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人の世界 3


「ただいま」


玄関前にいつもの猫


そして


「こんにちは」


目の前の黒い影から声がした


ドアと同じ位の身長をした細身の男


「あの…どちら様でしょうか」


自分でも驚くほどに威圧的な声色だった


「驚かせてしまった様で申し訳ない」


男は長い髪を揺らしながら不器用な作り笑いをこちらに向けた


「私はハイヤと言います、職業は…そうですねフリーのライターと言った所でしょうか」


ハイヤと言う不審者は、不慣れな手つきで名刺を出すと私の顔面に突き出した


【ハイヤ サダトミ 探偵 フリーライター】


「で、何の用ですか?家に入りたいのだけど」


ぶっきらぼうに返事をするとハイヤは名刺を差し出した手をおずおずと引っ込めた


「あぁ!その…ミヤバコウタロウさんに昔お世話になったものでして」


「近くに立ち寄ったのでご挨拶をしに来たのですよ」


父は私が高校1年の時に崩落事故に巻き込まれ行方不明となった


元々父子家庭だったのと、遺された資産がかなりあったので


遠縁や施設には頼らずそのままこの家に住んでいる


学者、研究者だったと聞いていたが家では仕事の話はしない父だった


「あの、父は二年程前に事故で…」


「やはり、帰られてはいないのですね…」


ハイヤの顔が曇った


「すいません、事故の事は知っていたのですが」


「どうしてもコウタロウさんが亡くなったとは思えなくて」


「…」


「突然来訪してしまい申し訳ありません、もう来ませんので」


ハイヤはそう言うと夕闇に消えた


ふぅ…


こうやって父の関係者が訪ねて来るのは久しぶりだ


事故の当初会社の人が私に挨拶に来たのと


捜査と言って刑事が家の中を調査しに来た事もあった


しかしそれもすぐに途絶え


この家から音が消えた


それでも父との思い出が残っているこの家が私は好きだ


さっきの人も


お父さんとの思い出があるのかな


ハイヤの曇った顔が印象に残っていた。




夕焼けがやけに眩しく感じる


あの子がコウタロウさんの娘さんだろうか


こんな形で会う事になるとは思いもよらなかった


「お~い」



「お~い!!」


……


「サダトミー!!」


………


「このぉ!!」


脳天に衝撃を受けた


この街の人間は見知らぬ通行人をいきなり殴るのがデフォルトなのか?


「おい」


俺は目の前の不届きな輩にドスの効いた声を出しつつガンつけた


「…?」


おかしい


目の前に誰もいない


「俺に恐れを成して逃げたか…」


「んな訳あるか!!このー!!」


下を見ると見知った頭があった


時代遅れのポニーテールにでかめのリボン


「盛ってんのか?」


女は鋭い目つきで睨みつけると直ぐに呆れた顔を見せた


「時代遅れなのはあんたのイジリ方だってば…」


「悪い悪い、小さすぎて見えなかった」


「それもアウトね」


「そもそも私は154センチ、あんたは180センチオーバー」


俺がデカすぎるのが悪いと言わんばかりの手つきで腕を上下させている


「こっち来い」


取り敢えず路上だと目立つので物陰に移動した


「んで何の用だよ、調査なら終了したぞ。対象者は依然行方不明だ」


「はぁ!?勝手に娘さんに接触したの?」


「この時間に待ち合わせて一緒に行くって言ったじゃん」


「俺は何でも早いんだ」


「キモイ顔しながら言うな」


「大体な」


「対象者は二年前に崩落事故で行方不明、その後の足取りも全く掴めていない」


昔世話になった恩師とも言える人の事を忘れる程俺は不義理では無い


当然やれる調査、追跡はやった


それでもこの世界で彼の消息は掴めなかった、普通に考えて生存は期待出来ない状況だ


「それは分かってる…」


今ではユカリから仕事を紹介して貰う立場だが


昔はこの件の調査に引っ張り出してはタダで働かせていた


「ちょいちょい声が漏れてんだよね…タダじゃ無くてツケ払いだから【早め】に宜しくね早打ちさん」


「仕事を紹介してくれてユカリには感謝してるが」


「この件は俺一人でやるよ」


ユカリがこの件を気に掛けてくれているのは分かっているし


調査に一時期でも巻き込んだ責任は当然俺にあるが


最近の動向から、あの崩落事故はロストオブジェクトが絡んでいると確信している


深く調査を続ければ必ず闇に踏み込む事になる


「あっそ」


ユカリは口を尖らせて不機嫌そうに背中を向けた


「なら870万」


「え?」


「私に未払いの調査費用」


「今回の報酬差し引いて868万でいいからさ」


「おい」


「騒ぐよ、ある事無い事」


ニヤリと口を歪ませた


こいつは躊躇無く行動するタイプだ


「ちっ…それも今の時代洒落にならないやり口だろうが…」


「あのさ」


「流石に私だってあの事故がヤバいって分かるから」


「…」


「あの研究所、本の研究してたんでしょ」


崩落事故に関しては報道が規制されたが


僅かな情報が出回った


研究所には所長のコウタロウさんを含め数人居たが全員行方不明


数人の遺体が発見されたが


コウタロウさんの遺体だけは見つからなかったとの事


そのまま跡地には発電所が建設され事故は完全に風化


そもそも遺族の存在すら明らかになっておらず


本当に該当する研究員が居たのかどうかすら怪しいと界隈では噂になっていた


あまりに情報が少なく、もはや事故の話すら噂や作り話と言われているが…


「本の研究ねぇ…エッチな本でも解析してたんじゃねぇの」


「ハイハイ」


ユカリは慣れた手つきで手を振ると駅に向かって歩き出した


「まぁ気が向いたら色々教えてよ」


「ああ」


「あと取り敢えずまた明日娘さんに会うから、あんたも来て」


あの事故の関係者で唯一存在が確認出来る人物


ミヤバコウタロウの娘…か


あの人は昔【娘には何も教えていない】と言っていた


それを俺に話したと言う事の意味、遺志は尊重しなければならない


「深くは話さない、それが条件だ」


何かを感じ取ったのだろうか


ユカリはただ黙って頷いた。


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