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友人紹介します

「うわ……アリカおねえちゃん。なにそれ……」


 ミノンが若干引いている。いや、わりと引いている。

 わたしは昨日ゲットした骨の仮面(猪)を頭に装備していた。ゴブリンの鎧とゴブリンのローブまで装備してるから、ゴブリンみたいだ。その上で死んだ魚のような目をしている。

 3便目、4便目と大型帆船がプレイヤーを運んできているので、町にはあちこち至るところにプレイヤーがいた。


 孤島アースラに来たばっかりのプレイヤーたちは、


「うわ、なんだあいつ」


「あれプレイヤー?」


「蛮族ロールか。おもしろいな」


 なんて言ってくる。

 そんな中に、聞き覚えのある声が混じっていた。


「なんでそんな格好をしておるのか?」


 マユラハが屋根から飛び降りて、わたしの目の前に着地する。

 こんな格好なのに気づいたのもすごいし、屋根の上を移動しているのもすごい。


「よく気づいたね……」


「そなたは目立つからな」


「まあ、だよね」


「暇なら、一緒にゴブリンでも狩りに行くか?」


「あーーっと」


 今日はクランでの行動だ。

 わたしが入部し、そして入会してから、初めて夜の帳メンバーが勢揃いしている。

 

「今日はクランの人たちと一緒に行動する予定なんだ」


「そうか。ならば、仕方ないの」


 言い終わるとマユラハが壁を蹴って屋根に登った。

 入れ代わるように先輩たちが宿から出てくる。宿にあるボックスで装備やアイテムの出し入れをしていたのだ。


「あーちゃん、何か見えるの?」


 ナギちゃんがわたしが見ている方向を見る。

 屋根の上には、もう誰もいない。


「ほう、アリカちゃんはゴブリンなりきりプレイか……オレさまも負けられないにゃぁ」


 みゃーこ先輩が思っているようなコスプレだとか、なりきりプレイじゃなくて。

 せっかくだから売る前にちょっと装備してみただけっていう。でも周囲の視線が集まっている。

 全身をゴブリン装備で固めたわたしは異質な存在だった。

 それでも山賊ロールや海賊ロール、泥棒や殺人鬼のロールをしたって、それはプレイヤーの自由なのだから誰も文句は言ってこない。


 なんか写真撮られてる!?


 わたしは昨夜のことを思い出していた。

 マユラハはドロップしたアイテムをすべてくれたのだ。

 骨の仮面なんてかなりレアなはず。売れば、結構な大金になりそうなのに。


「ほんとうにいいの?」


「高貴なるわらわは些細なことにはこだわらぬ。それより聞きたいのだが、クランとはなんじゃ?」


「クラン?」


 ロールしてる相手にどう伝えればいいのか。


「仲がいい人たちが集まって、一緒に戦ったり遊んだりする……感じの、団体? みたいな」


「むっ、それは楽しそうじゃな。しかしそれではお主は強くはなれぬであろ?」


「そんなことないよ。一緒に強くなっていくし」


「されど強者とは孤高の存在じゃ。細剣の切っ先のような頂きにはひとりしか座れぬ。ゆえに頂点の存在を最強という。他の者がいては、最強になれんぞ」


「いや、わたし、別に最強なんて目指してないし」


「そうなのか?」


 マユラハは静かだが、心底驚いたような声を出した。


 何を驚くことがあるのだろう?

 というか最強ってなんだろう。

 そりゃ魔王軍だって最強のクランだって言われることが多かったけど、だからって一度も負けてない、なんてことはないし。

 対人戦で勝ってもクラン戦では負ける。また逆にクラン戦で勝っても対人戦に負けることもあった。


 最強だとか言われても、実際には普通に普通の存在でしかない。

 平均よりも勝率が高いってだけだ。

 昨日は負けて、今日は勝つ。明日も勝つ。明後日も勝つ。でも、それは最強なんだろうか。


「わたしのイメージする最強は」 


 わたしはぽつりと──。


 無敗の存在。まさしく孤高。最強。

 その姿はまぶたを閉じるだけでも浮かんできそうなくらいに美しい女性のもので。


「だって無敗の存在なんて」


 ──そんな昨夜の話を思い出していた。


 わたしは宵先輩の顔をじぃーーーと眺めた。

 宵先輩は表情は変わらないけど、ちょっとだけたじろいでいる。

 旧市街に向かうため、わたしたちは防壁の門扉をくぐった。


「宵先輩は最強って、なんだと思います?」


 わたしは聞いてみる。


「最強は言葉だな。実際には最強なんてものはない」


「ない?」


「たとえばクリスティアオンラインで最強のプレイヤーは? という質問をされても、皆がそれぞれ別の名前を出すだろう。それは魔王軍メンバーや、他にも強者が大勢いるからだ」


 宵先輩は遠くを見ているような顔だった。


「だが、それらのプレイヤーが一ヶ所に集まって戦っても、毎回同じ結果にはならない。誰かと誰かが協力するかもしれないし、誰かが集中攻撃されるかもしれない」


 わたしは頷いた。


「毎回結果が違うなら、それは最強ではない。だから最強なんてものはない。だが」


「だが?」


「精霊王クリスティア、あれは最強と言っていいかもしれない」


 深い森。獣道すらないような道を進んでいく。

 日光すら遮る葉っぱの隙間から差し込む光が、万華鏡のように地面を照らしている。

 そんな場所をわたしたちは進む。


「もしも最強がいるなら」


 わたしは呟く。


「精霊王クリスティア」


 しかしわたしはクリスティアに勝った。

 偶然と、運による要素で。もう一度は無理な勝利。

 そんなわたしが最強かというと、数日前にゴブリンに倒されて踏みつけられてたりする。

 最強はゴブリンだ。


 わたしは軽く笑った。

 そして少し遅れていたので、みんなの背中を追いかけた。

 

