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生贄として追放されたオメガの王子、植物魔法で死の大地を蘇らせる〜不器用で優しい魔王様に拾われ極上の幸せを手に入れる〜  作者: 水凪しおん


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第9話「断ち切る過去と守護の光」

 魔王城の前に響き渡ったルグランの声は、決して声を荒らげたものではなかった。

 しかし、その低い声音には、アルファとしての凄まじい威圧感と、一切の妥協を許さない絶対的な冷酷さが宿っていた。

 使者として訪れた近衛騎士たちは、まるで目に見えない巨大な岩に押し潰されたかのように、その場に膝から崩れ落ちた。

 彼らの顔面からは完全に血の気が引き、歯の根が合わずにカチカチと乾いた音を立てている。

 魔王の恐ろしさを身をもって味わい、呼吸すらまともにできない状態に陥っていた。

 ルグランは彼らを見下ろしたまま、冷ややかな視線を一瞥するだけで、その足元へと歩み寄った。


「そのふざけた書状をよこした愚か者に、そのままそっくり伝えてこい」


 ルグランの言葉は、氷の刃のように鋭く冷酷だった。


「ダンテはすでに俺の番であり、この領地の誇り高き住人だ。人間の国が彼を手放した時点で、すべての権利は消失している。ましてや、我々が汗水流して育てた作物を、何一つ努力しない盗人どもにくれてやる義理などない」


 使者の一人が、恐怖に顔を引きつらせながらも、かすれた声で反論を試みた。


「ば、馬鹿な。ローゼン殿下の要求を拒むというのか。我が国には、誇り高き10万の正規軍がいるのだぞ。この貧弱な魔王領など、数日で火の海にできる」


 その脅し文句を聞いて、ルグランはひどく退屈そうにため息をついた。

 そして、傍らに立つダンテの方を振り返り、その大きな手でダンテの肩を優しく抱き寄せた。


「あの国が飢えに苦しんでいる理由は簡単だ。これまであの国の大地が豊かだったのは、ダンテが王宮の庭で無意識に流出させていた魔力の恩恵によるものだったからだ」


 その事実を告げられ、ダンテは驚きに目を見開いた。

 自分が祖国の大地を支えていたなど、今の今まで全く気づいていなかったからだ。


「それを知らずに、オメガだからという理由だけで彼を迫害し、自ら恩恵を捨て去ったのはお前たちだ。今頃になってその事実に気づき、恥知らずにも泣きついてくるとは、人間の王族とはよほど滑稽な生き物らしいな」


 ルグランの言葉の刃に、使者たちは完全に沈黙した。

 反論する言葉すら見つからず、ただ恐怖で身を震わせている。


「帰れ。そして二度と、我々の土地に足を踏み入れるな。もし武力でダンテを奪おうとするならば、俺は持てるすべての力を使って、人間どもをこの世から消し去る」


 その宣戦布告ともとれる言葉に、使者たちは悲鳴を上げて立ち上がり、逃げるようにして馬車へと転がり込んだ。

 馬に激しく鞭を打ち、猛スピードで城から遠ざかっていく馬車の背中を、ダンテはただ静かに見送っていた。

 自分の祖国が、あそこまで惨めで愚かな姿を晒すことになろうとは、夢にも思わなかった。

 かつては恐怖の対象であった王家の人々が、今はただ哀れな存在にしか思えなかった。


「ダンテ、怖い思いをさせてすまなかったな」


 ルグランが抱き寄せていた腕の力を少しだけ緩め、温かい声で囁きかけてくる。

 ダンテはゆっくりと首を横に振り、ルグランの胸に顔を埋めた。


「怖くなんてありません。あなたが、私を守ってくれたから」


 ルグランはダンテの背中を優しく撫でると、真剣な表情で空を見上げた。

 人間の国がこのまま引き下がるとは思えなかった。

 彼らは飢えのあまり理性を失い、必ず武力を行使してくるだろう。

 ルグランはダンテの手を引き、城の最も高い場所にあるバルコニーへと向かった。

 そこからは、緑豊かに生まれ変わった魔王領のすべてを見渡すことができる。

 ルグランは深く呼吸を整えると、自身の身体の奥底に眠る膨大な魔力を解放した。

 彼の足元から、暗い赤紫色の魔法陣が広がり始め、瞬く間に城全体を包み込んでいく。

 大気が激しく震え、強烈な風が吹き荒れる。

 ルグランの両手から放たれた光の帯が、天に向かって幾筋も立ち上り、上空で複雑に絡み合いながら巨大なドーム状の結界を形成していった。

 それは、外からのいかなる物理攻撃も魔法も跳ね返す、魔王のみが使うことのできる絶対防御の結界だった。

 透明なガラスのように美しい結界の表面には、複雑な古代の文字が金色の光を放ちながらゆっくりと流れている。

 その圧倒的な美しさと力強さに、ダンテは息を呑んだ。


「この結界がある限り、人間の軍隊がどれほど押し寄せようと、指一本触れさせることはない。俺は武力で彼らを殺すつもりはない。ただ、彼らが自らの愚かさに気づき、自滅していくのをここで静かに待つだけだ」


 ルグランの言葉には、冷酷さよりも、無駄な血を流したくないという深い慈悲が込められていた。

 ダンテはルグランの隣に立ち、その大きく硬い手を自分の両手でしっかりと握りしめた。

 冷たい風が吹く中で、その手から伝わる温もりだけが、今のダンテにとっての真実だった。


「私はもう、人間の国の王子ではありません。この魔王領で、あなたと共に生きる一人の領民です」


 過去との決別を告げるその言葉は、澄み切った青空へと静かに溶け込んでいった。

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