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人の世界 2


急に騒がしくなった


タブレットから視線を下駄箱に移すと


部活終わりの運動部達が靴を履き替えていた


「はぁ…」


10分だけ漫画を読むつもりが、かなりの時間没頭していたらしい


ルミから連絡は…無い



隣から気配を感じ振り向いた


「さ、帰るよ」


「あ…ルミ」


やれやれ、とオーバーなリアクションをしたルミだったが


顔は笑顔だった


「まぁいつもの事だからね~」


「ん~ゴメン」


自分では没頭している自覚は無いのだけど


特に漫画を読んでる時はこうなってしまう


「またあれ読んでるの?」


「うん」


「そんなに好きなら原本買えば?もう無くなっちゃうよ」


原本とは本の事だ


データ移行されロストオブジェクト対象となった作品は原本と呼ばれている


ちなみにこれは正式名称では無い


とても長い名称だった気がするが、覚えていない


「原本はちょっと気になるかも」


「でしょ!それなら明日ウミハラ君に聞いてみようよ!」


「え~でも」


「放課後一緒に頼んであげるからさ」


そこから私達は解散場所まで


まるで秘密基地で遊ぶ子供の様に盛り上がった。


静かに音を立てて小さい門が開く


光を宿さない箱が少し笑った気がした


「ただいま」


一週間ぶりのただいま


まだ玄関は開いていない


『ニャ~』


「また来たんだ」


ここ半年くらい家の庭を出入りしている猫だ


懐いているので飼いたいと思った事もあるが


世話を出来る人がこの家にはいない


なので餌付けとかもせず、ただ話しかけているだけだ


「ほら、そこを離れて」


『ニャ~』


どこかへ走り出す猫を見届けて家に入った


今日も一日が終わる


今日もこの世界が終わる


目を閉じるといつの間にか眠っていた。


翌日


「おーはよ!」


「ルミおはよ」


挨拶と同時に飴玉を渡された


「今日は飴?」


「これすっごく美味しいんだよね」


口に放り込むと一気にメロンの香りが広がった


「う…お…」


かなり美味しい


「ありがと、美味しいよこれ」


「でしょ~」


学校に着く頃には飴も小さくなっていた


昼休み


「あれ、今日は食堂行かなくて良いの?」


「昨日帰りにパン買ったから」


「じゃあ早速食べよ~」


ルミは弁当を食べながら参考書を読み始めた


正確にはクラスメイトの殆どが本を読みながら昼食を食べている


昨日よりも明らかに多い


その時、廊下にいる教師達と目が合った


こちらを見つつ手招きをしている


「はぁ…」


「ルミ、ちょっとトイレ行く」


「ん~」


生返事のルミを背に廊下へ出た。


「昼休みにすまんなミヤバ」


「はい」


「その何と言うか、最近あいつらがずっと本を読んでいる事について何か知らないか」


何か?意味が分からない


「何かって見たまんまだと思いますけど…」


「あぁ…いや」


特に隠す事でも無いし法に触れている訳でも無いし


もっと言えば隣のクラスであれだけ人だかりが出来ている訳で


「ウミハラ君が本を沢山持っているのでその影響かと」


「うん!あぁ…そうだよな!ウミハラの家は本屋だったからな」


ふぅ、とため息をつきながら別の教師が前に出て来た


「あのなミヤバ、そうじゃなくてお前の…」


「トウドウ先生」


更に別の教師がトウドウ先生の言葉を遮る


「ミヤバさん時間取らせてゴメンね、ありがとう教室に戻って大丈夫です」


「はい…」


今のは一体何だったんだろう


トウドウ先生が何かを言いかけていたけど


まさか私が変なブームを流行らせたとでも思っているのだろうか


そう思っているのならあまりにも安直で生徒を見ていない証拠だ


イライラしながらふと隣の教室を見ると


人だかりの中にいるウミハラと目が合った


「はぁ…」


今日はやたらと目が合う日だ


座席に着いて残りのパンを口に押し込んで机に突っ伏した。


放課後


「よ~しマイ‼早速ウミハラのとこへ行くよ」


「何か冷めちゃったんだよねぇ」


私は昼休みのモヤモヤを引きづっていた


あいつに関わると、本に関わるとろくな事にならない


本能が告げなくても分かる位に危険なフラグだ


とその時


「あぁクシキさん」


フラグを避ける前に危険が向こうからやって来た


「お~ウミハラ君わざわざ来てくれたんだありがと~」


「いえいえ、それよりクシキさんの友達って」


「この子が昨日言ってたミヤバマイ、あの何とかって漫画の原本欲しいって子」


ルミの奴いつの間にか連絡取り合っていた訳か


「ミヤバマイです…」


「ウミハラケンイチです、この漫画面白いですよね!僕も読みました」


「う…うんアクションとかも面白いし」


何となく闇の古書店屋のイメージがついていたが


意外と普通の男の子だったので少しほっとした


「はいこれが原本です、何冊かあるので1巻はタダで良いですよ」


「あ、ありがとう」


「流石に37巻全部は持って来れないので必要ならまた声かけて下さい」


そう言うとウミハラ君はまたクラスに戻った


放課後も本のやり取りで忙しいらしい


「良かったじゃん~」


ルミがニヤニヤしながらこっちを見ている


「も~いつの間に連絡取り合う関係になってたんだよ~」


「へへへ」


帰りの途中でルミに聞いたが


実際はお金のやり取りも無く、ウミハラ君曰く


『その代わり未来の同窓会では皆のおごりな~』との事だった


至って健全と言うか


いかにも学校生活らしい交流だ


それだけに教師達の態度が気になる


『ミヤバ…お前の』


お前の、何だろう


引っかかる


知っている気がするが思い出せない


「はぁ…」


結局家に着くまでため息ばかりだった。


そして今日も


静かに音を立てて小さい門が開く


「ただいま」


昨日ぶりのただいま


まだ玄関は開いていない。







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