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しゃべるクマぬいのおはなし

しあわせのクマぬい

作者: 流成 玩斎

メリークリスマス




「おかえりなさい、パパ!」



 ちいさなおんなのこがパパにむかっていきます。

 げんかんでおおきなかばんとふくろをもったパパは

 はしってきたむすめをだきしめるために

 かばんとおおきなふくろをほうりだしました。


 そしてながいうででおんなのこをうけとめると

 チクチクするおひげでおんなのこにほおずりをしました。

 それをじっとがまんするおんなのこ。

 いつもはパパのチクチクおひげがにがてなおんなのこですが

 きょうはとくべつです。


 ながいがいこくのおしごとからやっとパパはかえってきました。

 おんなのことパパはずっとあえなかったのです。

 パパもずーっとさみしかったにちがいありません。

 だっておんなのこもおなじきもちなのですから。

 だからきょうくらいパパのチクチクこうげきをゆるしてあげようと

 おんなのこはほおずりされてもえがおのままでした。


「ひな、おまえのたんじょうびにかえれなくてごめんよ」


 ひなちゃんにほおずりしながらパパがあやまります。

 きのうはひなちゃんのごさいのおたんじょうびでした。

 でもパパはおしごとでどうしてもかえれなかったのです。

 かなしいかおのパパにひなちゃんはいいました。


「ううん、おしごとだもの。でもクリスマスはいっしょだからいいの」


 きょうはクリスマスです。

 ざんねんながらおたんじょうびにパパはまにあいませんでしたが

 クリスマスはずっといっしょです。


「おかえりなさいませ、だんなさま」

 

 ひなちゃんのうしろからこえがしました。

 パパのひしょさんとかせいふさんたちです。

 がいこくのおしごとからかえってきたパパを

 でむかえにきてくれたようです。

 

 ひしょさんはおひげをはやしたおじいさん。

 パパのおしごとのおてつだいやおうちをまもってくれています。

 とてもものしりでやさしくて

 ひなちゃんはほんとうのおじいさまだったらよかったのにと

 いつもおもっているくらいです。


 かせいふさんたちはぜんいんおんなのひとで

 ひなちゃんのおせわやおうちおそうじをしてくれます。

 ひなちゃんにはママがいないので

 みんながママのかわりだとかんしゃしていました。

 

「ただいま、みなさん。ひなはおりこうでしたか」


 でむかえてくれたみんなにパパがたずねます。

 みんなはえがおでうなずきました。

 ひなちゃんはおうちでちゃんとおるすばんができたようです。


「じゃあ、おりこうだったひなにはごほうびをあげよう」


 そういうとパパはげんかんにおいたままだった

 赤いリボンのついたおおきなふくろをもちあげると

 それをひなちゃんにわたしました。

 ふくろをうけとったひなちゃんはとてもうれしそうにしています。


「わあ、クリスマスプレゼント!」


 とてもおおきなふくろは

 ひなちゃんとおなじくらいのおおきさです

 もちあげるとかるいのですが

 まだまだちいさなひなちゃんにはたいへんです。

 それにおおきなふくろはなんだかようすがへんでした。

 なにやらモゾモゾとうごいているのです。


「なかでうごいてるわ! もしかしてどうぶつかしら」


 めのまえでうごくおおきなふくろに

 ひなちゃんはワクワクしました。

 おうちはさみしくないけれど

 おとなばかりでともだちがいません。

 まだがっこうにいけるとしでもありませんし

 ひなちゃんのおうちはちいさなやまのてっぺんにあるので

 ちかくにほかのおうちなんてないのです。

 

 パパはそんなひなちゃんをしんぱいして

 あそびあいてをプレゼントしてくれたのかもしれません。

 ひなちゃんはモゾモゾうごくおおきなふくろを

 キラキラしためでみつめました。

 すると


 バリバリバリ

 

