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 マユラハにリンゴを献上することになった数時間後。


 わたしたちは宿屋の一階に集合した。

 掲示板なんかの噂では、どうやら今日の昼には大型帆船が出航するらしい。とかなんとか。

 島の貸し切り状態はわずかな間だけだったようだ。まあマユラハがいたので、他にもプレイヤーがいたのかもしれないけど。 


「昨日、他のプレイヤーに会ったんだよね」


「えっ、アースラで?」


 首をかしげるアーサーに、わたしは頷いた。


「なんかでも弓使いLv11だったから……うーん、なんだろうね」


 例えばLv20だとかいうのであれば、かなり上位のプレイヤーだからいてもおかしくはない。

 あるいは配信者だとか。そういう有名なプレイヤーに先行プレイをさせて意見を聞く、なんて話はオンラインゲームではそこまで珍しくはないから。

 でもなぁ。


PN(プレイヤーネーム)は?」


「マユラハ。ちなみにわたしは知らない。まあ──」


 わたしみたいに前作と今作でPNを変えているなら、話は別だけれど。


「うん。やっぱり知らない人だと思う」


「ボクも知らないなあ」


「あたしもー。ってかさ、あたしらボートで来たじゃん。他に来る方法ってあるの?」


 ボートがベルサーニュの港に復活しているのかは知らないけど、わたしたちが乗っていたボートは海の藻屑になってる。

 真っ先に逃げた漁師はきっと生きてるだろう。港に行けば「おう、生きてたか」とか言われそうな気しかしない。


「飛行魔法っていうのがあったり……いやあの子、弓使いじゃん」


 自分で自分の発言にツッコミを入れていると、ふたりがくすくすと笑った。


「アリカさんが言ったみたいに空を飛ばなくても、旅券が他の人にも配られていたり、単純に転送されたりって可能性もあると思うよ」


「えー、なんで?」


「やっぱり先行プレイをさせるにしてもワンパーティーっていうのは少ないし。それに新エリアの意見を聞くなら、幅広いプレイヤーに聞かないと不公平だからね」


 アーサーはわたしと同じ意見だ。

 ナギはうーんと腕を組んで考えている。


「でも、ずるくない? あたしらはあーちゃんが3位になったから島に来れたのに」


「言われてみれば、そうかも」


 ナギの意見にアーサーが賛同した。

 先行プレイなんて言っても、今日の昼には大勢のプレイヤーが島にやってくるはずだ。

 いくらナギの身体能力が凄くても。

 いくらアーサーの戦い方が上手くても。

 いくらわたしが多くの経験や知識を持っていても。


 これからやってくるのは、おそらく全身鋼鉄装備や強力なスキルを保有する、猛者ぞろいだ。

 約1日の先行プレイなんてのは、あまり豪華な賞品じゃなかったのかも。

 やっぱり剣にすればよかったのかなぁ。


「それはそうと、アースラの人々を救え──の重要な場所を見つけちゃったんだよね、わたし」


 ということで。

 さっそく3人で町の北側に向かう。昨晩と同じ場所に石造りの壁が見えてくる。


 アースラの人々を救え。

 最初は、おつかいクエストを複数回クリアすることだと思っていた。でも、壁がある。

 壁はなんであるのか?

 それは、何かから町を守るためだろう。


「ダンジョンじゃないけど、やっぱり一番乗りがいいと思わない? お昼までまだ時間があるし」


 ナギとアーサーが壁を見上げている。

 真下から見ると首を痛めそうなくらいに高い壁だ。

 何から町を守っているんだろう。というワクワク感とわずかな「あ、すいませんこれダムです」って言われないかという恐怖がわたしの内心に渦巻いてる。

 兵士たちもいるから、きっと防壁だろう。そうであってくれ。 


「たっか。向こうに何があるんだろーね!」


「これは……そうだね。なにか重要な場所だってボクも思う!」


「行っちゃう?」


「行こーぜ!」


 ナギがキリッとして言った。


「行っちゃおう!」


 アーサーは首肯で示す。


「じゃあ、一番乗りー!」


 が出来るほど、簡単にはいかなかった。


 防壁にある扉の警護をしている兵士に聞いてみると、壁の向こうは旧市街というらしい。

 モンスターに支配された都市なのだとか。ダムじゃなかった。

 詳しく聞いてみれば、元々この地方の人間の大部分は孤島に住んでいたが、モンスターに追い出されてベルサーニュなどに移り住んだのだという。

 つまりアースラの人々は孤島に残った人々ということだ。


 兵士のなかでも古参、あるいは老人って言った方がよさそうなNPCがあくびをしながら、わたしたちの後ろに指をさす。


「もしも壁の向こうに行くのなら、冒険者ギルドで許可証を貰ってくれ」


 仕方がないので町まで引き返す。

 アースラの冒険者ギルドは宿屋の近くにあるのですぐにたどり着くわけだけど、


「あっ!?」


 と。

 海の方向を見て。

 ナギが紅玉のような瞳を見開いた。


「どうしたの?」


「船が動いてる!」


 わたしとアーサーもベルサーニュの方向を見てみたが、遠くに大地がうっすらと見えるだけで、船も何も見えない。

 どんな視力をしてるんだろう。

 でも、嘘や見間違いだとも思えない。


「急ごう!」


 わたしたちは冒険者ギルドに入った。

 許可を貰うにはアースラの住民を助けて信頼を獲得しろ──という風なことを言われたのだが、結局のところは簡単なおつかいクエストをいくつかクリアしろということらしい。


 でもすでにわたしたちはクエストをクリアしている。


「あっ、聞いていますよ、あなたたちのこと! 町の皆さんが感謝してると言っておられました!」


 こうして許可証という名のネックレスを3つ貰った。

 先におつかいクエストをクリアしていてよかったような気もする。

 冒険者ギルドに立ち寄っていれば、町と壁を行き来しなくてもよかったのだけれど。


 通りに出ると海を見てみた。

 なんとなく。

 なんとなくだけど。

 真っ白な帆が見えているような、いないような。


「イベントの上位報酬でやって来たわたしたちがボートだったのに。その上、沈没したっていう……」


 謎の海竜イベントのせいで海が怖いぜ。


「ボートってなんか密航みたいだったよね」


 ナギの言葉に、わたしはがっくしと肩を落とした。

 そういえば今の立場ってなんだろう。

 旅行客なのか、密航者なのか、もしくは遭難者なのか。


 ゲーム的にはあまり違いはないとは思う。それだけが救いかも。

 こうして許可証を手に入れたわたしたちは、まるで船から逃げるように急いで駆けていった。

 目指す場所はもちろん、旧市街だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 宿屋無料があるから…お得?きっと
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