2.
老人がまだペール達程の年齢の時代、人類は80億人ほど生きていて、この都市も発展していた。
急速な人口減少の最中ではあったが技術が進んでいた。人類は自らの身体を機械にする‘’アンドロイド化‘’を実現させていた。
「アンドロイド化によって人類は永遠の命を手に入れたと思った。ただ、人口減少は止まらず、カウントダウンも現れた。直ぐに察したよ。ああ、これは人類滅亡までの時間なのだと。それから約100年。変わっていくこの世界を見てきた…けど…やっと寿命が来たようだ。」
老人は所々が機械でできており、瞳は青い人工的な光がついたり消えたりしていた。身体は動かず、口だけが機械的に動いている。
老人の話を一通り聞いた後、イシュケは老人に聞いた。
「人類全体がアンドロイド化を進めていたのなら、なぜおじさん以外のアンドロイドがいないの?」
「…私はアンドロイド化の研究の第一人者だった。実験台として、自分の身体を使ったから、他の人よりも機械の部分が多い。…心臓も機械だ。だから無駄に長生きしたのかもしれない。私のアンドロイド化の研究は人口減少への対策として効果的だともてはやされたが、私が死ねば、ついに研究は完全敗北だ。」
老人はかつて20代にして、アンドロイド化の研究を引っ張る存在だった。しかし、その研究の行きつく先は、孤独であった。死にゆく仲間を、友人を、家族を、恋人を、指をくわえてみていることしかできなかった。ペールはこの老人を気の毒だと思った。
「2人は若いね。この辺りが100年前どんな街だったか知らないだろ。‘’シブヤ‘’と呼ばれていて、一日中人が鬱陶しい程いた。‘’でんしゃ‘’って乗り物もあって、ここからどこへでも行けた。たまに横転した大きな長方形の箱があるだろう。それがでんしゃだ。」
その後も老人はペールとイシュケに、昔の世界のことを教えてくれた。2人は昔の世界の話に聞き入っていた。
「じゃあさ、おじさんは昔の世界と今の世界、どっちが好き?」
イシュケは老人に聞いた。ペールも気になっていたことだった。2人は話を聞いただけで、実際に人類がたくさんいた時代に生きていた訳では無い。
「昔は、沢山の仲間がいて、愛する人もいた。今は孤独だ。だれけど、‘’君たち‘’がいる。少し話しただけだけど、廃れてしまったこの世界で、君たちのような人間が生きているなら、悪くないと思うよ。」