 なんとおおきなふくろがとつぜんやぶけて

 なかからちゃいろいものかがとびだしてきました。


「きゃあ」


 ひなちゃんはびっくりしてこえをあげました。

 とびだしたものがひなちゃんにとびついたからです。

 おどろいてめをつむってしまったひなちゃんは

 とびついてきたものをこわくてみれませんでしたが

 それがとてもふわふわしたものだとわかりました。


「しんぱいないよ、ひな。めをあけてごらん」


 パパのやさしいこえがきこえます。

 パパがだいじょうぶだといってくれたので

 ひなちゃんはおそるおそるめをあけました。


「わあ」


 ひなちゃんのめのまえには

 とてもかわいいクマのぬいぐるみがいました。

 ひなちゃんのかたくらいのおおきさですが

 ガラスでできたあおいめはキラキラしていて

 よおくみるとひなちゃんがうつっています。


 がいこくせいのとてもきれいなけがわのみみは

 ふわふわとゆれるのでおもわずさわってみたくなります。

 おなかもぷっくりとまるくふくらんでいて

 たたくとポンポンおとがなるかもしれません。

 きっとたくさんわたがつまっているのでしょう。


『こんにちは。キミはだあれ?』


「わあ! ぬいぐるみなのに、おはなしができるの?」


『うん。しゃべったらおかしいかなあ?』


「ううん、とてもすてきだわ」


 とつぜんしゃべったぬいぐるみにおどろいたひなちゃんですが

 そんなことどうでもいいのです。

 じぶんにおはなしあいてができたことがとてもうれしかったから。

 それよりもぬいぐるみがおはなしできるなんて

 とてもすてきなことだとひなちゃんはおもいました。


「わたしのなまえはひなの。ひなってよんでね」


『ひなちゃんか。はじめまして、ぼくはー』


『ぼくのなまえは、うーんと、うーんとー』


「あら、じぶんのおなまえもおぼえてないの? ふふっ」


『わらわないでよお。まだなまえがないだけだもん』


 クマのぬいぐるみはしたをむいてしまいました。

 あおいきれいなガラスのめがなんだかかなしそうです。

 ひなちゃんはわらったことをはんせいしました。

 だれだってしっぱいをわらわれたらはずかしいのですから。


「ごめんなさい。おなまえがないなんてしらなかったの」


 ひなちゃんはぬいぐるみがかわいそうになりました。

 もしもじぶんになまえがなかったら

 だれからもよんでもらえません。

 それはとてもさみしいことだとおもえたのです。


『いいよ、ゆるしてあげる。だからぼくになまえをちょうだい』

 

「えー? あなたのおなまえ、ひながかんがえていいの?」


『できればカッコいいなまえでおねがいします』


「カッコいいかあ。ひなはそういうのわかんないなあ。うーん」


 ぬいぐるみになまえをつけてほしいとたのまれたひなちゃん。

 できればおのぞみどおりのカッコいいなまえにしてあげたい。

 でもだれかになまえをつけたことがないひなちゃんは

 とてもこまってしまいました。


「えっと、クマことかどうかしら」


『ぼく、おとこのこなんですけど』


「えーじゃあクマお?」


『それはちょっと』


「うーん、むずかしすぎるわ。じゃあがいこくからきたからー」


『うんうん!』


「クマッキーとか?」


『もうひとこえ!』


「ああもう! ロビンよロビン! もうおもいつかないわ!」


「ロビンかあ。いいね! そのなまえをぼくにちょうだい」

 

 ひなちゃんのかんがえたなまえに

 いろいろもんくをいうぬいぐるみでしたが

 どうやらロビンがおきにめしたようです。


 でもひなちゃんがそのなまえをおもいついたのは

 きのうのおたんじょうびかいで

 ひしょさんからもらったえほんに

 ロビンフットというなまえがあったから。


 そこからきめたのはロビンにはないしょです。

 だってひなちゃんがかんがえたなまえじゃなくて

 えほんからもらったなまえなのですから。


「よろしくね、ロビン」


『カッコいいなまえをありがとう。よろしくね、ひなちゃん』


 そういってふたりはあくしゅをしました。

 もうひなちゃんとロビンはおともだちです。

 これからはまいにちいっしょです。

 ひなちゃんはむねがワクワクしてきました。


「さあさあ、だんなさまもおかえりですし、ツリーのかざりつけをおわらせましょうか」


 かせいふさんのひとりがてをたたいてあいずをします。

 かえってきたパパをおでむかえしていたので

 クリスマスツリーのかざりつけがとちゅうだったのです。

 みんながいっせいにリビングへといどうします。

 そこにはとてもおおきくてりっぱな

 クリスマスツリーがありました。

 

