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 わたしは絶好調だった。

 いつもはLUKが0だからこその、不幸なオーラを振り撒いている病弱な少女といった見た目だけれど、今ではるんるんとした気分でスキップしている。


 このアイテムが滅多にドロップしない薄幸(勝手に名付けた)は、その滅多なドロップ時には良いものが出るようだ。

 だから。


「あははははっ! 勝った、すべての幸ある者たちに……!」


 なんてアースラの大通りを声高々に歩いていると、プレイヤーだけではなくNPCまでもが唖然として見てきた。

 ふっ。

 他人の視線など知ったことか。


 ナギとアーサーは苦笑しながらついてきている。


「あーちゃんがおかしくなった」


「ま、まあ……今までアイテムがあんまりドロップしなかったからね」


 声が聞こえた。


「えっ、今も同じじゃないの?」


「たぶんね。でも特殊なゴブリンからドロップするアイテムは確定ドロップみたいだから、さ」


「あーなるなる」


 ふたりが話しているのが、わたしの喜んでいる理由だ。

 あの特殊なゴブリンたちは確かに強いモンスターではあった。

 それでも勝てないような相手じゃない。


 特殊ゴブリンの兜や剣、あるいは鎧がドロップすれば……。

 それらは高値で売れる。


 ああ……勝った。


「ふっふっふーっ」


 笑いが抑えられない。

 わたしは悪い顔だった。


 今回売ったのだけで7000モル。

 前作でもこんな難易度でこれほど儲けられるモンスターはいなかった。


「さあ、行こう。ゴブリンを皆殺しにしよう。すべてはあの装備(・・・・)のために!」


「アリカさんの装備ってローブはすごいのに、その下が初期装備だもんね」 


「どんなの作るのか見せてよー」


「完成してからのお楽しみってことで。ようやくちゃんとした格好になれるよ。まあ……前作とは違うところもあるから、同じのになるとは思えないけど」


 うさぎの皮ひとつでも、前作とは模様が違ったりするのでわからないことだらけだ。

 とくに生産系のことはまったくわからない。

 それでも。


「わたしはドラ……ベルマリアを信じてる」


 わたしたちはアースラの町から離れて北に進んでいった。

 峡谷の辺りにプレイヤーたちがいる。彼らは風景画を描いているようだ。


「すごっ、あれって絵を描いてるんだよね?」


 ナギが目を輝かせている。


「うん。印刷してリアルで売ったりする人もいるって聞いたことあるよ」


「確かにクリスティアオンラインって風景が綺麗だもんね。ボクがやってたゲームは荒廃した世界だったから……すごく新鮮だ」


「FPSっておもしろいの?」


 わたしの問いかけに、どうだろう、とアーサーは頬を掻いた。


「やっぱり対人戦がメインになっちゃうから、そういうのが苦手な人には合わない、かな。ボクは大好きだけどね」


「──あれ? どうしたんだろ?」


 ナギが足を止めた。わたしとアーサーも同じように止まる。

 視線の先、峡谷に蓋をするように建てられた石造りの巨大な壁の前に、大勢が集まっていた。

 遠目には色とりどりに見える。

 以前からいるNPCの兵士たちは、全員が同じ鋼色の一式鎧を着込んでいるから──きっとプレイヤーだろう。


「トラブルかも」


 こうしてわたしたちは騒動の最後尾に近づいた。

 ドーナツのように誰かの周りをぐるりと他のプレイヤーたちが囲んでいる。

 声が聞こえた。


旧市街(ここ)のモンスターはおかしいよ……」


「ちくしょう……なんだったんだ、あいつは!」


「おい。いったいどうしたんだよ。ちゃんと話せって」


 そうだ──これ何の集まりだ?──やられたんだってよ──誰に?──モンスターだとさ──だっさ──おい!──モンスターにやられたからってなんだよ──知るかよ──それを聞こうとしてるんだ。


 周囲のプレイヤーたちも、彼らの様子がおかしいからと集まっているだけらしい。

 何が起こったのかは知らないのだろう。

 わたしは人混みを掻き分けて最前列まで突き進んだ。


「俺たちは」


 と。

 見知らぬ剣士のプレイヤーが言う。


「やられたんだ」


「うん。やられちゃったの」


 一緒にパーティーを組んでいたであろう弓使いの少女が頷く。

 ふたりは周りを囲んでいるプレイヤーたちの中心で地面に座っていた。

 この孤島に来ているわりには、装備が貧弱だ。


「俺たちは……今から少し前に、ここに挑戦したんだ」


「ゴブリンを倒しながら旧市街を進んでいったの。そしたら、奥に宮殿があるでしょ?」


 え、知らないんだけど。

 そんなのあるんだ……と、彼らよりも先に来ているのに知らない情報が出て、わたしは内心驚き、少し悲しい。


 宮殿って奥のあれか?──青い屋根のやつだな──バロック様式の外壁が見える場所までは、近づいたことがあるわ──俺そこまで行ってねぇ──やっぱりエリアボスがいるのかね──どんなモンスターにやられたんだ?


「とにかく。俺たちは進んでいった」


「道中のゴブリンはすべて倒したし、悲鳴をあげられたら増援が来るまでに、ちゃんと場所も移動したよ」


「それで……やつの話だけどな。普通のゴブリンが子供くらいの大きさだろ? あいつは──でかいんだ」


「人間くらい、かな。私よりは背が大きかった」


 わたしより身長の高い女性PCが頭よりも上に手を置いてる。

 確かにそんなゴブリンがいれば、でかい。

 いや、それって──


 周囲のプレイヤーも、前作をプレイしていた者は思い当たるモンスターがいるような表情をしていた。


「それホブゴブリンだろ」


 と、誰かが言った。

 他のプレイヤーたちも賛同の声を出す。


「ああ。ホブゴブリンだ」


「でかいがのろまなゴブリンだったろ?」


「聞いて損したわ」


 そんな周囲からの言葉に、ふたりのプレイヤーが唇を噛んだ。

 前作クリスティアオンラインにおいてホブゴブリンは、力は強いが動きの遅いモンスターだった。

 人間並みの身長とたくましい筋肉、大きな棍棒を持ったトロールの小さい版。

 攻撃力は強かったはずなので、序盤では少しキツい相手だったかも。


「俺たちはそいつに負けて、武器といくつかの装備を奪われちまった」


「そうそう。だからこんな格好になっちゃって」


「とにかく信じるも信じないも勝手だけど、気をつけろよ」


 ふたりは別のエリアに行くらしい。メインの武器を奪われ、防具なども虫食いにあったように手甲がなかったり胸当てがなかったり。

 奇妙な格好だ。

 他のプレイヤーたちが半信半疑な様子で解散すると、わたしたちは顔を見合わせた。


「あーちゃん、どうする?」


「いや、でも、他の人も言ってたけどさ。ホブゴブリンって前作ではあんまり強くなかったんだよね……まあ」


 普通のゴブリンと特殊なゴブリンはスペックが同じでも強さが違う。

 もしもホブゴブリンが普通の個体じゃなかったら──。


「戦うよりは逃げた方がいいかも」


 こうしてわたしたちも、他のプレイヤー同様に旧市街へと向かったのだった。

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[一言] これは馬鹿にしていた連中も同じ目に逢って「運営ふざけんな」と叫ぶパターン
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