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はじまりの村の〈村人I〉は闇堕ち勇者を救いたい  作者: 小乃マル


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6/12

「げえっ」


 背後からそんな声が聞こえたのは、私が日課の魔石集めを行っている最中のことだった。

 振り向くとそこいたのはユウで、少し後ろには彼のパーティーメンバーが揃っている。


 マオ、マモリ、そしてメグ。

 ゲームの『LOJ』と変わらないその顔ぶれに、私はこっそり胸を撫で下ろす。

「私が前世を思い出したことが、回り回ってユウのパーティーメンバー選びに影響を与えているかもしれない」と少し心配していたのだが、どうやら杞憂に終わったようだ。


 けれども安心する私とは対照的に、ユウは眉間の皺をますます深める。

『LOJ』プレイ中は〝自分〟であったユウと向かい合っているのは、なんだか不思議な気持ちがした。


「おまえだろ、勇者アイってのは」

「ええ、そうよ。あの時は……」

「はじまりの村出身者だと聞いた。本当か?」


 かつて村はずれの森の中で命を救ってもらったことについて、真っ先にお礼を言おうとしたのだけれど、どうやらユウは覚えていないようなので、私は慌てて口をつぐむ。


 ユウやマオは『LOJ』の主要キャラクターだから、遠目にも人目を引く容姿をしている。

 それに比べて、ゲーム内ではモブでしかなかった私は平凡な顔立ちで、瞳の色だって黒。

 勇者として生きていくのに邪魔だったから、腰まであった焦げ茶の髪は肩辺りで切り揃えて、今は一つにくくっているけれど、たとえ髪型が変わっていなくともユウは私を覚えていなかっただろう。


 ユウに助けてもらったことを、別に隠しておくつもりはなかったが、本人が忘れているのならば、わざわざ伝える必要もない。

 そう考えた私は、あの時伝えそびれていたお礼を、ぐっと飲み込むことにした。


「ええ、そうよ」

 代わりに「はじまりの村出身者か?」という問いに対して返事をすると、ユウは苦虫を噛み潰したような顔をした。

 そしてくるりとマオの方へと向き直ると、「なあ」と言った。


「呪術師が言っていたのは、本当に俺のことだったのか?」

「……どういう意味だい?」

「呪術師の言う『勇者としての素質を持つ人物』は、男か女かもわからないんだろ? だったら、俺じゃなくてこいつだったんじゃないのか? だって俺は、こいつと違ってまだ魔法も使えねえし」


 ……おっと、困った。

『LOJ』の内容を知っている私からすれば、呪術師が言っていた「はじまりの村にいる勇者としての素質を持つ人物」は間違いなくユウだし、そもそも私に勇者としての素質なんてものはない。

 私はチート級アイテムのおかげで魔法が使える、ただのモブだ。


 だから、ユウの言葉を否定してあげたいとは思う。

 けれどもここで、天与のチタナイトの存在を明かすのは得策ではない気がする。

「なぜそんなものを持っているんだ」と人族全体を巻き込んでの大騒ぎになるだろうし、私の目標達成に支障が出るに決まっている。


 どうしたものかと頭を悩ませる私に、助け舟を出したのはマオだった。


「いや、それはない」

 きっぱり言い切るマオに、「なんでだよ?」とユウが聞く。

 けれどもマオは、ずいと大きく一歩前に出て、ユウではなく私と視線を合わせた。


「君の噂は聞いている。急速に頭角を現している、実力者らしいじゃないか」


 実力なんてありません。

 前世で『LOJ』を千時間以上プレイした記憶を持つ、ただのモブですよ。


 ……とまあ、そこまでのことは言わないにしても、「買い被りすぎよ」くらいは言うつもりだった。

 しかしマオから向けられる視線があまりにも冷たいものだから、私は無言でごくりと唾をのむ。


「……だが、僕は君を認めていない。いくら実戦で強かろうが、高度な魔法が使えようが、それだけを理由に『勇者としての素質を持つ』とは言えないだろう。天から与えられたその力を、困っている者を救うために使ってようやく、〝魔力を有する人間〟は〝勇者〟を名乗る資格を持つんだ」


 声を荒げているわけでもないのに、怒った美人の迫力は凄まじく、私だけでなく味方であるはずのユウ達までもが、顔を引き攣らせるのがわかった。

 そんな周囲の反応などお構いなしに、マオはもう一度「だから僕は、君を勇者とは認めない」と繰り返した。


 私が大好きだったマオが、今目の前にいる……!


