞠を絶望させていく。
「こんなのいや……助けて、オハナ様……!」
小鞠は握りしめていたお守りに懇願した。おそらく汗に濡れて中身もぐちゃぐちゃになっていて不敬極まりない。それでも小鞠は村の守り神にすがった。それしかすがるものがなかった。
そして次の瞬間。
「おいいたぞあそこだ!!」
「岩谷何してるんだおまえ!」
「やだ女の子がいるわ!」
複数人の大声と共に、強い光が小鞠の顔を照らす。それと同時に体を拘束していたあの気持ち悪いものがふっと消えた。懐中電灯を持ったたくさんの男女が周囲にきて、その内の何人かは岩谷を取り押さえにかかっていた。
「くらえ! 清めの塩スプラッシュ!」
「バカそれよりも榊と祝詞だ!」
誰かが小鞠を支える感覚を遠くに感じながら、助かったのだと確信した。
「あ、ありがとうございます……」
そこから全身の力がふっと抜けて、その場にへたりこんでしまった。
◇
助けにきてくれたのは民俗学サークルのメンバーだった。
「いや最近こいつの様子がおかしいってみんなで言っててさ。なんか巻き込んじゃったみたいでごめんね」
岩谷のバイト無断欠勤が発覚し、そこからみんなで大捜索していたとのことだ。
「でも今からどうしよっか。岩谷はとりあえず縛ったけど、こいつのバイクとかも移動させなきゃマズいっしょ」
様子のおかしい岩谷とバイク、そして腰の抜けた小鞠。全員でどうやって下山するかを話していると、突如として唸るようなエンジン音が近づいてきた。
「……なに、この音」
ものすごい速さで来るそれは、あっという間にトンネル前にいた小鞠たちの前へ姿を見せる。
軽トラだった。
誰が見ても間違うことのない立派な軽トラだった。
それを見た小鞠の口から思わず言葉が漏れる。
「やっちゃん、きょうちゃん、なんでこんな所に……?」
乗っていたのは小鞠の幼なじみふたり。
あのバカ代表の矢一と田んぼ命の恭介である。
真新しい車体にたくさんのステッカー。矢一の愛車スズキキャリイで間違いない。そしてふたりは花籠村に住んでいるので、片道三時間半かけてここまでやって来たことになる。なにか用事があった? だとしてもなぜこんな所へ? 小鞠のそんな困惑をよそに周囲の人間は「軽トラからイケメンふたり……」と別の意味でざわついていた。
「おまえが下手こくから尻ぬぐいに決まってんだろバーカ」
「俺を田んぼから離したツケは高くつくからな」
思ってもみないことを言われ、小鞠は目を丸くした。まさかオハナ様が村から助けを呼んでくれたのか。そう理解した瞬間、体温がぶわりと上がって顔が真っ赤になっていくのがわかった。やっぱりオハナ様だ。オハナ様が守ってくれた。手の中のお守りをいっそう強く握ってしまい、慌てて取り出してしわを伸ばした。心の中で「オハナ様ありがとうございます」と何度も繰り返す。
「えっと、車が侵入できないようにポールがあったと思うけど」
「んなもん俺の運転テクでこうよ」
矢一のジェスチャーから察するに鋭角片輪走行で突破したらしい。それはそれで怖いのだが、この男ならやりかねない。
そして矢一は思っても見ないことを言った。
岩谷を花籠村へ連れて行き、そこでしばらく面倒をみるというのだ。なんの権利があってそうするのだろうと誰しも思ったが、それを聞くことはためらわれた。
「本人が帰りてえって言ったら帰すさ。バイクも持っていくし」
ならばいいのか……?