『わあ! すっごくおおきなきがあるよ! それにとてもきれい』


 ロビンははじめてツリーをみたのでしょうか

 みじかいてあしをバタバタとふっておおよろこびです。

 ロビンのめにそっくりなきれいなガラスのかざりが

 ツリーのえだにたくさんぶらさがっています。

 ほかにもたくさんのきでできたかざりもありました。

 

「うちのツリーはね、みんなのたいせつなものもかざりつけするのよ」


『たいせつなもの?』


 ひなちゃんのことばにロビンがくびをかしげます。

 いわれてみればきれいなかざりのなかに

 かわったものもぶらさがっています。

 それらをひとつひとつゆびさしながら

 ひなちゃんはいいました。 


「あっちのは、かせいふさんのだいじなてちょう」


「むこうは、べつのかせいふさんが、こどもさんからもらったおもちゃのゆびわ」


『ふうん。でもぼくはあのガラスのかざりが、いちばんきれいだとおもったよ』


「もちろんツリーのかざりはすてきよ。でもね、みんなのいちばんはみんなちがうの」


 ひなちゃんのいうとおり

 だいじなものはひとそれぞれ。

 それはそのひとにとってとてもたいせつなものなのです。

 ほかのかざりよりもほんのすこしあたたかなものをかんじながら

 ロビンはみんなのたいせつなかざりをみていました。


「えっとほかにはあれね。ひしょさんのちいさいペンダント! あれはなかにおしゃしんがはいってるって、かいせいふさんにきいたことがあるわ。きっとたいせつなおしゃしんなのね」


『そうなんだ。じゃあ、ひなちゃんのたいせつなかざりはどこにあるの?』


 えだにぶらさがったぎんいろのペンダントをみながら

 ロビンがひなちゃんのかざりがあるばしょをたずねました。

 するとひなちゃんはすこしかなしいかおをしながら

 ツリーのいちばんしたのほう

 ひなちゃんのしんちょうでもとどくばしょをゆびさしました。

 そこにはきれいなピンクのリボンがむすんであります。


『きれいなリボンだねえ。これがひなちゃんのたいせつなものなの?』


「うん。ひながもっとちいさいころ、クリスマスのひにてんごくにいった、ママのおリボンなの」


 そういってひなちゃんはだいじそうにリボンをなでます。

 ピンクいろがすこしうすくなったリボンは

 ママがちいさいころ

 ママのパパにかってもらったリボンでした。

 

 そしてひなちゃんがうまれてからは

 ママがひなちゃんのかみにそのリボンをむすんでくれていました。

 それはママがてんごくにいくひまで。

 

