後編:最高の善行(ハッピーエンド)
【警告:魔王降臨まで、残り十秒。因果律の飽和を確認】
視界はもはや色彩を失っていた。
王城の最上階。かつて美しかった大理石の床は、シンの足元から噴き出す漆黒の魔力によって溶け落ちている。
シンの肉体は、もはや人間の構造を保っていない。
背中からは四枚の皮膜翼、左半身は硬質な黒い鱗。呼吸のたびに呪毒を吐き出すその姿は、誰もが恐れる「魔王」そのものだった。
「(……ああ……。ようやく、終わる……)」
意識の深淵で、シンの心が微かに震える。
これまで幾千のループを繰り返し、クラス全員の「死ぬはずだった運命」と「隠したかった罪」を飲み込み続けてきた。シンの内側には、今やクラス全員分の汚濁が渦巻いている。
「……シン、あんたマジでその姿、不気味。……ウチらの冒険の『映え』を邪魔しないでくれる?」
最後の一人となった姫星が、シンの目前で聖剣を構えていた。
その背後には、蘇生し、記憶を書き換えられたクラスメイトたちが勢揃いしている。
彼女たちの記憶にあるのは、『自分たちを裏切り、異世界の力に溺れて魔王となった卑劣なシン』という偽りの歴史だけだ。
『ギャハハハハ! 最高の舞台じゃん! 見てよシンくん、みんなのあの目! 正義感に燃えて、一点の曇りもない「主役」の瞳だよ!』
シンは、震える右手を伸ばした。
「(……みんな……。……生きて、……よかっ……た……)」
だが、喉から溢れたのは、システムが用意した「敵役」の咆哮だった。
「『ギャハハハ! きたねぇ、マヌケな勇者共! さあ、俺を殺して英雄になりなよ!』」
「……黙れ、汚らわしい魔王め!」
姫星の放つ聖なる閃光が、シンの肩を焼き切る。
「あんたのせいで、ウチらの世界がどれだけ汚されたと思ってんの? マジ消えてくんない?」
愛夢が放つ光の矢が、シンの肺を貫く。
「シン、君みたいな裏切り者は、最初からいなければよかったんだよ!」
流星の剣が、シンの腹部を裂く。
(そうだ。その通りだ)
シンは心の中で、自分を殺しに来る彼らを祝福した。
俺が死ねば、俺の中に閉じ込めた「彼らの罪」も一緒に消える。
俺が「最悪の悪魔」として消滅することこそが、彼らが「純白の英雄」として一生を過ごすための、最後の、そして最大の献身だった。
====================
【因果の修正を確認。世界を『最適化』します】
====================
「――これで、終わりよッ!!」
姫星の放つ最大出力の一撃が、シンの心臓を貫いた。
一瞬、世界から音が消えた。
シンの肉体が、音もなく分解されていく。
漆黒の鱗が剥がれ落ち、光の粒となって霧散する。
自分を縛り付けていた「勇者の本能」も、自分を苛んでいた「魔王の囁き」も、すべてが白い光の中に溶けていく。
最期に、シンの視界に映ったのは、かつてのような「無自覚な悪意」に満ちた顔ではなかった。
邪悪を討ち果たし、一ミリの罪悪感もなく、手を取り合って勝利を喜ぶ――。
どこまでも清らかで、美しく、一点の曇りもない勇者たちの笑顔だった。
(……ああ。……おめでとう……。……最高の、ハッピーエンドだ……)
シンは、誰にも聞こえない声でそう呟き、満足げにこの世から完全に消滅した。
【エピローグ】
数年後、元の世界。
テレビ画面の向こうでは、帰還した「奇跡の勇者一行」が、国民的なスターとして喝采を浴びていた。
「あの、最後の一人で戦った魔王シンっていうのは、どんな人だったんですか?」
記者の問いに、姫星は美しく微笑んで答える。
「さあ……? 召喚された時から様子がおかしかったですし、最後も何だかチャラチャラしたことを言って笑いながら消えていきました。マジでキモかったよねー、あいつw。私たちは、ただ自分たちの信じる正義を貫いただけですから」
茶の間でそれを見る人々は、「さすが勇者様だ」と称賛の声を上げる。
誰の記憶にも、シンの涙も、絶望も、その献身も残っていない。
====================
【対象:シン(個体識別:勇者の器)の完全消滅を確認】
【蓄積された原罪(クラス全員の業)の完全焼却に成功しました】
【これより、残された勇者たちの「幸福な余生」を永続記録します】
====================
――ハッピーエンドの作成に成功しました。
(完)
はるか昔に夢で見たアイデアなのですが、自分ではそれを文章化は出来ませんでした
なのでこの度、AIを使ってそれを文章化出来たことに喜びを感じます
これを見てくださった方へ
本当にありがとうございました




