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 ハンバーガー店を出て、なぎちゃんと別れたわたしは家に帰ったのだが。

 どうやら帰宅途中の記憶がない。

 気づいたら玄関だった。

 宇宙人にさらわれたか、神隠しにでもあっていなければ、無心だったにちがいない。


「どうしたの、こころ此処に()らずって感じ? 在処(ありか)だけに」


「あ、うん」


 お母さんの言葉を適当に受け流して、二階の自室に入ると、一気に動揺していた感情が吹き出してきた。

 ベッドにダイブしてゴロゴロと転がってみたが、どうしてこうなったのだろう。


 ううー、とサメのぬいぐるみに顔面を押し当てた。


「ち、ちょっと……どうしたの? まさか学校でいじめられた?」


 さすがに入学初日からいじめる人もいじめられる人も、いないと思うんだけれど。

 というかお母さん、いつの間に部屋に入ったんだ。

 こっちは年頃の娘だぞ。


「いや、あの、そういえば銀色だった」


「銀色? なんのこと?」


「わたしのラッキーカラーは銀色なんでしょ? だから──銀色だった!」


 お母さんは意味がわかっていない様子だったけれど、わたしだって意味がわからない。

 うろたえながら「銀色なんだって」、とお父さんに電話しているお母さんを部屋から追い出した。

 扉の向こうで妙な会話が聞こえる。


「どうしよう、在処がいじめられてる!」


「なにぃ!? ちょっと待ってくれ、今は会議中なんだ。……ええい構わん、会議など知ったものか。話してくれ!」


「帰ってから様子がおかしいの。学校に乗り込んだ方がいいのかしら……」


「いや、教師に言ってもそういうことは隠蔽されるものだ。やはり相手を直接、懲らしめないと」


「武器が必要よね?」


「日本に戻るまで待ってくれるなら、銃を──」


 なんか、銃とか聞こえた気がする。

 お父さんは逮捕されるつもりなのだろうか。


 わたしは両親の会話を無視した。

 ベッドに腰を下ろして携帯端末を見てみると、メッセージの通知に気づく。

 登録者なんて、家族以外にはクランメンバーの一部ともうひとりだけしかいない。


 そんな最新の登録者は、登録してからまだ一時間も経過していなかった。


『ナギ:言ってたゲーム機、買ってきたよ』


『ナギ:(万歳のスタンプ)』


『ナギ:今から繋ぐね~』


『アリカ:うん。でもリリース自体は19時らしいから、アクセスするんじゃなくてダウンロードを』


『アリカ:してね』


『アリカ:(ごめんなさいスタンプ)』


 ぼっちを続けてきたせいで、相手との会話がこれでいいのかわからない。

 近所なんだから、手伝いに行こうかとでも言うべきだったのだろうか。


「あと30分。……本当に、なぎちゃんと一緒にゲーム……するんだ」


 ワクワクよりもドキドキする。

 以前は、といっても小学生の頃だが。

 あの頃はこんな気持ちにもならずに、一緒に遊べていたのに。


 それから接続や設定のアドバイスをしていると、あっという間に30分が過ぎていた。

 と。

 メッセージが。


『ナギ:おかーさんがゲームするなら、ご飯食べてからにしなさいって』


『ナギ:20時からでも大丈夫?』


「えっ」


 わたしは引きつった表情で、


『アリカ:大丈夫だよ~わたしも食べてくるね!』


 と返信した。


「スタートダッシュって、結構重要なんだけどなぁ」


 さすがに食事を待たずに一人でやるのも(はばか)られる。

 せっかく二人なのだから。

 わたしは人知れず頷いた。


「お母さん、晩ごはん食べるー」


「珍しいわね。ふふっ、今日はハンバーグよーー!」


 ゲームばかりしていた頃は、食事の暇すら惜しんでゲームをやっていた。食べてもカロリーメイトとエナジードリンクで済ませていたくらいだ。

 だから、久しぶりのちゃんとした晩ごはん。


 こうして食事中にいじめられていないことを説明したりしていると、時刻は20時を過ぎていた。


「うわっ、遅れちゃった! お母さん、ちょっと友……なぎちゃんとゲームするから、部屋に入らないでね?」


「なぎちゃんとゲームするの?」


「うん。……同じクラスになったんだよね」


「よかったじゃない! なら、わたしは再放送のジブリでも見てるわ」


「えー、わたしも一緒にゲームした~い」


「カナちゃんはわたしとバルスしましょうね~」


「やだーー!!」


