祭り
今回めっちゃ長いです。
すみません
「なんだと思ったらまたガラスを割ったのか。気を付けろとあれほど言っただろう」
「ごめんなさい」
少年は意外と素直だ
俺じゃない、みたいなことを言いそうだと思っていた。
「なんで葵ちゃんがいるのかい?」
「…傷を見てもらったので」
「まあいいや。蓮、罰として葵ちゃんの部屋のお掃除だ」
以外と親バカ?いや、何か事情を抱えているように見える。
「はい」
今はそれより、お願いしたいことがあったんだった
「院長さん、お願いがあるのですが」
「できる範囲ならいいよ」
「お祭りに行きたいんです」
院長室にある花火大会のポスターを見た院長さんは「あれか」という顔をした。
「いいけど、一人じゃ危ないから、蓮に付き添いをしてもらおうか」
「一人でもいいです」
「葵ちゃんが誘拐でもされたら大変だからね」
「…はい」
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「掃除は終わった?」
「まあな」
蓮はゆっくりとした歩き方で病室のベットに寝転んだ。
「もうすぐ寝る予定だったのに」
「まだ七時だ。少しだけ借りさせてもらう」
私はベットに横たわっている少年のそばに行った
もう寝ている
育ち盛りなのだろうか。看護師さんが育ち盛りはすぐ寝ると言っていた。
蓮の顔を見ていると少し温かい気分になった。
それから毎日のように蓮がベットを借りに来るようになり、葵の部屋にやってくる人が一人増えた。
===一週間後===
「祭りの日だーー!!」
「そんなに楽しそうにするものか?年一でやっているぞ」
「最後に行ったのが、お母さんとお父さんとで…その次の日にお父さんが重い病気だってわかってから、一度も行ってないんだ」
蓮はそれから何かがあったのかを分かったのだろう
「じゃあ友達とは俺が初めてだな」
「そうだね、楽しみ」
私と蓮が友だち、ということに嬉しいと思ったが、なぜかモヤモヤした
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待ち合わせの場所に…といっても私の病室の前の扉だけど
濃いネイビーの浴衣は蓮の金の髪によく似合わなかった
だけどイケメンだな
「…似合ってるよ」
「ん?なんて?」
「なんでもない」
蓮は少しムキになっているように見える
夏のモアッとした熱さは嫌い
だけど、久しぶりに見る祭りは屋台の光と提灯の光で暖かく染まっていた。
そこらかしこに人がいて、屋台がある。
「まず射的したい!」
「はいよ」
射的ゲームはわりと得意だったので、ぬいぐるみが取れた。
蓮は全部外した。何なら、店長の頭につけているお面に一つ当ててしまい、店長さんは怒っていなかったが、蓮があやまっていた。なんだかおもしろくて、ずっと笑っていた。
「ねえ、この赤い魚ってなんていうの?」
「知らないのか?金魚っていうんだよ。俺も昔、金魚をすくって院長室の水槽にいたんだけど、死んでからはそのまんまだったな」
「じゃあやっておかないと」
「押し付けるわけじゃないだろうな」
蓮はぎょっとした顔をした。
押し付けはしないが、育てたりはしてもらうことになるだろう。
出来る限りは面倒を見るが、たまに一日寝たきりで動けなくなったりするので、その時は任せよう。
何より暇そうだし
「よいしょっと」
虫眼鏡のような形をしたものに紙のようなものが貼りついている。
こんなので本当にとれるのか?
水槽の中にすくいを入れてみる。
金魚がすいすいと泳ぎ、一匹がわっかの中に入った。
すかっ、と紙に穴が開き、魚が水槽に戻った。
「蓮、これ全然とれな、」
「にーちゃんスゲーな!これで十匹目だ!」
え?
蓮のすくいの紙は破けておらず、ぴんぴんしている。
材質が違うのか?
十一匹目を釣ろうとしたところでようやく穴が開き、十匹で終了になった。
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一通り食べた後に葵の希望で花火までそこら辺を歩くことにした
「かき氷って食べ過ぎると、頭が痛くなるもんなんだね」
「まあ、葵の食べるスピードが速過ぎたのかもな」
「蓮こそ、焼きそば食べ過ぎておなか痛いって言ってたじゃん」
「うっ…」
蓮と目が合った
蓮は少し頬が膨れていた。
たぶん私もそうだろう
「ふっ…」
ふと笑みがこぼれる
「なんだよ」
そういう蓮も笑っている
(|こんなに楽しいのって久しぶりだな…)
笑いが落ち着いた時に、ふとそう思った
「おかあさん!おいてかないでー!」
「あら、ごめん。おかあさん、屋台に夢中になってたわ」
少年と母親の会話が聞こえた。
『おかあさんーりんご飴かって!』
『葵はたくさん食べるなー』
『だって、おいしいし、楽しいんだもん!』
『じゃあお父さん、今日はたくさん買っちゃうぞー!!』
三人で笑いあったこの道
忘れるわけがない
三人で過ごした最後の思い出…
私が六歳の頃に亡くなったお父さん。
私が七歳の頃にお父さんと同じ病気だってわかってから、私に会いに来なくなったお母さん。
…会いたいよ
「少し木陰に行こうか」
2
「ここはね、お父さんとお母さんと最後に来た祭りなの」
溢れる涙を止める方法を私は知らない
「会いたいよお母さん…お父さん…」
蓮はただ、私の話を聞いて、頷いていた。
それが無性に嬉しいと思うのはなぜなのだろう
「……す」
そのとき、ドォンッ!と爆発音が聞こえた
夜空を見ると、火の花が広がっていた
テレビや病室の窓からでしか見たことがなかったが、近くから見るとこんなに違うのか。
「なんか言ったか?」
「え…いや何も」
私は今、何を言おうとした?
心臓がうるさい。
耳が熱い。
こんなの初めてだ。
「そうか」
蓮は少し寂しそうにした
「蓮」
「なんだ?」
「また来年も一緒にここに来てくれる?」
「いいよ来年だけじゃなくて再来年も行こうぜ」
蓮が白い歯を見せて少年らしく笑った
こんな気持ち、気付いてしまわなければよかった。
もうすぐ死ぬかもしれないというのに、身勝手な願いを持ってしまった
死にたくないと思ってしまった
君のせいだよ
蓮
次回は葵に珍しい来訪客…?
蓮の葵に対する怒りの理由とは?
次回は波乱の展開&二人の仲の進展の話にしようかなと思っています。