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プロローグ 白いスプーンと一冊の本
湖畔の森の中に、小さな喫茶店がひっそりと建っていた。
一日の営業を終え、片付けをしていた私は、棚の隅に見慣れない本を見つけた。
背表紙には何も書かれていない。
けれど、表紙には銀色のスプーンと淡いミント色の模様が浮かんでいる。
ただの模様なのに、今にも動き出しそうで、なぜか目が離せなかった。
「……この本、あったかな……?」
胸の奥がざわめく。
指先でそっと触れた瞬間、模様がふわりと揺れた。
恐る恐るページをめくると、そこには料理の絵が並んでいた。
甘い香りや香ばしい匂いまで漂ってくるようで、思わず息をのむ。
──レシピブック?
そう思った次の瞬間、ページの隙間から白い光があふれ出した。
声を上げる間もなく、全身が光に包まれていく。
視界が真っ白に染まり、音も匂いも遠のいていった。
気づけば私は、見知らぬ草原に立っていた。
手には白いスプーンの杖。
胸には、あの本をしっかりと抱えて。
「な、なんで……?」
青空の下で、ただ呆然と立ち尽くす。
──こうして、“スプーンで救う異世界”の物語が始まった。




