第1話.転校生がやってきた!(事件編)
「やあ、はじめまして。少年」
春風の吹く朝。
校門をくぐった先、無人の校庭に咲いた桜の巨木にもたれかかる男が声をかけてきた。腕を組み、赤白帽を深くかぶり、黒いランドセルを背負っている。
「え、はじめまして……」
「その汗と息切れ具合から見るに、ずばりキミは遅刻をしている。そうだね?」
「あんたもだけど」
「それより少年よ、キミに頼みたい事があるんだ」
「頼みたい事?」
「俺を6−2の教室へ案内してくれないか?用があるんだが、何分この学校は広くてだな」
「6−2?それなら、僕のクラスだけど」
「なら話は早い!早速だが、案内してもらおうか!」
「教室そっちじゃないけど?」
「おっと、失敬」
「(……変わった人だ)」
そんなこんなで、靴箱に靴をしまい、東校舎の3階へと向かう。改まって彼を見てみるが、初めて見る顔だ。整った顔つき、それでいてどこか余裕を感じさせる、不思議な雰囲気の男だった。
「ここか!6−2の教室は!」
「あれ、なんだか教室が騒がしい……?」
ガラララッと音をたてながらドアを開くと、僕たちにも目もくれずに、教室中の視線は担任の先生に集まっていた。先生は慌てた様子で、机の中を何度も探っている。
「ない、ない、ない……!?」
「先生どうしたんですか?」
「給食費が……ない……!」
「えぇーっ!?」
教室が一瞬でざわめきに包まれる。
「泥棒が入ったってこと!?」
「いや、お前らの誰かが盗んだんじゃねーの?」
「どういうことなんですか!?先生!」
「あぁ……終わりだ、またPTAから叱られるぅ……」
混乱の中、ひとりの男が静かに教卓の前へ歩み出る。
「先生。給食費はどこに置いてあったんです?」
「なんだあいつは?」
「見たことないけど、誰なの?」
「あ!君は!」
「御託はいいので、質問に答えてください」
「え?あ、あぁ……昨日まで、この机の二番目の引き出しの中に……」
「最後に見たのはいつですか?」
「最後に見たのは……昨日の放課後に教室の鍵を閉めた時、かな」
「その時に持っていけよ」
「し、仕方なかったんだ!昨日は急に呼び出されたんだから……!」
「呼び出された……?」
「あの子たちの三人に……」
先生の指した先に視線が集まる。
「は!?俺たちはやってないって!」
「……いや待てよ?」
男が小さく呟く。
「先生が最後に確認したのは、“鍵を閉めた時”なんですね?」
「そ、そうだよ。今朝給食費のことを思い出して、誰よりも早くここに来たんだから……」
「ということは……この教室は密室だったってことか!?」
「っていうか!お前誰だよ!当たり前みたいに話してるけど!」
教室中の視線が一斉に彼へ向く。
「俺か?」
ニイッと笑うと、黒板にチョークを走らせる。
――成楼優斗
振り返り、堂々と言い放った。
「俺の名前は成楼優斗。名探偵だ」
この時はまだ、誰も知らなかった。
これが――すべての始まりになるなんて。