『そっか。たいせつなものってそういうものなんだね』


 リボンをなでるひなちゃんのうしろで

 みんなのたいせつなものをしったロビンは

 ツリーのてっぺんにあるおおきなおほしさまをみあげながら

 そうちいさくつぶやきました。


「さあ、かざりつけがすんだら、クリスマスパーティーですよ」


 かせいふさんがまたあいずをします。

 こんどはリビングからダイニングへといどうです。

 そこにはたくさんのごちそうが。

 やいたしちめんちょうやぐだくさんのスープ。

 オニオンフライやおおもりポテトなど

 どれもこれもぜんぶかせいふさんたちのてづくりです。


「さあ、めしあがれ」


 かせいふさんのあいずでみんなおおさわぎ。

 じぶんたちのすきなものをほおばりながら

 おとなたちはワインをのみ

 ひなちゃんはジュースをかたてにロビンとおおわらい。

 こうしてゆっくりとたのしいクリスマスのよるはふけていきました。


 そしてみんながねしずまったよる。

 ふとめがさめたのはひなちゃんでした。

 となりでねていたはずのロビンがいません。


 どこへいったのかと

 ねむいめをこすりながらひなちゃんはロビンをさがします。

 まさかぜんぶゆめだったなんてこわいことをかんがえてしまうと

 はやくロビンをみつけたくてろうかをはしってしまいました。


「ロビン! どうしてそんなところにいるの?」


 ようやくみつけたのはリビングについたときでした。

 でんきがきえていてもツリーのろうそくがあかるいので

 そのしたにたっているロビンはすぐにわかりました。

 でもロビンはひなちゃんのといかけにはへんじをしません。


「どうしてだまってるのロビン。なにかおこってるの?」


『ちがうよ、ひなちゃん。ぼくもたいせつなものをかざりたくて』


「ロビンのたいせつなもの? なにかしら」


 ひなちゃんがとなりにくると

 ロビンはじぶんのわきのあたりから

 てをおなかのなかにいれました。

 そしてなにやらゴソゴソとさがしものをしています。


「だめよ、ロビン。わきのしたからわたがでちゃうわ」


 ロビンがおなかのなかでさがしものをしていると

 どんどんわきからおなかにつまっていたわたがとびだします。

 ひなちゃんにちゅういされてもロビンはやめません。

 そしてようやくなにかをみつけだすと

 それをわきからとりだしました。


『これだよ』


 ロビンがおなかからだしたのは

 とてもきれいなガラスのハートでした。

 あかくじんわりひかっているそれは

 みていてなんだかこころがいやされるようです。

 ひなちゃんはおどろいてたずねます。


「おなかをゴソゴソさがしてたのは、それなの?」


『うん。ホントはないしょなんだけど、ぼくのハートだよ』


「え? これがロビンのハートなの? すごくきれいだわ」

 

『ぼくはぬいぐるみだから、たいせつなものはこれしかないんだ』


 あかくひかるガラスのハートを

 ロビンはりょうてでそっとひなちゃんにちかづけます。

 ひなちゃんはそれをだまってみつめます。

 あかいハートのうしろにはロビンのあおいめがありました。

 あおいめにはひなちゃんのかおがうつっています。


 そんなロビンのめをみてすこしふあんになるひなちゃん。

 ぬいぐるみにハートがあるなんて

 ひなちゃんははじめてしったのです。


 もしかしていままでもらったぬいぐるみにも

 おなかのなかにないしょのハートがあって

 じぶんがしらないあいだにらんぼうにあそんだりして

 こわしてないかしらなんてしんぱいになってきました。


「おまえたち、こんなところにいたのか」

 

 とつぜんリビングにこえがしました。

 ひなちゃんとロビンはおどろきます。

 ふりむくとそこにはパパとひしょさんがたっていました。

 よなかにベッドからいなくなった

 ひなちゃんたちをさがしていたのでしょう。

 ふたりともしんぱいそうなかおをしています。


「ごめんなさいパパ。あのね、ロビンもかざりつけがしたいって」


「だんなさま。ロビンのてになにやらかわったものが」


「ん、ロビン、それはなんだい?」


 ひなちゃんがパパにあやまっていると

 ひしょさんがロビンのハートにきがつきました。

 それをきいたパパもロビンにちかづいてたずねます。


『んーと、んーと。うーどうしよ』

 

 おとなたちふたりにしつもんされてこまっているロビン。

 かわりにひなちゃんがふたりにせつめいします。

 たいせつなものをロビンももっていたこと

 もちろんこのハートをツリーにかざってほしいことも。

 ついでにこんなふしぎなぬいぐるみを

 パパはどこでみつけてきたのかもきいてみました。


「うん。じつはロビンはかったものじゃないんだよ」


「えっ? じゃあパパはどこで」


「それがね。がいこくでおまえのプレゼントをさがしていると、あるかねもちのふとったおとことびんぼうなやせたろうじんにこえをかけられたんだ」


 ひなちゃんにしつもんされて

 パパはがいこくでのできごとをはなしました。

 おうちにかえるためにがいこくのふねにのるとき

 みなとまちでプレゼントをさがしていたこと。

 

 そこでであったかねもちとろうじん。

 ふたりはしょうばいをしていておみやげもうっているそうです。

 プレゼントをさがしているとパパはふたりにはなしました。

 するとかねもちはきれいなドレスをきたおにんぎょうをすすめます。

 ろうじんはふつうのクマのぬいぐるみをすすめました。

 どうみてもおにんぎょうのほうがりっぱです。

 

