第1章 取扱説明書
草原の風が、髪をやさしく撫でていく。
胸に抱えた本は、まるで呼吸をしているように光を放ちながら、勝手にページをめくり始めた。
見開きいっぱいに整然と並んだ文字。
そこには、この本とスプーンの使い方が書かれていた。
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【白いスプーンの杖】
・モンスターの「核」をすくい取ることができる。
・すくった核は自動的に浄化され、スプーンにスキルとして記録される。
・スキルはスプーンを掲げることで、アイテムとして具現化できる。
【レシピブック】
・1日に一度だけ、ページを開くと「料理」が現れる。
・料理は実際に食べられるが、保存はできない。
・料理は魔力で生まれるため、同じものを作り直すことはできない。
〈注意事項〉
・本を盾にしても構いませんが、あまり期待しないでください。
・食べ物で落ち着くモンスターもいます。試してみましょう。
・以上です。あとは実践で学んでください。
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「……やっぱり、説明書……だよね」
独りごとのように呟く。
けれど、不思議とその文字は冷たくなく、
誰かが優しく書き残してくれたような温かさを感じた。
私は草の上に腰を下ろし、もう一枚めくってみる。
そこには“核”についての説明が続いていた。
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【核とは】
・魔導技術で作られた“紅い光の結晶”。
・本来は街を守るための切り札として生まれたが、副作用は大きい。
・生き物の中に入り込むと、心の奥に不安の影を植えつける。
・最初はかすかなざわめき程度だが、時間とともにその影は膨らみ、やがて暴走へと変わる。
・白いスプーンは、この核をすくい取り、光へと浄化する力を持つ。
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(……誰かが、守るために作ったもの……。)
胸の奥で、かすかな痛みを感じた。
そのとき──茂みの奥から、かすれた鳴き声が響く。
「ぎゃぅっ!」
反射的に本を抱きしめる。
風が一瞬止まり、草のざわめきが遠のいた。
──こうして、私の小さな冒険が、静かに動き始めた。




