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 旧市街エリアでクランでの動きを確認しつつ戦ったり、新しく覚えたスキルなんかを試していると夜になって。解散となった。

 ゲームをやっていると時間なんてあっという間に過ぎていく。

 もうゴブリンとの戦いなら、増援を呼ばれない限りは負けることすらないだろう。クランでの活動中なら呼ばれても勝てるかも知れない。


 今夜は、ナギちゃんは家族と食事に行き、アーサーはFPSの荒廃した世界のイベントへと戻り、みゃーこ先輩はバイトに向かった。

 残った宵先輩は砂漠地帯に行くらしい。

 わたしも行かないか、と誘われたんだけど。


「今日はアースラでうろうろしています」


 と。

 宿屋の外で別れを告げた。


 疾風のイクサとふたりで何かをするっていうのは、さすがにちょっと……まだ、わたしには早いと思う。

 わたしが人付き合いに馴れていないのか、アリカがゲームに慣れていないのか。

 たぶん前者だ。

 まあ普通に良い先輩だから困ったら助けてくれるし、アドバイスもしてくれるので、本当は遠慮なんてせずについて行けばいいのだろうなってのは思うわけですが。


「ルナルーンのことを隠してる──負い目みたいなものが」


 わたしの心にほんの少しのダメージを与えた。

 母親の件もある。というか、あれ何をやってるんだろう。配信か? 配信なのか?