「ところでアリカ、お前……ゴブリンロールをするのか?」


 宵先輩は旧市街に降りて最初に、そんなことを言った。


「いや、これは──」


「わかってる! わかってるにゃ……現実では抵抗があっても、こっちなら自由にコスプレできるよね。みゃーこにはわかりますにゃ。宵、言うな。言わないであげてくれ」


 ゲーム内で、現実にはできない格好をしているプレイヤーも、少なくはない。

 女性がマッチョな男性PCを使っていたり、男性が女の子PCを使っていたり。

 ボイスチャットで好きな声にするって機能は前作からあったし。

 ドラゴは男性の声で、ドラゴンっぽい低い声だったら、中身が女性だなんて最終日まで知らなかったくらいだ。


 わたしはウインドウを開いてスピーカーのアイコンを選択した。

 男性ボイスで変な声だと噂の『パターン18』を選択。


「げひゃひゃ、おれはゴブリンだぞ」


「……」


「……」


「……」


「にゃ、にゃー。怖いにゃー」


 やめて。

 せめてもうちょいみんな反応して!


 わたしは即座に音声を通常に戻して、装備もいつもの格好に戻した。

 精霊王のローブについてるフードを被ったこと以外は、いつもと同じだ。


 フードで赤い顔を隠しながら、わたしはみんなの背中を追う。

 速度を落としたみゃーこ先輩が肩を回してきた。

 小声で、


「もし興味があったら、コスプレの衣装とか貸してあげようか?」


 と。


「……」


 わたしは遠い目をした。

 なぎちゃんならカッコいいコスプレも似合うだろう。

 夢見さんなら可愛いコスプレが似合うだろう。

 わたしは? 想像すらできない。悪夢だ。


「話はそんなところにして、そろそろ戦ってみるか」


 5人パーティーというのは数の面でも戦力という面でも、安定している。

 宵先輩とアーサーが前衛で、みゃーこ先輩とナギ、そしてわたしが後衛。

 でもナギは前衛でも十分に戦えるからこそ攻撃的なパーティー構成だ。


「にゃー、ゴブが3体。やろっか、アリカちゃん」


 みゃーこ先輩がそんなことを言った。

 探知系か索敵系のスキルにモンスターが引っ掛かったのだろう。


「え? わたし?」


 わたしは引きずられていく


「ちなみにみゃーこ先輩って職業(ジョブ)はなんです?」


「レンジャーにゃ」


 斥候と一緒に後衛魔法職が先行する意味ってあるんだろうか。わたしは考えた。……たぶんない。


 視線の先には素振りしているような剣ゴブリンが2体。

 それと少し離れたところで切り株に座っている弓ゴブリンが1体。

 どちらもこちらには気づいていない。


「倒せそうだし、一緒に倒そうにゃ」


 みゃーこ先輩が言った。


「わかりました。じゃあわたしはあの弓ゴブリンで」


「おっけーにゃ」


 みゃーこ先輩と別れ、草むらに身を隠しつつ進んでいくと、弓ゴブリンの近くに出れた。

 ちょうど良い感じに崩れた壁から背中が見えている。


「えいっ!」


 狼のダガーを思いっきり突き刺すとゴブリンの姿が掻き消える。ステルスキル。小魔石が転がった。


「お、おおおっ!?」


 すごい。

 ドロップした。

 なんてこった。


「それはともかく」


 みゃーこ先輩の方向を見てみた。

 低い前傾視線で駆けて本当の猫みたいに動いている。みゃーこ先輩の武器は弓と双剣だ。

 みゃーこ先輩も前作からのプレイヤーで、引き継いだという赤いマフラーには【加速(ヘイスト)】のスキルが付与されているらしい。


 瞬間的に加速して、双剣がゴブリンを薙いでいく。

 叫ぶ暇すら与えない速攻だ。見事としか言えなかった。


「みゃーこの勝ちにゃ!」


 にゃははと笑っているみゃーこ先輩と合流してドロップアイテムを回収する。

 そのあいだにわたしは聞いてみることにした。


「みゃーこ先輩、その剣って引き継ぎアイテムですか?」


「うん、そうにゃ。ふたつでひとつの双剣・スラッシュ!」


「マフラーと、スラッシュ」


「そうそう。あとひとつは、これにゃ」


 言ってみゃーこ先輩はお尻を向けた。茶トラ猫柄のしっぽがふりふり動いている。


「えっ、しっぽ?」


「アクセサリーアイテムにゃんだけど、この見事な動きを完成させるまでに……それはそれは言葉にはできない苦労があったわけにゃ! まあ文字にしたらノートが三十冊は必要にゃんよ」


 昔を懐かしんでいるように腕を組んでうんうん、と。

 そんなみゃーこ先輩を見ても、わたしはバカにする気にはなれなかった。


 わたしの杖だって引き継ぎしたのはみんなとの思い出があったから。

 過去形だけれど。白銀の杖はなくなっちゃったし。


 ……いやでも尻尾はちょっと変かもしれない。

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