 パパはふたりにねだんをたずねました。

 するとクマのぬいぐるみのほうがたかいことがわかりました。

 たかそうなにんぎょうよりもふつうのぬいぐるみが

 なんばいものねだんだったのです。

 でもパパはろうじんのほうをえらびました。

 なんだかろうじんがおかねにこまっているようにみえたからです。

 そしてパパはろうじんがいったねだんよりも

 すこしよぶんにおかねをだしました。

 ろうじんはおどろいていいました。


「こんなにいいのか」


「はい。わたしのむすめはごうかなにんぎょうよりも、クマのぬいぐるみのほうがよろこびますので」


 するとどうでしょう

 えらばれなかったかねもちのおとこはすっときえてしまい

 のこったろうじんがあかいふくのふとったおじいさんにかわりました。

 ろうじんはサンタクロースだったのです。


「やさしいおとこよ。おまえにこのぬいぐるみをプレゼントしよう。むすめたちとしあわせなクリスマスをすごすがよい」


 そういってサンタクロースはきえてしまいました。

 けっきょくパパはおかねをはらうこともないまま

 サンタクロースからクマのぬいぐるみをもらいました。

 そこではじめてぬいぐるみがしゃべることもしり

 たいへんおどろいたそうです。


「しんじられないだろうけど、これがパパにおきたきせきだ」


「もちろんしんじるわ、パパ! だってロビンはしゃべるぬいぐるみなんですもの。こんなすてきなプレゼントはないわ」


 パパのおはなしをきいても

 ひなちゃんはウソだとおもいませんでした。

 それどころか

 ロビンがふしぎなしゃべるぬいぐるみだということが 

 ちゃんとしょうめいされたのですから。


『じゃあ、ぼくのたいせつなハートをかざってもいいの?』


「もちろんだとも」


 みんなにみとめられてうれしそうなロビン。

 このなかでいちばんせのたかいひしょさんにだきかかえられ

 ツリーのたかいばしょにハートをかざらせてもらいました。


『わあ! ぼくのハートがいちばんたかいばしょだあ』


「すごくきれいだわ、ロビン」


「うんうん、すばらしいじゃないか」


「ほほう、これはいいものですな」


 ロビンのあかいハートはツリーのなかでかがやいています。

 みんなはそれをながめながらおもったことをいいました。

 だれもロビンのたいせつなものをばかにしたりはしていません。

 じぶんのたいせつなものをほめられてロビンもすこしてれくさそうです。

 

 そしてみんながねしずまったよる

 さんにんとぬいぐるみがそれぞれ

 しあわせなきぶんでツリーをながめていると



《ひな の、あ なた、 お  さま》



 とつぜんあかいハートからふしぎなこえがひびきました。

 それはかすれていますが

 ここにいるロビンいがいのさんにんをよんでいるようなこえです。


 でもさんにんにはわかりました。

 それがだれのこえであるのかを。


「ママ? ママなの?」


「おまえ、おまえなのか? ひびき!」


「お、おおお!!」


 それはしんじられないことでした。

 てんごくへたびだったはずの

 ひなちゃんのママのこえが

 さんにんのみみにたしかにきこえたのです。

 

 それはクリスマスのよる

 さいごのプレゼントだったのでしょうか。

 それぞれがおもいをのこしたまま

 とつぜんわかれてしまったひとと

 つうじあえるきせきがおきたのです。


《ひな、ごめんなさいね。ママとはなれてさみしかったでしょう》


「ママ! ママああ!!」


 ひなちゃんのまえには

 あのひのままのママがみえています。

 でもさわることもだきしめることもできないのは

 こどものひなちゃんにもわかりました。

 でもうれしさのあまりひなちゃんはないてしまいました。

 いちばんあいたかったひとにまたあえたのですから。


《ひな、ママはずっとあなたのそばにいます。だからさみしくてもずっといっしょだとおもってね》


「うん。ママ、ずっとだいすきだよ!」


 こうしてひなちゃんとママのひとときはおわります。

 だれにもけいけんできないようなきせきは

 ひなちゃんのおもいでにずっとのこるはずでしょう。

 そしてママがいつもそばにいることも。


《あなた、ごめんなさい。ひなとあなたをのこしてしまって》


「なにをいうんだ。おまえのせいじゃない、ひびき。ぜんぶびょうきのせいなんだ」


 びょうきのせいでママはみんなよりもすこしさきに

 てんごくにいってしまいました。

 ママはじぶんがわるいのだとパパにあやまりましたが

 パパはくびをよこにふります。

 はやくにおわかれがきたのはママのせいじゃないと。


《これからもひなのことをたのみます。それと、どうか、どうかおとうさまをゆるしてあげて》


「ああ。ひなはおれがたいせつにまもるよ。それにおとうさんもこうしておまえにあえてよろこんでいるだろう。いいたいことはわかるから、ぜんぶおれにまかせてくれ。いつかまたあおうな、ひびき」


