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 巨大な壁の向こうは、緑が生い茂った大自然だった。

 日本の野山というよりはジャングルみたい。

 そんな道すらないような場所をしばらく進むと、切り立った崖の上に出て、そこから石造りの都市が見えた。

 

「この孤島って思ってた以上に広いんだなぁー」

 

 来たときは天気が悪かったし、海竜に襲われたから島の正面しかわからなかった。

 だから俯瞰するみたいに見下ろしただけでも想像していたより広いのがわかる。果てが見えない。

 たぶん空から見下ろせば、この孤島は扇のような形なのだろう。旧市街が末広がりに広がっているから間違いないと思う。

 扇状だとすれば、ここは下の部分。(かなめ)の辺りだろうか。


「でも……どこから降りるんだろう」


 と。

 アーサーが周囲を見回していた。

 断崖絶壁の下に街があるのに、降りられそうな階段なんかは見えない。


「んーあれじゃない?」


 ナギが指し示したのは縄梯子だった。

 断崖絶壁からチラッと見ている。

 ゲーム内のシステム的に経年劣化なんてのが……あるのかはわからないけど。

 普通に何十年どころか数百年は放置されていたと言わんばかりの縄梯子だ。


 本能が「千切れるわ、あれ」と訴えている。


「他に……降りる方法が無いパターン……じゃないといいけど」


「あーちゃん、高いの苦手だっけ?」


「得意ではない、かな」


「あっちに転送の魔法陣があったよー」


 アーサーの声に、わたしは拳を空に突き上げた。


「って、これ壊れてる」


 続く言葉に落胆。

 わたしは膝から崩れて両手を地面につくと、そのままズザーと地面にスライディングした。

 絶望に叩き落とされるなら、希望なんて見せないでくれ。 


 件の転送の魔法陣は地面に敷かれた石板に彫られていた。

 でも一部が砕けていて動いていない。

 もしかすると、これもクエストかなにかで修理でもするのかも。


「なにしてるの~、はやくしないと他の人が来ちゃうってばー」


 言いつつ、ナギの姿が崖下に消えそうだ。もう上半身しか見えない。

 こんなにもぼろぼろな縄梯子なのに怖くないのだろうか?


「……色といい見た目といい、これ絶対あぶないやつだ」


「アリカさん、ゲームなんだし大丈夫だって!」


 そう言いながらアーサーも縄梯子を降りていく。

 ひとりぶんの体重すら支えられなさそうなロープなのに、ふたりの体重を支えている。ううむ。


 仕方がないのでわたしもゆっくりと降りることにした。

 まあでも。

 高所恐怖症だとか、そんな話じゃない気がするんだよね。


 見るからに千切れそうなロープだなぁ、とか。

 足を置くとギギッなんて鳴ってるなぁ、とか。

 下まであと半分のところで風が吹いて右に左に揺れるなぁ、とか。

 この謎のギミックを配置した運営の頭を疑っている、とか。


 もろもろ含めて、前作では飛行魔法で空中戦すらしてたのだから高所恐怖症ではないのだと思う。

 

「こんなのヘーキヘーキ」


 大地に両足の裏をつけて、わたしはうふふと笑った。

 ふたりから向けられる優しげな眼差しがツラい。


「おほん……えー、とりあえずこういう広域のエリアでは斥候、というか先導役を出すのがセオリーなんだけど。どうする?」


 わたしはふたりを見た。

 トラップなどでダメージを受けるのはひとりでいいのだ。


 この3人のなかではナギが一番向いているとは思う。足が速いからトラップを避けられる可能性が高いし。

 でも回復役(ヒーラー)に斥候をさせるパーティーがどこにいるというのか。


「んーーー。やるなら、わたしかアーサーだよね。やっぱり」


「うーん」


 アーサーも腕を組んで悩んでいる。


「先導する人がいるのは良いと思うんだけど、壁役(タンク)のボクがトラップとか踏んじゃってやられちゃったら、ふたりだけで町まで帰れない、よね」


 いくら白兵戦ができるナギでも、前衛職のような固有スキルがなければ、瞬間的な火力しか出ない。

 アーサーがやられて、残ったわたしとナギが町まで帰還するのと、

 わたしがやられて、残ったナギとアーサーが町まで帰還するのでは──圧倒的に後者のほうが安定している。


 つまり──

 選択肢が無いっていう。

 いや、あるのかもわからないトラップの存在なんて無視して3人で行動するべき?


「あたしはふたりの決定に任せるよー」


「……よし。わたしが先行して様子を見てくるね」


「アリカさん、骨は拾う」


 縁起悪いって。

 でも、それくらい紙防御なわたしには荷が重いのだ。


 後衛職、それも精霊使いが斥候をしているのなんて聞いたことがない。

 さすがにルナルーン時代にも斥候なんてやったことはなかったし。

 でもやったことがないプレイスタイルというのは、ちょっとワクワクする。


「行ってきます!」


 ということで、わたしはふたりに先行して旧市街を進むことになった。

 防具はバケツヘルムがあるので多少は安心だ。

 ちらりとふたりを見ると、少し離れてついてきてる。


 旧市街地域は大都市の成れの果て、という感じだった。

 石造の建物がたくさんあるけれど、壁が崩れていたり、屋根が崩落していたり、そんなところに木が生えていたりする。

 同じような瓦礫となった建物が延々と続いていたけれど、大きな建物の扉が開いているのが見えた。

 警戒しつつ中に入る。崩れた皿や置物なんかが散らばってる。

 さすがに落ちている物は売ったりも出来なさそうな状態だ。


 そんな建物の中。

 瓦礫の片隅に宝箱を見つけた。


 振り向く。

 ナギとアーサーが建物の入り口からこっちを見てる。

 わたしはサムズアップ──親指を立てた。ふたりも同じように「いいね」と反応した。


「さて宝箱か」


 魔王軍四天王のひとり、四天王パーティーで斥候を任されていた不死のアルマが言っていたことを思い出す。


『宝箱ってさ、開けるべきじゃないと思うんだよね。だってさ、ミミックかトラップかアイテムの三つの可能性があるわけだけど、前のふたつだとダメージ受けちゃうでしょ』


 言いながらもアルマはナイフを使って宝箱の周囲をチェックしている。

 底にワイヤーが繋がってないか、とか。確かそんなことを言っていたはず。


『そんな三回に二回はダメージ受けるのなんてナンセンスだと思うの。うん、トラップではないな、これ』


 未知の宝箱は誰か他のプレイヤーやパーティーが犠牲になって、中身がアイテムだと確定してから開けるべきだってアルマが言ってたのを思い出す。

 そうは言いつつも、魔王の命令で毎回宝箱を開けさせられていたっけ。


「よし、ワイヤーがないからトラップはない」


 記憶を頼りつつ、見よう見まねで宝箱の底と地面の隙間や開閉部分に狼のダガーを刺して調べてみた。

 ワイヤーなんかには触れなかったから、開けたり動かしたりすることで反応するトラップじゃないのがわかった。ミミックもさすがにこんな入ってすぐの場所には配置されてないだろうし。


「なんだ、斥候って簡単じゃん」

 

 わたしは宝箱を開けてみた。

 宝箱の中には魔法陣が彫られていた。赤く光ってる。


「あ」


 旧市街に爆発音が響いた。


 バケツヘルムのおかげか、即死しなかったわたしはナギからヒールを受けて回復し、斥候を続けたのだった。

 その後、数度の爆発音が旧市街に響いた。 

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― 新着の感想 ―
[一言] てっきり、不幸による落下事故があるかと思いましたが、運営もそこまで鬼ではなかった模様
[一言] グロンギ語?
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