3
一旦解散した【夜の帳】一行は、巨大な防壁の下にある兵士たちの駐屯所で集合した。
宵は刀を金と銀に彩られたモノに変更し、みゃーこはバックパックを背負っていた。パンパンに膨らんだそこからランタンなどが見える。
アーサーは標準サイズの真新しい大盾を装備して来た。
「ん、ナギはまだなのか?」
「いにゃいねー」
一番最初に来ていそうなのに。
宵とみゃーこが思っていると、声が聞こえた。
「お待たせしましたー」
と。
小走りで駆けてくるのは2人だ。
ピンク色の髪をした少女PCは一目でわかるほどのユニークアイテムを装備している。
赤いゴスロリ系の服に精緻な彫刻の施された胸当てがセットの軽装鎧だ。
そしてその後ろにいるのは──。
「……ベルマリアか」
宵先輩が驚いたように言ったので、あたしは大きく頷いた。
「はい! あーちゃんがピンチだって説明して、来て貰いました!」
「よろしく頼むよ」
「いいのか?」
「かまわないさ。あーちゃんはオレの友達でもあるからな」
こうして夜の帳はベルマリアを一行に加えて、宮殿を目指した。
旧市街の大通りを駆ける。すぐに見えてきた宮殿に「へえ、見事だな」とベルマリアが笑った。
どうやらベルマリアは旧市街にもあまり足を踏み入れていないらしい。
お店が忙しいからかも。
「ベルマリアさんって戦闘は大丈夫なんですか?」
わたしは走っている最中に聞いた。
どうしてだか宵がはわずかに苦笑う。それは誰にも気づかれなかった。
「前作ならまだしも、今作では戦闘系のスキルを所持していないんだ。だから……どうだろうな、足を引っ張らないように善処はするよ」
ベルマリアは表情をちらりとも変えずに、平然と言う。
ようやく宮殿の間近にまでやって来ると、そのまま進むのではなく、隠れて宮殿の様子を確認することになった。
町に戻る前に中に入っていくのが見えたクラン【白剣騎士団】とやらがいるかも知れないからだ。
そして。
突破されているゲートのところまで行くと彼らの後ろ姿が見えた。
100名前後のパーティーがゴブリン軍団と戦闘している。
「上手いな」
と、宵先輩。
白剣騎士団たちは夜の帳と同じで宮殿内で奇襲を受けたらしい。
しかし人数がいるからこそ、あえて撤退はせず、宮殿門の下まで後退して交戦していた。
重装備のプレイヤーたちが盾を横一列に構えてゴブリンたちを食い止め、槍や弓を装備したプレイヤーがその隙間から攻撃する。
側面は宮殿の門があるからゴブリンたちにも攻められず、背後は数人の軽装のプレイヤーが警戒していた。
宮殿に別の出入口が存在しないのか、あるいはそこまで考えられる指揮官がいないのか。
ゴブリンたちは真っ正面からの攻撃しかする気がないらしい。
「止まれ。現在、我ら【白剣騎士団】がこの場所で戦闘している。それ以上の接近は敵対行動と判断するぞ?」
軽装鎧のプレイヤーが近づいて来る。
腰の剣を今にも抜きそうな雰囲気だ
「私たちは……」
そこで宵先輩の声が止まった。
彼ら白剣騎士団と夜の帳は揉めている最中だ。ここで名乗ったとしても戦闘にはならないだろうが、言っても得はしない。
「──エントランスを制圧。各員、進め!」
宮殿から聞こえた声に軽装鎧のプレイヤーもあわてて入っていった。
「【白剣騎士団】か。噂通りだったな」
「ベルマリアさん、あの人たちを知ってるんですか?」
「多少はね。クランに所属した者に、装備を配布すると聞いたことがあって」
だから新人から中堅くらいのプレイヤーが大勢集まっているらしい。
クランが結成されてから、まだ数日。それなのに人数だけでいえば、トップクラスなんだとか。
前作で存在しなかったクランだったので、古参プレイヤーにはあまり知名度はなく、逆に新参のプレイヤーには非常に有名な新進気鋭のクランだと説明を受けた。
新参プレイヤーだけど、わたしもアーサーもそんな存在を知らなかった。
宵先輩は移動を始めた白剣騎士団のプレイヤーたちの背後を、平然と追っていく。
ああ、そうだとベルマリアさんがこちらを見た。
「オレのことはベルマリアと呼んでくれてかまわない」
○○○
白剣騎士団は良質な装備を所持しているが、個人のプレイスキルはあまり高くないようだ。
宮殿内に散開すると各個撃破される者が出てきた。
集団でこそ強いというのは、逆に言えば個としては弱いということ。
集結して隊列を再編する。ひとつの『集団』として動き始めると兵士ゴブリンごときには止められないし、相手にならない。
だが。
数という力は、強いからこそ、遅かった。
「来たぞ、ホブゴブリンだ! 前衛は攻撃を防いで後衛が仕留めろ!!」
2体のホブゴブリンを包囲しての攻撃が始まる。
数の暴力は圧倒的だった。
ダメージを受けたものは、後衛のヒーラーが一瞬で回復させるし、相手の攻撃をひとりで止められないからとふたりで止めている。
「──ふむ、もういいだろう。あいつらは好きに戦わせて、わたしたちはわたしたちだけで進もう」
それまでは白剣騎士団を後ろから追いかけていた。
彼らの近くにいた宵先輩がそう言うと、夜の帳一行は彼らを避けて奥に進んでいく。
背後から、
「お前らトレインしやがって!」
「いや、あれはトレインじゃないだろ?」
「じゃあなんだよ」
「……なんだろう」
なんて声が聞こえてくる。
宵先輩は気にしなかったし、ベルマリアはどうでも良さそうだったし、みゃーこ先輩は「にゃんですと」と反応こそしても足は止めなかった。
あたしとアーサーは先輩たちを追いかけるように足を進めて、その背中を追いかけていく。
白剣騎士団は集団で怒りの声をあげつつも、ゆっくりジリジリと亀のように前進していた。
このままではぜったいに追い付けない。
しかし陣形を崩すことはできなかった。