 ううむ……今どきあんなにリスナーに媚びてる配信者なんて、探せばすぐに見つかりそうだ。クリスティアオンラインⅡをやるとか前に言ってたし。


「いやいや、親の配信なんて見たくない。それにあんなキャラを演じてる配信なんて見たら……」


 ゾッとする。わたしの心は瀕死だ。

 あんなキャラなら、ルナルーンみたいにカッコいいのを演じて欲しい。それなら「ふふ、親子だな」とか思いながら……気絶してたかも知れないけど。


「ま、現状維持でいいかー」


 いろいろ。先輩との関係や親との関係。妹は大事にしておこう。うん。

 ふと周りの視線が気になった。こっちを見ている人がいる。


「おい、話しかけてみろよ」


「お前が行けよ」


「あれ本人か?」


 わたしに向けられている言葉だ。

 イベントでのランキングに載ってからしばらく経つのに、覚えてくれている人はいるらしい。あんまり嬉しくないけど。


 そもそも好奇の目を向けられるのはあまり好きじゃない。

 ルナルーンに向けられていた視線も好奇ではあったんだろうけど、そこには畏怖や羨望のようなものが混じっていたと思う。

 今の視線は動物園の動物を見ているような視線だ。 


 逃げるように彼らから離れていく。彼らはゆっくりと追いかけてくる。

 わたしは宿に入ると即座に、ゴブリン装備へと着替えた。

 そして宿から出る。入って着替えて、出てきただけなのに、周りの視線はさっきまでとは違っていた。「なんだあいつは」なんて思ってそうな視線ばかり。

 ある意味ではこれも好奇なんだろう。でも、さっきまでよりはマシだった。

 わたしはスピーカーマークを押してパターン18を選択する。


「ぎゃはは」


 両手をあげてそんなことを言ってみると、こっちを見ていた人たちが引きつった顔で去っていく。


「パーティー組んでくださーい」


 声の方をちらりと見ると、ナギに似てるような見た目の桃色髪の女の子PCプレイヤーキャラクターがパーティーを募集していた。

 たまには他のプレイヤーのパーティーに入るのも面白いかも知れない。

 一歩、二歩と女の子に近づいていくと、一歩、二歩と周囲のプレイヤーが後ずさる。女の子は魔物に追い詰められたヒロインみたいな顔だ。


「なんか、すげーな」


「オーラが出てる気がする」


「こ、怖い~」


 いや、出てても恐怖のオーラじゃなくて不幸のオーラなんですけど。

 仮面の下で呆然としてても他のプレイヤーからは見えない。

 桃色髪のプレイヤーに話しかけようとすると、先に彼女に話しかけるプレイヤーがいた。


「キミ、うちのパーティーに入りなよ。魔法使いだろ?」


 さっきの女の子がパーティーに誘われている。

 にっこりと笑って一緒についていくのが見えた。わたしの方をヤバいものでも見てるような目でちらりと見たのがわかった。なるほど。


「うーむ、チャンスを逃したか」


「──チャンスは逃すべきではないぞ」


 背後から声をかけられた。

 聞きなれた声だ。わたしは振り返らない。


「あのさ、少しだけ聞いていい?」


「なんじゃ? 言うてみよ」


「女の子……なんだよね?」


「はあ?」


「そのー、オフでの出会いを求めてる感じ……じゃないんだよね?」


「なんじゃそれ」


「さすがにおかしい気がしてきて、さ。アースラの町ってそんなに小さくないじゃん。プレイヤーも増えてるし」


「わからぬ。はっきりと言えばよかろ?」


「じゃあ──」


 わたしは後ろを向く。

 やっぱりマユラハがいた。腕を組んで、なんだか偉そう。


「もしかして、わたしをつけてる?」


「……」


 マユラハはジィーーっとわたしの瞳を覗き込むような視線を向けて、


「そうだと言ったら?」


 と言った。

 こんな返答が来るとは思わなかったので、むしろわたしのほうがびっくりだ。

 そうだと言ったら、そうだとしたら……わたしはどうしたいんだろう。わからない。


「えっ、いや……んー……その、まあ……なんだろう」


 魔王軍は有名だったから、ルナルーンのときにも、アイドルの追っかけのようなものにあったことがある。

 リゼルはそういうのをあしらうのが得意だったし、ドラゴはキレていた。アルマはむしろ喜んでいたし、魔王はしつこい相手はPKしていたっけ。


 わたしには親衛隊のような人たちがいて、言い寄ってくる人たちはあの人たちが排除を──。


 マユラハの濃い紫色の瞳を見つめていると、心のなかまで見透かされているような気分になる。

 アリカがランキングに載ったから、興味を持っているのだろうか。


 ま、いいや。

 わたしは息を吐く。


「マユラハは頼りになるってわかってるから、別にいいかも」


「そうか」


 マユラハの唇がうっすらと笑っているように形作られた。気がする。

 そしてわたしたちは、孤島アースラで出会ってから何度目かのパーティーを結成し、旧市街へと向かうのだった。



 旧市街のゴブリンは武器や防具を装備した『アタリ』と何も装備していない『ハズレ』が存在する。

 別に正式な名称や分類ではないんだろうけど。

 とはいえ。

 ハズレゴブリンを倒しても武器をドロップすることはない。アタリゴブリンも確定でドロップって訳じゃないし。


 アイテムを確定でドロップするゴブリンは高度なAIを導入されている個体で、そういうゴブリンは他のアタリゴブリンとは装備してる武器や防具の質が違ってたりする。

 錆びた武器じゃなかったりすりし、ボロボロの鎧でもない。なによりそういう個体かを見分ける方法は、増援の召集に応じるか否か、だ。


 特殊なゴブリンたちは自分たちは召集に応じないけれど、召集する鳴き声を響かせる。 

 わたしたちは旧市街エリアでそんな特殊なゴブリンを探していた。レベルアップよりも、今は金策だ。


「そなたはなにゆえ魔法を使わぬのじゃ?」


 マユラハはまるで猫みたいに平然とブロック塀の上を歩きながら言う。

 わたしは少し見上げた。すらりとした白い足がみえる。


「精霊魔法って魔石が必要でさー。わたしLUK値が0だから、コスパが悪いんだよ」


「コスパ?」


 それくらい知ってるだろうに。

 貴族の令嬢ロールは大変だなぁ。


「……魔石がないから精霊と契約ができないの」


「それは難儀なことよの」


 マユラハは言葉ではそう言ってるけど、気にしてなさそうだ。

 そんな話をしていると。


 ぎぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい


 黒板を引っ掻いたような音が辺りに響いた。

 わたしは周囲を確認する。違う、わたしたちのパーティーへのものじゃない。

 どうやら、どこかのパーティーが攻撃に失敗して増援を呼ばれたらしい。


「間抜けなやつらよな」


「最近じゃ珍しいよね」


 わたしたちの前方を、横切っていくパーティーが見えた。

 町で見たあのパーティーだ。


「あっ」


「知り合いかや」


 あのときの桃色髪の女の子が走っている。

 同じデザインの鎧を装備した者たちのなかで、ひとりだけ普通のローブだからこそ目立つ。

 そんな彼女が転んだ。


「きゃっ」


 と。

 全力で走っているときに転んだから、地面で跳ねるように倒れて。

 助け起こそうとしている彼ら──鎧姿のプレイヤーたちがチラリとこちらを見る。剣を構えた。「くそ、万事休すか」みたいな顔で。


 ぎゃあぎゃあ ぎぃぎぃ


 ゴブリンたちの声が大きい。すでに近くにいるのだろう。


「マユラハ、高台から援護して!」


「任された!」


炎よ(リュッキ)始まりの(ウーナ)──」


 周りの目があるところでは、この魔法は使いたくなかったんだけど仕方がない。

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