 こうしてふうふのさいかいはおわります。

 すこしのじかんですが

 はなれてしまってもまだ

 おたがいをおもいあっていることを

 あらためてたしかめあうことができたのです。

 パパはさいごにとてもしあわせなきぶんになったのでした。


《おとうさま。おとうさまはわるくないのです。だからどうか、ごじぶんをせめないでください》


「ひびき! ああ、やはりひびきなのか! すまない! わたしのせいでおまえを、おまえたちをおお!」


 ママはかなしいかおでひしょさんをみつめます。

 ひしょさんはママのなまえをさけびながら

 じめんにひざをついてないています。

 あのひからずっとくやんでいたことをおもいだし

 ママとひなちゃんとパパにあやまるしかないのでした。


《いいえ。わたしがびょうきになったのはうんめいだったの。だからもう、ふたりからにげないで》


「いいや、わたしのせいだ! ずっとおまえのそばにいながら、あのときもびょうきにさえきづいていれば! わたしのせいでおまえを、おまえをまごやおっとからうばってしまったのだから!!」


 かなしいかおをしながらママはきえていきました。

 どうやらひしょさんのこうかいは

 ママのちからではどうすることもできなかったようです。

 こればかりはきせきがかいけつしてくれることはなかったのでした。


「ママ」


「ひびき」


「ううう」


 それぞれがいっしゅんのきせきをたいけんし

 それぞれがさいあいのひととのじかんを

 ほんのすこしすごせることができたようです。

 そのきせきをおこしたのは

 ロビンのたいせつなハートだったのでしょうか。

 しゃべるクマのぬいぐるみのたいせつなものは

 そのやくめをおえたかのように

 ツリーからしずかにきえてしまいました。


「パパ。ママとおはなししたよ」


「ああ、パパもだ」


 ひなちゃんとパパがそうはなしていると

 ひしょさんだけがひとりしずかにツリーへとちかづいていきます。

 そしてじぶんがかざったぎんいろのペンダントをてにとると

 ふたをあけてなかをじっとみつめました。


「ひびき」


 ぽつりとママのなまえをよぶひしょさんは

 がくりとかたをおとしながら

 じめんへとひざをおとしました。

 そしてかたをふるわせながらうつむいてしまったのです。


「ひしょさん。そのおしゃしんにうつっているのは、わたし?」


 とつぜんうしろからはなしかけられ

 おどろいてふりむくひしょさんに

 にっこりとほほえみかけたのはひなちゃんでした。


 そうなのです。

 ひしょさんのだいじなペンダントのなかにはしゃしんがあって

 ちいさなおんなのこがひとりでわらっているのがうつっていました。

 それがひなちゃんからみてもじぶんにしかみえなかったのです。


「ひな。それはね、ひしょさんのむすめさんのしゃしんなんだ」


「だんなさま!」


 ひしょさんとひなちゃんがはなしているうしろから

 パパがそっとやさしくせつめいしてくれました。

 どうやらパパのいうとおり

 しゃしんのおんなのこはひしょさんのこどものようです。

 でもなぜかひしょさんはパパにだまっていてほしかったようで

 じっとパパのことをにらんだままでした。


「そうなの? てっきりわたしのしゃしんかとおもったわ」


「まちがえるのもムリはないさ。だってそれはひなのママが、ちいさいころのしゃしんだからね」


「え?」


 そういってにこりとほほえむパパ。

 じぶんだとおもっていたしゃしんが

 じつはじぶんのママだといわれたひなちゃんは

 いっしゅんかたまってしまいます。

 そしてじっくりとかんがえるようにだまりこんだかとおもうと

 きゅうにおおごえをあげました。


「ちょっとまって! じゃあ、ひしょさんてママのパパ? だったらひなのほんとうのおじいさま?」


 ひなちゃんはとびあがるほどおどろきました。

 いままでずっとパパのおしごとをてつだってくれて

 おうちをちゃんとまもってくれたひしょさんが

 ほんとうのおじいさまだったらいいなとおもっていたひしょさんが