 ほんとうに嬉しそうに、お母さんが手を振った。反対側の腕では妹がヘッドロックされているのだが。怖い。

 わたしは頷くと急いで自室に戻った。

 ベッドに横たわり、ヘッドギア型の機器を身につける。


 脳波を感知しているとかなんとか。

 仕組みはわからないが、フルダイブ系のゲームには必須の機器だ。


 わたしは目の前に見える、いくつかあるアイコンから、クリスティアオンラインⅡを起動する。

 以前とは違う、美しい海辺の街がタイトル画面に現れた。


『ナギ:あーちゃん、キャラエディットって楽しいね』


 ふと左下を見れば、未読の新規メッセージが表示されている。

 携帯端末と同期しているから、ゲーム内でもチャットは送受信できた。

 受信したのは数分前。

 どうやらわたしは遅刻しているらしい。


『アリカ:(遅れてごめんスタンプ)』


『アリカ:わたしは今からやるよ~。先に完成したら、はじまりの町で待ってて!』


『ナギ:おっけー』


『ナギ:まあ、あたしも全然できてないんだけどー』


 スタートを選択すると、黒地に白い文字の書かれたウィンドウが現れた。



 ◇クリスティアオンラインのプレイヤーの皆さまへ◇

 まずは前作クリスティアオンラインをプレイしていただいた感謝を申しあげます。

 今作クリスティアオンラインⅡへの引き継ぎのご案内を──。



 そこには長々とした感謝の言葉と、各種項目が表示されていた。

 前作キャラクターの容姿や所持しているゲーム内通貨、モルを今作へと引き継げるのだと書いてある。

 当然と言ってもいいけれど、スキルやレベルは引き継げない。


「引き継ぎ……どうしよう」


 ルナルーンの容姿はランダム生成されたものを改良したものだった。

 完全に自分で作ったわけではなくとも、三年間を共にしていた顔や身体だから、思い入れはある。

 とはいえ。

 有名配信者であるリゼルのリスナーから、わたしは「ルナルーンお姉さま」と呼ばれていたのだ。


 お姉さま。

 そんな凛々しい美女の見た目で……なぎちゃんに会いたくない。


「ぜったい自意識過剰だと思われる」


 実際とは正反対のグラビアアイドルさながらの体型や芸術品のような妖艶で美しい顔なんて。

 うん。

 明日から顔を会わせられない。


「……うわっ、モルを引き継げるって書いてるけど、上限5万モルじゃん」


 5万モルは円で換算すると5千円くらいの価値だろうか。

 ゲーム内で使用すれば、小さな屋台を数日レンタルすることができる程度の金額だ。


「キャラクターの引き継ぎはキャンセル。所持金は引き継ぎして、アイテムは……選択で3つだけ? 最高ランクのアイテムは……やっぱりダメなのかぁ」


 自分が所持していたすべてのアイテムが眼前に浮かんでいるけれど、持っていきたいほどの物は──いや。


「これにしよ」


 わたしは3つのアイテムを選択した。

 とりあえず、これで準備は終わったようなものだ。


「キャラクターは女性キャラでランダム生成っと」


 次のページに進むと、クリスティアオンラインには無かった要素が出てきた。

 

「へ~、キャラクター作成の時点でステータスを割り振っちゃうんだ」


 前作ではレベルアップの際に獲られたポイントを、自由に各種パラメーターに割り振っていた。

 しかし。

 今作では、最初に選んだステータスのポイントに応じて、優先的にパラメーターの数値が増えていくのだと書かれている。


「これ荒れるでしょ。わたしは嫌いじゃないけど」


 つまり、ここで攻撃力に特化させてしまうと、魔法使いに転職したときに攻撃力特化な魔法使いになってしまう。

 もちろん魔法に必須なパラメーターは魔力だ。


「どうせ課金アイテムか何かで、パラメーターのリセットができるようになるんだろうなぁ……でも」


 わたしはにやりと笑う。


「リセットなんかするもんか。だって、そっちの方が面白い!」


 本当にいいんですか?

 二度と変更はできません。


 何度か確認画面になってしまったが。

 それでもわたしは『ランダム』を選択したのだった。

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[気になる点] 本当に主人公はプレイ人口7000万人いるゲームのトッププレイヤーなの…? 友達と一緒にやるからスタートダッシュしないとかステ振りランダムとかそういうことをする人がトップに立てるとは思え…
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