ダメだと言ったところで様子のおかしい岩谷にもどう対処していいのかわからない。ならば責任をぜんぶ押し付ける形でこの二人に任せてもいいのではとその場にいた全員が思った。最近なにかと問題行動が多かったので自業自得なのかもしれない。
ふたりは手際よく岩谷のバイクを荷台に上げると、その横に岩谷本人も転がして布を被せた。雑だ。そしてロープでしっかりバイクを固定し、二人はそのまま車内に乗り込んでいく。それを見て小鞠は慌てて駆け寄った。
「もう行っちゃうの?」
「コイツが早く帰りてえってうるせえんだよ」
コイツとはもちろん恭介だ。
道案内するため同乗させられたらしく、隙さえあればずっと見守りカメラのライブ映像で田んぼの様子を伺っていたようだ。その恭介は手元のスマホに視線を向けたまま、小鞠へ口を開いた。
「あんまりオハナ様に心配かけるなよ」
「……うん。きょうちゃんたちにも心配かけたみたいでごめんね」
「田んぼの次くらいには心配してやる」
矢一もいつになく真面目な顔つきで小鞠へ言う。
「ここの穢れは厄介だからしばらくお守りを肌身離さずもっておけ。あとオハナ様の株分けしたやつ持って行ってただろ? その花びらを全部使っていいから身を清めろって。妹が言ってた」
矢一の妹はオハナ様の巫女的な存在。彼女が言うなら素直に聞いておいた方がよさそうだ。小鞠は小さく頷くと、ふたりの邪魔にならないよう一歩後ろへと下がった。
「じゃあな。たまには帰って来いよ」
「今なら植えたてで稲かわいいぞ。今度見にこい」
「うん。またね」
爆音でエンジンを吹かし走り出した矢一たちを見送りながら、女の子たちがぽつりと言った。
「軽トラ乗ってる男って絶対ナシだと思ってたけど……価値観揺らぐ……」
「ちょっとわかる。なんか……ありだよね……」
荷台に転がっているであろう岩谷。
おそらく道路交通法違反だ。
無事に花籠村まで着きますようにと、小鞠も強く願ったのだった。
◇
部屋に帰った小鞠は、一目散にベランダへ向かった。そしてプランターのノイバラに向かってしっかりと両手を合わせる。
「オハナ様オハナ様、今日は本当にありがとうございました」
すると突然、風もないのにノイバラの赤黒い花びらがはらはらと落ちだした。あわてて拾い、手の中に広げ数えると、その数は十枚。花に残ってるの花弁は一枚だけだ。
「……花びらを使えってことですか?」
風にふわりと揺れる様子が是と言っているように感じた。
「ありがとうございます。大事に使いますね」
どうやって使おうかとしばし考える。
神棚にお供えした日本酒に花びらを浮かべるのが一番よさそうだが、あいにく神棚も日本酒もない。未成年の小鞠ではお酒を購入することもできないし、であるならば花びらを浸した水を使うのがよさそうだ。
まずは一枚、湯舟に浮かべてみる。
全身をくまなく洗ったあとにちゃぷんと体を湯につけると、あのトンネルで受けた穢れが薄まった感じがした。
「はあ、いい気持ち」
消耗してしまった精神も若干ながら回復した感じだ。オハナ様にはこんな力もあるのかと小鞠は感心するばかりである。
この時、小鞠は気付いていなかった。
風呂場についているすりガラスの窓。
外側からぺたりとついた手の跡は、三階の部屋ではありえない。
また、窓はわずかに震えており、とんとん、とんとん、とノックをするように規則的な振動を起こしていた。
「ん? ちょっと揺れてる? また地震かな」
ざばりと湯から上がった小鞠は地震情報をチェックするためにお風呂場から出ていく。それでも窓は震え続けた。とんとん、とんとん。少しずつ音を大きくしながら。ただしばらくするとそれもぱっとなくなった。それはベランダにあった最後の花弁が突如朽ちて床に落ちたのと同じタイミングであった。
トンネルからずっとあとをつけ、部屋の周囲をうっすら漂っていた嫌な空気も、最後の花びらが散ったと同時に霧散した。手の跡も消えた。これで当分は大丈夫だろう。……その当分がどれくらいかは分からない。
「うん、なんにもないみたい。花籠村も大丈夫」
ぱっとスマホから顔をあげ、小鞠は濡れた髪をタオルで拭った。お風呂上がりは何かと忙しい。変なくせがつく前に髪をドライヤーで乾かさないといけないし、肌の保湿もかかせない。都会の女の人はみんなキレイでおしゃれなのだ。そこに混じるためにも多少の努力が必要である。
「よーし、明日からまた花籠村への勧誘がんばるぞー!」
窓の外でひゅうと風が鳴る。
二ノ坂小鞠の奮闘と受難は、まだまだ終わらない。




