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荒れ果てた都市。劣化して崩れたビルを植物が覆い、緑がコンクリートの元の色を埋める。瓦礫が散乱した道をどのくらい歩いたのか、もう覚えていない。
人口の減少が急激に進んでいた。ひと昔前の人々はどこか他人事のように差し置いていたらしいが、空に謎のカウントダウンが表示されてからは、他人事ではなくなった。『宇宙人からの警告か』『大昔の人類が残した高次な文明か』憶測が飛び交ったが、今では当たり前のように数字を刻む。これは人類が滅亡するまでのカウントダウンだった。
カウントダウンが表示されてから100年以上が経過した今現在、残りの時間は1年を切っていた。荒廃した景色には人ひとりとしていない。
ペールが生まれたころ、地球は既にこの有様だった。彼にとってこの景色は当たり前だった。もうすぐ、人類は収束する。
「ペール」
呼ばれて振り返ると、イシュケが瓦礫の間から顔を出していた。
「そっちは誰かいた?」
「いいや、いなかった。」
「そうか。」
ペールとイシュケは生き残っている人を探していた。滅亡まで残り1年を切った地球では誰一人とも会わない日が当たり前で、会ったとしても腐敗した死体くらいだった。2人はあてもなく歩き続け、稀に人と出会い、話し、別れ、人類最後の時間を過ごしていた。
ペールは空に表示されたカウントダウンを見上げた。これは‘’人類‘’滅亡のカウントダウンであって、世界滅亡のカウントダウンではない。つまり、人類が消えても自然は残り続ける。瓦礫に張り付いた大きなトカゲ、どこか茂みの中からは虫たちが音を奏で、荒廃したビルの間を鳥の群れが抜けていく。 他の場所に比べてより強い自然の力を、ペールは感じていた。
「ビルがたくさんあった名残がある。昔はこの辺りに人が大勢住んでいたのかもね。」
イシュケは周りを見回して言った。人類からやっとの思いで奪い返した居場所。人工物を侵食する自然の様相は、残酷さと美しさを兼ね備えていた。
すると前方に、壁に寄りかかって座り込む人影を見つけた。
「イシュケ、人だ。生きている。」
「あれはアンドロイドか?いや、半アンドロイドってところか。声をかけてみよう。」