 ホントにホントのおじいさまだったのですから。


「ホントにわたしのおじいさまなの? ひしょさん。でもなんでいままでずっと」


「いいえ、わたしはおじょうさまの、おくさまの」


 ひしょさんのかたをつかんだひなちゃんは

 まるでいままでだまされていたようなきもちで

 ひしょさんにたずねます。


 かたをおもいきりつかまれたひしょさんも

 どうこたえていいかわからず

 こまったかおのまま

 ひなちゃんのかおをみれずにうつむいていました。

 

 でもそのときです。

 ひしょさんのせなかにそっとてがおかれて

 パパがやさしくはなしかけました。


「もうウソはだめですよ。ひしょさん、いや、おとうさん。ひびきのびょうきをじぶんのせいだとせめて、このいえからでていこうとしたのを、むりやりひしょとして、ひなのそばにいてもらったのも、もうおしまいです。さっきあなたもひびきとはなしたのでしょう? わたしももうひびきをしんぱいさせたくありませんからね」


「だんなさ、いや、かずひこくん、すまない。ひなのもいままでだまっていてすまなかった」


「おじいさま!」


 とうとうひしょさんもかんねんしたようです。

 ひなちゃんにはほんとうのおじいさんがいたのでした。

 それもずっとだいすきだったひしょさんだったのです。

 なみだをながしながらひなちゃんはおじいさんにだきつきました。

 パパもひしょさんとよぶのをやめておとうさんとよんでいます。

 ひしょさんもパパをむすめのだんなさんとしてなまえをよびました。

 これでいままでのつらいできごとはおしまいです。

 

 そしてすこしのあいだ

 はじめてほんとうのかぞくとして

 さんにんはなきながらだきしめあいました。

 

「ありがとう、ロビン。あなたのたいせつなもののおかげよ」


 ひなちゃんはロビンにおれいをいいました。

 クリスマスのよるにおきたきせきのおかげで

 やっとほんとうのことがわかったのですから

 どんなにおれいをいってもたりないくらいです。


 でもそんなひなちゃんのかんしゃをきいても

 ロビンはあまりうれしそうではありません。

 それどころかたいへんおちこんでいるようすです。


『うん。それはよかったけど、ぼくのたいせつなものがきえちゃった』


 そういってあたまをかかえこむロビン。

 どうやらほんとうにおちこんでいるみたいです。

 となりでひなちゃんがかたをたたいても

 だまったまますねてしまっています。

 

 これはこまった。

 せっかくしあわせなじかんをプレゼントしてくれたロビンが

 しあわせじゃなくなったらとてもかなしい。


 そうおもったひなちゃんはすこしかんがえます。

 そしてひとついいことをおもいついたのでした。

 だからすぐにおちこんだロビンにむかってはなしかけます。


「ロビンのたいせつなものは、いつかひながみつけてあげる! そのおなかのなかに、ひながおおきくなるまでにいちばんたいせつだとおもったものを、いーっぱいにつめこんであげるわ!」


『ホント? ホントにひなちゃんがみつけてくれるの?』


「やくそくよ! ゆびきりげんまんしましょ?」


 ざんねんながらぬいぐるみのロビンには

 ゆびきりげんまんができませんでしたが

 それでもひなちゃんとだいじなやくそくをしました。

 それはひなちゃんがおとなになってから

 ちゃんとまもられます。




『ねえ、ひなママ! ぼくがねてるあいだに、わきのあなをふさいじゃった?』


「いいえ、しらないわ。ロビンがじぶんでぬいあわせたのではないの?」


『いや、ぼくにそんなきようなことできないから』


「じゃあ、だれかしら。もしかしたらわたしのかわいいむすめかもしれないわね」


『ことちゃんまだあかちゃんだよ!』



 やくそくはとっくにまもられていますよ。

 ロビンのしらないあいだにね。



 おわり

 

ここまでよんでいただき、ありがとうございました。

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