 本来ならばマオの迫力に、圧倒されるべき場面なんだとは思う。

 けれども私は、面と向かって厳しいことを言われたことよりも、予想通り嫌われているのが明らかになったことよりも、「熱い想いを内側に秘めた、正義感溢れる勇者のマオ」が存在していることに衝撃を受けて、気持ちが昂るのを感じた。


 だからなのだろう。無意識の内に笑みまで浮かべてしまっていたらしく、マオからは意味がわからないものを見るような視線が、そしてユウからは「何笑ってるんだよ!?」という怒声が飛んでくる。

 いけない、いけない。


 とりあえず、「マオの言うことには全面的に同意しているよ」の気持ちを伝えるために、私は「その通りね」と返事をする。

 いまだにニヤけそうになる口元に必死で力を込めたせいで、片側の口角だけが持ち上がった不自然な笑みになってしまったかもしれないけれど、気にしないことにする。


 前世の記憶を有するおかげで、今の私は成長途中のユウよりも強い。

 けれどもユウには、これからめきめきと力をつけて、マオと共に【理想の世界を作っていく】ことができるような人物になってもらわねばならない。

 そのためにも、ユウに自信をなくされては困るのだ。


「ユウ……だったかしら?」

 初対面の相手に名前を憶えられているのも気持ち悪かろうとの思いから、「お仲間からそう呼ばれていたわね?」といった体で呼び掛けると、ユウからは不機嫌そうな舌打ちと「ああ」という短い返事がかえってくる。


 呪術師が言っていたのは、間違いなくあなたなの。

 だから不安に思う必要なんてないのよ。

 この世界の主人公であるあなたは、きっと私よりもずっと強くなるはず。


 そんな思いを目一杯詰め込んで、私は「あなたが勇者として大成するその時を、楽しみにしているわね」と言った。


 しかしどうやら、私の気持ちは正しく伝わらなかったようだ。

「推しであるマオの前で無様な姿は晒せない!」と、変にクールぶったのもいけなかったのだと思う。


「はあああ? おまえ、煽ってんのか!?」

「そんなことないわ、私の本心よ」

「あーーーーーー、もう! むかつく!!」

「ユウ、挑発に乗るな」


 荒ぶるユウを、鎮めようとするマオ。

 画面越しに何度も目にした懐かしいやりとりを前に、「ふわあああああああ!!」と叫び出しそうになるのを、私は必死に抑え込む。

 多少息は漏れてしまったものの、「ふっ」程度に留められたからセーフだと思おう。


 これ以上の推し成分を浴びると、きっと平常心ではいられなくなる。

 下手なことを言う前に、とっとと退散した方が身のためだ。


 そう考えた私は、ユウとマオに向かって「もういいかしら?」と言葉を投げ掛ける。

 それに対する返事がないということは、立ち去る許可は得られたということなのだろう。


「きっと遠くないうちに、また会うことになるでしょうね」


 向かう先が同じなのだから、きっとユウ達とはこの先何度も顔を合わせることになるはずだ。

 おそらく次は、()()村での()()戦い。

 彼らにとっては初めてとなる〝中ボス戦〟までに、ユウがどれだけ力をつけられるかで、ひょっとすると彼らの運命も変わってくるのかもしれない。


「次までにはもっと強くなっていてね?」

 純粋なる激励の気持ちから発したその言葉は、しかし思っていた以上に挑発的な響きになってしまった。


 ユウの口から発せられた二度目の舌打ちに焦った私は、そのまま相手の反応を待たずして、その場を立ち去ることにしたのだった。

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