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 宵先輩とみゃーこ先輩に合流すると、みゃーこ先輩が両手を胸の前に出していた。

 な、なんだろう。


「7点」


 指が7本立っている。


「……あ、わたしの点数か」


 そういえば先輩たちは、わたしの実力を見ていたのだ。

 後方だとか屋根の上から隠れて確認していたのかな?

 というか。

 百点満点だったらヤバい。さすがに十点満点だろうけど。

 でも、やっぱり点数としては低いなぁ。


「ちなみにどこが悪かったんでしょう」


「武器の扱いはなかなかのモノだった。まさかナイフを投げるとは思わなかったな」


 と宵先輩は腕を組んでうんうんと首を縦に振った。


「戦いを選んだ場所も悪くなかったにゃ。でも周囲にゴブリンが隠れてたよ、にゃ」


 みゃーこ先輩も同じように腕を組んでいる。


 索敵スキルに反応があったのだろうか。

 昨日、奇襲を受けた場所に近いからこそゴブリンがいる可能性が高いのは想定していたことだった。

 でもわたしの他の視界には入ってなかったなぁ。

 もしかするとマユラハが先に倒してくれたのかも。


「吹き矢を避けられたのはよかったが、不用意にモンスターへと近づくべきじゃない。しかしMPの消費を抑える為なら、接近戦をするのも悪くはないのかもしれないな」


「助けてもらってたけど、にゃ」


 ぐぬぬ。

 別に助けて貰わなくても勝ってたですけど……!


「それはそうと」


 宵先輩は思い出すように目を細めた。


「あれがアリカの言っていたマユラハというプレイヤーか。身のこなしは悪くなかったな」


「同じ弓を使ってる身としては、弓の性能が気になるところにゃ」


 みゃーこ先輩はむむむ、と唸っている。

 マユラハの弓は氷の矢を放っていた。何か特殊な効果かスキルが付与されているのだろう。


 こうして先輩たちにマユラハが実在するのだとわかってもらえた。

 しかし、やはりふたりもマユラハを知らないらしい。

 氷系のダンジョンはまだ見つかっていないから、きっとあの弓は引き継ぎアイテムだろう。

 でも氷の弓を使っていて、先行プレイに選ばれるようなプレイヤーとなると。


「わからんな」


「わからんにゃ」


 らしい。


 それから、わたしたちはこのあとどうするのかを決めることにした。

 旧市街が風化して旧する以前から空き地であったろう場所で、それでもゴブリンにバレないように落ちている木箱なんかで壁を作る。

 さながら秘密基地だ。


「一応、これがわかってる範囲の地図にゃ」


 みゃーこ先輩は紙を差し出した。

 巻き紙を伸ばしてみると、鉛筆のようなペンでルートが書き込んである。


「マッパーみたい」


地図を作成(マッピング)は得意だけどにゃ。地図師(マッパー)と言われるほどすごくはないにゃ」


 みゃーこ先輩は嬉しそうな表情だ。


 クリスティアオンラインもそうだったけど、フルダイブ系のゲームでは地図が重要になってくる。

 広大なエリアが続くからこそ、記憶だけを頼りに移動するのは危険だった。

 新エリアなんかの入り口周辺では、地図師の人たちが地図をなかなかの値段で売っていたのを思い出す。

 この地図も売れるほどの内容だ。

 

 一流の地図師であれば、罠やアイテム、モンスターの移動ルートすら書き込んでいたりする。

 それが昔のゲームでは当たり前のことだったらしい。

 

「旧市街、じっくり攻略していこうぜ」


 みゃーこ先輩が猫みたいなスマイルで言った。

 獣人系のPCだし、尻尾が感情に連動して動いてる。


「そういえば7点って何点満点中の7点ですか?」


 わたしは問いかけた。


「にゃ? 5点が最高点」


 最高点を越えてる。

 どうやら先輩たちの採点はアマアマだったらしい。


 しばらくわたしたちがボートでやって来たときの話をしたりしつつ。

 旧市街を進んだ。

 

 そしていくつかの通りを越えたころ、


「ぎぃいいいいいいいいいいいいい!」


 という叫び声が聞こえてきた。


 わたしは息を呑む。

 黒板を引っ掻いたような音は本能的にぞわぞわするし、このあとに起こることも知っている。

 どうやら先輩たちもこれがゴブリンたちが増援を召集する声だって知っていたみたいだ。

 即座にふたりは枯れた木の上や崩れた家の上に移動して。


 そんな場所にいけないわたしは、よっこらせと生け垣の上に立った。


 先輩たちの場所からならともかく。

 わたしの高さからだとあんまり見えないけど。

 どうやらプレイヤーがゴブリンたちに追われているようだ。


「初日のわたしたちみたい……」


 ゴブリンは1体だけならそこまでの敵じゃないし、むしろ雑魚モンスター。

 とはいえ。

 数が増えると恐怖心が出てきてしまう。


 前衛職は特にそうだ。

 数十の敵モンスターに囲まれれば、いつも通りには戦えない。

 その点で言えば、後衛職は距離を稼ぎつつ攻撃すればいいから楽かも。

 どうせ近づかれた時点で負けてるし。


 そんな様子を見ていると、


「チャンスだな」


 と。

 宵先輩が言った。


「何がです?」


 この辺りのゴブリンがいない内に、宝箱を漁るとか?


「多数のモンスターが集まっている。倒してレベルを上げる、チャンスだ」


「わお」


 確かに1体ずつ探して倒すよりも楽かも。


 わたしはゴブリンたちを見てみた。

 なんか砂ぼこりみたいので場所はわかるけど……。

 どうやら他のゴブリンも次々に合流してるみたい。


「──あっ」


 わたしの視線の先にはゴブリンがいた。

 召集の範囲外なのか、移動していないゴブリンたちだ。

 そこは他の建物と比べると比較的に綺麗な廃屋だった。


 でも壁が崩れていて、中が見えている。

 どうやら鍋を火にかけて何かを食べている最中らしい。

 

 錆びた剣を持っているゴブリンが鍋をかき混ぜている。

 棍棒を持っているゴブリンが器をすすっている。

 そして槍を持っているゴブリンは酒のようなものを飲んでいた。

 3体のゴブリン。

 わたしたちを──倒したゴブリンだ。

 

 まさかあれから一度もプレイヤーに倒されていない、なんてことはないだろう。

 同じデザインのゴブリンが湧いただけのはず。

 出現した場所も違う。

 ただただあの3体はセットなのだろう。


「アリカ、いくぞ。私が斬り込むからお前は敵には近づかずに後方から援護をしてくれ」


「ぬふふ。オレさまも一緒に援護するから大船に乗ったつもりでいいぜ、にゃ」


「あの」


 わたしは悩んだ。

 悩んだ末に。


「すいません。ほんの数分だけ、別行動をしてもいいですか?」


 ふたりの先輩は少しだけ驚いた様子だ。

 それでもクラン【夜の帳】は、集まりたいときに集まって、一緒に戦いたいときに戦う。

 そういうルールがある。


「そうか。……負けるなよ?」


 なにかを察したのか、宵先輩はそう言った。

 にゃんでー、と察してなさそうなみゃーこ先輩を引きずりながら、通りの向こうに消えていく。

 わたしはふたりを見送ったあとで、くるりと向きを変えた。


 視線の先には他の建物と比べると比較的に綺麗な廃屋が見える。


「さあ──わたしを倒したことを、後悔させてやる」


 わたしは元魔王軍四天王らしい悪い笑顔で廃屋を見上げた。

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